君は無邪気な夜の暴虐   作:ミカ推し

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ベア「現在ただいま暴走中。アリウス自治区滅んだやっべぇww」
マエ「笑ってる場合か!?」
黒服「待って……これワンチャン先生ヤバくね?」
ゴル「ヤバいも何も絶賛巻き込まれて」
マエ「あーもうめちゃくちゃだよ」
ベア「もしかしてだが、これ大分ヤバくない?」
ゴル「まあ“あの”ミハが暴走してるから……」
黒服・マエ・ベア「…………………………」
黒服・マエ・ベア・ゴル「笹食ってる場合じゃねぇ!!」

ミハの暴走を受けて乱入するまでゲマトリ猫たちの壮絶な会話である。




悪い大人たち

 

 

 

「“私の大切なお姫様に何してるの……!!”」

 

守る、守る、守る、守る、守る、守る

砕ける、砕ける、砕ける、砕ける、砕ける

 

シャーレの先生が持つシッテムの箱のバリア。それはこの箱の管理AIであるアロナがいる限り先生には傷ひとつ付けない筈の絶対の護り。だがこのバリアにも耐久性の限界がある。それこそエデン条約調印式時の巡航ミサイルが降り注げばバリアを維持しているであろうアロナの限界を迎える。

 

ならばアロナのバリアでミハの絶対の一撃は、人1人を容易く蒸発されるほどの一撃は防げるのだろうか?

 

…‥…答えは、否だ

 

(“…………マズいっ!もう限界がっ!!”)

 

数秒、或いは数十秒。それぐらいなら拮抗するだろう。忘れてはならないのがこの一撃は砲撃だ。相手を対象を絶対に消し飛ばす絶死の一撃。砕け、壊れていくバリアに先生は今まで貯めていたリソースを余す事なく全部バリアに注ぎ込む。それでも神の一撃を防ぐにはあまりにも柔すぎる。溜め込んだリソースを粗方使い切り、それでも止むことのない砲撃…むしろ先ほどよりも威力が上がっている様にも感じる。

 

(“…………っ……!!”)

 

護るために突き出したその右腕には既に感覚はない。

バリアの外からでも防ぎきれない熱量は先生に明確な“死”を意識させる。ミカという自分の生徒が背後にいる時点で私に逃げる選択は存在しない。

 

(“…………かくなる、上は”)

 

全リソースの底が見え、その上で止まない砲撃を前に先生は懐から一枚のカードを手に取る。出来ることならこれを使わずに済むのならそれで良いと思っていた。だが、これに…“大人のカード”でしか現状を覆せないというのなら私は決して迷わない。

 

例え、このカードを使えば“取り返しのつかない事”が代償だとしても。

 

 

 

“大人のカードを使う”

 

 

 

現状を覆す様に奇跡の光がカードから漏れ出る。

過去、今、そして未来。あらゆる時空、あらゆる空間を超越して“奇跡”という概念が顕現する。それは例え神による滅びの光であろうとも奇跡が上書きする。……勿論、その分の代償は余す事なく先生に降りかかり、奪っていく。

 

いつか、黒服に言われた“それを使えば人でいられなくなる”

それを覚悟して先生はそのカードを掲げて、奇跡が侵食する─────────

 

 

「……いえ。先生」

 

遠くて近くから声が聞こえた。

 

「それを使うのは今ではありません」

 

皮肉にも聞き覚えのある悪い大人の声を。

 

 

その場面をミカだけが見えていた。怖気付く程悍ましい光を放つカードが汗と歯を食いしばる先生が掲げた瞬間その先生を止める様な声と共に、4つの漆黒の光の柱から大人が姿を現した

 

「“………く、黒服……?”」

 

「ええ。お久しぶりですね先生。事態は悪化の一途を辿っております。挨拶を省略させていただく事をどうかお許しください」

 

「黒服出来る限りっ急いで頂きたいのですが…っ!」

 

「そういうっこったぁっ!!」

 

「いつかの夢ばかりだな。先生。」

 

優雅に先生に一礼する黒服に、ステッキをミハの砲撃に向け先生のバリアの前で防ぐゴルコンダとそれを補助するデカルコマニー。ミハの砲撃時に出てきた方陣を観測するかの様に遠くを見ながら会釈するマエストロ。

 

「全巡礼者の幻想にしてアレイオスの支配者たるベアトリーチェが認めましょう」

 

「誰…?お前、は……」

 

その後ろ、一歩下がった所から自らの扇を振り抜きベアトリーチェはゴルコンダにアリウスの中に滞留する神秘と一時的にパスを繋ぐ。アリウス分校の生徒会長でありアリウス自治区の支配者である彼女はアリウスに宿る神秘を自在に操り制御できる。こうして神秘というリソースを使いゴルコンダを強化する事も自在であるのだ。

 

「“ゲマトリア……!?”」

 

「先生。この場は我らに」

 

「こちらを抜ければ生徒が1番集まっている場所に繋がっている」

 

先生の中ではあり得ない登場。絶対に来るはずがないだろうと思っていたゲマトリアたちに二度見するほど驚きながら、マエストロが片手で開いた黒い渦の様なポータルを指差し、逃げる様に黒服も先生に声を掛ける。

 

「聖園ミカ。貴方も一度引きなさい……良いですよね?マエストロ」

 

「無論。道は繋いでおこう」

 

「どうして?……だって貴方は……」

 

そんな先生の狼狽の裏で、ベアトリーチェがミカに促す。

そんなまるでベアトリーチェがミカを労っているかの様な言い方にミカも驚き口籠る。だってそうだろう。ミカにとってさっきまで憎しみ合い殺し合った相手…そんな相手がまるで自分を慈しむかの様な言い様にミカは混乱する。

 

「伏黒メグミ…いえ。今は聖園ミハと言いましょうか。」

 

「………」

 

「彼女を止めたいのでしょう?」

 

「……………!!」

 

今のミハの姿を見るがいい。全身から大量の光を放ち、空に浮かぶあの姿を。純白で穢れも知らない様な翼は半透明のエネルギーを放つ巨大な翼としてある。あの姿を見て、ベアトリーチェもミカも考えることは同じ。

 

ミハを止めたいのだ。姉として/◼️として

 

「今この場は我らにお任せください」

 

「“信じて良いんだね?”」

 

「黒服っ…そろそろ手伝って頂きたいのですが……」

 

「そう…いうこったぁっ!!」

 

もう一度先生に頭を下げる黒服。防ぐのに全力を出しているゴルコンダ。そして常にバフを掛け続けるベアトリーチェに私たちが逃げる様のゲートまで開いてくれるマエストロ…ゲマトリアたちの本気さが分からない先生ではない。ベアトリーチェからの激励を受け取ったミカと互いに頷き合い、ゲートに飛び込んで消えていく。

 

「………行きましたね」

 

「マエストロ!黒服も……早く手伝っていただけますか?」

 

「流石に今回ばかりは出し惜しみ無しで行こうではないか、なぁ?黒服」

 

「くっくっくっ…ええ。ベアトリーチェ、リソースを少し分けてください」

 

この場から消えていく2つの反応にゴルコンダはその時を待っていたとばかりに自身の〈記号〉と〈テクスト〉を展開する。それは周囲にも影響を及ぼすゴルコンダの攻防一体の陣。巻き込まれた他のゲマトリア?…まあ死にはしないだろう。

 

ミハの攻撃が半永久的に続くとしても、アリウスに滞留する神秘は無限に見せかけた有限だ。今この場でアリウスの全部を使い切るのはあまりにも愚策だからさっさと手伝え!と言わんばかりの威圧を込めてベアトリーチェは黒服とマエストロを睨む。

 

「〈太古の教義〉は受肉し、地の意思と結び付く」

 

嗚呼。かの福音はついに列聖され、聖人となり、その証として奇跡を起こさせんとせん……

 

「死は万物が逃れられぬ摂理である。……だが彼ら芸術は有限が無限に至る〈不滅〉の意思」

 

まもなく舞台の幕が上がる──どうか、より強く、激しく、高らかな喝采を!

 

 

黒服の前から、マエストロの前からミハに負けずとも劣らない巨大な黒い渦が開き、そこから何かが落ちてくる。そう、これこそミハの暴走の報告を受けてゲマトリアが急いで作り上げた対“神”特化型人工天使。

 

神性の怪物たれと祈られた教義の人工天使シリーズ…通称「聖徒の交わりCommunio Sanctorum」。

偉大なるその名前は────────

 

「ヒエロニムス」

 

「グレゴリオ」

 

黒服の前に赤い司祭服を着て光り輝く光輪を持ち、ニ対の腕の1つを祈るかの様に組みもう一つに金色の錫杖の様な何かを持つ巨大で虚なヒエロニムスに音もない歓喜の咆哮が響き渡る。

 

マエストロの前にタキシードを着た頭がある場所には青紫色の炎を煌めかせ左手から指揮棒を取り出し、背後では青いヒト型がコーラスを唄う。まるでこの現状を、自身の存在を全う出来る“敵”の存在を愉しむ様に盛大で凄惨な音色をグレゴリオは奏でる。

 

「ふぅ……助かりました。」

 

「ああ。だが………」

 

新たな敵性存在。或いは暴走した〈崇高〉にとっても“脅威”であると認識した2体の対神人工天使は聖園ミハたった1人だけを狙いに定める。勿論ミハも砲撃を止め、2体と威圧する形で戦場は一瞬の沈黙に包まれる。

 

「警告します。警告します。新たな敵性存在を確認」

 

「         !!!」

 

「 ♬♪ ──────────!!!」

 

直後、ミハの翼が上に後ろに引き絞られていく。ここまで大きければ例え木偶の坊であっても攻撃態勢に入るらしい事を見届けてゲマトリアたちも各自準備を始める。

 

「………あまりこういうのは好きでは無いのですが……」

 

「言っていても仕方ありません。来ますよ黒服」

 

「……全力で、時間を稼いでくれ」

 

ミハの翼に数多の円陣が展開され、ヒエロニムスから光線のカウントが始まり、グレゴリオが聖歌隊を召喚し睨み合う。黒服が荒事は苦手だとぼやく中、もう逃げられないとゴルコンダが自身の〈テクスト〉を人工天使の支援特化に急ぎで書き上げた。険しげな顔でマエストロが“何か”の準備を始める裏で、ベアトリーチェはミハが〈崇高〉に至った術式摂理に干渉できないかと全力を注ぐ。

 

悪い大人たちの奮戦が今ここで始まろうとしていた

 

「報告。対象敵性存在が対神性特攻特化であることを確認」

 

「来ますよ……!!」

 

まるで時は満ち足りたとばかりにミハが展開した円陣が発光する。

そこに込められた文字は光。或いは裁きの極光。神に叛逆することは赦さない絶対の光。

 

この時を待っていたとばかりに黒服は左手で何かを掴む様に横に動かし、自身に良く似た黒い煙を炎状に纏めたのをヒエロニムスとグレゴリオに放つ。

 

「         !!!」

 

「問題はありません」

 

ヒエロニムスの掲げた錫杖から一本の光線がミハを貫こうと奔る。

しかしその攻撃はただのレーザーではない。そこに込められた呪詛は間違いなく神でさえ蝕む死毒。解毒するのはそう難しくは無いが、非常に短期間で爆発して消えていく伏毒の呪詛。マエストロの性格の悪さが滲み出ている。

 

既に支援に回っているゴルコンダにとってこの展開は待ち望んでいた瞬間。的確に、それでいて抜け目なく火力・防御支援を行う準備は整っている。

 

「♪  ♬──────────!!!」

 

「ベアトリーチェ。解析の情報を一部こちらに」

 

「業腹ですが、ええ。本当に業腹ですが…よろしくお願いいたします」

 

グレゴリオの召喚した聖歌隊の歌はグレゴリオ自身を強化する。

マエストロの謹製にして初代ヒエロニムス(先生に向かって使ったあれ)の失敗を踏襲した上で全く別のアプローチで制作されたこのグレゴリオは“特定条件下”以外では非常に硬く作られている。そして今回は歌の強化がヒエロニムスにも及ぶ。

 

マエストロの準備というのは“これから”の為だ。勿論今この場の我らだけでミハを鎮圧できるというのなら僥倖だがもしそうで無い場合、先生に向けてあの〈崇高〉を止める手段を見つけなければならない。……とまあ高尚な事を言ったがぶっちゃけると興味が8割である。〈崇高〉に至るという実験。その際に発生したこの様な暴走が“何を原因”としたのかマエストロの興味は尽きない。

 

そんなマエストロの愉快犯的思想はベアトリーチェも察しているが、今この状態では例え気に入らない相手であろうとも手を借りないわけには行かない。ミハが〈崇高〉に至った術式…つまり見ようによっては“土台”に触れようとしている。それが何を意味するのか虎の尾を踏むより明らかな行いを前に意固地になって時間は掛けていられないとベアトリーチェも分かっているからか情報を共有する。

 

「っくっ……!!」

 

「マダム!?」

 

「ゴルコンダ、黒服気をつけなさいっ!……あの子が、〈崇高〉が敵視を始めます」

 

何度目かの術式への干渉。ベアトリーチェたちがやっているのはミハの脇腹をえいえいと殴り、怒ってるか怒ってないかの綱渡りゲームをしている様なモノだ。〈崇高〉にとって痛くも痒くも無いがそれでも目障りである事には変わりない。

 

干渉から逆探知と逆ハックされたのが分かった瞬間、ベアトリーチェは自分の消耗度外視で干渉の線を断ち切る。その代わりに一部持っていかれたがまだ何とかなる。……問題は、ミハが〈崇高〉がゲマトリアを“排除するべきモノ”であると認識した事だと警告する。

 

「……不味いですねっ……!」

 

「ええ。ですが……」

 

今までのミハは玩具を与えられた幼児の様に破壊して遊んでいるだけの様な攻撃ばかりだったが、今からのミハは明確にゲマトリアへの敵意を持って攻撃してくる。それを分かっているのだろう。ゴルコンダと黒服は〈支援〉から〈自身の防御〉へと咒を固めた。

 

「対人、対神性、対神秘、対恐怖、対物質、対魔性、対獣性、対神聖。特攻状態付与を開始。セフィラ強制励起、セフィラパス強制通過」

 

「…………逃げる準備をしましょう」

 

「ベアトリーチェ!?」

 

「……っ!アレは、“アレ”は防げる代物ではありません」

 

長々と語る詠唱。だというのにヒエロニムスもグレゴリオもミハに攻撃が効いている感じではない。これはもう位相が違う、階位が違う、領域が違う、世界が違う。そしてその上で明確な敵意に恥じぬ様にミハの術式に編み込まれていく特攻…即ち対人、対神性、対神秘、対恐怖、対物質etc。過剰なほど積まれたこの一撃は、幾ら人智の果てにいるゲマトリアであろうとも耐えられるモノではないとベアトリーチェは悲鳴にも似た声を上げる。

 

「無限光・今甦りし至高天」

 

「……………あっ」

 

「まずっ…………!!」

 

極限まで圧縮された光の砲撃。

人1人を容易く蒸発させるほどの一撃が、今度はまるで光の触手の様にウネウネと別れて迫ってくる。一瞬でもそれに触れたら間違いなく自分という存在を失うと分かる。

 

そんな一撃を前に、ゲマトリアたちはまるでコントの断末魔の様な声を上げて────

煙が無くなった頃、その場には何も残らなかった。

 

 

 

 






RIPゲマトリア
お前たちの勇姿は忘れない。大体2話分ぐらいは


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