野望も抱けずにひたすら生き残ろうとしてる畠山政頼さんの転生物語 作:区星
統治者にすば抜けた頭脳は必ずしも必須ではない。それらは将軍や吏僚達が背負うべき仕事だ。
俺が思うに、世界における8割は凡人である。だからこそ凡人の考えを理解しなければ統治というのは成り立たない。学者政治が通用しないのもこのせいと言えるだろう。
北条氏政の凡庸さはその点において強みに昇華しうるだろう、平時においては、だが。
「平凡な人間の思考を理解している優秀な人間ほど厄介なものはない、北条氏政にはそうなる素養がある」
「そうかしら、私から見れば……やっぱり凡庸な妹よ。汁かけ飯を一回で決められないのはちょっと」
「本当に役に立たない凡庸さとはうちの次姉のような人を指すだろうな、長姉のようなちょっと戦の弱い上杉謙信みたいな有害だけど無意味ではないボケと違って本当の意味で箸にも棒にもかからない」
「あなた、よっぽど姉二人と関係が悪いのね?」
「戦国の大名家じゃ無かったら世話焼いてたと思うがな。生まれが悪い」
長姉は三好長慶相手に反三好連合軍を結成させて挑むような無謀な姉だが、存外決戦に5万を動員したほどのカリスマ性があり、実務能力に欠くことを踏まえなければ俺以上に当主に向いているといえば向いている。神輿としては相当だろう。
次姉は…………その………なんだ、人間性がいいだけかな。
「むしろ氏政は凡庸の中にギリギリ止まってるだけで並みではない、鍛える人間が鍛えればあるいは北条の最盛期も築きうると思うぞ」
そら三英傑や謙信氏康信玄、蘆名盛氏らへんと比べたら見劣りするけども。
「じゃあもし………もしもあなたが畿内から追い出されることがあったなら氏政を助けてもらえないかしら」
「実際、そうなったら助けてやるさ、必ずな」
〜〜〜〜〜〜〜
「フハハハハ、信玄公。相良が生きていてよかったな!」
「相良良晴は生きていたのか。そうか……」
ま、相良ならなんとかなる。今回は五右衛門さえいればどうとでもなるはずだったし。
「織田信奈。日ノ本最強の武田軍団と互角に戦える者は、上杉謙信だけだ。次に戦場で相まみえた時には──」
「……いや、俺が武田軍団を押し留めるさ。武田信玄、お前が武田の当主である限り、俺は武田の下にだけは付かない。たとえ武田四天王もろとも自軍が壊滅したとしても、お前だけは天下人にはさせない」
少なくとも、俺は武田信玄を天下人としての適正がある姫武将とみなしていない。この姫武将は失う覚悟も、引く勇気も、結局のところ持ち得ない。優しさは時に欠点となりうる。
「どうしてだ、貴様にそこまで言われる謂れは……」
「俺はお前のことをそこまで買ってない、お前が武田晴信ですら無かったころから………な」
「どういうことだ、貴様……?あたしが晴信ですら無かったころというと、貴様はまだ十二かそこらの元服もまだのころのはず。会ったことも、ましてや器を測られることなど……」
「いや?俺は確かに甲斐に行ったこともあるし、その頃は信繁ともよく話してたぞ?まあ、その頃は畠山政頼という名前でなかったし、そもそも畠山家の人間として名乗って無かったからまあ気づかないのも仕方ないけど」
それらの情報を踏まえて言えば、武田信玄という姫武将の本質は極めて補佐役向きであると言えるだろう、豊富な知識も、高い理想も、頭脳役としてはもってこいである。
才能は否定しない、が。俺は原作で彼女が神将上杉謙信を地に下ろすために支払った犠牲が、その成果に見合ったものだとはとても思えないのだ。
この世界の武田信玄がその犠牲を払っていないことを知っていても、それでも納得できないところはある。つまるところ私怨なのだろう。
「そうか……」
「その上で相良を奪い取るにしろ好きにすればいい、ただしお前を天下人として認めることはない」
「フハハ、畠山政頼。貴様のそういうところは本当に我、ダメだと思うぞ?」
知ってる。俺が私怨で彼女を認められない、それは正しくはないことも。
「あんた、わたしの味方じゃ無かったの?」
「対等な同盟関係、だろ?たとえ名目上だけであっても俺らは対等だ。お前の天下取りは応援するが、お前の婿取りまで応援する義理はないさ」
「あんたねぇ……」
〜〜〜〜〜〜
上杉謙信は来ない、朝倉義景は織田信奈と単独で和睦した。という情報が広がるにつれて小谷城の士気は明らかに低下していた。
元々朝倉義景が姉川以降、全く動きを見せなかったために事実上織田軍を単独で相手取っていた、その上原作と違い土御門久脩は浅井朝倉に加わらず、虎御前山を落とせる見込みは立っていなかった。
「朝倉義景、姉川にあれだけの大軍を率いて参陣しておいて我らを見捨てるのか……」
「元はといえば我らが信奈公を裏切ったことが原因、とはいえ姉川で朝倉勢は全兵力を投入しなかったというではないか」
「最初から我らを謀るつもりでいたのではないか」
浅井の家臣団が口々に朝倉義景を罵るが、
「仕方ない、あの女は家臣団を守るために家名を、誇りを捨てることを選んだのだ、何も選べず、このような結末を招いた私とは違う」
〜〜〜〜〜〜
「信奈様、これより朝倉領の案内をするために参りました。朝倉景健です」
「デアルカ!和睦の条件は知ってるわ。対上杉謙信のためにも戦をせずに済むならありがたいわね」
ええっ!いつの間に和睦がすすんでいたんだ?と和睦交渉を知らされていなかった勝家がぼやくが、馬耳東風。
ともかく織田軍は朝倉景健の案内を得て、金ヶ崎を通過して一路一乗谷へ突き進んだ。
「ここが一乗谷ね、朝倉義景らしい風流な町。この町を焼き尽くさずに済んでよかったわ」
「信奈様、義景様が屋敷の中でお待ちしております。お入りください」
事前に待っていたと見られる姫武将──河合吉統が道が碁盤の目のように整然とした一乗谷の町を案内する。
「…………おかしいです、宗滴様が御存命の時にはここまで美しく整った町では無かったはずです」
「今は亡き朝倉景連様や小泉様と共に、作り上げた町になります。義景様が朝倉家に相応しい美しい町にしたい、とのことでしたので」
そんな雑談をしていると、織田信奈たちは義景の屋敷にたどり着いた。
…………
……
「私が朝倉義景、信奈様なら、必ず上杉謙信の上洛を止めると思っていました」
「あんた、どうしてまだ戦えるのに和睦をしようと思ったのかしら」
聡明な信奈様にはお分かり頂けると思いますが、と義景はすこし前置きして語り出した。
「まず朝倉家は北に本猫寺一揆、南に浅井家、西に出たところで戦線が伸びるだけで石高的には戦えるものではありませんので論外。と最初から詰んでおります」
「そのため、信奈様が侵攻してきた際には最後の盾である金ヶ崎城が落ちれば降伏しようと思っておりました」
まあ、金ヶ崎城が落ちるということは朝倉最強の将が負けるということでもありますし。と義景は続けた。
「姉川の戦いは、全軍を投入したとしても負けていたでしょう。畠山政頼がいなければ勝っていたのは私でしょうけれど」
「そうね、政頼がいなければ朝倉勢二万、浅井勢八千に挟撃されていたはず。命拾いしたわ」
「和睦の条件通り、この城は引き渡します。……宗滴おじいさまの言う通りの結末になりましたね、おじいさまはよく信奈様のことを私と比べて、『こやつはあまりに内向的すぎる、おそらくはこやつの代で末代になるであろう。それに比べると吉という尾張の娘は別格よ』と」
…………
……
朝倉義景に一乗谷の屋敷を案内されていると、織田信奈はある物を見つけて閃いていた。
「義景、あんたらしくないわね。黄金の髑髏を飾っているなんて」
「これは確か……宗滴おじいさまが九頭竜川の戦いで取った首謀者の髑髏だったはずです。どうも毒々しいので金箔を貼ってみたのですが、上手くいかなかったみたいで……」
「デアルカ、この髑髏、ちょっともらうわよ」
「信奈様、まさか。この髑髏を……」
「義景、一から十まで言わなくても、あなたならわかるはず」
「信奈様は私と違い、母はまだ存命のはずです。そのようなことをせずとも良いのでは」
「いいのよ、わたしはもう、覚悟は出来てるから」
〜〜〜〜〜〜
一方その頃、小谷城本丸。
「相良さん!この馬鹿二名をなんとかしてください!このまま切腹して自害されると責任取って私も腹を切らないといけなくなります!」
「ちょっと待ってどう言うことだ?勘十郎と長政はわかる、なんで員昌さんまで腹を切るという話に……」
「サルくん、員昌をなんとかしてくれ、親より先に死ぬ子供などあり得ない、僕が自害するなら私も後追いすると言って聞かないんだ」
「頼む、浅井が誇る猛将、磯野員昌をこんな死なせ方をしたら不名誉すぎる、なんとかして説得してくれ」
(ああ、そういうことか。津田信澄は磯野員昌の養子になっていた、織田信勝としての運命に津田信澄の運命側の姫武将である員昌が対抗しようとしてくれているのか)
「いいか! 俺は浅井久政どのから、浅井長政への遺言をあずかってきた! 久政どのは見事に切腹して果てた! 止めようとしたが間に合わなかった、すまねえ!」
「父上からの、ご遺言!?」
「サルくん、それは……」
「もしかして」
「いいか、よく聞けよ! いちどしか言わねえからなっ!!」
「猿夜叉丸は──浅井長政は今宵この小谷城で死ね!! それが最後の親孝行である!!」
かくして小谷城は落城し、浅井家は滅亡した。
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