君は無邪気な夜の暴虐   作:ミカ推し

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解:青く、澄んでいる


青春は澄んでいるか?

 

 

「先生ェ!!…こっち!!」

 

泣く泣くミカに殿を任せて、先生とスクワッドたちはもはや廊下とは言い難い廃墟の旧校舎をひたすらに抜けていく。よそ見をすれば高く積み上げられた教室の机に椅子と、崩落して使えなくなってしまった通路。大きな穴が空いている階段など、探索ゲームの題材としてなら優秀な廃墟を抜けていった。

 

「はぁ……はぁ……はぁっ!!」

 

「っ!……ミサキ……もう少し我慢してくれ……!!」

 

閉所恐怖症。更にはアズサがスクワッドの拠点を襲撃した時(参照:揺れるトリニティ)に起きた過呼吸が今、最悪なタイミングでぶり返して来た。今度はあの時、寄り添ってくれたミハの存在が明確に敵であるというストレスが意外にもミサキを痛めつけているのか。

 

走る速度が落ちたミサキの肩を掴み杖代わりとして先生に肩を借りる事でようやく落ち着く事が出来たが、それでも急がなくてはならない事には代わりない。

 

「……せん、せい」

 

「“っ…どうしたの?ミサキ”」

 

肩で荒い息を吐きながらミサキは先生に声をかけた。

曰く、ミハの持っていた武器は“刀”であった事に間違いないか?と

 

「“うん。確かにミカを刺したのは刀だったね”」

 

「そう……それ」

 

うん?と首を捻る先生にミサキが解説をする。

ヘイローを持つキヴォトスの生徒は基本的に頑丈である。それこそ対人威力が大きいホローポイント弾を受けて“傷跡が残る”程度だったり小型のミサイルが直撃しても気絶で済む、巡航ミサイルレベルになると流石に直撃すると重傷を負うがそれでもその程度なのだ。(尚、個人差はある)

 

「だから刀が一回刺さったぐらいじゃヘイローは壊れない」

 

そしてあの一撃は間違いなく不意打ちだから決まったようなものだ。

幾らミハの身体能力が異常で脅威になろうとも刀の一撃が巡航ミサイル並になるとは考えにくいと話す。……だからきっとあの2人の戦いは……

 

「どちらが先に相手を気絶させるかの戦い」

 

掴んで首をキメれば呼吸ができずに意識が落ちる。これはヘイロー持ちも変わらない。だからあの2人の戦いは長引く上に最後は近接戦まで持ち込むだろうとミサキは睨んでいる。……まあだからこそ逆にもうミカという戦力は居なくなってしまったわけだが。

 

(そう……それでいい。そうなはず……)

 

とは言ったものの、これはあくまでミサキが“こうあって欲しい”という理想論のようなモノだ。ミカとミハが本当に殺し合いを始めるわけがない。ミハがこれ以上ミカを痛めつけるわけがない。というミサキの考え。

 

(………そう、だよね)

 

まさか、まさかと脳裏に浮かぶ考えをわざわざ首を横に振って破棄する。

……そんなまさか─────“ヘイローを破壊する爆弾”が作られているのだから“ヘイローを破壊する近接武器”が作られていてもおかしくはない。なんて。

 

 

 

 

「ここだ……」

 

「ここから先がバシリカ…ですねぇ……」

 

旧校舎を走り抜け、特に何事もなく地下回廊も通り抜け、スクワッドたちがたどり着いたのはバシリカ目前。

アツコが連れて行かれた先であり、今から数時間も経たないうちに“儀式”が始まりアツコは命を落とす。それはベアトリーチェが死んだ今だろうと関係ないだろう。むしろ居なくても出来るような仕掛けを作っていてもおかしくはない。

 

「………進むぞ」

 

気配を探ろうにもその先からなんの手応えも感じない。

それもそうだ。今までの道中にはアリウス生なんて何処にも居なかった。そしてこの先の主人であるベアトリーチェは既に斃している。だというのになんなんだ。

 

(この怖気つく様な寒気は……)

 

本能的に忌避したくなる様な悪寒と恐怖を飲み込み、目の前のバシリカを睨む。

祭壇と言うにはあまりにも荒れ果てすぎていると思わざるをえない。明らかに崩落して長い間修復されてない柱だったモノや床だった筈のコンクリートが剥がれて陥没していたりと荒れ果てに荒れ果てている印象しかない。

 

だと言うのに荒れ果て崩れたその先、円形のコロッセオみたいになっている所は恐ろしくとも荘厳な空気のままである。今も立っている柱の間に散りばめられたステンドガラスの絵は色彩豊かな絵柄の絵が何枚も何枚も同じのが飾られ、入って来た所から見た目の前の特段大きなステンドガラスには人の姿が表現されていて、その頭には先ほど会ったベアトリーチェに似たような花が咲いていた。

 

「っ!アツコ!!」

 

そしてそのコロッセオのような場所の中心。

そこに捧げられるようにアツコは眠っていた。中心に用意されたまるで樹の幹の様な台座に華が咲き誇るかの様な八枚の花弁とそこに赤い血管の様な根っこの様な何かに拘束されているアツコの姿があった。

 

「は、早く降ろさないと……!」

 

「儀式まで時間がない……!急ご……う!」

 

そんなアツコの姿に絶句しながらもヒヨリたちが今まで走って来たと言うのにそれ以上の速度で祭壇まで走り込み、アツコを縛っていた拘束を外す。意外にも簡単に外れる仕掛けだったのか、すぐにアツコは地面にまで下ろされる。

 

「ひ、姫ちゃん……」

 

「姫、しっかり……しっかりしてくれ……!!」

 

ここに連れられる時に付けられたであろうガスマスクを外してそのまま投げ捨て、サオリはアツコの肩を揺らす。どういう感じに意識を失っているのか分からない現状、下手に脳を揺らすのは不味いだろうと先生が声を掛けようとしたその時だった。

 

「外傷より血を流してる……どうして?」

 

「頼む…頼む……目を、目を開けてくれ。姫……いや。アツコ……ッ!!」

 

台座の根本に付着していた赤色の液体を指で拭き取り、匂いを嗅いだミサキが顰めっ面で血だと断定する。そして…おそらくこれがアツコが流した血だと言う事も。そうだと断定すればアツコは外傷以上に血を流していると訝しむ。

 

勿論、そんなミサキなんて気にする余裕もなくサオリがアツコにもはや掴みかかるかの様に揺らす。数滴の涙がサオリの頬を伝い、アツコの頬に当たった瞬間だった。

 

「……サオリ、ちゃん……?」

 

「………アツコッ!!」

 

おはよう。もう朝?とばかりに何も知らずに首を傾げるアツコに遂に涙腺が完全の決壊したのかサオリが顔面を涙に濡らしながらアツコに抱きつく。そんなサオリの姿に意識を失う少し前…スクワッドたちに手を出さない代わりに自分を好きにさせるなんて事でここまで連れてこられた筈。

 

「儀式……は、どうなったの?」

 

「中止だ。………〈彼女〉は…ベアトリーチェは私たちが殺した」

 

は?と口を大きく開けて呆けるアツコが周囲を見渡すとどうやらサオリのベアトリーチェを殺したと言うのが事実らしくてようやく現状が理解できた。全員が揃っているスクワッドにシャーレの先生。本来あり得ない存在がこの場にいる事でようやく、アツコはその事実を飲み込む事が出来たらしい。

 

「ほ、んとに……終わったの?」

 

「ああ。本当の本当に、終わりだ」

 

全部終わったんだ。と涙に濡れてそれでも笑みを浮かべるサオリに、アツコもようやく安堵したかの様に瞳を細める。……きっとここまで来るのに多くの葛藤が有ったのだろう。それでもと歩いて来たスクワッドたちと先生から話を聞きたいとサオリの肩を借りながらアツコは立ち上がる。

 

「……初めまして。先生。」

 

「“うん。はじめまして”」

 

先生にしては会うのが…2回目だろうか?調印式の時、どうにかヒナのお陰で逃れた所でミハの裏切りとスクワッドたちが先生の前に立ったのが初めてであろう。その時、まだアツコはガスマスクをしていたから先生にとってはスクワッドに同行している普通のアリウス生に見えたかも知れないが……

 

「私の名前は、秤アツコ……みんなを助けてくれてありがとう」

 

「“頭を上げて”」

 

そんな事よりとアツコはフラフラになりながらも先生に頭を下げる。

戦っていた相手…しかも直接殺し合った相手がこうしてサオリ達の手助けをしている。それがどれほどの苦渋を産むのか。〈姫〉として生きて来たアツコには想像し難いモノがあった。

 

「“私は先生だから”」

 

「………………」

 

「“生徒子供が苦しんでいるのなら助ける…大人としての責任と義務だよ”」

 

それが先生の…シャーレの先生が生徒を助ける理由なんだろう。

あまりにも気高くて、あまりにも高尚で、あまりにも安心する言葉にこれが大人なんだと自分が今一度信じてみようと出来る大人なんだと少しだけそんな事を思えるぐらいには涙が出てきそうだった。

 

「……先生、約束通りだ。」

 

大人への信頼がどれほどか産まれた所で、スクワッドより一歩前に出てサオリが跪く。そんなサオリの姿に一体何が…?!と驚くスクワッドに目を細めるアツコがいる中、サオリがこう説明する。どうであれ、アリウスが起こした一連の事件は否定しようがない悪行。姫が奪還できた今、サオリは先生に全ての判断を委ねると頭を垂れる。

 

「私は好きにして欲しい……でもどうか。姫たちには寛大な処置を……!!」

 

「!!っ!一体、何言ってるの!?リーダー!!??」

 

自分はどうなっても良い。むしろ自分1人の命でスクワッド全員の罪が軽くなるのならば、きっとサオリはその身を簡単に捨て去る事が出来る。むしろ罰を望んでいるのだろう。ミサキの泡を食う様な声色さえもサオリは無視をして先生の決断を待っている。自分が最も相応しい場所へと。

 

「今まで、私は負うべき責任を放置してきた」

 

全ての行動には責任が伴う。それを今まで虚しさで覆い隠し、作られた憎悪を伝染させて来たのは自分自身であるとサオリは分かっている。ならその清算はきっと

 

「きっと、その時が今なんだろう」

 

約束された罰に嘆きはしない。これは自分が背負うモノである。

そう、サオリは覚悟をしている。そして…先生『大人』から下される罰のその時を待っている。

 

けど違う。先生は審判者ではない。

誰かを裁き、下し、贖わせる権利は無い。

 

そして先生は救済者でもない。

この世界の苦しみを、悲しみを、虚しさを消し去ることはできない。

 

そして先生は絶対者ではない。

産まれてしまった罪を、続いてしまった憎悪を無くすことはできない。

 

なら……先生はなんなんだろうか?

その力は、その意思は、その意味はなんだと言うのだろう。

 

「“……そうだね。サオリは今までの責任を負わなくてはならない”」

 

きっとその心は最初から先生は識っている。

あの日、あの時。シャーレの先生と呼ばれた日から決まっている。

 

「“サオリは長い間、周囲の子たちを守るために頑張って来た”」

 

産まれてしまった罪には、きっと罰が産まれてしまった。

 

「“他人の面倒を見て、守り、耐えて”」

 

でもその罰はサオリ一人で耐え続けた。

増えていく“守りたいモノ”を必死にその胸に抱えて、重荷になっていく“責任”をその背に背負って。

 

「“責任を負って来たんだ。”」

 

だからきっと“大人”である先生が言うべき言葉は罰でも、罪過でもなくこれからの未来、夢を語るべきなんだろう。きっと苦難に満ち溢れている明日だとしても──────この子たちには“より善い明日”を語って欲しい。

 

「“だからこそ、間違えてしまった”」

「“サオリたちは罪を犯した悪い生徒……それは変わらない”」

 

やってしまった事には変わらない。起きてしまった悲劇は覆らない。

けどそれでも、そこが“おしまい”では無いのだ。1から…いいや。ゼロからきっとこの子達の物語は始まる。

 

「「「「………………。」」」」

 

「“だからと言って苦しみが当然なわけじゃない”」

 

ならその苦しみは、一体誰が、何が、背負うモノだろうか。

 

「“子ども達が苦しむ世界を作った責任は大人の私が背負うからね”」

 

ちっぽけなモノだけど、生徒たちのための先生は言う。

忘れられ、苦しむ生徒に寄り添いたいからこそ。

 

「そんなっ!!……なら、なら……私はなんの責任を…っ!!」

 

“守りたいモノ”も“責任”もサオリ自身は、全て抱えるモノだった。

じゃあこうしていざ、大人が勝手に背負うと持っていった所に空いた“所”空白はどうすればいい?

 

「“サオリ、君が背負うのは君自身のこれからだ”」

 

「………ど、どう言う事だ……?」

 

「なんとなく……わかる気がする」

 

ワザと強く断定した先生の声に、ただただ混乱するサオリ。

そんな二人を見てか、今までの先生の言葉を噛み締めてアツコが先生とサオリの間まで歩いてくる。

 

「姫……?」

 

「サオリちゃんは…やりたい事とか、ある?」

 

何か別に食べたいモノとか、行きたい場所とか、してみたい事とか。

何も出てこない事、そしてそれを今までサオリの口から聞いた事がないとアツコは語る。アズサは今、新しい事を学べるのが楽しいと言うのに。

 

「サオリの将来の夢は?なりたいものは、なに?」

 

「そ、そんな……モノ………」

 

考えた事もないし、そんな事考えようとしなかった。

そう呟くサオリはまるで迷子になった子犬の様だった。自分の事さえ分からないのに“これから”なんて言われても分からないのはそういう理由だ。望みを知らない子から夢は生まれ無いのだから。

 

「サオリは責任感が強くて……決断力があって…えーっと……」

 

そんなサオリに手を差し伸べるかのようにアツコが指折りサオリのいい所をあげていく。そしてそんなアツコに追従するかのように続いてヒヨリが、ミサキが声を上げる。

 

「お、お、教えるのが上手です……こう、たまに怖いとこがありますが……」

 

「真面目ではあるよね。計画を立てるのも、指揮をするのも上手いし」

 

「…………。」

 

「“そっか……それならサオリは”」

 

そんなスクワッド達とサオリの姿を見て先生は微笑む。

 

「“きっといい先生になれるかもしれないね”」

 

「……………!!!」

 

先生。それはサオリにとって最初に信頼できた人の姿。

私も、そうなれるだろうか。あまりにも気高くて、あまりにも高尚で、あまりにも安心するあんな大人に。

 

「せ、先生ですか……!?」

 

「まああまり想像はつかないけど」

 

「……ううん。よく似合う」

 

じゃあ帰ろう。帰る場所も無いけど、これから探していこう?

そう手を差し出してくるアツコ達にサオリは少し狼狽した後、こう呟いた。

 

「そんな………私は、私は……生きていても、いいの。か?」

 

「それも……みんなで探していこう?」

 

もっと色んな事をして、もっと色んな経験を積んで。

まだまだこれからなんだとアツコは微笑み手を差し出す。

 

「……帰ろう?サオリ」

 

「ああ。───────帰ろう、アツコ」

 

そう。サオリがアツコの手を握り返した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

パァン

 

 

 

 

 

 

 

 






最初は先生に手を差し伸べて貰ってましたけどやっぱりその役はサオリが一番似合ってるよね♡
おらっ!助けた目の前でアツコに銃弾がぶち込まれたサオリの姿はめちゃくちゃかわいいね❤️

次回、『天使』

偶然、オレみたいなヤツに生かされるって事…長生きしたきゃ忘れんな


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