野望も抱けずにひたすら生き残ろうとしてる畠山政頼さんの転生物語 作:区星
織田信奈の三万の軍勢は、翌日昼間に天王寺砦に到着していた。
「天王寺砦の確保、早かったわね。政頼、あんたもここを抜かれたら流石に困るのかしら」
「実際のところなるべくならここで三人衆をなんとかしておきたいけど、ちょっと面子が厚いんだよな」
ただこれが逆に出るかもしれん、特に篠原長房と三人衆は仲が悪い。
「わたしには三人衆としか報告が上がってないけど、どういうこと?」
「阿波の篠原長房、讃岐の十河存保が加わってる。今の三好家でまともに戦える三人衆以外の大将格はその二人だ」
実はこの世界の十河存保はよく知らない、義継と同じく三好長慶の兄弟の娘ということしか、ただ史実から考えれば猛将ではあるだろう。
「デアルカ、逆にそれだけの大将格が居るなら足並みを乱すこともできそうね、任せたわ」
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一方その頃、野田福島砦では三好家勢が畠山政頼が何かをする前に瓦解しようとしていた。
十河存保が打って出ることを主張する一方で、三人衆は持久戦を主張。三人衆に無理矢理引っ張られて来たも同然の篠原長房が存保に同調すると野田福島砦は真っ二つに割れてしまった。
「これ以上殻に篭るように籠城してなんになるのだ!籠城戦では摂津も河内和泉も取り戻すことは出来ないのだぞ!」
「しかし、織田信奈の軍勢は大軍。ここは籠城して本猫寺の蜂起を待つのが最善かと、ふ、ふ、ふ」
「本猫寺はお祖父様の仇敵、まさかそれに頼るつもりとは、見下げ果てたぞ、長逸」
「いかに本家筋の方とはいえその物言いはよろしくありません、慎んでください。岩成です」
「岩成殿、土佐を制した長宗我部元親は既に南予を手にしている。次は妹が死んだ阿波に目を向けるはずだ。これ以上の籠城は長宗我部元親の付け入るスキを与えかねない。私は一足先に帰らせてもらおう」
「しかし、阿波兵を抜きに籠城すれば必敗。もう少しお力をお貸し頂けないだろうか」
このように完全に分裂してしまっている。こうなるともう三人衆でも手の打ちようがなくなる。
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信奈が天満の森に出発して数日経って、摂津に降り注いだ雨が止んだ当日。
「十河存保と篠原長房が六千の兵を連れて独断で帰国、か。ぐっだぐだじゃねぇか」
ここまで上手くいった以上揺り戻しが怖い。
…………
……
「本猫寺が蜂起し、織田信奈は中之島を経由して撤退。今まさにこちらに向かっているよ」
あーあ、こうなったら最悪天王寺砦に根来衆を入れるしかなくなるぞ。
「そうか、住吉大社に移動させていた根来衆を天王寺砦に迎え入れろ。万が一、一揆衆が攻め込もうとして来たら種子島の的にしてやれ」
堺の北に位置する住吉大社は位置的にはかなり近い上、本猫寺と同様に宗教勢力なのもあって文句をつけにくい、神主は金で黙らせた。
「これもまさか読んでたのかい?」
土居清良が問いかけてくる。まあ読んでたと言うよりは知っていた、の方が正しいが。
「まさか、信奈が三好を片付けしだい撤退させようかな、と思ってたところだった」
「ふーん」
「三好三人衆は反織田家だが篠原長房は中立寄り、十河は主戦派であり持久戦を狙った三人衆とは立場が違うようで瓦解も当然だった」
と言うのはさっき入って来た篠原長房からの書状に書かれていた。
「ただ、本猫寺の蜂起はきつい、だが……それでもここで弱体化した三人衆は倒しておく必要がある。信奈に飯盛山か若江城に引くように伝えろ。少なくとも摂津河内から撤退だけはするなと伝えてくれ」
………………
…………
……
かくして織田信奈は若江城に撤収し、相良良晴を本猫寺に派遣した、のだが。
「相良がとっ捕まってるの、流石に困るが俺が行ったところでなーという話である」
「それよりも政頼は三好家の切り崩しをした方がいいんじゃない?今なら好き放題やれるよ?」
清良が的確に今やるべきことを提案して来る、すると横から具教が手を挙げて発言の許可を求めて来た。。
「政頼、わたしから一つ提案があります」
「……どうした、具教。お前から軍略に首突っ込んで来るとは珍しい」
「朝倉とは和平を結べると思います、この状況で朝倉軍が例えば前回強襲した宇佐山城を襲えば京からの退路を断ち切られて織田軍は崩壊していたはずです」
「正直ここまで背後を見せて全く動きを見せないのなら戦意が無くなったと見ていいでしょう、わたしたちから和睦の打診をして見てもいいと思います」
このあたりの肌感覚は実際朝倉家とやり取りしてみないとわからんが、それにしたって姉川しかり、金ヶ崎しかりで遺恨を作らないように気を使ってる気もする。
だからといって俺が勝手に和睦するわけにもいかないので信奈とのやり取り次第、ではあるんだろうけど。
「織田信奈に打診してから動くか、ある程度は感触探ってからにはなるけど」
……三好家の調略、朝倉との和睦交渉。やることが、やることが多い!本猫寺を相良に丸投げ出来るだけまだ幾分かマシであるが。
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「和睦の打診、ねぇ」
「織田信奈の希望を考えるとあなたたち三人は少なからず厚遇されるでしょう、受けても良いのでは」
朝倉義景にしてみれば、こんな国を背負ってるのも面倒ではある。北には加賀にゃんこう宗、南の近江は当てにならない。
だからといってほいほいと降伏するわけにもいかないのだが、それでもある程度妥協点を見つけられるなら乗っかりたい。
そういった心情が彼女を和睦へと傾けていた。
「うむむ、私としてもこれ以上は負け戦かと。戦力的に見ても磯野員昌様が抜けられたのは浅井を大きく弱体化させました」
朝倉景恒は政治がわからない、しかしながらこれ以上戦い続けても勝ちの目に裏返らないのはよくわかっている。
「実際のところ俺らは別にいいんだが、義景様はどうするんだ。織田信奈の対上杉の戦略を考えると国主の座は譲らせたいだろう」
「わたしは…………京に移住でもしようかしら。織田信奈の元で再建された京を一度見てみたいし」
彼女にとっては京は文化の中心地、憧れの源氏物語が生み出された地でもある。応仁の乱以降荒廃していたが、織田信奈の支配下で再建が進んでいる。
「……そうか、昔からそうだったな、長夜叉は、宗滴に言わせれば軟弱だろう、だが……。そもそもこの越前は天下取りには向いてない。領土を広げようにも先代様の代では浅井亮政、六角定頼の傑物と当たり、北に広げるにも本猫寺と七尾城。ある意味では朝倉義景の天下取りは始まる前から終わっていた」
たとえ彼女の代で天下取りを狙ったとしても、三好に比べれば動員兵数は大きく劣る。将軍家の人間が上洛を望んだとしても、叶えられないほどには。
「俺から言わせれば家臣団の質もあるとはいえ、浅井と心中を最後まで選ぼうとしなかった時点で将としては合格だ」
「宗滴おじいさまには悪いけど、朝倉家を畳むこともわたしの仕事なのかもしれない。それでも、家臣団と領民のためにより良い終わりを全うするためにわたしは戦う、三人とも、付いてきてくれないだろうか」
「わたくしは…………義景様の行かれるところなら、どこへでもついて行きます。そこが地獄の果てであっても」
ここまで口を開いていなかった朝倉景健も同意して解散とあいなった。
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対三好、対朝倉、対来島村上水軍、対長宗我部。本猫寺を相良に押し付けたと思ったらこれである。これに加えて地方大名への官位だったり守護職だったりと色々と…………。やること多すぎ!
それはそれとして相良がとっ捕まってるので我々としても動かざるを得ない。ことここに至っては天王寺砦に入れた根来衆に臨戦体制に入らせて、本猫寺の兵力を迎え撃つことも辞さない準備だけはしておく。
「で、俺を人数に入れたのはなんでだ?信奈。言っておくが石山本猫寺に関しては役に立たんぞ?」
「それでもいいのよ、織田でも本猫寺でもないあんたなら和睦への切り札になるかもしれない」
「やるだけ、やるだけやってみるけど正直なところ厳しい。合戦になるなら天王寺砦を地獄絵図にしてでも戦うつもりだが……」
「そこまで行ったら十年戦争はさけられないわね、交渉でなんともならなかったらあんたの力を借りることになるわよ」
そうならないことを祈るしかない。この世界は原作とはやはり違うのだ。だからこそ、最善の注意を払う必要がある。
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