野望も抱けずにひたすら生き残ろうとしてる畠山政頼さんの転生物語 作:区星
近江、姉川、早朝。いよいよ持って姉川の戦いの火蓋が切られた。
「朝倉軍先鋒、おおよそ八千、姉川を渡河いたしました!」
朝倉景恒を主将とした軍勢が川を渡り、雑賀衆の目の前に布陣する。
「全軍突撃!この戦いに朝倉の興廃がかかっています。目指すは鶴翼の真ん中、鶴の胴にいる畠山政頼です!」
…………
……
「はーん、敵さん、野戦においてうちら雑賀衆を敵に回すのがどういうことか分かってへんなぁ。一斉射撃や!」
雑賀衆を貫こうとした朝倉勢の勢いが止まった、先陣を切っていた真柄姉妹が種子島を被弾して負傷したからだ。
「おら、止まってんじゃねぇよ。突撃すんだろ、進め!」
代わりに富田長繁が突っ込もうとするが、朝倉景恒が馬を寄せてこう囁いた。
「長繁殿には左翼の松浦軍を叩いてもらいたい、あそこが一番将の質が手薄のはずです」
「雑賀衆に対しては私自らが出ます、その方が突破力が出るはずです」
…………
……
松浦軍は手薄になったところを狙われて被害はでかいがまだ持ち堪えてる、雑賀衆はちょっと突破力高すぎて厳しいかもしれん、というか無理ぞ。
「二千ほど松浦軍に回せ、あとは本隊で堪える」
「良いのですか?それでは本陣が手薄になりますが」
「守ってくれるんだろ、具教」
少なくともこの戦場で北畠具教、あなたより強い人間はいない。だからまあ、安心して任せれる。
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同時刻浅井軍、先鋒、磯野員昌。
(もしも、長政様が全てを切り捨てて行かれるのでしたら、私はたとえそこが地獄であってもついていきましょう)
(けれども、何か無念がある、どうしてもこれだけは捨てられないというのなら、私はあなたについていくことはできないでしょう)
「私はこれより、長政様の槍となりましょう、この川を渡った先には勝利か死しかあり得ません!突撃!」
一段目、二段目は相手にならなかった。
………………
第三段、相良良晴の陣、潰走。
第四段、柴田勝家の陣、壊乱。
…………
丹羽長秀の陣、崩壊。
松永久秀の陣、敗走。
……
かくして十一段目までを突き崩した、磯野員昌とその部隊であったが、十二段目の凡庸とも言える陣に阻まれていた。
「これは…………もしかして」
「一刻も早く抜かねば『方円の陣』を完成されてしまう、そうなれば織田信奈の首を取るのは難しい。員昌、もう一度突撃を頼む」
長政に急かされた員昌が槍衾を馬で傷つくのも厭わず、飛び越えた先にあったのは……
「あなたでしたか、この陣の主将は。津田信澄様」
「君は、浅井随一の猛将、磯野員昌……」
「あなたを斬りはしませんよ、あなたこそ長政殿は私がついていくべき将か見極める最後の試金石」
直感でわかってしまった、この陣が他の陣より遥かに固い理由も。彼女ー浅井長政が乗り越えるべき最後の一人であることも
ついてきた騎馬隊を手で制すると、長政が槍衾を飛び越えて現れた。
…………
……
泣きながら敗走する主君を見て、何を思えば良いのか。
私は何もわからない。
信澄に襲いかかる騎馬隊を察して一喝したまでは良かった気がする、多分、いやそれまでも主君は泣いていたかもしれない。
ただ、私は何もできなかった、切り捨てることを選ばせることすらも。
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浅井が壊走したらしい、いやよくわからないけどそうっぽい。
とは言うものの目の前の朝倉勢との決着はまだついてない、左翼はまだ持ち堪えてるし、中央の雑賀衆も少なくない被害を出しながら食い止めて居る。
朝倉本隊、まじで動かんね。このままのつもりなのか?
…………
……
「雑賀衆を突破した、残りは畠山本陣のみ!突撃!」
抜かれた、これはまずい
「雑賀衆に伝令を走らせろ、いくら犠牲を払っても構わん、退路を断て」
「それから、具教。頼む、景恒を止めてくれ」
「分かりました、政頼、報酬は期待してます」
「帰ってきたら接吻してやるよ、それで良いか?」
「よ、よくありませんけど分かりました」
…………
……
畠山本陣に辿りつこうとした直後、尋常な気配ではない姫武将に、朝倉景恒は足を止めさせられていた。
「前伊勢国司、北畠具教。今はただの北畠具教です」
「朝倉景恒、金ヶ崎城城主」
一合二合と打ち合う度に形勢が悪化していくような、まさしく迂闊に剣豪の域に踏み込んでしまったような感覚に陥る。
これが剣豪大名、北畠具教ですか……馬上の利だけではいかんともしがたい。仕方ない。
「貴女を抜いて畠山政頼を討つのはどうも厳しいようだ、ここは引かせてもらいましょう、浅井も壊滅したようですし、ここが切り上げどきです」
「待てや、朝倉はどうして主力を展開しない?浅井と同等の戦力を展開して居るにも関わらず、八千しか戦場に投入しない理由がわからん」
どうして主力を投入しないのかを聞いてみた。
「貴方を討ち取ったら投入するつもりでしたよ、ええ」
あくまで一万二千は後詰ということか、無茶苦茶を言うなぁ……
「景恒様、退路の確保ができました、ここはわたくしに任せて撤退を」
飄々とした紫髪の姫武将、前情報から考えると朝倉景健だろう、彼女が撤退指示を下すと、朝倉景恒は素早く撤収していった。
「総攻撃を仕掛けろ、朝倉勢を生かして返すな!」
と言ったものの、朝倉景健の軍勢はあまりにしなやかに反撃をいなし、撤退を完了させた。史実でも刀根坂で撤収戦を成功させただけはある。
…………
……
ともかく姉川の戦いは織田軍と畠山軍の勝利に終わった。正直勝った気がしないというのもあるがともあれ岐阜の救援に行かなきゃまずい。
朝倉軍は多めの被害を出したがいまだに健在なので追撃するにも苦しい、浅井は知らん。
と言うか岐阜が落とされると真面目に詰みかねないので岐阜に帰還には賛成だ、きついもん。
「政頼様、撤収されないのです?」
「朝倉が撤収したらな、少なくとも今はここに軍勢を張り付けておきたい」
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同時刻、岐阜城下。斎藤義龍が逆落としを仕掛ける最中。
「また貧乏くじ引きに行くんですか。昌胤様、でしたらご一緒しますよ」
「すまんな信茂、まだだわ」
小山田隊が的確に指揮され、斎藤義龍の騎馬隊を食い止める。ジリジリと押されながらも決して崩れることなく、敵陣に孤立した四天王が撤収する時間を稼ぎ出す。
こうして斎藤道三の粉砕に失敗した武田軍であったが、致命的な被害を被ることは回避したのだった。
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浅井朝倉はさておき武田とはなんとか和睦しないとどうしょうもない。朝倉軍はすでに撤退した上死に損ないの浅井しか残らない以上、放置しても良いだろう。そう判断した俺は姉川に張り付けた兵を岐阜に動かした。
まあ、軍より先に俺個人として動いてもいるが。
「まあ、俺が軍を動かした以上。織田は決戦してもいい、と言う判断に傾くはずだ。まあそれは俺としても望むところではない、流石に朝倉に散々手を焼かされた上武田との決戦に動員されるなんて御免だ」
「そうね、織田信奈の鉄砲隊と相対するのは避けたいし。停戦を呑んであげてもいいわ。姉上もそれで納得してくれるはず」
「そうかな、まあそう上手くいけばいいんだが」
「ところで、織田家には天命を動かす者が居るそうね。温泉から戻った姉上がその者の話ばかりしていて困るわ」
「武田にもそう言う天命を動かす者が居るんじゃないか?川中島の戦いも我々から見れば決戦やむなしの状況に見えた、それを覆すに至ったやつがいる」
居るとすれば、それは恐ろしい敵になるだろう。無自覚にしろ、自覚があるにせよ。
…………
……
オルガンティノの発案によってクリスマス停戦が成ったらしい。
河内勢は疲弊がデカすぎるので一旦休ませる、なんせ相当な無茶を通したのだから。
次は三好と本願もとい本猫寺か、嫌になってくるぜとほほ……