君は無邪気な夜の暴虐 作:ミカ推し
真実をお話ししよう。
『……それでは、ここから』
そしてその時、先生やナギサたちが取り囲んでいた机に
『“そこから”の話をしましょう』
黒い顔大の玉が現れ、声が聞こえたのは。
いつの間にか、知らないうちに置かれていたそのよくわからない物体から聞こえる先生とはまた別の大人の声。聞いたこともない声に見た事もない物体に驚き、反射的に銃を構えたり、セイアやナギサを守る方向で動く少女たちを先生は腕で止め、その声に返答する。
「“黒服。無事だったかい?”」
『一応命辛々、とだけ言っておきます』
デカルコマニーは疲弊状態。マエストロは半壊。ベアトリーチェは次策のために動き、ギリギリで手の空いている黒服が来たと言う話はまあ置いておこう。神となったミハを止めるために飛び出したのは良いものの、このままでは間違いなく不利になっていくという事で先生たちに話しかけに来たというのだ。
『人目に見せられぬ以上、こうして声だけを届けることをどうかお許しください』
「“黒服。御託はいい”」
1番最初にミハの停学になってから、つまりは姿を消した“そこから”の話をしようと言ってきた時点で、黒服たちゲマトリアはミハの足取りを知っているというわけだ。未遂だとは言えホシノの一件がある以上、油断はできないと厳しい口調でその先を促す。
『くっくっく…それでは少し長いお話に傾聴していただけると幸いです。』
ここから先は、誰も知らないはずの物語。
謂れのない悪意によって歪められた少女のその後のお話。
◆
『停学を言い渡された少女は失意の中にいました』
それもそうだろう。全くもって無実の罪。知りもしないような出鱈目な罪を前に、ここでようやく嵌められた目的が“ここ”であった事に気がついた。……だがその少女は特に何か言うわけでもなく、その罪を受け入れた。
『それは一種の“諦め”でしょう。』
少女は、もう何もかも諦めていた。いやそれは一種の疲れからの逃避だろうか。
どちらにせよ。覆す手段も、方法もあったはずなのにそれも実の姉にさえも声を掛けることもせずミハはまるで死ににくかのように衝動的に迷い込んだ先は……
『ひとつの無法地帯。そう、それは“ブラックマーケット”と呼ばれるところでした』
キヴォトスにある非常に大きな闇市。学区の秩序は存在し得ないキヴォトス有数の無法地帯。まるで全てを振り払い、死ににいくかのように逃げ込んだ先がその場所だった。
だが、トリニティというお嬢さま学校の、戦いを生業としない普通の生徒がそんな修羅の世界で過ごせるかと言われると非常に難しいだろう。何度もブラックマーケットに入った事のあるヒフミでさえ絡まれる様な無秩序な世界に、心折れた少女が生きていけるはずがない。
『最初は逃げて、戦い…ですがそれが長く続くはずがありません』
身体は擦り切れ、弾切れを起こしそして泥に汚れる。水分なんて無いし、食べるものもあるわけがない。
少しずつ極限状態まで追い込まれていく少女に、救いの手はついぞ訪れなかった。
『そしてその時は……来てしまったのです』
偶然、脳天を貫通した一発の弾丸。普通なら気絶だけで済むはずのその弾丸は、極限状態に追い込まれて意識も朦朧としていたその少女にとっては致命傷だった。
身体が弱れば、その身の強度を維持している神秘も弱る。
その点に限ってはその少女も他の生徒と変わらない。
『ですが、本来ならそのまま死んでしまうだろう少女は本能的に空に手を伸ばしたのです』
それは生命なら誰だって抱くもの。死にたくないという生存本能に則り行われたその本来なら何の意味も持たない行動が、空を掻く筈だっただけのその行動は「 」に繋がった。繋がってしまった。
『その繋がった何かは……いえ。それは“とある誰かの物語”と言えるでしょう』
“持たなければならない世界”で“何も持たない誰か”のお話。
ですが、何も持たないという特性のおかげで強くあった誰かのお話。
『一度は満たされた心も、死の離別により欠けた心はまるで腐り落ちた氷の様で』
そしてその最後は何もかもを持ち得る男と殺し合い、捨てたプライドにしがみ付いた我が身を愚弄しながらその男に後を任せて息絶えたそんな悲劇の誰かのお話。
とまあ、そこまでは誰かのお話。今となっては誰が誰だとか気にする価値も、理由もない誰かの悲劇だ。勿論、この世界とは全く関係のない話だが、そんな話に手を伸ばしてしまった、繋がってしまった1人の少女がいた。
そう。それこそ死にかけていた聖園ミハだったと言う事だ。
“死にかけていた”が重要な当時の聖園ミハはそれはもう酷い有様だった。
ヘイローが完全に割れるか割れないかという瀬戸際で碌な治療もその場にはない少女にとって、その手に掴んでしまったお話というのは、現状をどうにか覆す事ができるかもしれない唯一の鍵になるかもしれない代物だった。
『そうして繋がった誰かの情報の断片は死に行く聖園ミハを繋ぎ止めたのです』
“何かを失う”事で“何かを得る”…というそのお話の世界の根本的な理。
聖園ミハはそれに全てを賭けた。オールイン。自分の命も、自分の名前も、自分の過去も、未来も。そして自分の神秘を少女は全部を捧げた。
『自分全てを構成する過去今、そして未来その全てを捧げた恩恵は…想像以上のモノを齎したのです』
自分を捧げた恩恵である指向性も、何の属性も帯びていないその無色の莫大なエネルギーはそれを発したモノの強い感情“死にたくない”を元に傷ついた身体を、神秘を埋める。本来ならそこで、全てが元通りになる筈だったが……
『参考にした誰かの情報。これが不味かった』
参考にした誰かの情報は“何も持たない存在”だった。
それが頗る聖園ミハとの肉体情報と合致しなかった…いやまあ神秘という存在である生徒誰もが“その存在”との相性が最悪だがそれは置いといて。
『おそらくその時、聖園ミハ自身も“その存在”に目を焼かれたのでしょう』
地を這う虎が空を駆ける鷲に憧れる様に、夜の静けさを伝える月が大いなる恵みである太陽に焦がれる様に、その少女は決して成れないその生き様に目を焼かれ、ああなりたいと恋い焦れてしまった。
『ですがその時、少女は莫大なエネルギーを持っていた』
“ああ。なりたい”そう思った少女が願望であったはずの夢想を叶えてしまう力が与えられていた。指向性を与えられたその莫大なエネルギーを以って、少女の身体は
『肉体は強靭で、他の何の力も働かない純粋無垢な力の結晶』
圧倒的な身体能力と五感を持ち、“見えない存在”でさえも知覚するほどの強靭な肉体。“特別な力”であろうとも認識しきれないその異質さ。
作り替えられる。作り替えられる。
キヴォトスの生徒というテクスチャの中で少女の中身だけが変容する。
勿論、それだけではただの“ハリボテ”だ。中身まで似せて作ったとしてもあくまで出来るのは劣化の『天与呪縛』。だから少女にはひとつとある手段が必要だった。
『そう。それこそ一度死ぬ事です』
ミハという少女が“そうなりたい”と憧れた存在は“先天性”のモノ。
だからこそ天が与えた呪縛になりうる。だから少女は一度その瞬間、死んだ。
本来なら出来るはずもない輪廻転生。それを少女は莫大なエネルギーを使って強引に叶えた。1人の少女が全てを賭けて捧げたエネルギーは1人の少女を生まれ変わらせるのと帳尻が合う。
『そうして聖園ミハは産まれたのです。』
そう考えれば聖園ミハという少女は言うなら齢数年にも満たない乳児と言っても過言ではない。……確かに死ぬ前の記憶は引き継いているが十数年の“物語”を果たして自分の過去だと感情移入できるだろうか?……答えは否だ。
「………………」
「ッ……オエッ……」
「…………………っ…」
非常に凄惨でショッキングな真実に、耐えきれないと嗚咽を漏らす少女たち。
それもそうだろう。まさかあの後の続きにこんな話が続いていただなんて考えるはずも無い。ミハの異様なまでの他人事。その理由が分かってしまったヒフミは既に顔面真っ青で伏せている。
そんな死屍累々の少女たちに先生はひとつ疑問が浮かび上がった。
「“ねえ黒服。君たちはどうしてミハを見つけたの?”」
『それはもちろん、気絶しているミハさんを見つけたからですよ』
莫大なエネルギーを使い終わり、天与呪縛となった聖園ミハの第一発見者は黒服である。近くで非常に大きなエネルギー反応を感じ取りその足で直々に見つけた、というのが真実である。
『そうして少女に傭兵という身分を与え、生きる意味を教えたのです』
勿論研究者として非常に興味深い状態であったが、既にエネルギーは使い切られているなどの理由から研究して使い潰すより、経過観察で情報を集めた方が利になるという事で【暴虐天使】は産まれたのだった。
〈かいせつ〜〉
Q:つまり何を意味する……?
A:死にかけ!甚爾の人生ダウンロード!一発逆転!天与呪縛!生まれ変わった!聖園ミハッと言う事
Q:つまり前の聖園ミハとの繋がりは?
A:一応ある。某魔法少女モノにてソウルジェムになった前か後の違いぐらい。
Q:ミハが神の器である理由は?
A:一回死んで生まれ変わったって世界で1番有名な聖人の伝承にあるでしょう。そう言う事
Q:ミハ=甚爾?
A:甚爾の影響を受けているという意味ではそう。部分的にそう。
Q:転生?
A:一回死んでるから転生。
次回、『たったひとつの冴えたる方法』
感想、評価お待ちしております。