品行方正だと思ってた勇者がオレ(TS聖女)似の風俗嬢に入れ込んでるってマジ??   作:おちゃいろ

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#1 聖女ノイン

 

 

異世界に転生した男がいる。

 

前世ではそれなりに真面目に仕事に取り組み、

少ない賃金でチェーン店の牛丼をかき込む。

 

日々のうっぷんをネットで発散し、

人並み以上に食欲と睡眠欲と性欲があった。

 

しかし純粋な恋愛など一度も経験したことがないような、ただの、ありふれた普通の男だった。

 

 

そんな男はある日突然、女神からチート能力を得て転生してしまう。

 

しかも女性の体で。いわゆるTSである。

 

転生直前に女神から色っぽく「女性の身体に興味ある?」と聞かれ、「うぉ……そりゃまあ、ハイ」と安易に答えてしまったせいだろうか。

 

「じゃあ来世は女の子ね。ん〜、美容を保つ魔法も一緒につけちゃう!」

 

 

男は後に言う。「罠じゃん。 そういうつもりじゃなかった」

 

かくして異世界。

長年連れ添った相棒が無い。

その絶望はいかほどのものであったか。推して知るべしである。

 

そんなこんなで平民の家に生まれ、王家にチート能力である癒しの力を見抜かれ、なんやかんやあって勇者パーティに加わり、今や魔王討伐のため人類の希望となっている。

 

 

そんな男……いや、女がいる。

 

 

 

 

「あの馬車から顔をお出しになられてるのって……まさか!」

 

「あれが聖女さま!」

 

「なんて可憐なんだ────」

 

「こちらにも手を振ってくれたわ! 美しすぎて目が焼けそう!」

 

「お、おれ、もう死んでもいいや……」

 

そして現在。

豪華な馬車から身を乗り出し民衆に手を振り、愛嬌と銀髪を振りまかせる美貌の少女。

 

勇者をさしおいて、民衆人気No.1をかっさらう人物。

 

この世界で"聖女"と呼ばれる少女こそが、このオレ……

ノイン・バランシールなのだ!

 

どや。

 

「うへへ。オレ、めっちゃ注目されてるぅ~!」

 

重要な戦いの後は、こうして勇者パーティの生存報告に国民の士気高揚も兼ねて凱旋パレードが行われる。

頑張った後にチヤホヤされるのは気分がいい。

 

「また変な笑い方してるよ、ノインちゃん」

 

そう指摘するのは同じ勇者パーティに所属する女魔法使い、ロミリカ。

 

「この承認欲求の塊め。市民にそんな顔を見せてしまってはパーティの評判が落ちる。さっさと馬車の中に戻れ馬鹿者」

 

「ぐわ! 引っ張るな! オレはまだ称賛を浴びていたいんだよぉ!」

 

アホみてーな力で馬車に引き戻そうとするムキムキの男の名は戦士オルゴル。

背の低いノインは片手だけで宙ぶらりんにされてしまう。まるで子猫を運ぶ親猫の図である。

 

「まあまあ。 せっかくの凱旋なのだから、ノインの好きにやらせたらいいんじゃないかな。 今回、ノインはすごく活躍したんだからね」

 

「アルスぅ……!やっぱオメーは話が分かるヤツだな!」

 

そして最後はいつもオレにとことん優しい、イケメン勇者アルス。

オレの弟分だ。……弟分と、勝手に思っている。

 

 

「全く、アルスはノインに甘すぎるぞ。この前の女湯覗き事件を忘れたわけではなかろう」

 

「ノインちゃん、ほんとなんでその容姿でこの性格なんだろうね。 もったいない」

 

「あー? マジむかついてきた。やんのかオラッ!? っスぞおら!」

 

宙ぶらりんのまま、シャドーボクシングをして威嚇する。

 

「まあまあ。ノイン、落ち着いて? そうだ、王宮に戻ったらケーキが用意されてるはずだよ。一緒に食べようか」

 

「マジか!? ったく、しゃーねーな!」

 

「ちょろ」

 

最後なんか聞こえてきた気がするが無視だ。

無料(タダ)の甘味は全てに優先されるのだ。

 

アルスはオレにだけ優しい訳じゃない。

勇者であるアルサエル・ザディアスは、誰にだって優しい。

 

オレが女湯の壁に穴を開けて覗こうとしてバレた時も、怒らずに

 

「気持ちはわかるけど、君ならそのまま女湯に入ればいいんじゃない?」

 

と優しく諭された。

オレはロマンの問題だと憤慨したが、終ぞアルスが怒ることはなかった。その上、壁の修理代もいつの間にか払ってくれていた。

その代わりオルゴルの筋肉野郎にしこたま怒られたが……。

 

と、このようにアルスはいつだって高潔で、品行方正なのだ。

 

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