君は無邪気な夜の暴虐   作:ミカ推し

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戦いは鮮烈に。されどあっけなく


最強

 

 

 

「やっほ☆久しぶり」

 

「………マジか」

 

ベアトリーチェの依頼通りにミハはアツコを指定位置まで届けて“儀式”が終わるまでの時間、アリウス自治区を散歩しようと歩いていた所だった。目の前にミハと同じ姿をした少女が姿を現したのは。

 

明確に違うのは飾り付けられた翼と、そしてそのミハでさえ瞠目する神秘の濃さ。

 

「大マジ☆……元気ピンピンだよ☆」

 

「どういうカラクリ...いや。そういうことか」

 

見る人が見れば分かるミハが殺したはずの少女。聖園ミカから発せられる神秘の量が殺される前より、量も質も比べものにならないほど強く、濃くなってその場に立っていた。

 

「“至った”のか……!」

 

「正っ解っ☆」

 

ミハの少なくともトリニティに復学してから初めて聞く様な戦慄した声色を前に、不敵な笑みで笑うミカ。内側から湧き出る熱量に耐え切れないのか、ミカは思うがままに頭の上に浮かぶヘイローを指差しながら手の甲で頭を叩く。

 

「ミハちゃんに首ぶち抜かれた時にね☆私の持てる全部を使ってミハちゃんの原理を演算した☆」

 

「そしたら気がついたんだよ☆私たちとミハちゃんの間に明確な差があるってことにさぁ!!☆」

 

例えるならそう。まるで水の流れを塞ぎ止めようとしている堰を見つけた様な、まるで地の底に繋ぎ止めようと縛っていた鎖を見つけた様な。聖園ミカが本能的に聖園ミハには敵わないと言うカラクリがそこに有ったのだ。

 

「言うが易し☆それを解った所で一体どうするべきか分かんなかった☆」

 

だがそれを見つけた所で理解できるのは圧倒的な力の差。ミカはその時、その場所に至った時点で気がついていたのだろう。地の底に繋ぎ止められた自分では、その鎖から逃れ出ているミハに勝てる要素は一つも無いことに。

 

「だけど掴んだ☆」

 

そう。確かに地の底に繋げられた筈のミカはその時一体どうなっていた?

 

「死に際に掴んだ、神秘の全貌ッ!!☆」

 

答えはミハの手によって殺されていたのだ。逆鉾と言う神秘の破壊に特化した武器によってミカの意識は神秘に最も深く触れていた。言葉でも、文字でもなく殆ど無意識の領域で神秘というものを“知覚”したミカは自らを縛るの断ち方を理解した。

 

「それによってミハちゃんとは別方面で至った☆」

 

「……ねえ。ミハちゃん?捨てたミハちゃんと飲み込んだ私☆」

 

そしてミカはその理解を利用してその先に至った。そしてそこに至ったことでミハの異常なまでの身体能力の原理が分かったのだ。その原理をワザと言葉にして直すのなら、おそらく今ミカが言ったのが最も相応しい。

 

(ペラペラと……)

 

ただそのミカの解説を前にミハは不機嫌そうに顔を顰める。

一体何がミハの琴線に触れたのだろうか。ただ、分かることは1つ。ミカの解説が【暴虐天使】にとって、最も触れられたく無い過去である事に間違いはないのだろう。

 

「互いに“有り得たかも知れない可能性”……どう?ミハちゃん☆」

 

「どう……ねぇ……」

 

そしてついに知ってか知らずかミカはその一言を口にしてしまった。

ミハにとってその言葉は最も忌み嫌うモノ。そう。分かりやすく言うのならミハに一番効く挑発ということだ。

 

「可能性?これで終わりだろ。」

 

「ああ?☆そうか?そうだね、そうかもねぇ☆」

 

この時点でミハは身体に巻き付いていたスライムの口からミカの喉を貫いた“鉾”を取り出し掲げている。何度でも言うがミハの持つ鉾は対神秘に特化した言うなら“ヘイローを破壊する近接武器”である。幾らミカが“至った存在”であるとは言え神秘の域から逃れ出ていないと言うのなら、この鉾が致命傷になる。

 

今度こそ、あの世に送り返してやるとミハはあくまでも無表情に、そしてミカはここから面白い事が始まるとばかりに笑いながら──────

 

ぶつかり合った

 

(………獲っっ!!??)

 

最初、誰よりも早くミハが地面を蹴り付けミカに飛びかかる。狙うは首筋、そこに向けて一直線で刺し穿とうと逆手持ちにまで切り替えて薙ぎ払った筈だった。

 

「……耐えるでしょ?☆」

 

(……まずっ!!)

 

ミハが薙ぎ払った時点で地面を蹴り上げ、空でバク転をしてミハの後ろにミカが居なければそうなっていたかも知れないが現実ではミカの背後に回った動きを見切ることが出来ず、ミハはようやくダメージとなりうる攻撃を鉾で受け止めたとはいえ、受けた。

 

ミカの拳圧は鉾で防いだと言うのにアリウスの廃屋を数棟貫通して、隣の路地にまで出てしまった。ミハの身体能力、それはキヴォトス有数の実力者が束になって敵わなかったと言うのにミカの一撃で最も容易く吹っ飛ばされた。

 

「はぁ……バケモノが……」

 

「おっ!☆いいね!いいね!!本気になった!?☆」

 

もはや諦めと呆れに等しいミハの呟きを前に、ミカは両手を空に掲げたまま笑う。

 

(解ってはいたが“同格になった”聖園ミカ相手には分が悪い、か)

 

1つ。聖園ミカの身体能力。それはキヴォトスでも特異な程に出力される“神秘”によるもの。かつてミハだった少女はその身に宿る神秘の全てを捧げて異常なまでの身体能力を引き換えた。……それに変わり、今の聖園ミカの身体能力は至った事による過剰なまでに引き出された神秘の出力と言うべきだろうか。

 

2つ。聖園姉妹が本来持っていた神秘の副産物…“隕石”或いは“星を喚ぶ”異能。これも神秘の力のためにかつてミハだった少女は失っているが、聖園ミカはおそらく今まで以上の出力と質量、そして自由に隕石を呼ぶことが出来ると考えていい。

 

そして3つ。聖園ミカが壁を乗り越えた…至ったと表現される現象を破り“こちら側”に立つ存在になった事で本来その場所に座っていた聖園ミハと同格になったと言う事であり、明確に互いが互いの相性が悪い。

 

身体能力に武器のゴリ押しというミハ(まあ同格が生まれない限り最強ではあるが)に神秘の異能を引き出し、隕石と言う技さえも冴え渡ったミハと同じか格上の身体能力を手に入れたミカ。どちらが優勢になるかもはや論ずる必要もない。

 

(おそらく現代最強の神秘……いや。過去未来産まれることのない最強の神秘か)

 

ここに黒服でも居たのなら喜んだんだろうか。いつもならしない感傷を頭から強制的に追い出し、“確実に”ミカを殺す手段を考える。……狩らなくては狩られるのは、自分だ。

 

(いや……全て)

 

そして思考を回しながらミハはスライムの口から吐き出された鎖の端に鉾を連結させた。この鎖の特性は一辺どちらかが観測されない限りおおよそ無限に繋がる鎖。その使い方の悪さも並半可なモノではなく基本的にスライムに仕舞ってから使わざるをえない特性があるがそれを差し引いてもミハが持つと化ける。

 

(問題なし……!!)

 

鎖を力の思うままに振り回し、まるで鞭のように地面を削り、暴風を巻き起こす。

こうしてようやく準備は整った。そう。そうな筈なのだ。

 

違和感

 

(これでいい)

 

湧き上がった不思議な感傷を呑み込み、手首の力を利用して鎖を伸ばす。

振り回される遠心力と鎖の先端に付いた対神秘武器である鉾がミカを貫き殺す。

 

そうなる筈だった。

 

「殺してやるっ!聖園ミカァ!!」

 

 

(ああ。ミハちゃんもこんな気持ちだったのだろうか)

 

ふとミカはそう思った。

ミハちゃんに殺された時の衝撃、まだ死んでは居られないと空を切る筈だった手は何かの手違い、或いは運命の悪戯で神秘の根源に繋がった。……そしてこれはおそらくミハちゃんも同じプロセスを踏んでいるとミカは察していた。

 

(ごめん。先生にスクワッドたち。私は、今でもミハちゃんを恨む事は出来ない)

 

そしてそこに繋がった時、私たちには二つの選択肢があった。

それを言葉にするのは難しいでも、あえて口にするのなら“全”か“零”か…そして“有”か“無”だろうか。きっとその時、ミハちゃんは後者を選んだ。

 

(今はただ)

 

これはどっちを選んだからどうと言うわけではない。1つ分、位を登った先には変わりないから。きっとその時、ミハちゃんは全部を捧げたのだろう文字通り。私はあくまでそのミハちゃんの支払った代償の過剰分で扉をこじ開けたようなモノだ。

 

(この世界が……ミハちゃんが居るこの世界が、愛らしい)

 

例えるなら全能感。まるで生まれ変わったかのような酩酊感。

身体の芯から、魂の深層から引き出される様な熱の暴力に溺れながらもミカは暴走する事なく支配してその場に立っている。それがどれほどの偉業なのかミカ自身は気がついていないが。

 

「うん……そうだね」

 

今は、今だけは祈りも慈悲もいらない。縋る先は求めない。

これは私たちの、私たちだけの姉妹喧嘩殺し愛だ。誰も、何にも邪魔することも出来ないたった二人だけの舞台。

 

だからこそ、とても残念だとミカは嘆息した。

今のミハちゃんは正気では無い。…いやまあ、触れられた過去の傷に踏み込んだのは私だ。しかも踏み込んだのが()()()()()()()()()()()()()()()()()1()()なら十分共感できる。

 

ならせめてこの戦いの結末は鮮烈なモノである方がいいだろうとミカは手印を引き絞る。“こちら側”に至る時よりも明確に使いやすくそれでいて質量も、威力も増加しておきながら取り回しはむしろ楽になった“星を喚ぶ異能”

 

「───────」

 

せめて、この一撃が愛であればよいと聖園ミカは身勝手ながら思うのだ。

 

 

 

違和感

 

鎖を振り回し、鉾をミカに当てる様に薙ぎ払う。

路地に立つ街灯を起点に鎖の進行方向を急旋回させて間違いなく死角となる場所から聖園ミカを強襲したと言うのに、当の彼女は見ることさえせずに身体を最小限だけ揺らして避けた。……分かってはいたが自分と同じぐらいの事は出来て然るべき或いはそれ以上か。

 

けど自分以上の身体能力は無いとミハは心の底で断定する。

言うならミハは身体能力においてのハイエンド。これ以上先はないと言うよりこれ以上先は“器”が無事では済まないのだ。機械によって身体を補強しようとも、神秘によって底上げしようとも、術によって補正しようとも聖園ミハが出せる速度が“人”或いはそれに準じた者の限界点なのだ。

 

まあ最も聖園ミハの身体能力に並び立つ為には、どう足掻こうとも聖園ミカの様な“至る現象”を引き起こさなければどんな強化をしても格落ち未満にしかならないが。

 

(だから警戒するべきは……)

 

神秘による異能の攻撃。近接は聖園ミカがこちらの範囲内に入ってきたのならゼロコンマさえ与えない隙に切り捨てると最大限警戒を張りながら、縦横無尽に鎖を振り回す。

 

(それでいい…それでいい筈なんだ)

 

違和感

 

まるでボタンを一個掛け間違えている様な、何かとても大切なことを忘れている様な、何かの用事に家を出たのに持って行かなくてはならない物を玄関で置き忘れた様な。そんな思い出せないけど喉まで出てきている致命的な違和感。

 

それら全てを飲み干してミハはミカに敵意を向ける。

その行動をしている時点で、おかしいと気が付かなくてはならなかったが。

 

─────星の喚び声

 

(………あっ、これは────)

 

聖園ミカの構え、こちら側に何かを“放つ”様な手印の元に集まっている一撃。

アレはまずい。聖園ミハが、伏黒メグミが過去最大限の警笛を鳴らす。“アレ”を撃たせたらダメだ。“アレ”を撃たれれば最後どう足掻いても当たる。当たってしまう。

 

本能が。理性が、理解を拒む。

“アレ”は間違いなく聖園姉妹が持っていた、持っている筈の“星を喚ぶ異能”である。だと言うのに()()()()()()()()()()()()()()。もはやアレは別物に変化...いや。先鋭化している。

 

今から放たれる聖園ミカの一撃は()()()()()()()()()だ。

訳がわからない。理解できない。聖園ミカが“至った”為に最強となった神秘。その全てが聖園ミハという一個人に向けての特攻になった。…つまりこれから聖園ミカが放つ技は何であれ、聖園ミハを殺せるのだ。

 

(────────死。)

 

止める間もなく放たれた極光の一撃。

宇宙の輝きをそのまま1つの弾丸ほどにした一撃。その大きさからは想像もつかない様な神秘の量と質量があるのか周囲を歪めながらミハに迫る。間違いなく死ねる一撃、もう避けようも相殺しようもない状態に至ってようやく、ミハに走馬灯が走った。

 

(……違和感か。)

 

過去の自分。かつて切り捨てた、捧げた筈の聖園ミハの記憶さえも遡り。

そしてどうしてここまで強い違和感を覚えていたのか理解した。それは鉾を遠距離に使った事の違和感?聖園ミカが接近するという予想に関して?……いや。違う。

 

(いつものオレなら損得を選んでトンズラしていた)

 

あまりにも【暴虐天使】らしからぬ行動。

いつもなら依頼者の依頼を終えて、それ以降は乗る事はしなかった。タダ働きに成りかねない死に損ないとの再戦なんて面倒以外の何物でも無い。だと言うのに聖園ミハは戦うことを選んだ。

 

………その理由は?

 

(……ああ。そっか)

 

否定したくなった。捩じ伏せてみたくなった。

自分が選べた筈のもうひとつの可能性。自分が切り捨てた理想の残滓。

“そうなれた筈の未来”が目の前にあるのだ。…そんな悪夢に等しい夢物語を前に聖園ミハという存在は酷く目障りに思えた。だからこそ、こんな無意味な事をしてしまった。

 

(自分を肯定する為に、オレを曲げてしまった)

 

決して今まで歩んだ自分を否定するわけにはいかないから。

もし目の前の存在聖園ミカを肯定してしまったら今までの自分の意味を失ってしまうから。……そんなとっくの昔に吐き捨てた自分のどす黒い物がこの戦場から逃げ出せなくなってしまった。

 

「そう考えた時点で、負けてたか」

 

ならこの敗北も必然。自棄になって焦った傭兵が殺される、なんて道理だ。

平常心を失って既存の技さえ出せなくなったのが負けるなんて考えたらわかる事だ。

 

迫り来る“終わり”に自嘲する。

別に文句はない。別に嘆きもしない。自分という物語の結末が殺し殺され、最後には最愛だった筈の姉に殺される。なんとありきたりな悲劇の結末で幕を閉じる。

 

「それは捨てたろ」

 

 

 

 

 

 

「それは捨てたろ」

 

ミハちゃんの声。まるで何もかも諦めたかの様な空虚な声。

違う。私はそんな声を聞きたかったわけじゃないと頭の中で訴える。

 

ミハちゃんの顔。まるで“何もかも”を受け入れた様な安らかな微笑み。

違う。私はそんな表情を“ここ”で見たかったわけじゃないと心が訴える。

 

「─────ミ、ハちゃ───────っっっっ!!!」

 

手を伸ばす。届かないだろうと知りながら。

分かっている。分かっているとも。避ける気も逃げる気も反撃する気も無いミハちゃんがこの一撃に対処する方法なんて無い事を。そしてこの一撃が避けようと思えば避けられた筈の一撃だという事をミカは理解した上で飛び出す。

 

死ぬつもりなのだ。ミハちゃんは。

一体どうしてなのか。理解できないミハちゃんの心情に駆け出したミカだが間に合うはずもなくその一撃は聖園ミハの脇腹を抉り、大穴を開ける所だった。

 

 

或いは、そうなる筈だった。

 

 

 






詳しい話は作中でしているのでここでは簡単に分かりやすくミカの起こした現象を解説しましょうか。と言ってもめちゃくちゃ省略すると最近完結した某落第騎士の覚醒ブルートソウルが一番合ってるんですよね。

聖園姉妹両方とも違いはあれ今際の際に神秘の核心…或いは全貌に触れた事で覚醒。その時に片や聖園ミハは“棄てる”事を選んで神秘を失う引き換えにフィジカルギフテッドとして覚醒。片や聖園ミカは“呑み込む”事によって持ち前の神秘に聖園ミハが捧げた神秘の残滓、そして覚醒した事によって得られた神秘その全てを“対聖園ミハ”につぎ込んだというリソースの使い方を選んだ訳ですね。

まあ最も聖園ミハもヘイローまでは失っていないから“神秘の器”は残っている訳ですが、まあこの辺りは何処かで。


次回『変生』

─────これこそ我らが夢見た〈崇高〉への道


ネタバレですがここで聖園ミカは“こう”覚醒しないとプレ先ルートですし、ここで聖園ミハは死ねなかったせいで苦難の道だけが残ってしまいました。可哀想ですね

感想、評価お待ちしてます。

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