野望も抱けずにひたすら生き残ろうとしてる畠山政頼さんの転生物語   作:区星

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9話 北畠具教

 織田家と浅井、朝倉の和睦が成って数日後、俺はこの前家臣に加わった一宮随波斎を連れて伊勢に来ていた。

 

 なぜかって?それはもちろん滝川一益を動かして対武田に動員するため━━ではなく。

 

 とある姫武将と会うためだった。

 

「殿、なぜ伊勢へ向かわれるのですか?」

 

「不穏分子の排除と……上手くいけば家臣団が充実する」

 

 いわば爆弾処理である。とはいえ場合によっては手遅れかもしれない、その場合は無理矢理に起爆することになる。滝川一益の援軍にも差し支えが出るだろう。そうなってほしくはないし、一応そうならないために策動の限りは尽くしたがあとは行ってみないとわからない。

 

 到着したのは三瀬御所、北畠具教の城である。すでに織田に近しい立場の弟、木造具政から現状の内容を教えてもらっており、俺が来ることも相手に知られている。

 

「…………どうしてあなたがこんなところに来ているのです?対浅井朝倉や三好は放置しててもよいのですか」

 

 門前で淡藤色の髪、藍色の瞳をした美少女が俺を見つめて来た、彼女こそ剣豪大名、北畠具教。

 

「用事を済ませたらもどるさ、東が詰むよりはよっぽどマシだ」

 

「まさか、わたしが織田信奈に背くといいたいのですか?いかに窮地とはいえ伊勢神宮の巫女を害せるはずがありませんし」

 

「だがその巫女が居なくなればどうだ?どのみち織田本国は対浅井朝倉に手一杯、対武田で動かせる余力のある軍はここの軍勢しか居ない」

 

 ガラ空きの伊勢を無人斎の指示によって悠々と闊歩する北畠具教の図を想像すると頭痛がしてくる。織田信奈が全力を投じれば抗い切れないだろうが、信奈に余裕は全くないしできる当てもないのでまあそっすね、キツいっす。

 

「本当にあなたはどういうつもりなのです?まるでわたしに反乱を起こして欲しいような言いっぷりですが」

 

「ははは、俺はそうなったら困るからここに来てるだけだが?」

 

「それで用事というのはなんでしょうか、あなたほどの将がわざわざここへ来て牽制しに来ただけというのもありえないことですし」

 

 城内にあがると彼女の方から聞いてきた。

 

 端的に言えば北畠家から大黒柱を引き抜きに来た、もっとわかりやすく言えば北畠具教本人を伊勢から外すこと。彼女の居ない北畠家は烏合の衆、彼女を切り離してしまえば放置しても構わない。

 

「端的に言えば具教公、あなたが欲しい。畠山家に来ていただけないでしょうか」

 

「」

 

 完全にフリーズした具教が再起動するまでに約3分ほどを要した。

 

「……それはわたしを妻として迎えたい、ということなのですか」

 

 あれ?変な伝わりかたをしたぞ。そうじゃないと伝えて……待てよ、俺が結婚出来そうな相手、居なくね?

 

 信教はどんな風に思われているかはわからないけど、あいつは実は結構重いしヤンデレなところもあるし史実のアレもあるしそもそも男大名とはいえ筆頭家臣を嫁にするのは流石に色々とまずい。痴情のもつれで刺された結果下剋上とか洒落にならなすぎる。

 

 じゃあ他の大名と婚姻同盟を、と言っても信奈との同盟に支障が出ずに新規に同盟が結べそうなのなんて居ないぞ、俺の原作イチオシキャラの武田信繁は敵だし、さらに言えば彼女は武田の影として生きる決意をしているため祝言なんてしそうもない。

 

 そう考えてみると最初は俺の旗本部隊の指揮官として家老として迎え入れようと思ったけど、そういう風に捉えられてもいいのでは。

 

「そうではないけど、そう捉えたかったらそう捉えてもらっても俺としては不都合はない」

 

「…………石見。どう思いますか」

 

 答えに困ったようで隣のお爺さんに話題を振る、というか石見って鳥屋尾満栄か。史実では暗殺された具教の遺臣達をまとめ、最終的には討ち死にした忠義の将と聞く。

 

「わしは以前から姫が良きおのこと祝言をあげる姿を見とうございました、それなのに姫は顕家公のようになる、とこの年になっても祝言をあげる見込みも立てずに武芸に励み、戦とあらば本陣から単騎で駆け出す始末。これでは嫁の貰い手もいるまいと思っていたところでございまする」 

 

「政頼殿は管領家の当主にして河内と和泉の2カ国を支配するお方、悪評はあれどそれでも姫を託せるとわしは思うておる」

 

 具教はわずかに思案すると、「そういえば」と話を変えてきた。

 

「政頼殿は鐘捲流免許皆伝とのこと、わたしはまだ一度も鐘捲流の方とは手合わせしたことがないのです」

 

 かつて諸国を旅してた時代に俺でも何とかなりそうな師匠だからと選んだ流派である。とはいえ免許皆伝まで教わってたのは師匠が誠心誠意教えてくれたから。

 

「いやいや、俺の剣など所詮は道場剣法、実戦で人を斬って来られた具教公にはとてもとても」

 

「であれば……手合わせをしませんか?もしあなたが勝てるようであればあなたのその……畠山家に来てもらいたいという願いを受け入れても構いませんよ」

 

 勝てるわけないだろふざけんな、武力にどんだけ違いがあると思っとるねん、こっちはあっても80、そっちは絶対95とかでしょ。

 

 と思ったが鐘捲流奥義、金翅鳥王剣なら行けんこともないか。タイミングを外せばまず勝ちどころを失うだろうがこれはもう仕方ない。

 

「あまり自信はないけどよろしく頼む」

 

 …………

 

 ……

 

「なるほど袋竹刀か、上泉信綱殿が発明した最新の稽古道具を取り入れるとは」

 

 木刀だと思っていたから意外だ、俺も木刀でボコボコにされたものよ、とはいえ竹刀ならまあよほどのこと、突きとかで喉を突かれりしない限りは死ぬことはない、まあ防具つけてない時に一の太刀なんか木刀で浴びたら骨の一本どころでは済まないのでまあうん。

 

「ええ、信綱様とはこちらに来られた時に手合わせをするのでその際に少し教えてもらいました」

 

「……では、始めましょうか」

 

 鐘捲流の奥義、金翅鳥王剣とは後世では上段の構えから振り下ろす一撃とされているが、本質はそこではない。師匠曰く「気を練り、練り上げ気を持って敵との間合いを消した上段からの一撃」とのこと、一見難しくみえるが、ゾーンに入って体のリミッターを外して最速で間合いを詰めて一撃を叩き込む。と俺は理解している。

 

 つまるところ間合いの駆け引きが金翅鳥王剣を最大限発揮するために最も重要な要素である、ちなみに駆け引きは実戦経験が大事。つまりやっぱり無理ゲーだったわ。

 

 

 じりじりと距離を離す。

 

 決して相手に悟られないように

 

 あっ詰められた。あかん。

 

「そこです」

 

 ギリギリで勘が働いて防ぐ。

 

 具教が一旦距離を取った、ここで中段から上段の構えに変える

 

「上段ですか、わたしも舐められているようですね。その構えは熟練度が問われる構えです、これまでの動きをみるとあなたに使いこなせるとは思えませんが」

 

 しゃーねぇだろ、人斬ったことないんだから。畿内は割と山賊とか出ないし。

 

 上段に構えることで相手の冷静さを削り、より早く相手に一撃を叩き込む構えにシフトする、金翅鳥王剣は届きさえすれば必殺、知らなければ回避不能の大技である。一の太刀と同時に放たれなければ、の話ではあるが。

 

 離れた間合いを縮めながらギリギリの間合いを図る、俺の脚で縮められる間合いと剣の届くギリギリの間合い

 

 …………!!!!

 

「!?」

 

 そこだ!

 

〜〜〜〜〜〜

 

 完敗です、確かに膂力も見た感じそこまで突出していませんでしたし、剣の腕もわたしの知る限り上の中で、上段に構えた時点で負けはないと思ってしまいました。

 

 上段からの打ち下ろしは理屈の上では最も速い一撃。それをわたしの間合いの外から最速で近づいて叩き込む。わたしが届かないと思った間合いから彼は一瞬で懐に飛び込んで上段からの一撃を叩き込まれてしまいました。知っていれば防げたというのは言い訳にしかなりません、戦場であれば死んでいたのはわたしでしょうから。

 

〜〜〜〜〜〜

 

 ギリギリで防御が間に合わなかった具教の首元に叩き込んで手合わせは終わった

 

「まさか金翅鳥王剣があそこまでそれが出来れば苦労はしないような、当たり前を極めた剣だとは」

 

「実践で格上相手に通せたのはこれが初めてだからな、多分次やったらボコボコにされる」

 

「……ではもう一度手合わせ願います」

 

 この後6回ぐらいやらされて全部まともに距離取ることもさせてもらえずにボコボコにされた、初見殺しだからね、仕方ないね。

 

 …………

 

 ……

 

 その日の夜、俺は近江の陣へ帰るために準備をしていた。

 

「もう、帰られるのです?もっとわたしと……いえ、何でもないです」

 

「まあ、俺の仕事は最低限は終わったしな、北畠の長に鈴を付けられた以上ここに居る必要性はない」

 

 あの対応からしてまず乗ってないことは明らか、というか仮に独断で乗ったとしても家臣団はついて来ないようにした。じゃあしばらくの間は放置して大丈夫だろう、という判断だ。

 

「そうですか……」

 

「ところであなたはどうして剣の腕を磨こうと思ったのです?わたしが言うのもなんですけれど、大将に武芸はさして必要性はないはずです」

 

「一つ忘れてるな、俺は三人目で姉が2人居る」

 

「……そうでしたね」

 

 だからまあ、必要性はあったわけだ。ここまで極めてどうすんだ、という話ではあるが。

 

 そうなるに至った経緯は割と黒歴史なんだがまあ、どっちにしろ聞かれて困る話ではない。

 

「じゃあまあ昔話でも聞いてくれるか?」

 

「昔、何でも出来る武将になりたかった、合戦も一騎打ちもどちらもこなせて統治も外交も熟せるような将に。それで諸国を旅しながらいろんなことに手を出して大体上の中ぐらいまでは熟せるようになった、今でも不得手なのは水練と鉱山開発ぐらいだ。それで。心は弱いが才能も知識も恵まれた姉と、俺と同じぐらいの才能しかないけれど本当の勇気を持つ妹に出会ったんだ。そこで俺は、はたと気づいたわけさ、万能武将になったところで主君が愚かだったり勇気が無ければ意味がないぞ、と」

 

「その時俺はさらに悪いことも思い出した、うちの姉はあまり出来が良くないぞと。それでこの姉妹に仕えたいな、と思ってるうちに父がー正確に言えば実質的な育ての親が亡くなった」

 

「こうして夢と野心もないのに戦国大名をやっているよくわからない人ができましたとさ」

 

 語ってない部分や誤魔化した部分はあるにせよ、これはおおよそ俺から見た黒歴史の事実だ。

 

「だからまあ、俺から見れば十分羨ましい人だと思うよ、打ち込めるだけの夢を抱えて。それに向かって直向きに努力できて」

 

「その夢は、北畠顕家公のように戦いたい、競い合いたいというか夢は誇れる物だ」

 

 ……喋りすぎた、ここまで詳らかにする必要はなかったかもしれん。

 

「その……夢のことは誰から聞きましたか」

 

「色んな人から聞いたけど、お前の弟妹からも」

 

 畏怖と尊敬を持って語られる彼女の姿はとても生き生きとしてそうで、羨ましかった。

 

「……後で絞らないといけませんね」

 

 いい夢だよ、眩しくて、青臭くて。今の北畠で叶うことがまず無いことを除けば。

 

「この夢を聞いて、今の北畠の現状を見て思ったね。ああ、カゴの中の猛禽だと。大空を舞えるはずの人が伊勢というカゴに押し込められて居る、と」

 

 あるいは彼女の望みを叶えられるほどの猛将がこの伊勢の近隣に居れば、叶ったかもしれない。だがまあ今の伊勢周辺にはいない。強いて言えば柴田勝家ぐらいだが、もはや織田信奈が伊勢に投入する戦力ではないだろう。

 

「えっ……」

 

「もし、俺の手を取ってくれるのなら……俺の剣となって欲しい」

 

「…………はい」

 

 数秒の葛藤の後に具教はなぜか顔を真っ赤にして俺の手を握った、良かった。恥ずかしい思いをしただけの対価はあった。

 




手合わせですが、戦場ならこんな都合良くはいきません、十合打ち合えるかどうかです。

まず油断もないので距離を取らせてもらえません、ゾーンに入る時間も許されません。手合わせだからこその隙というか甘えを突いてなおギリギリ、と言った感じですね。


10話終わったら人物一覧とか現実世界の畠山政頼とか投稿したいけど要る?

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