君は無邪気な夜の暴虐 作:ミカ推し
即落ちベアおば
「どうでもいいよ。そんな事」
「“ちょっ!ミカ!?”」
ここからスクワッド&先生vsベアトリーチェの戦いが幕を開けるという所で、ミカが近くにあった壁を殴り、蜘蛛目みたいな陥没痕を作っている。古くとも強固に作られていた筈の赤煉瓦の壁がこうも見るも無惨な姿になるとはミカのキレ具合も分かるものだ。
「一つだけ聞かせて……えーっとベアトリーチェ?だっけ?」
「……聖園ミカ。貴方のその献身に免じて一度だけ許しましょう」
ミカがベアトリーチェの名前を知らないわけがない。明らかに挑発だと分かるミカの問いにベアトリーチェは微笑み答える。どうであれ、ミカの情報がなければここまでスムーズに進んでいないことは事実だからだ。
「ミハちゃんは何処?」
「………は」
マダムと言われたこの女はアリウスの事実上の支配者だ。それならアリウスに洗脳されている筈のミハちゃんはこの女の支配上にあると今にも噴火しそうな憤怒の猛りをどうにか抑えつけながら問う。
ベアトリーチェからの返答は
「ははははははははははははははははははははははは!!!!」
嘲笑で返された。
「まだ!まだ貴方はあの子を“聖園ミハ”と呼ぶのですか!!」
“私腹筋大激痛”とも言わんばかりに腹を抱えて嗤うベアトリーチェにはミカを嘲笑うという意図しか無い様にも見えるが一体どういう意味なのだろうか。先生はふとミハと呼ぶというところが引っかかった。
「ふ、ふふ……いえ。笑わせて貰いましたよ。」
「……何が、おかしいの?」
今だに忍び笑いが隠せないベアトリーチェを前にミカの額に浮かぶ青筋の数は増えていく。…握りしめた掌から肉を抉る感覚でさえも今のミカは気にならないほど控えめに言ってブチ切れていた。
「“カフ”を満たし、“シン”への扉を開いたあの子がもはや“聖園ミハ”などと言う名前で縛れるだろうと考える事自体愚かしい………」
「つまり“聖園ミハ”はもう居ないのですよ?」
ベアトリーチェが突きつける言葉。それは見事に人の心が無い言葉を前にミカも先生もその意味を噛み締めるのに数秒以上掛かった。……その上でミカは怒気を超えた。
「そう…そっか☆」
ミカから発せられたのは何だ?…激昂?憤怒?嫌悪?いや違う。
嘆いているとか、悲しんでいるとか、そんな話では無い。
「死ね。ベアトリーチェ」
純粋で、無垢な憎悪の発露─────────…
瞳孔さえも開いたミカの瞳が、猛り狂ったミカの全てを以ってベアトリーチェをその感情の赴くまま飛びかかる。
「…………ふふ。我が偉業、我が名を讃えなさい」
そんなミカの行動は予想していたとばかりに横薙ぎに杖を振った背後から無数の魔法陣が浮かび上がりそこから無数の光弾やレーザーが心狭しとミカに迫る。それはまさに弾幕ゲーム。だがそんな中でもミカは自前の身体能力を生かして避け、避けきれないのは手をクロスして防いでいる。
「この程度?☆……豆鉄砲でも撃ってるの?」
「それでは貴方は豆鉄砲でやられる雑魚ですか?」
皮肉の応酬。一進一退の攻防に手を出す事は出来ない。
ベアトリーチェの光弾は当たった所でそこまで痛くは無い。多少痺れるぐらいだ。(尚、これはミカの耐久力が並外れているだけで普通のキヴォトスの生徒が当たれば骨が折れるだろうし、ヘイローを持たない先生などがまともに当たれば消し飛ぶだろう)だけどその光弾の数が多い。たまに視界を遮ってくるレーザーも厄介だ。
「言ってろ!……ベアトリーチェ殺し☆いっきまぁす!!」
「………残念でした、ね!!」
逆にミカの攻撃は一発一発が致命傷になり得るとベアトリーチェは考えている。
弾丸に込められた高濃度の神秘に“殺してやるという殺意の指向性”が“当たってしまえば致命傷”という概念になりかけているとベアトリーチェは魔法陣を制御しながら考える。
そうやって銃弾だけを避け続ければ近付いてきたミカの徒手空拳に絡め取られると先ほど地面を蹴り上げ、空から強襲してきたミカの拳を避けながらベアトリーチェは思考を凝らす。
(ふむ……)
それでもアリウススクワッドを完封出来る実力の持ち主だ。
このまま千日手……というより光弾の一部をスクワッドや先生に牽制として飛ばしているとは言え、膠着状態になってしまった今は些かベアトリーチェにとって都合が悪い。
(仕方がありません。プランの再編です)
割ける時間はそう多くない。ならこの膠着状態を潰すためには───────
◆
「では、先生。貴方と交渉しましょう。」
「“……何?”」
ベアトリーチェはミカの猛攻を防ぐ傍ら、先生へと話しかける。
勿論、近づくという方法ではなく魔法陣を経由した〈小窓〉…まるで通信機器上のホログラムの様な姿で先生の前に姿を現すベアトリーチェの姿があった。
「いえ。まずは名前からですね」
私の名前はベアトリーチェ。既にご存知かと思われますが〈ゲマトリア〉の一員であり、最果ての“扉”を開くモノ。或いは道を繋げる求道者…とでも思いください。
「“初めまして。私はシャーレの先生”」
「ええ。互いに互いの事はよく存じているモノでしょう……かく言う私も黒服やマエストロ……ひいてはミハからよく話を聞いております。」
ゲマトリアの名前にミハを連ねる事でミハが向こう側であると言う事を印象つける為なのだろうか。不思議な事にミカとベアトリーチェの戦いはこうしてベアトリーチェが意識を裂いていても同じぐらい戦いは過激化していく。
「まあ。そんなことは置いといて。交渉させていただきましょう」
「“そうしようか”」
今この場を支配しているのはベアトリーチェだ。ベアトリーチェがこの場所、既に棄てられた廃墟に現れたと言う事はつまり先生達の動きは筒抜けという事になる。
「ロイヤルブラット…ああ。名前は秤アツコ、と言いますか?」
「“………………”」
「彼女を放っておいてくれませんか?」
ベアトリーチェの交渉は続く。
「今その犬たちを連れて帰る事も許可しましょう。…今更私たちに必要のないモノ。何なら今から行う事による情報も一部手渡しましょう。」
「……………!!」「………っ!!」
ベアトリーチェが指差す先はサオリ達アリウススクワッド。
もはやベアトリーチェに“犬”とまで形容された彼女達は眼中に無い。或いは有っても無くても変わらない、気が付かない路傍の石に過ぎないという事だ。
「それにこれ以上、アリウスはトリニティやゲヘナに干渉しないと誓いましょう。必要であるのならば襲撃を行ったメンバーの引き渡しも行いましょう。」
先生に有利すぎる交渉。秤アツコ1人見逃すだけで帰路への道も保障しその上でベアトリーチェが育成した兵力もシャーレのモノになり、ゲマトリアが行う“過去に類を見ない”実験の情報。更にはアリウスはこれ以上“表”に関わらない上に今回の襲撃の実行犯まで引き渡すという破格の交渉。
兵力、人員、更には情報まで。間違いなく呑んだほうが良い交渉。
でも…生憎とこの場に立っているのは先生である。そんな1人の生徒の犠牲を許容する様な精神をしているのならこのキヴォトスで先生を行える程の高潔さはない。
「“貴方は……このアリウスをどうしたかったの?”」
「どう?…どう、ですか……?」
先生から問われた不思議な質問。何の意味があるのか、この交渉に全く意味のない問いかけにベアトリーチェは“どうしてそんな事を聞くのだろう?”という視線を込めて返答した。
「……ええ。まあ?
「“は…?”」
ベアトリーチェは語る。
このアリウスと言う土地は酷く荒れていて、子供たちの心も醜く穢らわしいモノである。といつまでも終わらぬ憎悪、果てない負の感情。あくまでベアトリーチェはそれに指向性を与えたに過ぎないと言う事。
「そう。私はただ利用しただけなのです。……ここが特別なのではありません。そんなモノ何処にでも見られるごく一般的なモノでしょう?」
あれが欲しい、それが欲しい、何であの子だけ。何でその子だけ。他人がどうなろうが知った事ではない、私だけが良ければそれでいい。これからがどうなろうと知った事じゃない、今が良ければそれでいい。
ベアトリーチェはあくまでそんな誰にも、何処にも、何でも纏わりつき引き摺り落とそうとする様なモノを“トリニティとゲヘナへの憎悪”として染めていたに過ぎないと言う。
「生の謙虚さを教える金言は、無意味な空虚を教えるものと歪曲し」
「堕落を警戒する忠言にも似た厳格な自責と自制の精神は、逃れられない罪悪感と罪の象徴になり……」
アリウスの象徴たる言葉、vanitas vanitatum, et omnia vanitasは“全ては虚しい、どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ”という言葉の意味になった。……神を畏れて、世界を畏れて、努力は無意味だろうともそれでも日々を慎ましく生きていこうという精神を説いたモノだったと言うのに。
「事実から目を背け、真実は葬られ、本心は折り曲げられ、憎悪は怨恨になり、他人を、他者を……永遠に互いを、他者にする事」
「楽園」は届かない。夢想し、夢のまま終わらさせるモノだから尊いのだとベアトリーチェは語る。その地獄だからこそ“子どもたち”は永遠に“大人”に支配され搾取され、捕食される。
「ええ。誰かが犠牲になりますが……まあそれも仕方のない事でしょう」
ベアトリーチェにとって子どもたちなど“その程度”だ。
その上でベアトリーチェは先生にこう嗤いかける。
「まあこれぐらいで宜しいでしょう?……先生はどういたしますか?」
「“そっか……じゃあベアトリーチェ”」
先生の魂胆なぞとうに決まっている。
子どもたちが不当に搾取され、誰かの犠牲の上で成り立つ楽園など……こっちから願い下げだと言わんばかりにベアトリーチェを睨み返す。
「“生憎だけど、断らせてもらうよ”」
「………くくく。いえ、そうなるのですね……いや。今後の理解のために聞きましょう。ちなみに何故そう考えに?」
そんなの決まっている。ベアトリーチェと先生の信じる楽園は違う。
間違いない。ベアトリーチェにとって先生は絶対なる敵対者。
「“あなたは生徒を、私たちを侮辱した。”」
そして、教えと学び…そして導くという大人としての行いを嘲笑った。
「“私は大人としてあなたを絶対に許す事は出来ない”」
「………ふふ、はは……はははははははははははははははははは!!!」
二度目のベアトリーチェの大笑い。間違いなく先生への嘲りを込めた笑いはミカも含めてサオリたちも今にも突っかかりそうな程、怒気を強めている。
「ええ…ええ!先生───不可解なものにして私の敵……ですがねぇ…?」
ベアトリーチェはまるで猫が鼠を嬲るようなしたり顔で嘲笑う。
まあ間違いではない。ここにおいて先生とは愚かしい侵入者にして鼠でありベアトリーチェはこの箱庭の支配者。簡単に嬲る事ができると言うのにその前に姿を現しているとはどれほど鼠を舐めているのだろう。
「些か……意識として甘い、と言わざるをえませんね。」
「“どう言う事”」
「ねえ先生。これはね。戦争なんですよ。間違いを正す戦いではないのです」
ベアトリーチェの肉体が変化する。ボコ…ボコとまるで皮下で蠢くような震えと共に、ベアトリーチェの頭上に赤い、ドス黒いまでの血の色にも似たヘイローが顕現する。
「正しさの押し付け合い、これは私の信念とあなたの信念の押し付け合い────!!」
手足がまるで枯れるように細くなり、燃え盛る様な蝶が何処からとも無くベアトリーチェの腕に張り付き消えたのが見えた瞬間。枝の様に細くなった胴体の至るところから無数の枯れた手が先生を襲いにかかる。
「さぁ!始めましょう!これが最初で最後の戦いとなるでしょう!!」
ベアトリーチェの声も最後にはノイズが走ったかの様になり、頭上にあった無数の瞳は10に分たれた花が咲き誇るかの様に瞳を花びらの中から蠢かせ、最後にこの戦いを現すかの様な咆哮と共に戦いは始まった。
「ああ!……何故!?何故!?何故何故何故ェェェェェェェェェェェ!!!」
凄惨な咆哮と共にベアトリーチェの肉体は崩れていく。
咲き誇ったベアトリーチェの頭上の花。それは確かにさ360°全てを見渡す事が出来るがあくまで処理するのは自身の脳。今まで回避や相手の情報収集や修正に割いていた筈のキャパシティが十分に確保できず。そして……
『……今回ばかりは協力してあげる。……アイツに聞きたい事がいっぱいあるしね☆』
『聖園ミカ……感謝する』
『うーん、調子狂うなぁ……ま。良いや構えて☆』
ある程度暴れ回った(尚、既に建物は半壊しかけ)お陰かミカは少し落ち着いて姿形が本物の異形になり、理性さえも失ったという事でこれ以上単騎は難しいなと判断したのかサオリとの全面的な協力を約束した。……まあ生け捕りにするなら戦力は多いほうが良いという事だ。
勿論、サオリもミカに痛め付けられたとは言えスクワッドだけでベアトリーチェに勝てるとは思っていない。間違いなくこの場を切り抜けるのならミカの協力が必須だ。
「“終わりだよ。ベアトリーチェ”」
決め手になったのはミカを完璧に足止め出来なくなった事。そして先生の援護を元に放たれたサオリの弾丸は間違いなくベアトリーチェに致命の一撃を与え、そしてダメ押しとばかりに怯んだベアトリーチェにミカの隕石が降り注いだ。
「………ええ、ええ。どうやら、その様ですね」
崩れた化け物の側の中から明らかにボロボロになって頭上の瞳があった場所には空洞になっていたりと間違いなく限界である事が見える。その上でベアトリーチェは惜しげもなくアリウスの叛逆者と先生たちを嘲笑する。
「“アツコを解放してもらう”」
ピシ…ミシ…と嫌な音と共にベアトリーチェの手足が脆い土塊の様に砕けていく。
限界だ。間違いなく器が壊れたのだろう。あと数分も残らない内に
「ええ。ならばこの先を進みなさい。」
半分以上肉体が消失した今も尚、ベアトリーチェは嘲笑う。
まるでこれからこの先を進む愚者たちを祝福するかの様に
「私の意思は、受け継がれるのですから……」
ついには上半身さえ砕け、顔さえもヒビが入り自らが死ぬというのにその最後までベアトリーチェは先生たちを嘲笑の笑みを浮かべながら砕け散った。
「………………」
「“………………”」
「先に、進もう」
結果として先生たちは確かにベアトリーチェを退けた。
だが、その結末は最後まで薄気味悪く……まるでこれから行く先が根源的な恐怖を煽っている様にも見えて─────────
oh…ベアトリーチェ、少し話しすぎネ
なんかこのベアおば安らかに逝きすぎて気分悪いんスけど…いいんスかこれ
次回『逆鉾』
ようやくミハちゃんの出番だぜ!!
感想、評価お待ちしてます。