君は無邪気な夜の暴虐 作:ミカ推し
インフルでぶっ倒れていたので初投稿です
「先生ぇ!!」
「それにミカさんも……」
マエストロのワープホールは間違える事なくアリウスに向かってきたトリニティが集まる場所へと落とされた。どうやら先ほどミネに助けられたアリウスも含めて集まっているのを見ると本当にここは安全らしい。
「“みんな無事!?”」
「え、ええ。こういうのはアレですが…アリウススクワッドのサオリさんのお陰でこの場所に陣取る事が出来ました。」
その場所とはスクワッドの隠れ家...いや。かつて暮らしていた家。今アリウス自治区全土がまるでハリケーンが駆け抜けた様になって倒壊している中、比較的基盤が頑丈だったこの場所は、拠点にするには丁度良いとサオリ自身が案内したのだった。
「いや。ミサキを助けてくれた礼だ。……悪いのは私たちに変わりはないのだから」
ナギサから現状がどうなっているかを聞いているとその後ろから、包帯やらガーゼを付けたままのサオリが覚束無い足取りで近づいてくる。どうやら救護騎士団に動かない様に言われている時点でまだ傷は深いのだろう。
「先生も……すまない」
「“サオリたちが無事なら良かったよ”」
「…………そっか。あなた達は守れたんだね」
先生は私たちを信じそして私たちは先生を信じたのに、結局は私たちが先に倒されては信頼に欠ける行為である。そんな風に悔いるサオリに先生はあくまでスクワッド全員の無事を喜ぶ。
その隣で顔を曇らせる少女が産まれてしまうというのに。
「ミカ……君は……」
「ごめんセイアちゃん。謗りも非難も受けるから……今は1人にして欲しいかな☆」
全身ボロボロ、全身が血と土埃で汚れているというのにミカは差し伸べるセイアの手を振り払い、まるで貧血患者の様にフラフラと足取り覚束無いままであっても誰かに振り返る事も、誰かに寄りかかる事もしないでその暗幕の裏に1人消えていった。
「二度もこうなると…無理もない。」
まるで負け老いたかの様な無惨なミカの姿に、この場に集った責任のある少女たちが一斉に痛ましそうに目を伏せる。その間にもセイアが裏で待機していたであろう救護騎士団の1人を呼び出し、治療をミカにさせる様にと命令していたのだった。
「……それではそろそろ解説をいただけますか?」
「はい。適切な説明を願います。……アリウス全土に吹くこの暴風。そしてそれに伴い、増える負傷者とその一方です。」
そうして少し経った頃、2人の少女が声を上げる。シスターフッドのリーダー。サクラコと救護騎士団団長であるミネの2人だ。この2人に限った話では無いが、今もなお空に浮かんで輝く少女型の人型と言い、そしてそれを迎え撃つ二体の巨人と言いあまりに常識はずれな事が起こっている。
「そ、それは……」
「もはや隠せる状態では無いだろう」
口籠るナギサにこうなってしまってはと口を開くセイア。実を言うとセイアはついさっきまで夢の中で封印されていたが、今回の危機でどうにか命辛々逃げ出してきたのだ。しかしその夢が今回の一件と大きく関係があったから逆に助かったがそうも言ってられない状態ではある。
「今回の一件は、エデン条約とは実は大きな関係性はない」
「へぇ。そうなんですか」
初手から大胆不敵なブラフを張ってきたセイアにいつの間にかその場におり、話を聞いていたハナコが合いの手を挟む。
想像もしていない、どころかこのアリウスに関してはもう補習授業部をシャットアウトするつもりだったのに、そこにはいつもの4人が立っていた。
「ハナコさん!?」
「はい♡来ちゃいました♡」
いやいや来ちゃいましたじゃないですよ!?と某飛鳥文化の妹子みたいな反応で飛び上がるサクラコに、呼ばれたとはいえ流石に場違いではないかと曖昧に笑うヒフミ。どうしようかと先生が口を開こうとしたその時だった。
「私が呼ばせてもらったよ」
「セイアさんが…?いえ。それも……」
割り込むセイア。本来、何の責任も無いと判断した補習授業部に今回の一件に関わらせることはさせないと決めていたつもりだったが、セイアの独断と偏見で必要であるとして呼び出したのだった。
「それはあくまでティーパーティーの政治的利用ですか?」
「それはあくまで私個人の、だよ。ミネ」
それが何を意味するのか分かっているのかとミネはセイアを見るが、全ての責任を背負うとまで覚悟したセイアの眼差しは十分にミネに伝わっただろう。逆に或いはセイアがそこまで身を削る覚悟しなくてはならないと判断するほどの事態だと言うのかと薄寒いものが背中に走った瞬間だった。
「大きな関係性は無くとも“ある”ということですね」
「……………」
「そろそろ説明していただきましょう。……あの空に浮かぶ光体、いえあの人型の存在について」
横から話を進めようと苛立つ声。正義実現委員会の副委員長ハスミだ。正義実現委員会として最も最前線に立つ少女たちにとってこの謎の大嵐は、決して看過されるべき事案では無いと下の子たちから被害の声が上がっていると苛立ち混じりにハスミが告げる。
「“それは……”」
「あれは、神の成れの果てだ」
先生が説明しようと口を開いた瞬間、またしてもセイアが割り込みに掛かる。確かに先生も全て把握しているかと言われると怪しい。ゲマトリアの実験に協力したミハがああして暴走していることしか知らない時点で、まだセイアの方が情報をよく持っていた。
「………神の成れの果て?」
「ああ。或いはある実験の失敗した末路とも言えるだろうね」
訝しげに問うサクラコにセイアは歪みなくスラスラと言葉を重ねて行く。
「はるか昔の話さ。荒唐無稽なお伽話で終わるはずだった仮説が始まってしまったお話だ」
「あの?……あの全く意味が分からな………」
「では何です?あれがその実験体で、ある実験が失敗したことによる暴走であると?」
グルグルお目目を回すサクラコに今までセイアが言ってきた事をどうにか整理して自分らしく整えるミネ。ミネの言っている事が殆ど正しいがセイアは、今回答を導き出すのは根本的な解決にはならないと言葉を紡ぐ。
「あり得る事なき無色の卵。無限の可能性。本来ならそれは開花することのなかったはずの代物だ。」
「…………………」
「無限の可能性……文字通りというわけですか」
そう。無限…文字通り、無限で人ならざる何かにさえも成れるモノを果たして可能性と言えるのだろうか。むしろ呪いか何かに等しいのでは無いかという浮かんだ言葉をかき消してセイアの次の言葉を待つ。
「それでは讃えるべき神の名を告げよう」
死んで死んで、死の果てに遠く。
生きて生きて、生の果てに昏く。
この世の事象を見通すセイアの瞳でさえも観測できなかった『 』の名前を
「その名は、聖園ミハ」
今となっては裏切り者の忌み名。
だがそれだけでは意味が足りないとばかりにセイアはもうひとつの名前を告げる。
「聖園ミハ=アイン・ソフ・オウル」
◆
「………ではあれがミハさんであると!?」
バカも休み休みに言ってくれと言わんばかりの面目でハスミが立ち上がる。
認められるはずが無い、認めるわけにはいかない。あんな空に浮かぶ光体がミハさんで、そして訳のわからない神に成る実験の果てに失敗した姿なんて今でもミハの親友であるつもりであるハスミにとって非常に認め難い真実であった。
「の、成れの果てと言うべきだろうね。」
「………いえ。それではあれは…『治療』が必要ですね」
まあミネは何となく想像が付いていたと言うか、そこまで仲が良いわけではなかった為、おそらく1番均一な視線で現状を見る事が出来るだろう。そして何より暴走と“正しい在り方”では無いと言う事なら、ミネの『治療』の出番であると腕を鳴らす。
「ああ。そのためには……」
「……そう、いう事ですか」
セイアの顔が先生を見る。そのセイアの動作を前にサクラコは何かを悟ったかの様な表情で同じ様に先生の方向に顔を向ける。
「先生、これはトリニティが歴史に埋没された1つの黒歴史。」
「………どうか、我らの罪をお聞きください」
それは、かつて無かったことにした歴史。
それは……今まで続く、聖園ミハについての物語であった。
次回、『過去』
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