君は無邪気な夜の暴虐 作:ミカ推し
“カフ”、“シン”そして“ダアト”
さあ。次の、〈崇高〉の領域へ踏み入る準備は整いました
共に夜明けを見届けましょう。
時間は遡り、ミハとスクワッドたちがぶつかった時。
ミハと別れたベアトリーチェは1人、虚空の知識と呼んだ祭儀場に立っていた。
その作りはバシリカによく似ていて、明確な差異と言えるのなら二つ。
人の姿に花の頭が描かれていたステンドガラスには10個の特徴的な円形を宿した木の様なレリーフに代わり、その内の書かれていない所が円形に光っていた。
バシリカではアツコを縛っていた中心の祭壇が消え、地面には大きく人が両手を上げたような謎の記号が書かれそれ以外は白黒で彩られた何とも質素な祭儀場だ。
「全ての経路は繋がり、時は満ちた」
ステンドガラスはベアトリーチェの言葉に従う様に輝き始める。
10個の円形のレリーフを繋ぐ様な経路が上から順番に輝きが満ちていく。1つ1つ複雑に交差しながらも直線に輝き、下に隣に斜め下に経路を伸ばし円形全てを繋ぐ様に輝くそのステンドガラス、見る人が見ればこう言っただろう。
これはまるでセフィロトの樹を模しているかの様だ。と
勿論その感想は正しいし、ベアトリーチェから言わせればこれは間違いなく“セフィロトの樹”であると断言するだろう。…セフィロトの樹。或いは生命の樹と呼ばれるその系図は大まかに分けて2つの意味合いを持つ。1つ目は旧約聖書、創世記においてエデンの園の中心に植えられた樹の実を食べると永遠の命が約束されるという物。アダムとイヴが追放される原因とも言えるがそれは割愛しよう。
そしてもう1つはカバラの神秘思想。つまり10個の円形と22個の経路によって繋がれた世界創造…即ち神の象徴。各解釈毎に異なってはいるが、しかしそのどれもがこの頂点には神座と共に神の存在の場であるという思想。
「十の冠名、二十二の縁、四の階位」
そう。神の存在である。そしてここ、キヴォトスにおいて“神の存在証明、並びに新しい神の創造”を行おうとした組織、そしてそれを支援していた“旧ゲマトリア”は1つのシステムを組み立てた。
その名はDECAGRAMMATON。まあこのシステムがこうなるまではそれこそ研究が忘れられ、研究所は水に沈んだ程に長い年月を掛けたが、間違いなくこのシステムは新たなる神…ひいてはその絶対証明のために動く事になった。
「さて、それでは全ての準備は整いました」
まあDECAGRAMMATONまでならおそらく現ゲマトリアは放置していた。というかどの様な過程の上で絶対証明…即ち〈崇高〉に至るのかと興味本位で見守っていたのだろう。
だがそんな中ある時、ゲマトリアに想像もしない存在が現れた。
キヴォトスの生徒に準ずる“神秘の器”でありながら中身を完全に失った空の器。ここまで言われれば分かるだろう。…そう。その名は聖園ミハであった。
「神秘の供給も、恐怖の制御も問題なし」
空の器という何モノにも染まらず、そして何モノにも染まる可能性を持つ器は正しく最も理想的な器。それこそ〈崇高〉に至る事も出来る。そしてそんな器を手に入れてしまったゲマトリアはこう考えたのだ。
〈崇高〉を。かつて先人達が叶うことの無かった“神の存在証明”を成し遂げてやろうと。そんな計画はカバラの思想。デカグラマトンにも使われている神に至る概念。セフィロトの樹の概念を以て聖園ミハを崇高に至らせる。
「これこそ────〈崇高〉への道」
即ち聖園ミハを神にする計画。新しい神話を作るのだ。
人の手によって、新しい神を創造する。そんな夢物語が始まるのだ。
『くっくっくっ……どうやら準備は万全な様ですね』
始まる瞬間、何も描かれていなかったステンドガラスに暗幕が下り、その向こう側から特徴的な声が聞こえる。…間違いない。その声はゲマトリアの一員、“黒服”の声だ。
『これより我らが新しき〈崇高〉を迎え入れる為、我々も見守るべきだろう』
そして別のステンドガラスにも暗幕が降り、その向こうから興味深そうに声色を弾ませる声が聞こえる。…そうその声はゲマトリアの一員、“マエストロ”の声だ。
『まあまあ。この研究は殆どベアトリーチェが準備したモノ。我々は大人しくその行く先を見守るべきでしょう』
『そういうこった!』
そして更に別のステンドガラスからも暗幕が降り、その向こうから先の2人の声を嗜める様な声色で2つの声が響く。…そう、その声はゲマトリアの一員、“ゴルコンダ&デカルコマニー”の声だ。
「……どうであれ、協力していただいた事には感謝していますよ。」
そんな4人の登場に特に驚く様子もなくベアトリーチェは言葉を返す。
ベアトリーチェが前回口にした祭壇(参照:理外の探究者)。そしてその要に〈姫〉である聖園ミハを利用することは一目瞭然…とは言え黒服から見ても理に適い、マエストロから見ても芸術的ありながら合理的で、ゴルコンダが見ても成功するだろうと言うベアトリーチェの計画はゲマトリアにおいても協力するべきだろうと言う判断であった。
『ですがしかし…アリウスという土地をこの様に使ってしまって構わないのですか?』
『左様。幾ら空白の土地と言えどこの上に敷くのは些か不合理だと言わざるをえん』
そんな中、黒服とマエストロが訝しげにベアトリーチェに問う。今回の計画において重要なのはセフィロトの樹を準備しなくてはならない事。デカグラマトンはここにそのセフィラを模した預言者を用意しているが、ベアトリーチェはそんなモノを用意していない。それこそマエストロから借りた複製の〈戒律の守護者たち〉は今も動いているがそれは強度的に預言者の代わりにはならないだろうと予測を立てた。
なら、一体どこにセフィロトの樹を用意したのだろうか?
『ですがある意味理にかなっていると見てもいいでしょう…〈姫〉という器を完全に満たす為、まさか
最も簡単で、それでいて最も大きなキャンバス。それはアリウス自治区。…つまりベアトリーチェはアリウス全土にセフィロトの樹を用意して今回の計画に臨んでいるのだ。
だからスクワッドたちが自治区に来ても人影一つも見なかったのだ。
何故ならセフィロトの樹の準備に人員も土地も割いているのだから。今更不要となったスクワッド改め、ロイヤルブラッドなぞ放っておいても問題ない。
「これをもって最終準備を完遂。それでは始めましょう」
統制を保っていた〈戒律の守護者たち〉にベアトリーチェは命令を下す。
全セフィラを守護する即ち王冠から王国までの戒律の守護者たち…聖女バルバラを含む10体の力と名前を持つ戒律の守護者たちがその身を捧げる事によってセフィラが満たされる。
「隠された虚空よりAHIH、IH、IHVH ALHIMは繋がり」
上から三つ。三角形を描く様にしてセフィラが輝きが満ちる。対応するセフィラは王冠、知恵、理解。この三つは至高の三角形とも呼ばれ、この三つに降り注いだ神の光が亀裂を産み下7つの器を産んだとも解釈できる。
つまりこの三つは最も重要な世界を創造する三位一体。
これを満たす事で〈崇高〉に至る最初のプロセスは始まった。
「AL、ALHIM GBVR、IHVH ALVH VDOThよ。今こそ器に刻まれよ。」
次の逆三角形になってる三つのセフィラが順々に輝きが増していく。対応するセフィラは慈悲、峻厳、美。この三つのうち慈悲と峻厳は対立し、この二つのバランスを取るのが美である。
中心を意味する美である6という数字はカバラにおいて完全数。
ここまで満たされたと言うのなら〈崇高〉の力はもう目の前である。
「LLIF、RUOP、LLIF、RUOP」
「IHVH TzBAVTh、ALHIM TzBAVThその二つを超え、今ShDl AL CHLは満ちた。」
そして一番下の逆三角形には上に位置する二つのセフィラから更に満ちた輝きが下の一つのセフィラに集まる様に輝く。対応するセフィラは勝利、栄光、基礎。美から下り落ちる〈崇高〉は勝利と栄光によって増幅されていく。
そして最後の1つ。そこにミハを当てはめればもう儀式は完遂する。
増幅し、純化した〈崇高〉のエネルギーは“聖園ミハ”という空の器に注ぎ込まれ、無限光の扉を開き、崇高に至る。
「ADNI HARTzに満ちる光よ。今こそ器と共にAtziluthの扉を開きたまえ」
最後のセフィラ。本来なら王国と言う意味になるのだがその意味になると明らかに男性体の表現になってしまう。花嫁とも例えられる最後のセフィラでありながら男性体の名前では些か問題がある。何故なら“器”は少女であるからこそ神の花嫁である意味を持つ臨在が相応しいだろう。
そして続けてベアトリーチェは祈りを捧げるかの様に祝詞を唱える。
「urodayinatanaagirakihonuokuus」
そしてそれに続く様に黒服が讃えるかのような声色で祝詞を唱える。
『etisinitieonutubnnabahirakihonos』
更に続いてゴルコンダ&デカルコマニーが喜ばしそうに、祝福するかの様な声色で祝詞を讃える。…驚くべき事にいつもは“そう言うこった!”としか言わないデカルコマニーもゴルコンダと同じ様に祝詞を唱えている
『『onomuremotomagareraw
。onomatemotomioagareraw』』
最後にマエストロが感激するかの様な声色で祝詞を唱える。
『owiassak。uzerusawowironiuzerusawowatu
』
更に重唱するかの様に全員の声が祭儀場に響く。
その祝詞はまさに新しい〈崇高〉を讃えるかの様に。
「『『『oyeawi。adonatikahikotonukosukayosokami』』』」
「…………あ」
「─────ミ、ハちゃ───────っっっっ!!!」
時間と場所は戻り、ミハとミカの決戦。ミハの一撃、或いは伏黒メグミという存在に幕を引くかの様な一撃を前にミハはその結末を受け入れようとしていたその時だった。
ミハの胸に輝く模様が刻まれたのは。
模様はまるで大きく人が両手を上げたような謎の記号。ここまで言えばもうお分かりだろう。ベアトリーチェが居た祭儀場の床に刻まれた記号と全く同じ模様がミハの胸に刻まれて、輝いていた。
ベアトリーチェが居た祭儀場。その名前は虚空の知識。本来ならここには何の属性も帯びないし、守護する天使も割り当てられていない。深淵に最も近いとされる虚空の知識にはたった一つだけ割り当てられている星がある。
そう。その星は冥王星。そして冥王星の惑星記号にして占星術においての記号。それがミハの胸に刻まれたのだ。つまり今のミハは虚空の知識と繋がった。
そしてベアトリーチェたちの詠唱通りにミハとセフィロトの樹が繋がっていく。
「ああ……」
ミカが放った一撃は虚空の知識と繋がった衝撃により掻き消え直後、ミハの身体に輝く模様と同じ様に全身に10個の輝く穴が刻まれる。
この時を以て聖園ミハの神化が始まると同時に不可逆の覚醒が始まる。
「ミハちゃ───────!!??」
輝きが満ちる。空っぽだった聖園ミハの“神秘の器”にセフィラが流れ込む。
物質界、天使界、座天使界。その全ての扉を開き今。Atziluthに手が届く。
勿論、ベアおば達の祝詞にもキチンと意味はありますよ?
暇があれば解読してみてくださいね!
次回、『集結』
夜明けと共に現れるのは─────
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