君は無邪気な夜の暴虐   作:ミカ推し

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おそらくここからオリジナル展開が加速する────!!


救いの腕

 

 

「……約束通り、来たよ。サオリ」

 

そんなトリニティの騒ぎとは裏腹に先生は1人、ゲヘナの裏路地に来ていた。

地面の塗装は剥げ、至る所でスプレー缶で描かれた落書きが並ぶ無秩序の裏路地に先生は立っていた。勿論、その理由は─────ある生徒から呼び出されたからだ。

 

「…………………」

 

そこに立つ生徒とは……錠前サオリ。アリウススクワッドのリーダー。それでいて今回のエデン条約調印式において会場を襲撃した主犯格の1人。そして先生を撃ち抜いた明確な敵である。

 

「………………」

 

(“……!?”)

 

その瞬間、サオリは膝を付き土下座するかのような姿で先生の前に姿を現す。

そんなつい先日まで歪み合い、傷つけ合っていた少女とは思えない気弱な姿に流石の先生も絶句する。そんなサオリの姿はよく見れば全身に細かな傷が付いているし、更には血が出ていたであろう汚れまであるのを見てまさかサオリは今まで一度もアリウスの本拠地に帰れてないのでは無いだろうかと危惧する。

 

そんな先生の思いに、サオリが断腸の思いを告白するように口を開く。

 

「……先生。アツコが……連れて行かれた」

 

「他のみんなも、アリウスの襲撃を受けて散り散りに……生きているかさえ定かじゃ無い」

 

それはあまりに衝撃な内容。スクワッドの中でも〈姫〉と呼ばれ重要人物らしい子…その名前、秤アツコがアリウスの襲撃を受けて私たちをこれ以上傷つけないと言う条件で連れて行かれた。

 

だがそんなモノ、アリウスがわざわざ裏切り者に聞いてやる義理は無いとばかりにヘイローを破壊しようと銃口を向けられた。だがそれに関してはサオリは脳内で何処か理解していた。……だって自分が憧れた無敵で最強なミハは、決して裏切りを許さない。その不義には必ず制裁の拳が振り落とされる。

 

「このままでは…きっと間違いなく。アツコは死んで、しまう」

 

〈姫〉が来たる“その時”のために育てられている事を知っていた。

ある時からマダムがミハを重要視していたとしても、アツコの犠牲は変わらないとサオリは何処か直感のような何かが訴えていた。アツコの死は変えられないのだろうと

 

「明日の朝……夜明けと共に〈彼女〉に殺される」

 

そう。〈彼女〉…ベアトリーチェは言っていたのだ。

『儀式は明朝、日の出と共に始める』と。

 

「私は、失敗した」

 

犠牲という名の生贄の運命を覆したいのなら私に従え。

そう言われてサオリは…アリウススクワッドは任務を遂行できなかった。

命令であったエデン条約の強奪、ユスティナ聖徒会の力をアリウスのモノとして、トリニティとゲヘナを落とす。……それが出来ればアツコは“生贄”にもならないし、私たちの身分も保証すると言う契約だった。

 

「全部、全部、全部…失敗してその上に愚策をしてしまった」

 

「“……愚策?”」

 

先生はそこまで聞いて疑問に思った。その作戦はもし私が居なければ、簡単に任務を遂行できただろうと首を捻った。そう、言うならばシャーレの先生が居なければ成功していた策なのだ。なのに愚策とはおかしいと先生は首を捻る。

 

「……最後にミハを使ってしまった事だ」

 

「“え……?”」

 

ありえない所でミハの名前が出てきた先生は目を丸くする。

そんな先生に時間が無いと手短にサオリは説明する。今までトリニティが想像していたアリウススクワッドの下にミハが居るのではなく、あくまでミハの契約者はアリウススクワッドよりも上……つまりアリウスの支配者がミハを“招いた”と言う形になるのだ。

 

ここで“招いた”という形が厄介だ。つまりミハはあくまで呼ばれた立場。しかも言うならアリウスの支配者が寵愛しているであろうミハに、スクワッドがまるで顎で使うかのようにミハを使ったのならアリウスの支配者はどうするだろうか?

 

答えは簡単。例えばミハが心優しい…そう。そこそこ聞き入れるとしてもアリウスの支配者にとっては面白い状況では無い。言うなら自分のお気に入りを軽んじられていると言うことになるのだからブチギレ不可避…と言うことでもある。

 

「……今の、私は落伍者だ。どこにも頼る宛なんて、無い」

 

スクワッドは無くなって、アリウスにも帰れず。トリニティやゲヘナにも行けない自分は間違いなくどうしようも無いほど終わっていると理解している。

 

「………だから今、頼れるのは先生しか……。」

 

さらに頭を深々と下げて、むしろ地面に額がついているんじゃ無いかと言うほど土下座してサオリは小さく口を開く。このお願いがどれほど厚顔無恥な事を知っているからこそ。

 

「……頼む。」

 

「どんな命令だって従う。どんな指示にだって従う。どうしてくれたって構わない。ヘイローを破壊する爆弾だって付けてくれて構わない。」

 

「私が信用できないとするなら、私を死兵として使ってくれて構わない。」

 

「……だから、どうかっ………」

 

もはや今のサオリに賭けられる物は自身の命のみ。

それを分かっているからこそサオリは先生に全部を渡す。それで…それでアツコが救われるのなら、アツコを救い出せるのなら。

 

「………姫、を……助けて、くれ……」

 

「“…………………”」

 

そんな震えながら土下座するサオリを前に先生の気持ちなんてとっくの遠に決まっていた。……先生は生徒を助けるモノである。それもまさに目の前で震えている子ども1人救えないでどうやって大人を名乗れるのだろうか。だから先生が口にする回答なんて一つだけ。

 

「“立ってサオリ”」

 

「…だ、だが……」

 

サオリに罪悪感がある事を先生は見破っていた。

だからこそ先生はサオリと対等に話がしたいと立ち上がらせた。

 

「“先に質問させて。〈彼女〉って誰の事?”」

 

「彼女とは、アリウス自治区の代表でアリウス分校の主人。……私たちは彼女と呼んだが他の生徒はマダムと呼んでいる。」

 

アリウススクワッドなどと呼ばれアリウスの精鋭であるはずの彼女でさえ数回しか見たことのない人で、背が高く、赤い肌をし、白いドレスの大人。

そう。その名は……

 

「名をベアトリーチェ。……私たちよりもミハの方がよく知っているだろう」

 

「“他のスクワッドは?”」

 

聞きたいことは幾らでもあるし、ミハの方がよく知っていると言う意味を考えるよりも先に先生は他のスクワッドのメンバーについて考え始める。

 

「……分からない。おそらく前線にミハが出ていない事は確実だから死んではいない、はずだ」

 

「“………”」

 

ミハと接敵=死というのはサオリでさえ変わらないのかと先生は不思議な感覚に陥ったがその瞬間、先生は背中に嫌な悪寒が走った。……それはつまりミハと接敵=死だと言うのならあの時、ミハと戦ったメンバーの中に死者は居なかった。それはつまり─────────

 

「まだアリウスに追われている可能性が、高い」

 

「“……なら、アツコがどこに連れて行かれたのか分かる?”」

 

嫌な想像を断ち切り、先生はさらにサオリに踏み込んだ質問をする。

……ただ、まあどこかに連れて行かれた。と言ってもアリウス以外無いだろうが

 

「アリウス分校の地下……通称、アリウス・バシリカ。そこに〈彼女〉が用意した祭壇がある。おそらく、そこだろう」

 

そしてミハが待ち構えるとなるとそこだろうとサオリは考える。

〈彼女〉が最も寵愛しているミハが儀式までの間、アツコを守護するだろう。おそらく悪いようにはしないがそれでも儀式を止めるかと言われるとおそらく止めないだろう。

 

「“祭壇?……アツコを利用して?”」

 

「それは分からない……だが少なくともそこで生贄を使う儀式を行うとだけ……」

 

“生贄”…そして“祭壇”に“儀式”と穏やかでは無い単語を前に先生は密かに額に皺を寄せる。もし先生の想像通りなら相当胸糞悪い事が起こるのだろうと気がついてしまったから。

 

「“……大体話はわかった”」

 

だけどもしそうなら残された時間は僅かだ。……ミハが“どこまで”知って協力しているのかにもよるがこれほど大掛かりで犠牲を織り込んだ物だ。ミハでさえ知らないのかもしれないと考えると突破点は見えてくる。

 

先生の考えなんて最初から決まっていた。

 

“サオリを助ける”

 

「……本当、に?」

 

先生が差し伸べた右手。それはまさしく救いの腕。

敵であろうとも先生は生徒を見捨てる事ができない。これが答えだった。

 

「助けて……くれるの、か?」

 

「“困っている生徒を助けるのは先生の役目だからね”」

 

信じられない。分からない。……だってこの世は虚しい物だから。

そう教えられて、そう信じて今まで生きてきた。誰もがそうだと思っていた。

 

「……そんな、理由で?」

 

でもサオリの目に映る先生の瞳には嘘なんてどこにもなくて。

本当に生徒を助けるというだけの意思。それが眩しくて、苦しくて。

 

「私は…お前を撃ったんだぞ!?……お前の生徒を裏切りのダシにもした!」

 

なのに……どうしてそんな簡単に言えるのだろうか。

全くもって理解不可能だと目を見開き訴える。

 

「“………じゃあ爆弾は没収”」

 

「あ、ああ……これが起爆装置だ」

 

爆弾は起爆装置の起動なしには絶対に爆発しない。

首輪代わりの爆弾と命は先生に預ければ良いと本気でサオリは思っていた。

 

「“違う。全部だよ。爆弾も”」

 

「……爆弾も、か?.........いや。お前がそう言うのなら……」

 

正直理解できないが、それでも先生が言うのならと渋々爆弾を差し出した瞬間。

先生は起爆装置をバキバキに破壊して、焚かれていたドラム缶の火の中に叩き込む。持っていた爆弾もとりあえずはシッテムの箱の中にぶち込んだ。

 

「!?」

 

「“さあ。行こう。最後、ミサキとヒヨリが居た場所まで遡ろう”」

 

 

 


 

 

 

そうして、先生とサオリは進んでいく。途中、アリウスに攻撃を受けていたヒヨリを回収し(先生とサオリが手を組んでいる事に錯乱をしていたが)その後、ミサキが居るであろう大橋に突入しサオリの説得を受けて後一時間もしないうちに切り替わるアリウスへ行くカタコンべへ突入した。

 

「“ここから………”」

 

「ああ。……先生、決して逸れるなよ」

 

この地下道を越えてカタコンベに向かい、アリウス自治区に突入する。

ここが唯一の出入り口だと向こうも分かっているのかここから先のアリウス兵はエリート。つまりは戦闘訓練を相当積んでいるだろうということだけ。

 

「………行くぞ」

 

「……はいっ……!」「うん」

 

だがそんなエリートを圧倒するほどが〈アリウススクワッド〉の本領。

先生の的確な敵味方識別に距離の観測、更にはスポッターまでを同時に熟す先生の指揮と、強襲のサオリに撹乱兼大砲役のミサキ。援護のヒヨリが完全に自分の役割をこなす事で、特に苦労する事なく地下道を進む。

 

「……リーダー」

 

「ああ。分かっている」

 

その道中。すいすいと抜けていく四人にミサキが小さくサオリを呼ぶ。サオリもその要件をよく分かっているからか、神妙な表情で前を向く。

 

「………誰が、来るか。だな」

 

「でも〈彼女〉のお気に入りだよ?」

 

私たちが地下道に突入した事はわかっているはずだ。だと言うのに攻撃は酷く散漫的で、小隊単位では無い攻撃が続く。そんな事が続いていると流石のサオリだって気がつく。これらの兵力ではスクワッドを止める事は出来ないと。〈彼女〉だってそれに気がつかないわけがない。……となると相応の大物が待ち構えていてもおかしくはない。

 

「……それならまだ交渉の余地が……っっ!!」

 

「リーダー!!」

 

「スクワッドを確認。攻撃開始」

 

そんなこんな考えていると向こうの角からアリウス兵の強襲。

どうにかサオリは避ける事が出来たがそれでもこんな所で時間を割いているほどの余裕はないと歯噛みした瞬間だった。

 

向こうにいたはずのアリウス兵がまるで殴打を受けたかのような“つ”の字でこちら側に突っ込んできた。

 

「!!!???」

 

その後に鳴り響く轟音。まるでミハにも似た様な周囲に破壊を振り撒く小型の台風。白煙が立ち退けた後のその姿にスクワッドも先生も衝撃を受ける。

 

「………聖園、ミカ。………どうして、ここに………?」

 

悠々自適に立ち尽くすその姿。ピンク色の髪を棚びかせ、荘厳なほど純白に満ちた大翼を揺らしその少女は立っていた。

 

金色の目だけを爛々と光らせてミカはスクワッドを見つけた事を喜ぶかのように口を三日月状にパカリを開け嗤う。

 

 

「みぃつけた」

 

 

 





この時のミカはめちゃくちゃホラー。

「まず、お前たちから☆」

「騒がしい。騒々しい。地に伏せなさい」

次回、「虚無に耽溺した獣たちよ」

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