君は無邪気な夜の暴虐   作:ミカ推し

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……これ本当に後1話で終わんのかな??


〈崇高〉の赤子

 

 

 

───────神が、堕ちていく。

甲高い悲鳴と共にミハの翼を覆っていた光もかき消え、一枚一枚の光の羽根となって舞い落ちていく。不定形だったはずのヘイローも元のミハが持っていたヘイローに戻り、空から意識がないミハが投げ出され落ちていく。

 

「ミハちゃんっ!!」

 

頭から落下するミハを受け止めたのは、同じ様に落下していたヒフミである。意識無くグッタリと脱力しているミハを見て一瞬ヒフミは背筋を凍らせたが、ミハの胸元が微かに上下しているのを見て気絶しているだけかと安心する。

 

「………よっと」

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

けどこのまま行くと二人して地面に墜落する。ヒフミが覚悟を決めて目を閉じたその時だった。真下に来ていたミカが2人をお姫様抱っこの様に抱きしめて、そのまま地面へと降ろしたのは。

 

「………ミハちゃん」

 

「はい……これで、終わったんですね」

 

ようやくこれで全てが終わったのか。そう2人が胸を撫で下ろした。一夜という非常に短い時間だったと言うのにまるで何日も、何日もかかった様に感じる。…いや、ミカもヒフミも数年経った今ようやく追いついたのだろう。

 

「本当に、ごめんなさい」

 

「………っ!?ミカ様!?」

 

そうしているとミハを抱き抱えるミカがヒフミに頭を下げる。勿論、今までに関するいろいろ全てを含めて、だ。ミハが最初に傷ついた時も、そしてそのミハを追おうと1人で苦心していた事も、そして今回のエデン条約のゴタゴタとこうしてアリウスで起こったことも。全て、全て誰かが欠けてはこうも行かなかっただろう。こうして全員で夜明けを見れたのは、間違いなくヒフミの功績も大きいと頭を下げる。

 

「……いえ。良いんです、私は……ミハちゃんが戻ってきてくれたから」

 

そんなミカの様子を見て少し慌てた後、ヒフミは胸に手を当ててミカの謝罪を受け取る。でもここでは同じ様にミハちゃんを想っていた仲間に対してはこう返して欲しいとヒフミはミカに声をかける。

 

「ありがとう、ございました……!!」

 

「!!うん、そうだね。トリニティ総合学園、ティーパーティー……ではなく、聖園ミハの姉である聖園ミカが貴方に大きな感謝を。」

 

ヒフミが下げた頭に対してミカは少しだけ目を丸くした後、納得した様に微笑みひとつまみ綺麗なカテーシと共にミカは自分の権威ではなく本来の自分の姿でヒフミに感謝を伝える。灰と傷で薄汚れているというのに、何故かヒフミには今のミカの姿がいつか見たミカの姿よりも生き生きと輝いて見えた。

 

そんなこんなで色々と、本当に色々とあったけれどハッピーエンドで終わった。

まだ遠くでは戦闘音も聞こえるが、時期に止むだろうとミカとヒフミはほったらかしになってしまっていたハナコの腕の治療にかかる。

 

「……これを使えばいいのか?」

 

「ああ〜もう!ちょっと貸しなさい!」

 

そう後ろを振り返れば、どうやら既に治療は始めていた様で後は包帯を巻くだけという所まで来ていた様だ。だがよくよく見てみればそこでサオリが包帯を巻くのに苦心して、ぐちゃぐちゃで下手な巻き方になっているのを見てコハルが半ギレになりながら均一にそして綺麗に包帯を丁寧に巻いていく。

 

そんな2人のわちゃわちゃを見ながらオロオロとするアズサまでを見てミカは、笑う。それも嫌な笑い方ではない。まるで気が付かなかった事に今更気がついたかという様な清々しく、それでいて自嘲を含めた笑み。

 

「……ど、どうしたんですか??」

 

「……はは。なんでもないよ。ヒフミちゃん」

 

隣で心配してくれるヒフミと自分の額と目を覆う様に手を当てて密かに笑うミカ。いつしか全てがトリニティが、アリウスが憎かった。ミハちゃんとセイアちゃんと私たちの運命を歪めて、奪ったこの世界が憎かった。そしてどうせトリニティもアリウスも変わらないだろう。

 

他人を永遠に他者とし、誰も彼も理解などすることも無く永遠にいがみ続ける。

 

いつしかアリウスの支配者が語った言葉。ああ、でも間違いであったのだ。ほらこうして目の前では混じり合わぬはずの2人が証明している。

 

「……もう少しやりようがあったんじゃないのかなって。」

 

「…………そうですね」

 

ミカのボヤキにヒフミは消極的な賛同を口にする。する。

 

「…ま、まだです」

 

「っ!?ハナコ、あんたっ!」

 

痛みに耐えて、額から脂汗を流しながらハナコは視線だけ上を見る様に伝える。そこにあるのは、空に浮かぶおそらく神となったミハの残骸が輝いていて。

 

「…………まさか」

 

「まだ、終わって…ない?」

 

嫌な想像に口を震わせるミカとアズサ。その通りなのでは無いかとハナコがまたアイコンタクトで伝えるよりも先に、ミカが戦闘態勢に切り替わる。

 

その刹那、極光が降り注ぐ。

 

「ぐぅ━━━━━━!?」

 

誰があげたか分からない悲鳴。だけどそれも当たり前だ。降り注いだ光はミハが使っていた光ほどの威力は無くとも、耐久力に優れているキヴォトスの生徒の意識を一瞬飛ばすほどの威力があったのだから。

 

土埃が晴れて、総じて空を見上げる。

そこにあったのは球だろうか。いやそうとしか見えない。朝焼けにも劣らない光を放ちながら空に浮かぶ小さな太陽がそこにはあった。

 

(…………卵、?)

 

だがそう見えなかったのが1人。ミカだけがあれを太陽とか光り輝く球とは思わず、卵だと明確に感じた。それもどちらかと言えば卵と言うより、胚の様な明確な生命の息吹き。

 

「っ!?ど、どうするの?」

 

「くっ…今は退くぞ!」

 

「…………サオリ、待ってっ!!」

 

そんなミカの考えとは裏腹に、この場を退こうと撤収の準備を始めるサオリとコハル。どうやら2人は肩を貸しながら戦えないハナコから先に撤退させようとした。だがその動きにアズサが声をかける。

 

「何かが……」

 

「えっ?」

 

「とても、恐ろしい何かが……っ!!」

 

心の底から恐れる様に、ヒフミが悲鳴混じりの驚声を上げる。今までに聞いたことのないヒフミの声に全員がその太陽を仰ぎ見る。

 

まるで内側から何かが食い破る様な、もう抱えきれないと爆発するかの様な、見ようによっては何かが産まれようとするその拍動は輝く球に、さらに輝く亀裂を入れて更に拍動が強く、早くなっていく。

 

「こちらに来ようとしています!!」

 

ヒフミの叫び声に呼応するかの様に、球が割れた。内側から、彼方から、向こう側からその存在はミハの肚を突き破って、今、このキヴォトスに現れる━━━━!!

 

 

 

ミハの残骸から産声をあげた…まだ濡れて蠢く「それら」を見て私…いや。私たちは激しく後悔した。

それを、割く必要はなかった。それを、砕く必要はなかった

「それら」は決して憎悪に濡れた“憤怒”でもなく、真冬の凍えるかの様な“冷酷さ”でもない。

……いや、むしろそうであった方がどれほど良かったか!!

「それ」から感じるのはこの世界に生きとし生ける全てに対する絶望的な「無関心」!!

それはなんて絶望的なまでの純粋無垢な憎悪の発露!!

私たちは、「それら」を刺激するべきではなかったのだ。

私たちは「それら」を生まれさせるべきではなかったのだ。

………ミハの胎に巣食う「それ」は──────

 

「〈崇高〉の……赤子………」

「非存在が“顕現しない光”が……受、肉した……?」

ゲマトリア、マエストロの愕然とする声、そして同じ様にベアトリーチェが怯えるかの様な呟き。

 

ゲマトリアは間違えた。

ゲマトリアは致命的に失敗した

ゲマトリアは……勘違いをしていたのだ。

 

この世界を滅ぼしうる可能性が神となった聖園ミハであると早々に確信したが故のミス。

 

本当の脅威は聖園ミハでは無かった。

本当に備えるべき敵は、聖園ミハでは無かった

 

ゲマトリアも、予言の大天使も、〈神の如きし者〉も、先生でさえも気が付かなかった!

聖園ミハは器であり、言うなら…〈崇高〉が産まれる為の孵化機だったのだ。

 

聖園ミハを母胎として巣食わせ、神が産まれる苗床としてゲマトリアはまんまと彼女を差し出した。

 

「ははは…これが、こんなモノが〈崇高〉と!?」

 

その事実に真っ先に気がついたゲマトリアの一員である黒服は腹を抱えて笑った後、一言ふざけるなと吐き出した。“神秘”と“恐怖”を兼ね揃えた〈崇高〉がこんな悍ましいモノであるなど冗談も程々にしてほしい。

 

「ああ。ああ、確かに条件は満たしております」

 

その隣で瞠目しながらも冷静にデカルコマニーが呟く。聖園ミハが“転生”する事で手にした【無色の器】それは逆説的に“非存在”の証明と存在の保証になりうる。そして聖園ミハは穢れを知らぬ乙女である事から【受胎告知】というテクストにも適応する。そしてそのテクストを利用した世界の理である【生命誕生のプロセス】に則って、非存在が正しくこちら側の世界に“非存在”でありながら“存在”するという矛盾を何の問題もなく抱えたまま産まれるのだ。

 

「“一体何が起きているんだ!?”」

 

先生たちからしたら突然、全ての〈セフィロトの守護者たち〉が消えたと思ったら空の上で輝く太陽の様な輝きが登ったのだから。

 

「あ、ああ先生、貴方は“あれ”が見えないのですか?」

 

「見えない方が正解だろう。あれを正しく認識出来ても無事なのは“外れた我々”だけだ」

 

だがどうやらゲマトリアたちの反応を見るに、あの輝く太陽の中身を知ってしまったのだろうか。一体どういう事なんだ。そう先生が目を凝らして太陽を見た瞬間だった。

 

「“………………っ!?!?!?”」

 

太陽の中に見える三つ子の胎児。太陽の上方向に張り付き三つ子と繋がっている線はまさか臍の緒と言うのだろうか。冒涜的なまでのその悍ましさは、一瞬にして先生の正気度を大幅に削り、膝から崩れ落ちる。

 

「先生っ!!」

 

駆け寄ってくる生徒たちを手で制止ながら、よろよろと立ち上がる。何なのだ、あれは一体。一瞬でも認識した瞬間から理解し難い、いや。理解したくないほど悍ましくこちら側へと手を伸ばそうとするあの胎児たちは。

 

「先生、落ち着きたまえ。」

 

「一時的に持っていかれたのでしょう。これ以上見ないようにしてください。でないと持っていかれますよ」

 

「そういうこったぁ!」

 

マエストロとデカルコマニー、そしてゴルコンダが先生からあの輝きを視界から外そうと目の前に立つ。

 

「“あれは、一体何なの?”」

 

「…………あれは」

 

先生の震え声の問いに少し考えた後、マエストロが力なく答える。曰く、存在しない筈の存在。曰く、言葉だけの存在。曰く、〈崇高〉そのもの。そんなこの世には居ない筈の、居てはならない筈の超越者たちがミハを苗床にしながら、生まれ落ちようとしているのだ。

 

「“何が、起きるの?”」

 

ではその存在たちが産まれたのなら、どうなるのか。そんな当たり前の質問にマエストロは分かりやすい回答を行う。

 

「世界が、終わる」

 

世界は超越者たちの自重によって潰える。世界は「あれらそのもの」を前にして保てる秩序は無い。グラムを計る秤にトン単位のモノを載せると秤自体が壊れる。当たり前の話だ。

………それが終わり、覆しようのない結末であるのだとマエストロは答える。

 

「“手段は!?……あるんだろう!?”」

 

「………っ。それは」

 

「あくまで、理論上ですが……」

 

もちろん、そんな事認められるはずがない。

そんなデウスエクスマキナじみた終わりなど認められる訳がないと先生はキヴォトスの全生命体の代弁者としてこの事件の一端に問う。何か方法があるのではないかと吠える先生にベアトリーチェが小さく呟く。

 

「“あれ”は謂わばまだ産まれていない、のです」

 

そう、あれはまだ胎児なのだ。急速に成長をしているが、まだまだ産まれるのには程遠い子宮の中の生命に過ぎないがあれを殺す事は出来ない。胎児であろうともさっきまでの神ミハと同じぐらい、或いはそれ以上の力を秘めている。……なら取れる手段はひとつ。

 

「“………道を塞ぐということか……!”」

 

「ああ。あれが産まれる道を塞げばこちらにはもう来れない」

 

今回あれが産まれようとしているのはひとえにミハの力と母胎が有ったからである。その両方がもうこれから揃わないと考えると、あれも今回限りの挑戦なのだ。

 

「“………方法は、あるかもしれない”」

 

「何っ!?」

 

「……先生、いや。それは……」

 

ならどうするべきか。次こそ、先生は【切り札】の切り場所を間違えるつもりは無かった。だが、心配は“あれ”の存在を覆す為にどれほどの代償を払わなくてはならないか。だ。生徒同士の争いや、作られた人工の天使相手に使うのとではワケが違う。

 

だが迷っている時間はなかった。

切り札の代償とかどうなるかを考えるかよりも先に先生は既に走り出しているのだから。

 

 


 

 

[時間は少し戻り……]

 

「……あはは。これは……」

 

ヒフミの確信を突いた悲鳴。そしてミカが見るに、これはどう考えても絶体絶命だ。それも覆せるタイプの絶体絶命ではない。己の行動ひとつで自分含めて誰かが死ぬタイプのガチの絶体絶命だ。

 

「……ヤバいね」

 

まだミカには目の前の【狂気】に耐えられるほどの力があったから良かったものの、下手に当てられた周りのみんなは耐え切れず地面に倒れ込む。……だがどうやら見るにアズサとサオリだけが少しだけ抗いながら、コハルとハナコの目を覆っている。ヒフミとヒフミに渡したミハはミカがその身を盾にして庇っているおかげで無事だが、今も尚、心臓を握られているかの様な憎悪と怨恨と狂気を受け続けている。このままでは攻撃されるよりも先に心が、魂が死にかねない。

 

(……狂気、いや。覇圧か)

 

口から勝手に漏れる笑みをこぼしながら、ミカの脳内は冷静に現状を受け入れている。……これは直接精神を攻撃して破壊するなどと言った“攻撃行為”ではなく、ただ単純に“そこにあるだけで畏れを抱かずには要られない”と言った状況だ。

 

勝ち目などあるわけがない。

むしろ、こんなのにどうやって勝てば良いのだ。

 

だが、それでもミカがやるべき事は決まっていた。

どうやらアズサやサオリはあの教育によって心を無にして抗い、ヒフミはマジでその身に宿した鋼の精神で争っている様だ。…ぶっちゃけヒフミの方がヤバいのだが今のところはそんな事言ってられない。

 

「………みんな、ひとまず退いて」

 

「っ!だが……っ!!」

 

残弾数は少ないし、今も身体は痛む。それにすごく疲れたみたいで身体も重い。

だけどここで殿を務められるのは私しかいないとミカは確信する。負けるつもりは到底ないが、あれにまだ食いついていけるのは私だけだとミカは冷静にも力量差を悟っていた。

 

「大丈夫。私には秘策があるからさ☆」

 

「………っ!恩にきる…!」

 

「絶対……戻ってきてくださいよ!!」

 

「先にハナコを運ぼう!」

 

もうミカに秘策などと言ったそんな物は無い。それにみんなも気がついている。それでもミカの言う事を信じたかの様に退くのは、単にこれから殿を務めると分かっているミカの決死の覚悟を無駄にしない為だ。……できる限り、この情報を早く伝えてアリウス全土を跡形もなく吹き飛ばす必要さえある“あの脅威”を前にもはや少女たちに迷っている時間なんて無かった。

 

(……持って、数分)

 

サオリたちが少なくともこの辺りから撤退したのを感じてミカは冷静にため息を吐いた。少なくともこの一瞬で抗えないと理解しているミカが“コイツ”に抗える時間は最悪数分。どれほどうまくいっても十数分。つまり二十手以内に殺されるビジョンがミカの幻覚となって訴える。

 

逃げ出したい。/逃げる事は許されない。

逃げ出したい。/逃げる事は出来ない。

 

「………後は、任せたよ」

 

今際の際。争うことさえ出来ない様な圧倒的な力を前に、ミカは笑った。

ここから先は人間の世界であると。清廉で無くても、潔白でなくても。間違えても、それでも友情で苦難を乗り越え 、努力がキチンと報われて、辛い事は慰め合って、苦しいことがあっても誰もが最後は笑顔になれる様な青春のための世界だ。

 

故に、お前の様な存在は立ち入り禁止だと。

破壊と終わりを徒にばら撒くお前は、入る事は出来ない。

 

 

 

──────聖園ミカの、決死の命乞いが始まった。

 

 

 







崇高の赤子のビジュアルは某幽霊をゲットして戦わせるジャ◯プ漫画であるダー◯ギャ◯リングに出てくる推定ラスボスの空亡を想像するのが一番近いです。まあ最も、中身は三つ子だし光り輝いているけど。

後最後のミハはまるで教会の前に立つ伯爵の姿をミカ(傷ついた姿)で想像してくれれば十分です。


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