記憶喪失になったプリンス・ベレットが暖かな家庭を築き、幸せに暮らす話   作:メス堕ち大明神

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chapter1 インペルダウンからの脱出

時は今から、10年前に遡る。

ここは大監獄、インペルダウンの上層。

麦わらのルフィとともに脱獄を計画したlevel5、level6の囚人らの集団脱獄のどさくさに紛れて、一人の『女』が今まさに、インペルダウンから脱出しようとしていた。

女は息を切らしながら、布一つ身に着けず、物陰に身を潜めながら脱出までの糸口を探していた。

走って逃げている間にズボンが脱げてしまったのか、女は一糸纏わぬ姿になってしまっていた。

何も知らない人からしてみればまるで追い剥ぎに遭ったか、男に乱暴されたように見えるだろう。

 

「はあ…はあ…、こ、ここまでくれば、もう…」

 

息も絶え絶えになり、女は物陰に座り腰を落ち着かせた。

その女は、絶望に打ちひしがれていた。自分の人生の一大をかけた復讐の計画が、失敗に終わったのだ。

 

(ちくしょう…こんなことになるなら、インペルダウンになんて来なければよかった…!!)

 

女は心の中で後悔に駆られる。

インペルダウンにさえ来なければ、こんな目には遭わずに済んだのだから。

 

一体、ここに来るまで何があったのか。

そう、たった一人のある『新人類』の手によって。彼女…いや、『彼』の肉体は女性の姿に改造されてしまったのだ。

 

女は悲しげな表情で首を下ろし、おそるおそる変わり果てた自分の肉体を確認する。

この過酷な海で鍛え上げた屈強な肉体は、本来の体格よりも数分の一ほどの小ささの華奢な女の肉体に変わってしまった。

巨大な大砲を持てるくらい鍛えていた頑丈な胸板は大きく豊満な乳房へと変わり、この世に生を受けてから見慣れていたはずの自身の『男の象徴』は、すっかりなくなってしまっている。

股の間に感じる、あるはずのものがない喪失感。

何度目で見て確認してみても、そこにあるはずの長年連れ添ってきた『男の象徴』は、綺麗さっぱりなくなっていた。

ブラのない状態でここまで逃げてきたせいだろうか。先程から胸の付け根の辺りが痛い。おそらく逃げる際に乳房が上下に激しく揺れ、クーパー靭帯を痛めてしまったのだろう。

 

彼の名は、プリンス・ベレットと言った。

彼は15年前に滅亡した、ある亡国の王子だった。しかし彼の国は革命軍であるエンポリオ・イワンコフの手によって、滅ぼされてしまったのだ。

国を追われたベレットは、海賊という立場に身を落としてしまう。そうするしか、生きて行くことができなかったからだ。

海賊として生きて行く中、怒りに燃える彼は復讐を決意することになる。

海賊の身であるにも関わらず、単身インペルダウンに乗り込んでいった。

エンポリオ・イワンコフが海軍に捕まり、インペルダウンに収監されていることを、ベレットは以前から知っていた。

インペルダウンに潜伏し囚人達からイワンコフの情報を聞き、ニューカマーランドの存在を知ったベレット。そして彼は遂に、イワンコフのいる住処を発見した。

 

彼の運命を変える出来事は、このすぐ後に訪れる。

 

「エンポリオ・イワンコフ~!!!」

 

ニューカマーランドに着くや否や、ベレットは彼の名前を声高々に叫んだ。

そしてイワンコフに、自分の身の上話を告白する。

自分が何故、このような行動をしているのか。

何故自分が今、このような目に遭っているのか。

自分のことなど、どうせイワンコフは覚えていないだろう。

ならば死ぬ前に、自分のことを思い出させて後悔させたまま復讐してやると、ベレットは胸の中で考えていた。

 

別にイワンコフに復讐したからと言って、自分の立場が海賊から王族に戻るというわけではない。

しかしこうでもしなければ、ベレットの気が治らないのだ。

 

するとイワンコフはふざけたような態度で、大砲を向けるベレットに対し攻撃を止めるよう静止した。

どうやらベレットのことは誰か覚えていたようだった。しかしそのイワンコフの態度に、ベレットはますます苛立ちを覚えた。

こんなヤツに、自分の国や家族は滅茶苦茶にされてしまったのか。新人類になって帰ってきた父。生死不明の母。風の噂で聞いた、今では海軍に所属しているらしい最愛の弟。そして、自分の国で生活していた数多の国民達。

こんなヤツのせいで、家族や国民らの運命が狂わされてしまったのかと思うと、ベレットは手が震えて止まらなかった。

 

ベレットは怒りに身を任せ、小脇に抱えていた大砲の玉をイワンコフ目掛けて発射する。

イワンコフに向かって、大砲の弾が勢いよく飛んでいく。

流石の新人類の女王だとしても、このような爆撃を受けてしまえばひとたまりもないだろう。

 

しかし、そのベレットの淡い期待は、あっけなく崩れ落ちた。

イワンコフの眼前に弾が着弾しようとしていた、その時のことだった。

 

「デス・ウィンク!!」

 

なんとイワンコフは、その巨大な体躯から放たれる瞬きで、放たれた砲撃をベレット目掛けて弾き返したのだ。

その弾は跳ね返され、ベレットの元まで勢いよく飛んでいく。

 

「え…」

 

跳ね返ってきた爆撃を至近距離で喰らったことで、ベレットは吹き飛ばされてしまった。

爆撃がベレットに当たったのを確認すると、イワンコフはたった一瞬で、ベレットのすぐ近くまで間合いをつめた。

そしてイワンコフは爪を伸ばし、ベレットの胸目がけて、自身の能力で『あるホルモン』を注射したのだ。、

 

「エンポリオ、女ホルモン!!」

 

ベレットの体内に、イワンコフの『悪魔の実の能力』により女ホルモンが注射される。

そのホルモンはあっという間に、ベレットの全身を駆け巡った。

イワンコフの攻撃を受けた瞬間、ベレットは嫌な予感を覚えた。

一体自分の体に何をされたのか。

これから自分の体はどうなってしまうのか。

その嫌な予感は、ほどなくして確信へと変わっていった。

 

エンポリオ・イワンコフはホルホルの実を食べた、いわゆる『ホルモン自在人間』である。

その能力は成長、性別、遺伝など、ホルモンに関することならなんでも出来る。いわゆる「人体のエンジニア」と、イワンコフは呼ばれている。

そもそも女ホルモンとは何なのか。女ホルモンとはエストロゲンやプロゲステロンをはじめとした女性の肉体を作るための主要ホルモンのうちの一つである。

性転換手術においては女性ホルモンを男性の肉体に注射することで、男性の肉体に乳房を形成する用途で使われる。

しかしそれはあくまで乳房だけであり、生殖器官までは変えるためには別に外科手術をしなければならない。

つまり女性ホルモンに、生殖器官を完全に異性のものに変えるような力はないのだ。

しかし悪魔の実の能力においては、『それ』が出来てしまう。ホルホルの実の能力においては、外科手術を用いない『完全な女性の肉体への性転換』が可能なのだ。事実ニューカマーランドにいる住民らはそのイワンコフの能力を用いて、完全に異性の肉体になっている者も少なくない。

 

 

しばらくしてベレットが抱いたその「嫌な予感」の通りに、彼の肉体に変化が現れ始めた。

筋肉隆々だった彼の肉体はみるみるうちに縮んでいき、丸みを帯びた女性的な体型へと変わっていく。

しばらくして乳房が形成され、がっしりとしていた腰は次第に腰はくびれていき、骨盤は大きく子どもを産んでも問題ないような大きさへと変わっていく。

 

「や、やめろ。な、なくなる…」

 

ベレットの『男の象徴』は彼の静止も虚しく体の中へと収納されていき、それぞれの機能に対応した臓器へと変わっていった。

 

「男だって女だって、なんだっていいじゃないの。仲良くおし!!」

 

「や、やめて…」

 

イワンコフの注射したホルモンの影響か、ベレットの口調は弱々しく女性的なものへと変わっていた。

 

「キャーーー!!!」

 

変わり果てた自分の肉体を見て、ベレットは思わず悲鳴を上げた。

ベレットの肉体はそれまでの大柄で筋肉質な姿がまるで嘘のような、華奢で美しい女性の肉体に変わってしまったのだ。

エンポリオ女ホルモンの影響だろうか、ベレットの性格は一時的ではあるが、世間一般で言う女性的なものに変わってしまっていた。

以前の彼ならば決して出てこないような弱々しい言葉が、ついベレットの口からふと漏れてしまう。

 

「は、恥ずかしい〜!!!」

 

そしてベレットは、半裸を見られるという恥ずかしさのあまり、ニューカマーランドから逃げ出してしまった。

 

それが、これまでの一部始終である。

かくしてベレットは屈強な男の肉体から、男だった頃の面影など微塵も感じさせないような華奢な女性の肉体にされてしまったのだ。 

 

ベレットの履いていたズボンが脱げてしまったのは、この少し後のことだ。イワンコフに女性の姿にされ体格が大きく変わってしまったことで、ベレットはズボンを押さえながら脱出までの経路を走らなければならなくなってしまった。しかしズボンを押さえながら逃げるなど、そんな悠長なことをしていたら看守らに捕まってしまう。

自分の命と羞恥心どちらが大切かを賭けたベレットは、恥を捨ててズボンを脱ぎ捨て、全速力でインペルダウン上層まで駆け上がっていった。

 

そして、今に至るというわけである。

 

(…どうしよう…、引き返そうか…?しかし、ここで捕まったらおれはインペルダウンに…)

 

もしここで引き返してしまえば身元不明の女囚として、ベレットはインペルダウンで捕まってしまうだろう。

身元不明の女囚が極悪非道な海賊達の巣窟の大監獄に収監されてしまえば『どのような目』に遭うか、想像に難くない。

そんな辱めは受けたくない。今更、引き返すわけにはいかないのだ。

 

ベレットは心新たにし、脱出の糸口を探すため、あたりを見渡し脱出する方法がないか確認し始める。

するとそこには、インペルダウンの囚人の大量脱獄の報せを聞き、集まった海軍の兵士らが乗った船舶数隻が停泊していた。

 

(くそ、このままだと海軍に捕まってしまう。一体どうすれば…。)

 

ベレットは、物陰に隠れながら脱出に使う船の見定めをする。しかし目線の先にある船はどれも、海軍のマークの描かれた艦隊ばかりだった。

しかし、これらの船には乗って脱出するわけにはいかない。

 

しばらくあたりを確認していると、遠くに一隻の船が目に止まった。

その船は、木で出来た小さな小さな小型の船だった。

 

「…!ふ、船だ…!!船が…ある!!」

 

その船は海軍らの警備が手薄なインペルダウンの建物の端の方にあった。

その船には海軍が所有していることを示す海軍のマークが書かれていなかった。

おそらく誰かが脱出のために用意したか、インペルダウンの職員用の点検用の船なのだろう。

 

何はともあれ、ベレットの元に救いの神が舞い降りた。

この船に乗れば、インペルダウンから脱出し、なんとか命の危機から脱出することが出来るだろう。

 

しかし問題は、どう脱出するかだ。

いくら端っこの方にあり警備が手薄と言えど、今からでてしまえば確実にバレて海軍に捕まってしまう。それだけは避けなければならない。

ベレットが肩を落とし落胆していた、その時のことだった。

 

「いたぞー!向こうの方に囚人達がいる!一人でも逃すな!」

 

遠くから海軍の叫ぶ声が聞こえた。見つかってしまったかと思い、ベレットは驚き思わず身震いした。

おそるおそる、声のした方向を振り向く。しかしどうやら、自分のことを言っているわけではないようだった。

声のした方向に目を凝らし、よく見てみる。

すると、別の入口から大量の囚人達が脱獄している光景が見えた。

 

(今だ…!今しかない…!これが最後のチャンスだ!)

 

警備が甘くなったそのチャンスを狙い、大急ぎでベレットはその船へと飛び乗った。小舟を固定していた縄を外し、出港を開始する。

 

船に乗りしばらく立ち、ベレットはあることを思い出してしまった、

インペルダウンの周辺海域の海流についてである。

インペルダウンの周辺には、インペルダウン、海軍本部、エニエスロビーの三つを中心とした巨大な海流が形成されており、反時計回りに回っていた。

その海流に飲まれたが最後、二度と生きて帰ることは出来ないだろう。

ましてやその海域で木製の小舟で出航するなど、命知らずのやることだ。

逃げることに必死で、ベレットは海賊として知っているはずの基本的なことを完全に失念していたのだ。

 

ベレットがそのことに気付いた時には、もう既に手遅れだった。

巨大な波が、ベレットのすぐ近くまで迫ってきていた。

 

(ああ、終わった…)

 

大きな波が、船ごとベレットを包み込んでいく。

波にさらわれ、木で出来た小舟はあえなく大破してしまった。

 

海水の中で、ベレットは考え始める。

もしも死んでしまったら、自分は身元不明の水死体として、この偉大なる航路の海を行く宛もなくたゆたうことになるのだろうか。

もし自分の遺体が海賊達に見つかってしまったとしたら?自分は慰み者にされてしまうのだろうか?死してもなお辱めにあうかもしれない恐怖に、ベレットは震えた。

 

(ああ…せめて…。普通に…死にたかったなあ…。)

 

海底の底へ、沈み込んでいくベレット。

最後に目に入ってきたのは、大破した木の木片と海面に差し込む空の光だけだった。

 

 

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