品行方正だと思ってた勇者がオレ(TS聖女)似の風俗嬢に入れ込んでるってマジ?? 作:おちゃいろ
異世界に転生した男がいる。
前世ではそれなりに真面目に仕事に取り組み、
少ない賃金でチェーン店の牛丼をかき込む。
日々のうっぷんをネットで発散し、
人並み以上に食欲と睡眠欲と性欲があった。
しかし純粋な恋愛など一度も経験したことがないような、ただの、ありふれた普通の男だった。
そんな男はある日突然、女神からチート能力を得て転生してしまう。
しかも女性の体で。いわゆるTSである。
転生直前に女神から色っぽく「女性の身体に興味ある?」と聞かれ、「うぉ……そりゃまあ、ハイ」と安易に答えてしまったせいだろうか。
「じゃあ来世は女の子ね。ん〜、美容を保つ魔法も一緒につけちゃう!」
男は後に言う。「罠じゃん。 そういうつもりじゃなかった」
かくして異世界。
長年連れ添った相棒が無い。
その絶望はいかほどのものであったか。推して知るべしである。
そんなこんなで平民の家に生まれ、王家にチート能力である癒しの力を見抜かれ、なんやかんやあって勇者パーティに加わり、今や魔王討伐のため人類の希望となっている。
そんな男……いや、女がいる。
◆
「あの馬車から顔をお出しになられてるのって……まさか!」
「あれが聖女さま!」
「なんて可憐なんだ────」
「こちらにも手を振ってくれたわ! 美しすぎて目が焼けそう!」
「お、おれ、もう死んでもいいや……」
そして現在。
豪華な馬車から身を乗り出し民衆に手を振り、愛嬌と銀髪を振りまかせる美貌の少女。
勇者をさしおいて、民衆人気No.1をかっさらう人物。
この世界で"聖女"と呼ばれる少女こそが、このオレ……
ノイン・バランシールなのだ!
どや。
「うへへ。オレ、めっちゃ注目されてるぅ~!」
重要な戦いの後は、こうして勇者パーティの生存報告に国民の士気高揚も兼ねて凱旋パレードが行われる。
頑張った後にチヤホヤされるのは気分がいい。
「また変な笑い方してるよ、ノインちゃん」
そう指摘するのは同じ勇者パーティに所属する女魔法使い、ロミリカ。
「この承認欲求の塊め。市民にそんな顔を見せてしまってはパーティの評判が落ちる。さっさと馬車の中に戻れ馬鹿者」
「ぐわ! 引っ張るな! オレはまだ称賛を浴びていたいんだよぉ!」
アホみてーな力で馬車に引き戻そうとするムキムキの男の名は戦士オルゴル。
背の低いノインは片手だけで宙ぶらりんにされてしまう。まるで子猫を運ぶ親猫の図である。
「まあまあ。 せっかくの凱旋なのだから、ノインの好きにやらせたらいいんじゃないかな。 今回、ノインはすごく活躍したんだからね」
「アルスぅ……!やっぱオメーは話が分かるヤツだな!」
そして最後はいつもオレにとことん優しい、イケメン勇者アルス。
オレの弟分だ。……弟分と、勝手に思っている。
「全く、アルスはノインに甘すぎるぞ。この前の女湯覗き事件を忘れたわけではなかろう」
「ノインちゃん、ほんとなんでその容姿でこの性格なんだろうね。 もったいない」
「あー? マジむかついてきた。やんのかオラッ!? っスぞおら!」
宙ぶらりんのまま、シャドーボクシングをして威嚇する。
「まあまあ。ノイン、落ち着いて? そうだ、王宮に戻ったらケーキが用意されてるはずだよ。一緒に食べようか」
「マジか!? ったく、しゃーねーな!」
「ちょろ」
最後なんか聞こえてきた気がするが無視だ。
アルスはオレにだけ優しい訳じゃない。
勇者であるアルサエル・ザディアスは、誰にだって優しい。
オレが女湯の壁に穴を開けて覗こうとしてバレた時も、怒らずに
「気持ちはわかるけど、君ならそのまま女湯に入ればいいんじゃない?」
と優しく諭された。
オレはロマンの問題だと憤慨したが、終ぞアルスが怒ることはなかった。その上、壁の修理代もいつの間にか払ってくれていた。
その代わりオルゴルの筋肉野郎にしこたま怒られたが……。
と、このようにアルスはいつだって高潔で、品行方正なのだ。