何やってんだか!
刃牙らへんも盛り上がって来たし…
アメリカ最強の男、ビスケット・オリバを墜とした侵入者が逃亡した後のアリゾナ州立刑務所.ブラックペンタゴンで数百人の職員達が走り回っていた。
壊された建物の修復。
脱走した囚人たちの捕縛。
脱獄未遂者への懲罰。
ビスケット・オリバの手当て。
刑務所のボスの陥落によるパワーバランスの崩壊。
ビスケット・オリバと言う王を失った事により崩壊したピラミッド。
それにより今後激化するであろう刑務所内での権力争い。
そして…
「はぁ…」
刑務所長のマイケル・ホールズが大きなため息を吐く。
所長の執務室に役職者を集めた会議で放たれた本日十数度目の溜息だった。
「……」
しかしそれを咎める者は誰もいない。
この場にいる者達全員が沈痛な面持ちで口を噤んでいた。
「なあ…どうすればいい?」
マイケルが思わず言葉を零したように口を開く。
「どう説明する?」
「この現状をどう説明する?」
「上には…なんと報告する?」
「なあ、誰か意見は無いのか?」
「なあっ!?」
次々と吐き出される言葉。
心の叫びのような、留め切れない感情を何とか言葉にして吐き出していた。
「そのまま…」
「は?」
「そのまま…報告するしか…ないかと」
そんなマイケルに対し、副所長のサミュエルが提案する。
が…
「ほう…そうか。つまりは、なんだ?お前は、『外からやって来た侵入者に外の警備兵を昏倒させられ、刑務所の正門を破壊し真正面から白昼堂々と侵入されて、止めに入ったこの施設の職員の約八割を戦闘不能にされて、ミスター…ビスケット・オリバの居る部屋まで侵入されて、そこでビスケット・オリバと戦闘が発生し囚人運動場まで移動したあげく、アメリカ最強の男ビスケット・オリバに正面からの殴り合いで勝利し、復活及び確保に動いた職員全員を再度昏倒させて脱走。今なおも逃亡中である。』これをそのまま報告しろと?」
「……」
「ふ、ふふ…ふふふふふ」
サミュエルの提案にマイケルが顔の前で手を組み、小さく笑い始める。
よくよく見ると額に青筋が浮かんでいるのが見えて、肩が小さく震えている。
改めて見てもシャレにならない被害を受けたアリゾナ州立刑務所.ブラックペンタゴン。
この被害をそのまま報告する提案。
「ふざけるなッッ!!!この現状を!この被害を!我々が、否ッ!
「
マイケルの咆哮にも近しい叫び。
それを聞いた職員達は、誰も何も反論出来なかった。
今現在、マイケル達が抱えている最大の爆弾。
それは、
刑務所の壁に書かれた
このふざけた内容をそのまま報告しろと言うのか?
ただの悪ふざけに思われて終いだ。
仮に自分が報告を受ける立場だったら絶対に信じないだろうし、例え信じたとしても大して重要な事として捉えないだろう。
だが、冗談で済まされない領域までに深刻化した事態をどうにか報告しないといけない。
アメリカ最強の男を倒せる程の実力者が、下手すると
あの
「第二の腕力家…」
マイケルの呟きに部屋の温度が一気に下がる。
もしそんな事が起これば世界のパワーバランスが崩壊する。
アメリカが平和条約を結んでいる最強の個たる腕力家。
その個に匹敵しうる実力を持ったもう一つの個。
大国の軍事力をも凌駕する戦闘力を有した腕力家がもう一人誕生する事、それすなわち大国を墜としうる力を持つ者が世界に二人同時に存在する事を意味する。
たった一人の腕力家に対して、世界中の国々はその動きを抑制されていた。
その腕力家に対抗しうる存在が
どのように変動するかは、誰にも予測出来ない。
「もしもし…?ホワイトハウスか?アリゾナ州立刑務所.所長のマイケル・ホールズだ。大至急大統領に伝えて欲しい事がある」
それでもアメリカ合衆国に籍を置く者として大統領に警告をしなければならない。
♦
同国.ホワイトハウス内
「……」
「……」
「…むぅ」
ホワイトハウス内にある会議室の一つにテーブルを囲むように十数人の官僚が集まり、全員が難しい顔をしていた。
「……………」
中でも水色の目に金色の髪をオールバックにした男がただでさえ皺まみれの顔を更に歪ませていた。
腕を組んで頭を悩ませているこの男こそ第42代アメリカ合衆国大統領 ジョージ・ボッシュである。
一年程前に
その上、大統領就任時に
この場に居る全員が頭を悩ませている原因は、数時間前にアリゾナ州立刑務所からのホットラインから入った緊急連絡が発端だった。
『大統領の下に
切羽詰まった様子で届いた連絡にホワイトハウスの通信係がすぐにホワイトハウス内全域に緊急警報を発令。
ホワイトハウス内外にアメリカ合衆国の誇る最強の特殊部隊、デルタフォース、グリーンベレー、S.W.A.Tを始めとした空軍・陸軍・海軍・警察等すべての組織から人員を収集。
大統領室の室内外にもシークレット・サービスの職員を各10人ずつ配備。大統領の周りにも四人の屈強なボディーガード達が立っている。
ホワイトハウスを中心に半径700メートル圏内を立入禁止区域として全ての人員が完全武装で待機していた。
大統領命令によりわずか数時間の内にこれだけの兵力を集めさせた大統領はひとまず胸を撫で下す。
これだけの人員を集めればさすがに潜入出来ないだろう、とそう考えていた。
大統領を含めた高官達が一安心と心を落ち着かせると、ふとある違和感に気付く。
外で待機している隊員から一切報告が上がらないのだ。
最後の定時報告から30分が過ぎようとしているのに一切の報告が上がらない。
「何かおかしい!今すぐ移動するぞ!」
さすがに何かがおかしいと周りの高官を含めた面々が感じ始め大統領が即座に移動を命令した。
移動中、大統領は気付かなかった。
外の警備の気配の一切が消えている事に…
セーフルームの存在する大統領室へと向かい扉を開ける。
大統領室は、ホワイトハウス内でもっとも警備の高い場所。
アメリカ合衆国大統領の仕事場であるため侵入は不可能…のはずだ。
「おや、いらっしゃい」
そこに一人の白髪の女性…蛇神 シロナが大統領室の中央、大統領の椅子に座り大統領お気に入りのマグカップでコーヒーを飲んでいた。
有り得ない光景だった。
白昼堂々とホワイトハウスに侵入した者が大統領室でコーヒーを飲んでいる。
その傍らには、筋骨隆々の黒スーツの大男達が4人床に倒れたまま気を失っている。
「そ、外の警備はどうした?」
「気絶してるよ。気付かなかった?」
捻り出したような大統領の質問に侵入者が当然のように答え、再度コーヒーを啜る。
その姿を見て現・アメリカ合衆国大統領.J・ボッシュは、額に汗を浮かべて苦笑交じりに口を開く。
「…なるほど。なんとなく察しは付いていたけど、君がそうか」
「と言うと?」
「アメリカ最強の男、
「正解。で、どうする?ミスタープレジデント」
アメリカ合衆国大統領.J・ボッシュが慎重に言葉を選ぶのに対し、侵入者たる蛇神はぶっきらぼうに答えた。
普通なら有り得ない光景だが、現段階で最も有利な立場にあるのは大統領を含めた官僚達では無い。
白昼堂々と厳戒態勢の警備を突破しホワイトハウス内に侵入を果たした
これ以上ない警備を突破され、ボディーガードも全員倒され、今も誰も動けずにいる。完全にチェックメイトだ。
「…君の望みを聞こう。金か?地位か?権力か?私に用意出来るものならいいのだが…」
「……なに、簡単なことさ」
そう言って立ち上がった蛇神が一歩一歩、ゆったりとした歩みで大統領に近付いていく。
「動かない方がいいよ。余計な手間は省きたいからね」
「君達、指一本動かすんじゃないぞ…大統領命令だ」
「……うん。正しい判断だ」
大統領の下へと歩み寄った蛇神が一冊の本を手渡す。
その本とは、聖書。
大統領が就任時に神に対して誓いを宣言する時…それともう一つの状況だけでしか使わない代物だ。
「…まさか。君の望みは…」
「白昼堂々とホワイトハウス内に侵入。護衛を全員気絶させ、大統領室で我が物顔で過ごし、大統領を脅迫出来る。外の警備も全滅させた、これで分かるだろ?なあ、大統領」
「聖書を手に神を前に誓え。範馬 勇次郎と同じ誓いを…さすれば君と合衆国と敵対しないでやろう」
「さあ、どうする?決めるのは君だ…」
侵入者たる蛇神の望みは、己を第二の腕力家と認めさせること。
それだけの為にこんな大それたことをやってのけた。
もはやアメリカ合衆国大統領.J・ボッシュに選択肢は残されていなかった。
「分かった。ただし…条件がある!」
「…なんだい?」
「今日から君を365日24時間軍事用衛星を用いて監視するッ!これは我が合衆国として出来る最大限の譲歩だッ!!」
「断ったらこの話を無かったことにするッ!!」
それでも尚、一国の代表としての
アメリカ合衆国大統領.J・ボッシュ、人生最大の啖呵である。
「いいよ。好きにしな…それよりも早くしてくれないか?この後、本場のステーキを食べに行くんだ」
「案外、あっさりしてるんだな…すまないが、みんな一度二人きりにしてくれ」
若干拍子抜けしたような感じの対応に思わずコケそうになるが、すぐに気を取り直し護衛を含めた全員を退室させ、聖書を手に侵入者に向き直る。
「……宣誓ッ!!我がアメリカ合衆国国家は、
「蛇神 シロナだ。君達流に言うとシロナ 蛇神になるな。それと、既に結婚しているから
「…失礼。では、続けよう。我が
「クヒッ…!」
現役のアメリカ合衆国大統領が範馬 勇次郎以外に友好条約の締結を宣言する。
それはつまり…
「お疲れ、プレジデント。コーヒーでも飲むかい?それとも自由の国らしく、コークかビールにするかい?私としては、断然コークが良いね。あの喉越しが何とも言えないんだよ!」
「そ、そうだな。それなら持って来て貰おうか…」
「ああ、すまない大統領!この後は予定がギッシリ詰まっているんだ。君と無駄話を長々したい気持ちは山々なんだが、こちらも色々と忙しいんでな。またいつか会いに来てあげるよ。それでは、バーイ!」
大統領との用事を済ませた蛇神が一方的に捲くし立てると大統領と軽く握手をして出て行った。
「は、はは…」
一方の取り残された
「…マズい事になった。私の手で、私の代で、誕生させてしまった…」
この日、歴史の教科書に載らないであろう重要な一文が加えられた。
これをやりたかった…ッ!!ずっと…ッ
書き始めてから思いついた事なので色々と違和感があるかもしれないです。
郭 海皇やジャック、ピクルとの戦いも書きたいので出来るだけ早く投稿したいです。