君は無邪気な夜の暴虐 作:ミカ推し
リアルのゴタゴタで遅くなってしまった。
事実上の神ミハ最終戦。これが終われば後2話ぐらいでエデン条約編が終わりかな……
あ。あと神ミハのセリフを調整しました。
文字化けから、フォントを剥がせば読める様になりました。
「………待たせたね。ミハちゃん」
先生主導のセフィロトの守護者攻略戦が行われているのと同時に聖園ミカはその脚でミハの目の前に立っていた。
綺麗に飾っていた翼の装飾は砕け、整えられた髪もボサボサで、純白に輝いていたはずの服も泥と塵に塗れ目を背けたくなる。
「お姉ちゃん、ずっとミハちゃんに謝りたかった。」
その背中に宿る覚悟が。
その意思に宿る誓いが。
今の聖園ミカの表情に憂いは無い。その微笑みに偽りはない。本気でミカはミハと仲直りをするためだけにこの場所に立っていた。
「だから仲直り、しよ?」
差し伸べたミカの手に、聖園ミハ…いや。白き最も新しき神が後ずさる。本来ならあり得ない事柄。まさか、たった一つの絶対になった存在が怯えるなどあり得て良いわけがない。
「ミハちゃんのために─────祈るね」
瞬間、ミカの胸元から極光が迸る。
〈少し前に遡る〉
ミカは1人、石柵の上に座り黄昏ていた。
まあ黄昏るにはあまりにも周囲の怒号や発砲音、そして爆発音が聞こえる時点で無謀だとは思うが、それでもミカはただ座り足を揺らして鼻歌でも奏でるかという気軽さで戦況を見守っている。
ただ、ひたすらに、見届けている。
『それは一種の“諦め”でしょう。』
『最初は逃げて、戦い…ですがそれが長く続くはずがありません』
『偶然、脳天を貫通した一発の弾丸。』
『そうして繋がった誰かの情報の断片は死に行く聖園ミハを繋ぎ止めたのです』
『そう。それこそ一度死ぬ事です』
『1人の少女を生まれ変わらせるのと帳尻が合う』
『そうして聖園ミハは産まれたのです。』
頭の中でミハのその後をよく知る大人の声が何度も、何度も再生される。
その大人の言葉を否定するだけなら簡単だ。ただ、ただ戯言を何の証明もない譫言であると否定してしまえるのだったら今のミカはどれほど楽だっただろうか。
だがミカの心は、魂はミハの過去を肯定しているのだ。まるで埋まらなかったパズルのカケラがぴったし開いていた隙間に埋まったかの様な、不思議と納得できるその大人の語るミハの過去に何の矛盾も、何の虚言も無かった。だからこそ、ミカは動けないのだ。
「…………隣、いいか?」
「錠前サオリ?………まあ好きにしなよ☆」
怒号と悲鳴が入り混じる。爆発音と発砲音が鳴り響く中この場所は安全だった。
本来ならミカはここで汚名返上するべきだろうという声が上がるだろう。勿論、それもミカは理解している。理解した上でミカは何もしないことを選んだ。そうして傍観すること数分、隣に誰かが現れる音がした。
そこに立っていたのは錠前サオリ。今回、エデン条約調印式から続く因縁、アリウススクワッドのリーダーにして、ミカがアリウスと接触する時に1番最初にあった相手がそこに立っていた。湿布と包帯が生肌を覆い、少なくない傷を負った事が分かる。それでもその脚でしっかりと立っていた。
「………………」
「………………」
互いに何かを語ることはない。というかミカにとっては怨敵であり被害者なのがサオリである。まあ嫌いではあるが敵意を見せるほどではない。というわけで隣に座らせる事を許していた。
互いに沈黙の時間が続く。というかサオリにとっては騙した相手であり被害者であるのがミカだ。まあ嫌いではあるが何処か心の何処かで共感できる所もあったと今思い返せばそう思うのだ。
「聖園ミカ……お前は、戦わないのか?」
「……………こう見えて重症なんだよ?」
一瞬ミカの脳裏に喧嘩でも売られているのかと疑ったが、よくよく考えたら今喧嘩を売る利点はないと胸の中でどうにか折り合いを付けて差し支えのない回答をする。確かに人から見れば重症だがミカ自身からすれば、まだこれはかすり傷程度だと思っている。……それでも、まあ。重症である方が良い。戦わずに済むのだから。
「そうか…生憎と私には戦いたくない様に見えてな」
「…………………」
勘違いだったらすまない。そう言い、ミカの隣で同じ様に戦況を眺めるサオリ。
サオリの言いたいことは正しい。ミカは殆どワザとと言っても過言ではないサボタージュを行っている……このキヴォトスが滅びるかどうかの瀬戸際で、だ。
「………わかってるんでしょ。錠前サオリ。」
「………………………………」
「………ねえ。聞こえる?この泣き声が」
そんなサオリの態度にミカも腹を割って少しは話そうと言う気概が芽生えてきたのだろうか。ミカは立ち上がり今も尚、ゲマトリアが作り上げた2体の巨人とぶつかり合う光り輝く神となったミハを指差す。暗闇の中でも神々しく見えるその姿はまるで星みたいだとミカは自嘲する。
「好きに暴れて、喚き散らす。それこそ世界を滅ぼすまで……」
「……………それ、は」
「ミハちゃんにはその権利がある。そうは思わない?」
両手を空に上げ、まるで祈るかの様に清廉さまで滲み出るミカの立ち姿は、まさに敬虔なシスターに見える。…その崇める先が、今にもキヴォトスを滅ぼそうとするミカの妹でなければ、それは正に宗教画とも言える美しさ。微笑む天使。
何もかもが滅びる瀬戸際でそれを傍観ぐらいはするだろうとサオリが考えていた以上の考えで泣き笑うミカの姿に絶句する。
確かに全てが虚しいという文言を掲げて今までトリニティ・ゲヘナに対する憎悪を煽られ続けて、何も知らない人形のように悪い大人に煽られ続けた自覚がサオリにはある。そしてその上で…サオリは今ようやくその眼で“全てが虚しい”を微笑むミカの姿で心から理解した。
「それは…いや。しかし……」
「……………まぁ。話したい事がそれだけ?ならもういい?☆」
今更語ることでもないが聖園ミカにとって、大切なのは自分の妹である聖園ミハだけである。確かに幼馴染であるナギサの事を問われれば厳しいが、もし崖で2人が落ちそうになっていて片方しか助けられないのであるのならば迷う事なくミハを助けるぐらいにはミカにとって明確な線引きがある。
そしてそれは今回、先生たち…ひいてはキヴォトスに対して最悪の結末を引き起こしかねない思想であった。むしろ助けられ無かった贖罪も込めてミカは傍観を決め込むであろう。それも勿論、自分がミハに殺されるまで。
「…………本当は」
「……………」
「本当は!助けたいんじゃないのか!?聖園ミカァ!!」
そんなミカにサオリが叫ぶ。ミカの胸元の襟を掴み、強制的に目と目を合わせる。その上で尚、ミカは沈黙と微笑を崩さぬままサオリの激情を受け止めていた。
「…………………」
「お前は、姉なんだろう……っ!」
知っていた。サオリは知っていた。
聖園ミカの無垢な優しさを。聖園ミハのぶっきらぼうな優しさを。
輝く柔らかな金色の瞳と、無機質に反射する金色の眼差しと。
その全てが対比して今も尚サオリを責め立てる。ミカの優しさを汚したのも、ミハを暴力装置としか見なかったのは全てサオリがやった事だから。
「妹の苦しみに、ただ見ているだけのお前は……」
「…………」
そう。形は違えどサオリだって姉なのだ。
ずっと、ずっとヒヨリを、ミサキを、姫を。姉として守っていたつもりだった。
護るべきものの為なら、自分の頸さえも惜しくない。きっとそれが姉なのだとようやくサオリは胸を張れる様になった。……だからこそ、ミカに話しかけた。
同じ姉だからこそ、ミカを説得できるのだと。
「本当にミハの姉と名乗れるのか!?!?」
「……………うるさいなぁ……」
そんな不器用なサオリの激励に、ミカがキレる。
それが出来るのなら苦労していない。何故なら今までずっとミカとミハは道を同じにしている様に見えて全く別の方向だったのだ。……護るとその胸に誓った誓いさえも、自分の愚かさで全て見失うと言うのなら。
「ならどうしろって言うのさ!!ミハちゃんとすれ違ってばかりの私が、どうやって今更ミハちゃんと向き合えばいいの!?」
「真っ直ぐに言ってやれば良いだろう」
は?とミカは口から声をこぼす。それは想定していなかった回答。
まるで先生かの様な分かりやすく、明確で、それでいて今のミカがするべき事が偽ることなく伝えられる。
「お前が大切なんだと、仲直りしたいと言えばいい。」
「…………ホントにバカみたいだね」
それはいつかのサオリが言えなかった事。
いつかのサオリが平手でしか、武器でしか答えられなかった、今になっての回答のひとつ。
「……あの、お忙しいところでしたか?」
「君は、ヒフミちゃん?」
ようやく表情から棘が消え。柔らかく微笑むミカに横から声がかかる。
そこに立っていたのは……ヒフミだけではない。ハナコ、コハル。そしてアズサ。補習授業部全員が立っていた。
「………アズサ」
「サオリ」
色々とあったアズサの顔を見て、話しかけにくそうにするサオリに、アズサが近付く。……とまあそれでも話しにくい事は変わらない様で、その沈黙をかき消すかの様に真剣な顔したハナコがミカの前に立つ。
「……私たちはミハちゃんを止めに行きます」
「!?そんな事……!?」
あのミハの強さをその身に受けたミカにとって、補習授業部たちの行動は全くの無意味と言っていい。もはや蛮行を超えて死ににいく様なモノだとミカは声を上げようとしたその時だった。ヒフミが懐から“あるモノ”を取り出したのは。
「“これ”を使います……一回きりですが、試す価値はあると私たちは思ってます」
それはミカにとってあまりにも悪い意味で見覚えのある代物。しかも更にそこにとある人の力も借りて“とある条件”も付け足した。だからこそヒフミでも使えるのだ。勿論それだけではなく、この作戦においてヒフミを含めた2人は命をベットに賭けている。
「ミカさん。このままそこで見ているだけなら……」
ただここまで説明しても半分以上は賭けだ。そしてそんな賭けに補習授業部全員が賭ける価値があると、その瞳は燃えている。そして更にハナコのダメ押し。
「………私たちがミハちゃんを救ってしまいますよ。」
「…………はぁ。水臭いじゃんね☆」
その全てを受けて、ようやくミカが立ち上がる。
全身がボロボロ。コンディションは最悪。でも、だからこそ…ミカにとって不足なし。その笑みに不敵な表情が映り、今一度瞳に炎が点火した。
「待て。………コレも使え」
「…………?でもそれだと……」
立ち上がって向かっていたミカの背にサオリが声を掛けて、アズサに幾つかの武器を投げる。……だがこれを使うのはコハルだ。そしてこれも使うとなると私だけではどうにもというアズサの顔に、サオリが微笑む。
「アズサ。それを貫くのは、私がやろう」
「…………サオリ」
事実上のサオリの参戦。補習授業部と今のミカにサオリも賭けた。
きっと今までならあり得なかった変化に、アズサが少しだけ驚く。…でも今は言葉は要らない。きっとこれが終わった後で話をする機会なんて幾らでもあるだろうから。
「……決まりですね。」
そうして作戦の細部を詰めていく。全員が全員失敗は許されない作戦。だけど不思議とこの場に立つ全員が高揚し不思議な失敗はない確信があった。
ここから先に言葉は要らない。
一回だけ、全員で拳を突き合わせて、そうして前人未到の【御神堕し】が始まった。
「────祈るね」
瞬間、ミカの胸元から極光が迸る。
神々しく輝く虹色の光はミカの身体を覆い隠し、今ここに不可逆の奇跡が叶えられる。
Benedictio、Gloria Patri、星の呼び声そしてKyrie Eleison。ミカのあまねく全ての神秘の内部がミカの意思の名の下に拡張され、強化されていく。勿論そんな自分の器を無理矢理広げる行為など、因果に対する叛逆。或いは摂理に反している反則技に過ぎない。
だけど今のミカにはこの蛮行が罷り通ると本気で考えていた。そんな蛮行の発想の元がミハの暗い過去なのがどうかとは思うが。
(………ミハちゃんは出来たんだ)
自らを捨てたミハちゃんが“ああ”なりたいと指向性を決めて生まれ変わったと言うのなら、同じようにミカも今ここでミハちゃんと並び立つ自分を想像して“そう”なればいい。
(出来なくちゃ……ここで死ね!!)
相瞼見開き、今見据えよ。
そこに立つは聖園ミカなのか。いや、そうなのだろう。だがその身に宿る潜在的な力が今までとは全く違うと理解させる。ボロボロの翼を包むように光が覆いその上下から光の翼を模る。三対となった翼に、輝く金色の瞳。神々しきその名もなき姿にミカは知ってか知らずかこう名前を付けた。
自らの愛銃の名前から取り……
其の名は【Quis ut Deus】…その意味は、神の如きし者である。
「警告します。想定外の敵性存在を確認。新たな戦闘アルゴリズムの形成を申請……確認し………」
あり得ない、或いは恐ろしいと言わんばかりに神となったミハが吠え上げる。
そしてその瞬間ミハの神格が、ミハの存在スケールが見る見るうちに縮小していく。神となって変化していたヘイローが不規則に点滅し銀河の形状により戻ろうとし、エネルギーを纏っていた光輝く翼も小さく、小さくなっていく。
「ミハちゃん、もう終わりにしよう」
「報告。対象の存在により自身の神格の出力低下を確認。」
今までミハのリソースを支えていた各セフィロトからのエネルギー供給が先生たちの手によって封じられ、そしてその上で目の前に立つのは“神の如きし者”という今のミハに対して、あまりに大きすぎる致命傷。更にはそこにミハたった一人だけに全リソースを突っ込んだお姉ちゃんが居る。
まあ難しい事を考えなくてもいい。
妹が、お姉ちゃんに勝てるわけがない。だって、最愛の妹の前でお姉ちゃんがそう決めたのだ。
「戦闘アルゴリズムの形成を停止、近接戦闘アルゴリズムの起動を開始します」
「その剣を使うの?……いいよ。おいで」
最初にミハの手に顕現させた剣に模られた光を振りかざし、ミハはミカを強襲する。きっとこれがさっきまでのミカなら攻撃を受けきれず、ただ為されるがままだった。
だけど今は違う。
拳と剣。打ち合えばどちらが強いかなど考えるまでもない。だと言うのに今欠けていっているのは紛れもなく剣の方だった。一度打ち合えば剣にヒビが入り、二度打ち合えば、剣の方が脆いガラス細工の様に砕けた。それをミハはまだ供給されているエネルギーから強引に再生させ何度でも、何度でも打ち合える。
そうなる筈だった。
「出力低下によりアトリビュートの生成に問題を確認……再生を開始します。」
「無理だよ。ミハちゃん」
今まで聞いた中で1番大きな金切り声を上げて、遂にミハの片翼が砕ける。
光り輝きエネルギーを纏っていたはずの半透明の翼は少し薄汚れた純白の翼へと戻っていた。セフィラからの供給が途絶え、そして何度も剣を修復していたからこそミカが思っていた以上に限界は近かった。
「セフィラとの接続の欠損を確認。再接続開始……失敗しました。失敗しました。パスの再生成を行います。」
勿論、ただ堕ちていくのを眺めているミハではない。
セフィラとのパスが封じられたのなら、もう一度繋ぎ直せばいい。アイン・ソフ・オウルの名におき今一度セフィラの再臨を。そしてその斃された守護者たちが目を覚ます。筈だった。
「…………そっか、その道を選ぶんだね」
ミハの背後に映る幾何学模様の方陣をその目に写し、ミカは一度目を瞑る。
覚悟は決まった。美味しいところだけ任せるのもどうかと思うが、今この場に私と言う存在がいる事だけで大きな意味がある。……その説明を信じている。
「任せたよ。……補習授業部たち」
「……っ!いっっっけぇえぇえぇぇええ!!」
ミカが首を後ろに傾けた瞬間、その背後から一つの影が飛び出す。
その影は、いや。補習授業部所属、下江コハルは手に持ったスモークグレネードを全力で投擲する──────!!
いつも手榴弾型回復薬を投げているコハルにとって狙った場所に投擲するなど難しくない。それがしかも空に浮かんでいる大きな人型であるなら尚更、コハルは狙いを外さない。
「サオリ、合わせて!………全てを無に帰し………」
「アズサ、外すなよ!………Vanitas vanitatum………」
そしてさらにその横から、アズサとサオリが強襲する。
背中を合わせて鏡合わせのように2つの銃口が向く先はコハルが投げたスモーグレネードを狙い、その弾丸は正確無慈悲に貫く。
「………徒労であると知れ!!」
「………et omnia vanitas.!!」
アズサの弾丸が最初にコハルが投げたのを貫き、その後にサオリの五発の弾丸がコハルが更に投げた後続のスモークグレネードを貫く。アリウスとして、兵士として鍛えられたその腕前は空に浮かんだスモークグレネードという重力に従い落ちてくるものであろうとも貫ける。更にサオリは其の上で漏れ出した白煙の中、正確に撃ち抜いた。
大量の白煙は視界を奪う。それはミハであっても変わりない。
真っ白になった空間の中、ミハはやけに冷静にセフィラとの接続を続ける。…言うならこれは余裕だ。今ミハにとって1番の脅威であるミカもこの白煙で動けない。ならばこの隙に接続を戻してしまえば勝ちだとほくそ笑んだその時だった。
「………!?───────!、!!」
白煙の中から飛び込んでくるピンク色の髪にミハは反射的に剣を振る。
飛び散る鮮血に、間違いなく肉を裂いた感覚。勝ったと思った。そう、気を抜いた瞬間だった。
「いっっっ……けぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!」
真下から聞こえる声。
白煙が薄れていく中ミハが見たのはこちらへと短刀を構えながら迫り来るヒフミの姿だった。
◆
「………行きますよ…っ!、!」
話はスモークグレネードが空で爆発した瞬間に戻る。
補習授業部の少女たちの作戦はここまで上手くいっていた。まさかこの土壇場でサオリが協力してくれるのは想定外だったが良い方向に傾いたとハナコは思考を凝らす。サオリの協力で少しだけ心配だった白煙による視界封じが上手くいかない可能性が潰えた。後は私が、私たちが覚悟を決める番だ。
真っ直ぐ、ただ前進する。
遮られる視界、信じられるのは己の踏み抜く地面と脚の動きだけ。
(…………あと4、3、2……)
できる限り私はここにいるとアピールしろ。
お前の眼前に迫ってきていると、わざとらしいまでに自分の存在を見せつけろ。
このピンク色の髪だけだと視界を遮られて冷静さを失っていたら、聖園ミカみたいに見えるだろう??
(…………1、っっ!!??)
その瞬間、ミハが振るう剣の一撃。ハナコの思惑通りの攻撃。
特に何かしら特別な力を持たないハナコがその剣の軌道を銀色の閃光と認識した頃には左腕がズタズタに、まるで華が咲いたかのように切り裂かれていた。
ハナコが腕の痛みを認識するよりも先に、右腕でホルスターに仕舞い込んでいた即効性の鎮痛薬を首元に打ち込む。これのお陰で気絶したいぐらいの激痛が、転げ回り泣き叫びたいぐらいの激痛に落ちる。
(………耐えろ、耐えろ、耐えろっっ!!)
奥歯を噛み砕くレベルで噛み締め、耐える。
痛みがなんだ。苦しみがなんだ。あの日、あの時、ミハちゃんの思惑にのうのうと乗って逃げ出した私が、また逃げ出すことなんてあり得ない──────!!
腕がぐちゃぐちゃになるという感覚。もう指先の感覚は無いけれど、それでも。
命の雫である血が今までに感じたことのない速度で出ていくという恐怖を押し潰し、ハナコは背後にいたヒフミを掴む。
「……任せました。」
「はい、任せて下さい─────」
呟き、いや。それは視線の交差によって生まれた託し託されるバトン。
掴んだヒフミの腕、全身の力が抜けるその刹那、ハナコは全体重・全力を振り絞ってヒフミを空へとぶん投げる。
「 」
力が抜けて崩れ落ちていく脚の力に逆らわず、視線だけは空を見上げる。
地上から降りあがった矢のような光が、神を撃ち落とす。
そんな絶景を最後に、ハナコの意識は急激に沈んでいった。
◆
(覚えてますか、ミハちゃん)
ハナコに腕を掴まれ、ぶん投げられたヒフミは考える。
思い出すのは古聖堂での一幕。私にはなんの力もないと言うのにミハちゃんだけが、敵の中でたった1人ミハちゃんだけが私の存在を警戒していた。
それはつまり…ミハちゃんにとって、私は警戒するべき存在だった。
(………ああ。良かった)
だけど今こうしてヒフミが迫っているミハはどうだ。
ヒフミの姿が見えているというのに一切の警戒もなく立っている姿を。
その姿にヒフミは安堵しながら、残念に思う。いつものミハちゃんならこうして迫っている事に何かしら対策をしていたに違いない。なんなら私1人だけの為にこれだけ作戦を作ったのをいつものミハちゃんなら警戒して、避けようとしてくれる筈である。
(お前は……ミハちゃんじゃない)
「ミハちゃんを────────返せ」
左手に隠し持ったナイフをヒフミはミハの胸に突き立てる。
勿論、其のナイフはただのナイフではない。そのナイフの形状を言葉にするのならどうだろうか。
まるで異形の短刀の様だ、と
其の短刀の銘を敢えて付けるのならば《逆鉾》
その短剣の効力は……神秘を破壊する近接武器。
勿論、元の持ち主であるミハの手から離れ、最初に覚醒したミカとの戦いで劣化したその《逆鉾》は再度、製作者であるマエストロの手によって“一度だけ”崇高の神秘を破壊する武器になった。
「A……aaaaaaaaaaaaaaaa‼︎!」
ヒフミの手の中で《逆鉾》は朽ち、砂の様に消えていった。
それはつまりミハを…アイン・ソフ・オウルの神秘を破壊したという事。まるで最後の足掻きと言わんばかりの甲高い悲鳴を上げながらミハを覆い尽くしていた光に亀裂が入り、地に堕ちる。
───────神が、堕ちていく。
神に対する神というメタ。さらには同時進行のセフィロト攻略戦で相手の供給を削り、更には攻撃でミハに残ったエネルギーも削り切ったところで、投げられたスモークグレネードを空中で爆発させ視界を奪いつつ、分かりやすいピンク髪でミカだと誤認させ、その上で《逆鉾》という特級の武器をヒフミの捨て身特攻でミハの胸に突き立てる。
書いてて、めっちゃ気持ちよかったです(恍惚とした笑み)
次回『〈崇高〉の赤子』
感想、評価お待ちしてます。
……そう言えば、姉(になってくる)洗脳系白ロリの存在が出てませんよね。