君は無邪気な夜の暴虐 作:ミカ推し
実を言うのならこの“補習授業部”というのに強制力はない。
分かりやすく言うのならピンク色ちんちくりんだろうか。あれの所属は今も変わらず“正義実現委員会”所属という事になっている。それでも補習授業部に来ているのは成績が足りないからだろうか。おそらく委員長かハスミ辺りに叱られてここでみっちり勉強する事になったのだろう。南無
「アズサちゃんここはですね……」
「………ふむ。となるとヒフミ。ここは………」
昔から万年帰宅部のヒフミと転校生(と聞いているbyヒフミから)銀髪を帰宅部と看做したとしても、ここに参加するのはあくまで命令で、ここを逃せば退学しかないが参加するもしないも自由である(あくまで補習授業部は部活動であるから)。
勿論そんな自分が破滅しそうな不埒な考えなぞここトリニティではする様な奴は居ないと思っていたが……
「あら〜…私が一番最後でしたか」
「む。ハナコ遅かったな。」
密かにその考えをしてそうなのがこのピンク髪だろうなとミハは授業の書き取りをしながら耳だけ澄ませ情報の把握に努める。発達した五感のお陰である。
「あれ?ミハちゃん凄い集中してますね〜」
「そういう所もミハちゃんの可愛い所ですよね」
向こうでヒフミとピンク髪が何か言っているが関係ないことかと聞き流す。
ミハは机に齧り付き気がついて居なかったが、横ではナチュラルに惚気みたいな事を言ってしまったヒフミは赤面し、その一部始終を見ていたハナコは目を細めながら笑っていたのはここだけの話だ。
「………ね。ミハ先輩!ここはこうで良いと思う!?」
「ん?……ああ。合ってるんじゃないか?」
そんなこんなで問題を解く間の時間、早めに解き終わったミハはシャーペンを手回ししながら時間を潰していたら隣からノートを見せて袖を引っ張ってくる1人の少女の姿があった。
その姿とは、ミハが最初に例と出していたピンク髪のちんちくりん…コハルの事である。初会合以降、見事にミハに懐いてしまった彼女は来る気がない筈の“補習授業部”に顔を出す様になっていた。ミハに教えてもらう或いはミハの隣で勉強するだけでコハルのやる気は上がっていた。
「……そう言えば何かと集まってますが今日から絶対参加なんですよね」
「……何か違いがあるのか?」
「強制では無いんですよ。……でも今日から強制って事です」
何かを思い出したかのように呟くヒフミの声にアズサの質問が入る。
そう。実は今まで参加するもしないのも勝手だったのだ。ヒフミにとってはミハが帰ってきたから頑張ろうとやる気があるし、コハルもミハを慕い始めてから毎回参加している。アズサはそもそも勉強を頑張ろうと入部時から考えていたから省略。ハナコはみんなが来ているからという野次馬根性に近い感じで来ている様なものだ。
「“シャーレの先生”が顧問になってくれるという話ですから」
「!?…それ本当なのか?ヒフミ」
「うん。そうだけど……ミハちゃん?」
訝しげにミハの反応を待つヒフミだが今のミハは結構焦っていた。
何せ、ミハは一度シャーレの先生率いるアビドスに手を出して退いている。
名前が違うとはいえ、姿は同じのままだ。(当たり前の話だが)もしこのまま会ってしまうと間違いなくめんどくさい事が起きてしまうとミハは顔を歪ませどもどうすることも出来ないまま時間は経っていくのだった。
◆
〔ほぼ同時刻〕
「と、いうわけでして……」
「“なるほどね”」
トリニティ総合学園に呼ばれたのがシャーレの“先生”である。
色々と学校毎の問題について共に解決してきた私だったが今回はトリニティ総合学園というキヴォトスで三大校と数えられるほど大きな学校からの要請だった。
指定された日時に向かうとそこには数名の生徒が立っており身分確認された後、なんとも豪勢で見晴らしのよいテラスみたいな所に案内されて、そこに座っていた2人の生徒と話す事になった。
「“まとめると”」
座っていた2人の生徒はここ、トリニティの生徒会長たち(どうやらトリニティでは生徒会長が3人いるらしい)で今回の要請をした子たち。どうやらとある部活の顧問をしてほしいという話だったが…
「“今、トリニティには成績の悪い子がいる”」
「はい」「原因は色々あるけどね〜☆」
文武両道を掲げるトリニティにとってそれはあまりよろしく無い事であるとして臨時的に“補習授業部”の設立をし、そこで勉強してもらいテストに合格して無事退学を防ぐという部活動。今までなら成績優秀な子達が教えていたりしていたらしいが
「“けど今はその子たちを見ている暇がない”」
「そうですね」「忙しいんだよね〜」
という事で名声が高まってきた“シャーレの先生”に協力を要請しこの“補習授業部”の顧問…兼先生になってもらいこの子たちの退学を防いでほしいという事になった。
「“大丈夫。私は先生だからね”」
「きっと、先生ならそう言ってくれると思いました」
「………………」
先生の了解と共にナギサ(今の生徒会長のトップ)が微笑みで見送ってくれる。
だけどそれとは対照的にミカは不思議と沈黙していた。
「……ね。先生」
「“どうかしたの?”」
「あのね実はね……」
「ミカさん」
初対面の印象である何処か人を揶揄う様な小悪魔な姿とは一転、何処か不安そうに何か言いにくい事を口にしようとしている姿にナギサが止めに掛かる。
「“それ”はまた別の話です。……今は先生に顧問として」
「でもナギちゃん……!」
「いいえ。分かっていないのはミカさん。貴方の方です」
そんなナギサにミカは先ほどまでのしおらしい態度とはまた一転、ナギサに喰ってかかる程に強気に語尾を荒立ててる。が、そんなミカを歯にも掛けずバッサリと切り捨てる。
「“えっと…落ち着いて……”」
「忘れましたか?ミカさん。“あの子”のために設立を早めた」
「それは結果論だよ、ナギちゃん。どちらにせよ必要だったものを“あの子”のためだなんて言わせない」
「………ええ。確かに。失言でした」
先生の制止する声さえも届かず、2人の少女の言い争いは激化する。
バッサリと冷静に切り捨て続けるナギサの声ももはや荒立てるという言葉さえも生温いほど苛立っているミカの声に当てられて両者とも喧嘩みたいになって来ている。
「それに。ナギちゃんだって“ああ”なる事、少しは予想できたでしょう?」
「ええ。ヒフミさんならそうですね。……ですが後の3人は」
「でもそっちの方が楽でしょ?」
「……………………それは、認めます」
どうやら呼ばれて早々、蚊帳の外だった先生はついに2人の言い争いを遠い目をしながら眺めて放置する事になった。そんな先生の姿に2人の後ろで立っていた生徒が先生を不憫なモノを見る様な目で見ていたのは幻覚だと思いたい。
そうして先生にとって長くもあった言い争いの中で気になる単語も色々あったがとりあえずはナギサ劣勢で決着がついたみたいだと声をかける。
「"えっと…話は終わったかな?"」
「っ!?……お見苦しいものを見せてしまいすみません……」
「あ~…そうだった。忘れてた…」
気まずそうに頭を下げるナギサと顔を背けるミカ。
どうやら本当に先生を居ないものとして喧嘩してしまっていたらしい。
「えーっとね?先生。実はもしかしたらもう一つ依頼するかもしれないの?」
「“もう一つ?”」
「はい。これは今の依頼とは関係があって無い様なものです」
なのでお手数ですが“補習授業部”の件。お願いしてもよろしいですか?
ナギサが差し出す五枚の紙。それは生徒のプロフィールだとか成績だとかを纏めた謂わば、引き継ぎ用の資料の様なものだ。軽く指を動かして中身を確認していると先生は見知った顔が二つある事に気がついた。
(“え?”)
「おや?先生、どうかなされましたか?」
「“ううん。大丈夫”」
1人はヒフミ。これは忘れもしないアビドスと共にいた時に知り合った相手だ。ペ、ペロロさま?のグッズを探してブラックマーケットにまで来て、最後にはアビドスを助けるために手を貸してくれた子。
そしてもう1人は……
(“メグミ…だよね”)
表情は硬く、無である写真だったがその顔には見覚えがあった。
記入されている名前は“聖園 ミハ”最近復学したという記載がある子。
先生にとってはある意味忘れられない思い出だ。アビドスの廃校を阻止するために動いていた時、廃校させようと企んでいた悪い人たちに雇われた凄腕のアウトロー。その異名は多くの意味があり、どうであれ一度彼女を退けたアビドスの少女たちは強者であると言われるほどの強さを持った子。
(“そして“聖園”という名字”)
その苗字は先ほど聞いたと先生は記憶の中から情報を探し出す。
『こちらは、同じくティーパーティーの聖園ミカさんです』
会釈するミカの姿。確かに言われてみればミハ…メグミに似ていると言えなくは無い。それでも随分ミカと違う感じではあったが。
「私もティーパーティーのホストとして先生をエスコートしますね」
「“よろしくね”」
◆
「……………………」
ミハは焦っていた。それはもう久々に肝を冷やす勢いで。
授業を聞きながらミハの脳内は全く別のことを考えていた。
(停戦協定にするか…?でもそうなると悪い事考えていると捉えられそうに…)
いや。まあ間違いなく悪い事をしようとしているのは確かなのだが。
とミハは心の中で呟く。何にせよ。今のうちから先生と再会するとはかんがえてもいなかった。ああいう大人は大体“まずい事”になってからやってくると相場が決まっているのに、まだ準備段階から来られるとなるのは些か面倒くさい。
「まあ…いいか」
「?どうかしたか?ミハ」
近くにいたアズサの質問さえも聞こえていないかの様にミハは考え込む。
端的にいるなら…“なるようになれ”だ。悪い事をしているという証拠はないし、今までも依頼で動いていただけだとミハはいっそ開き直る事にした。ある意味では諦めたとも言える。
「……………」
そんなミハを横目にヒフミは微笑む。
その微笑みは何を意味するのか、それはきっとヒフミにしか分からないだろう。
だが、その微笑みが向いている先がミハと言う時点で色々と察するものがある。
「………ちょっと席外すわ」
「そうか。いってらっしゃい」
片手を振り合うミハとアズサ。ここ数日で意外な事実だが実はこの2人、馬が合うのだ。考え方が似ているからだろうか。それはそうしてなのか分からないが比較的、仲の良いと言えるほどの仲にはなったのがこの2人だ。
◆
「………よぉ先生。また会ったな。」
「“メグミ……君なんだね”」
出て行った先、タイミングを見計らったのかどうか知らないがミハは廊下の突き当たりでつい先日会ったばかりの因縁の大人に軽く手を振り近づいていく。
「ま。仲良く…とまでは言わないけど平和にしようや」
「“メグミ……”」
「ああそれと……今は聖園ミハだ。ミハって呼んでくれ」
ミハで通してるからなとすれ違い様にミハは先生の耳元で呟く。
先生からすると驚きも驚きだ。あの時のような白衣姿ではなくトリニティの制服をキチンと着込んで歩く姿はメグミの時に会った印象とはまるで正反対。
「忘れてたが……よろしく頼むぜ。先生」
「“君は……”」
後ろ姿で堂々と立ち去っていく姿に先生は少し前のことを思い出す。
ミハに憧れているという自称アウトローの子とその子に惹かれた3人。メグミ…ミハの異名である【暴虐天使】に恐れるヘルメット団たち。そして彼女をため息ながらも信用していたであろうカイザー。アビドスでのしばらくはメグミも一部台風の目になっていた感が否めないと自由気ままでありそうな彼女を見て先生は一度息を吐くのだった。
「“私、この後補習授業部にいく予定なんだけど……”」
「“まさか……ミハ、逃げた??”」
どっとはらい。
無事、補習授業部が始まったな。まあ分かっていたがどいつもこいつもキャラが濃い。
それをどう治めるか。先生の腕の見せどころじゃねぇか?…期待はしないで見ておくぜ。
次回【低いようで高い壁】
あっおい!ヒフミィ!水かけんな!……え?遊びに行く予定すっぽかしただろって?
………おいおい。そんな停学前の事を持ち出すなよ……
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