野望も抱けずにひたすら生き残ろうとしてる畠山政頼さんの転生物語 作:区星
金がない。姉川と岐阜が平和に解決したのは良いんだが金がない。
雑賀衆やら鉄砲隊やら硝石やらで使い込みまくったので今の畠山家は金欠状態であった。
これでは正月の宴会も出来やしない。
「と言うわけで三千貫ほど稼いでくる、十日ほど開けるが許せ」
「畠山家の金蔵は空っぽです、正直なところとっとと稼いできてください」
と信教が膨れながら言うと、隣で寝っ転がっていた具教が、
「わたしもついていきましょう、あなた一人で護衛も付けずに行ってはいけません、きっとろくでもない人に引っかかります」
と返した。
…………
……
「んんっ」
具教の唇を啄むようなキスをする。どうしてこうなったんだっけ。ええっと。
まず堺に行って麹を買って、ついでに酒場に寄って…………
それで具教がカパカパお酒を開けまくって酔い潰れて、それで宿屋に担ぎ込んで。
…………あー、それで酔いがちょっと覚めた具教からキスを迫られたのか。
ともかく明日起きたら麹を石山に運び込んで換金しておかなくちゃな。幸いなことに織田信奈が商業の自由化を押し進めてるから手数料があまりかからなくなってこう言う取引ではありがたい。関所も無くなったしな!
「ぷはぁ」
名残惜しそうな目で見るな、そういうのは祝言を挙げてからにしろ。
具教は俺の唇から離れるとそのまま抱きついてこう言い出した。
「政頼、あなたはこう、どうして全部を自分でやりたがるのです?任せられることなら任せればいいじゃないですか」
任せられる人間ならな、畠山家臣団は腹に一物ある人間ばかり、信教ですら気を完全には許せない。
だからこそ外様家臣を増やしてある程度それに仕事を回すようにはしている、しているんだが……。
「人は城とは言うものの、育成に年単位掛かる以上は他所から引っこ抜いて来た方がまだ間に合う可能性はあるんだよな」
「間に合う……ですか?」
「織田信奈の台頭以降、急速に勢力の集約が進んでる。浅井も朝倉も今年持つかは怪しい」
「もっと言えば大勢力同士になると一撃の会戦の被害も大きく、それこそ立て直しが難しい被害になることも多い。それこそ厳島の戦いのようにな。こっから先は時間との勝負になってくる、織田信奈が将軍を必要としなくなるまでにはかつての三好領の阿波讃岐までは抑えたい」
ここでは言えないが関ヶ原で必勝の態勢も作りたい、個人的にはアレは薄氷の上をダッシュで駆け抜けて落ちなかったからセーフみたいなもんである。
そのために将軍様にはお手紙将軍と化して貰っている、特に九州と東北宛。とはいえ手紙の束でなんとかできるような素直な人間達ではないので俺自身が移動しなければならなさそうだが。
…………
……
翌朝。
腕が重い、横を見ると具教が乗っかっていた。
「起きろ、朝だぞ」
「むにゃ、もういちど接吻してください……」
鍛錬してるときと戦場以外では甘え方がひどい、こいつ本当に年上なのだろうか。
本当にしてやろうかな、たぬき寝入りだろうし。
まずは左腕を引っこ抜く、「ふにゃ?!」そのまま頭を右腕で押さえて逃げられないようにする、そしてそのまま。
「目が覚めたか?」
「…………はい、そうでしょうね。あなたはそういう人でした」
「朝飯食ってから石山行くぞ、何か食べたいものはあるか?」
「そういえば堺には揚げたこ焼き、と言うものがあると聞きました。それを一度食べてみたいです」
揚げたこ焼きか……相良がたこ焼き勝負でカリカリにしてマヨネーズかけて食べてたよな、懐かしい……。
「朝はたこ焼きにするか、久しく食べてないし」
…………
……
「おや、左衛門督どの。今日はどのような要件でっしゃろ」
屋台でたこ焼きをクルクルと回している今井宗久に注文をしていく。
「具教がたこ焼きが食べたいそうでな、ねぎ塩一つと揚げたこ焼き一つよろしく」
「もしやそのお顔は、伊勢国司の北畠具教どの」
「今はただの北畠具教です、家督も妹に預けていますし」
宗久が出来上がったたこ焼きを二つ手渡ししてその場を去ると、具教から耳打ちされる。
「あのお方はどなたでしょう、なんだか凄まじい雰囲気をされていましたが」
「畿内屈指の豪商、今井宗久。堺では一番、畿内でも頭ひとつ抜けた存在だ。織田家の有力な支援者でもあるな」
この後宗久は鉄甲船やらでだいぶ持ってかれることになるのは内緒だ。
「さて、冷めないうちにいただくか」
…………
……
「美味しいです、このまよねいず?とやらは卵を使っているのでしょうか、濃くて独特な味で……酸味もあって……おかわり貰えますか?」
「ねぎたこ焼きも一つ貰っていいですか」
いいけど……。あーん
はふはふ、もぐもぐ。
「これも塩が出汁の旨みを引き立ててて美味しいです、ネギとふわとろの生地が絡んで……」
よし、じゃあ一皿追加で!
とかやってたら結局具教は揚げたこ焼き二皿、ねぎ塩たこ焼き一皿、合計19個をペロリと食べてしまった。健啖家がすぎる。
さて食べ終わったので麹を石山に売りに行く。
途中で珍しく山賊が出たが、まあ普通に具教が全員斬り捨てて終わった。こんなところで山賊なんてするなよ、もっと山の中でやれよ。
少々のアクシデントもありつつその日の夕方にはたどり着いた。
「へい、らっしゃい。おや、左衛門督殿。今回はどのようなご用件で?」
「麹を売りに来た」
「どれどれ……麹百二十、ですか、千二百九十六貫にございます」
堺で買ったときの大体倍ぐらいで売れるので、地味に助かる。
「よし、売った!」
「毎度ありがとうございます」
そんなこんなをしていると、座にもう一人入って来た。
「これはこれは、常安さま。ようこそお越しくださいました」
「かまわない、今日は届け物に来ただけ」
黒髪ロングヘアに、似合わない丸眼鏡を掛けた女商人。彼女こそ淀屋常安、のちに米の先物取引を創出し、莫大な富を手にすることになる大物商人である。
「以前注文した金塊を届けに来た」
…………
……
「おや、政頼。こんなところであうとは珍しい。お連れの方は恋人かな」
「ははは、常安殿は商いだけでなく冗談もお上手のようで」
「ふむ、冗談ではなかったのだが。まあいい、ここで立ち話もなんだ、うちの店にこないか?」
そう言った淀屋常安に連れられて、淀屋に入った。
「ここなら余人に聞かれる心配もない」
「金の話か?今は割と困ってるから融資とかあると嬉しいが」
常安は横に首を振った。
「いや、私の手に入れた情報の話だ。聴きたいかい?」
物によるが、石山本猫寺の話ならまあ。
「お得意様だからな、今回は来てもらったぶんで無料にして差し上げよう」
「まずは三好家なんだが……篠原長房がとうとう重い腰を上げた。来月の終わりぐらいには四国から戻って来るだろう」
「特に阿波と讃岐の軍需物資や米の値上がりが酷いからな、おそらく早急に軍事行動を起こすはずだ」
長房まで動くか……これはちょっと不味い、彼女が動くということは流石に想定してなかった。
「石山本猫寺に関してだが……きょうにょ率いる過激派の発言力が増している、けんにょが抑えられなくなると全国で一斉蜂起が起きかねない」
これも原作通りとすると介入の余地は少ない。俺が居たところでどうにかなる話ではないので。
「本猫寺に関しては俺から取れる方策がなんもないからな、織田信奈に丸投げするより他はない」
戦にならないように譲歩するのは俺ではなく信奈の仕事だし、なんだったら宗教勢力のせいで切り崩しがマジで難しい。
「長島の願証寺の方ならまだ蜂起を遅らせるとかはできるかもしれんが……あの猫耳のお姉さん元気してるかな」
ふと横を見ると、具教がじとっとした目でこちらを睨んできた、かわいいけどやめろ」
「……」
具教の顔がポンッっと真っ赤になる。
「おやおや、とても初心なお方のようだ。私も揶揄い甲斐がありそうでわくわくしてくるよ」
やめろやめろ、見せ物じゃないんだぞ。
…………
……
あの後、蘆名盛氏が伊達政宗の弟竺丸を養子にする、との盟約を結び、対北条連合軍の主軸として小田原城攻めに加わってることも教えてもらった。
まいったな、武田信玄以上に上杉謙信が苦手とする大名が対上杉で使えなくなるのは普通に痛いのだが……
まあ、ぐだぐだ言っても始まらない。やるべきことをやるだけだ。
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