野望も抱けずにひたすら生き残ろうとしてる畠山政頼さんの転生物語 作:区星
「よう、相良。ここからは次郎様付き家老の俺、原昌胤が案内するぞ」
「うにゅう、原昌胤は歴戦の猛者、相良氏とは格が違うでござる、きをちゅけるでごじゃるよ」
ようやく小田原城にたどり着いた相良を昌胤が案内していると、ショートカットの姫武将が通りかかった。
「あら、あなたが姉上が武田の軍師と見込んだ相良良晴ね。今度こそ姉上にとって運命の人であるといいのだけれど」
「君が……武田信繁、武田の副将。そうか、第四次川中島の戦いが起こってないから……」
「あなたが未来人で、たとえわたしの未来を知っていたとしてもそれを姉上に伝えたら……殺すから」
…………
……
その後、武田四天王に鼻の下を伸ばした相良が危うく暗殺されるところであったが、割愛。そうして相良が軍議の陣幕前にたどり着くと、原昌胤はこう言って帰っていった。
「じゃあ、俺は戻るからな。風魔に暗殺されんよう気をつけろよ」
「ま、待ってくれ武田四天王の中に置いてくつもりなのか! 次郎ちゃん、助けてくれ!」
しょうがない、助けてあげるわ。と信繁がボソリと呟いて。四天王に指示を下した。
「四天王、後ろを向きなさい。相良が着替えるまで前を向いてはダメよ」
信繁が見守る中、相良が腰手拭いを取り落とすハプニングもありつつ、相良はようやく軍議の場である温泉にたどり着いたのであった。
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「なあ信玄、俺までここに入る必要は無かったはずでは」
「そう?私を口説く気満々だったはずなのに温泉に温泉になると話が変わるのね、それほど私の美貌が気になるということかしら」
「…………実際のところ、お前の見た目はだいぶ好みだし、北条氏康と婚姻すれば織田信奈が北条攻めを行うこともないだろう。ただまあそれは俺が織田信奈と対等な関係を築き続けられる、という前提があるからで、あのじゃじゃ馬に鈴をつけられなくなったらその時点で追い出されかねない」
「まあそうなったら氏康、お前のところで世話になるつもりだが」
「あたしの元に来るつもりはないのか?政頼、お前ほどの将なら四天王から一人嫁にやってもいいが……」
「ない、正直なところ俺はお前のことをあまり高く評価してない。お前の勇躍は家臣団と軍師と妹に恵まれただけで、仮に蘆名盛氏がお前と同じ立場なら……既に上洛しているだろうな」
家臣団筆頭が金上盛備だからこそ、この程度で済んでいる。金上盛備も決して無能ではない、武田家ならば四天王には遠く及ばずとも一席を与えられる程度には使える側である。だがその程度ではあるのだ。
「というかそもそも蘆名盛氏と比べなくても、信繁が継いでお前が軍略や政務で補佐してる方が強かったと思うんだよな、知識や軍略は後から学べても勇気や心の強さは後付け出来ないし」
「…………」
信玄の表情が能面のように変わっていく、多分キレてる。
「まあ、そこまでにしとけよ。畠山政頼」
「お前の言いたいことは充分理解できる。ただな、お前が思うほど武田は犠牲を払ってない」
「武田は最善に近い形で今ここに立っている。俺や小山田がいなかったらどうなってたことやら、下手したら領土と家族を等価交換、なんて洒落にならんことになってたかもしれんがな」
そうか……、ならよかった。というか、もしかして。
「もしかしてだが、武田の天命を動かす者はお前か?」
「俺は天命なんかわからないが……少なくとも勘助からはこう言われたな、『星が二つ、重なり合って天命を読みきれませぬ』と」
「そうか……お前がいるなら信繁のことは気にしなくていいな。俺にとって彼女は……いやなんでもない」
武田信繁が救われている、それだけで原昌胤には頭が上がらないだろう。
「…………あたしたちをほっといて、男同士の友情か?」
「無性に腹が立ってきたわ。原昌胤、軍議に参加するつもりがないのなら温泉から出なさい」
「あいよ」
そして原昌胤と入れ替わるように相良良晴と…………武田信繁が入ってきた。
「げ、畠山政頼。姉上に何か良からぬことを吹き込んだりしてないでしょうね?」
「引き抜きかけられそうになったからきつめに言い返しただけだが……」
「信繁さんと政頼は知り合いなのか、意外といえば意外だな」
「そう、同族みたいなもの。ある意味ではわたしと政頼は最も近しくて……最も重なり合わない人だから」
「まあ、俺がなりたかったのは信繁のような補佐役で、俺が今やってる立ち位置が信繁になってもらいたかった立場だからな」
「あの日姉上が父上を追放することを選ばなかったら、わたしが貴方のように武田家を率いていたかもしれない」
お互いに一歩ずつズレた結果として、今の俺たちは重なり合わない。
「んっ?ん?どういうことだ?あたしには次郎の言ってることがいまいちわからん」
「私もよ、あの畠山政頼と天下の副将武田信繁がまさかこんなに仲が良かったなんて……」
意外だけれど、これは調略に使えるかもしれないわね。と北条氏康がろくでもないことを考える中、相良はボソリと呟いていた。
「というか、氏康さんって蒙古斑なんだな。お尻も大きくて柔らかそうだ」
「あなた、この状況でよくそんなことをほざけるわね?! 風魔を呼ぶわよ!」
…………
……
相良と氏康、信玄の間で丁々発止の会話が繰り広げられた結果、伊達軍を撤兵させられたら武田信玄が川中島に見せ兵を送る、という内容でまとまった。
途中、四天王が乱入するなどの一波乱もあったがおおむね想定通りの結末だろう。
さて、俺は露天風呂に入り損ねた具教と一緒にゆっくり浸かり直すことにする。
「いい湯ですね、肌がすべすべになりそうです」
「そうだな……」
泉質について詳しいわけではないのだが、舐めてみるとちょっとしょっぱい。
「ところで政頼、あの……武田信繁とはどういう関係なのですか?わたしから見ても相当親密そうに見えましたが」
「…………同類同族、近しい在り方をしているが故に、お互いに変な影響を与え合った。俺も信繁もお互いにもしもの姿を見合っている」
嫉妬かな?でもまあ、そんなことはありえない。
「安心しろ、信繁が俺と婚姻するなんて万に一つもない。お互いに背負うべきものがあり、その結果重ならなかった。多分この先もきっとそうだろう」
「そうでしょうか、あなたと信繁さんとの間には言葉で言い切れないような繋がりを感じます。わたしはその繋がりが羨ましいです」
具教の頭を撫でながら考える、同類同族以上の繋がりがあるらしいが、俺にとってはわからない。俺にとって彼女は俺の才能を買って仕官しないかと誘ってくれた人、彼女にとって俺は無茶苦茶話の合う少し年下の武将。それだけじゃないか?
「まるで……そう、運命的な何かを感じます」
「運命か……俺にはあんまり関係のない言葉だな、そう言ったものや神とか天命とかは気にしないで生きてるから」
「政頼がそう言うならそうかもしれません。ですが……興味本意で聞いてみますね、政頼、もし仮に……信繁さんにわたしと祝言を挙げてと言われたら、どうしますか?」
そんなことはあり得ない、だが━━。
「考えるだけ無駄だろ、と言いたいところだが、俺個人としてはかなり断りにくい、心情としても政治的な事情としても。それで彼女が姉から自立できるなら、なるべく喜んで。と言いたいところだが……そうなるとお前も困るだろ?」
「わたしのことを抜きにしたらどうでしょうか、政頼にとってそこまで大事な人なら……」
「俺にとっては憧れの人でもあるからな、それで彼女を縛ってる枷が解けてくれるなら」
その人が自分を頼ることなんてない、それどころか他の人の手によって既に救われていたとしても。俺にとっては彼女が生きているだけで幸せで……救われている。
畠山政頼としては上記の感情など無用だろうが……それでもなお忘れ難き思いであった。
「…………具教。俺はお前のことも……ええとその、好きだぞ」
こちらの方が畠山政頼としては正しい感情だろう。
そう思いながら具教を抱きしめる。
「わかってます、でももし……あの人があなたに振り向いたら、あなたはわたしを捨ててしまいそうで怖いのです」
「わたしとあなたの繋がりはあの人ほど強くありませんから」
そうか。けれど、俺はお前を信じてる、この世界では北畠具教は……個人の武勇において最強だと
「河内に戻ったらすこしだけ秘密を話そうか、それで少しは……俺と共に歩んでいる自覚を持てるだろう」
「政頼、それは」
「今ここで喋れる内容ではないからな」