野望も抱けずにひたすら生き残ろうとしてる畠山政頼さんの転生物語   作:区星

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22話 戦後処理

 ところで、俺がわざわざ小谷城にも朝倉義景にも何もしなかったのはどうしてかというと、一つは磯野員昌なら信澄を死なせないだろうという確信があったから。もう一つは、

 

「十河存保に七条兼仲、おやおやこれは一宮成相、それに篠原長房に赤沢宗伝。三好家の大物達が次々と内応、もしくは家臣として加わるという書状を送ってきているよ。淡路水軍からは当主の安宅信康から三好家から畠山家へ鞍替えするという書状が送られてきた、君、これ一体何をしたんだ?」

 

 四国攻めの内応関連の書状の返事を早急に出さなければならない事情があったから。土居清良がずらずらと並んだ大量の書状を見て不思議そうな顔で聞いてきた。

 

「一宮成相が応じるのは意外だったな、とはいえ三好長慶の養女を嫁に取ってるから当然と言えば当然か」

 

「まあ鬼札のようなものだから効くとは思っていたが……まさかここまで効くとは」

 

 ともかく所領安堵で手を打つ、長宗我部元親が阿波を抑え切る前に蓋をしておかないとまずいし。

 

〜〜〜〜〜〜

 

 書状をあらかた捌き終えたので、本能寺の祝勝会に向かう。

 

 いつもの織田家の面々に加えて、足利幕府からは将軍足利義栄や副将軍今川義元、根来衆の長として参加した津田算正や摂津国人池田知正に、三好義継、松浦光。和睦という名の降伏をした朝倉の主要武将たち、さらには公家衆まで集まっている。目につく場所に富田長繁がいたので手を振ってみたが舌打ちされた、キレそう。

 

 そんな喧騒のなか、織田信奈が原作3巻表紙絵のようなド派手な帽子にマントを着たまるで異国の王女に見える服装で登場した。

 

「どうもどうも。みんな、わたしのために集まってくれてありがとう!」

 

「本日は、やまと御所より信奈どのに右近衛大将の位を授けに来たでおじゃる」

 

「デアルカ」

 

 信奈の対応はそっけない、まあ俺も官位で飯が食える人間じゃないのであんまり貰っても、と言ったところではあるが。

 

「かしこまるでおじゃる。右近衛大将は武家では武門の頭領のみに許される、権威ある官位でおじゃるぞ。征夷大将軍の足利義栄ですら、叙任されていないでおじゃる」

 

 足利義栄が晴れやかな笑顔で祝福する。

 

「信奈様のご活躍を鑑みれば当然です、古き秩序を破壊し、新たな時代を切り拓くお方ですから」

 

「不必要なおべっかは使わなくていいわよ。義栄、あんたがわたしのことを尊敬してるのはよ〜く伝わったから」

 

 俺以外の一同がざわめいた。歴代の足利将軍の一部、その中だと足利義教が一番有名だろうか。が就任してきた権威ある官位である、叡山への対応然り、官位然り、なんとなく織田信長と足利義教がダブって見える気もするがこの時代の人間はそう思わなかったのだろうか。

 

「さて論功行賞を行う……と言いたいけどその前に足利義栄、あんたから言いたいことがあったのよね?」

 

「はい、足利幕府将軍として──畠山政頼を管領に任じます」

 

 ……は?サプライズ人事じゃねーか。き、聞いてねぇ……

 

「これからも足利幕府のため、というよりは信奈様と協力して天下静謐のため、よろしくお願いしますね」

 

 にこやかな笑顔でこう言われるが、まあ嬉しくないかと言われれば嬉しい。畠山政長以来の畠山家からの管領輩出である。いうて今となってはほぼ名誉職に近いところはあるが。

 

 畠山家に近い国人やうちの家臣団がざわめいている中、信奈は平然とした表情で続きを始めた。

 

「じゃ、論功行賞を始めるわよ、まずは越前一国を六──柴田勝家に与えるわ。対上杉謙信の最前線よ、今すぐ堅固な要害を築いて強い軍団を育成すること。もちろん楽市楽座政策もすみやかに実行して、越前の産業を育て、国を豊かにすること。旧朝倉家臣の統率も行うことになるけど、出来る?」

 

 この言葉を皮切りに、丹羽長秀には若狭を、光秀には丹波一国と「畿内管領」と呼ぶべき職を。ぽんぽんと普段の吝嗇さからは考えられないほど気前よく与えていった。

 

 ここで土田御前が、いらいらしたようにみけんにしわを寄せながら口を開いた。

 

「吉。北近江小谷城二十万石は、小谷城を落とし浅井長政を討った勘十郎に与えるのでしょうね?」

 

 だが、信奈は土田御前から視線を外すと、ご陽気な声をはりあげた。

 

「北近江二十万石は、サルに与えるわ!」

 

 意外かもしれないが、俺の前世知識を抜きにしてもこの論功行賞は正しいと考えている。

 

「勘十郎。自らの想い人をその手で斬り捨てよという残虐非道な姉の命を実行してまで、なおこのような扱いを受けるとは……かわいそうに、かわいそうに」

 

「土田御前様、そこまでにしてください。私の養息を大人として扱ってください」

 

「貴女も自らの主君を勘十郎が切り捨てる姿を見たはずです、それでもそう言うのですか?」

 

「今回は、ぼくの武功よりもサルくんの立てた手柄のほうがはるかに大きい。しかもそれは公には見えない隠れた手柄なのです。母上に説明したくとも、姉上から誰にもこのことについて語るなと口止めされていまして。ぼかぁこれからは口がかたい人間になりますので、申し訳ありません」

 

「と、言うことらしいので。私からはなにも」

 

 土田御前と磯野員昌のマッチバトルが展開されてるのを見なかったことにして、信奈の元に向き直る。

 

 相良が渋々受け入れ、滝川一益に正式に伊勢一国を与えた、そして織田信奈はまだ続きがあると言いたげにしている。

 

「さて本来ならここで終わりのところだけど、ちょっと細かいけどわたしの手で決めたい人事があるから先にやっちゃうわ!」

 

「朝倉旧臣は基本は勝家、あんたに任せることになるわ、朝倉景鏡も朝倉景健も優秀な将だから脳筋のあんたを支えてくれるはずよ!」

 

「ただし、朝倉景恒。あんたは例外よ、隣国になる相良の与力としてキリキリと働きなさい!」

 

 相良には譜代の武辺者がいないからちょうどいいわね、と信奈がにこやかな笑顔で告げる。かわいそうに朝倉景恒、中国戦線への動員がほぼ決まってしまった。

 

「そして朝倉義景、あなたには……二条城城代を任せるわ!京都所司代の村井貞勝と協力して京の行政や、光秀が不在時の公家衆への対応をしなさい」

 

 場が完全に唖然として声も出てこない、降伏した姫武将に京の中心の采配を握らせるなんて前代未聞だろう。

 

 冷静に考えてみると朝倉義景の政治能力の高さと風流趣味を最大限引き出す配置だ。おそらく一乗谷から朝倉義景の統治能力の高さを悟ったのだろうが…………。

 

 論功行賞も終わり、場がだんだんしらけてきたところで、信奈がぽんぽんと手を叩いて、

 

「さてと。余興をはじめるわ。弾正、例の杯を持ってきて!」

 

 と、松永久秀を呼び寄せた。…………マジ?アレをやるの?黄金の髑髏はどうやって思いついたんだ。

 

 久秀は黄金の髑髏を二つ持って現れると

 

「この黄金の髑髏は、浅井久政、浅井長政のしゃれこうべですわ。うふ。頭蓋骨全体に何重にも金を貼り重ねまして、黄金の杯として仕上げました次第。これが信奈さまに逆らった者どもの末路ですわ──今宵は、この黄金の髑髏に注ぎましたる南蛮の赤葡萄酒を、皆さんでまわし飲みいたしましょう」

 

 ほう、本当にやったわ。

 

 さて……土田御前を捕まえて誤解を解いてやるか。

 

 …………

 

 ……

 

 退出した土田御前を捕まえて、説得に移る。

 

「まてまて、誤解というかいくつか合理的な理由だったりがあるんだ、話を聞いてくれ」

 

「わたくしに何用ですか、管領様」

 

「まずは、北近江を与えられなかった件についてだが、そもそも信澄が今どれだけ領土を持っているのかわかってるのか?」

 

「特にそこまでの物はもっていないはずでは」

 

「高島郡七万石、磯野員昌の所領の継承権、という名前だが実質的には磯野員昌が領土変えがあればその領土は信澄に与えられる、というか軍自体も員昌が出陣しない時は信澄が率いていたはずだしな、虎御前山に詰めてる兵は磯野の兵だし」

 

「そこに加えて北近江の二十万石を足すと二十七万石、これは丹羽長秀の若狭八万石の三倍以上の石高になる」

 

 正直に言おう、どうあがいても二十七万石に値する功績は挙げてない。

 

「それは……」

 

「正直言えば、信奈は土田御前、あなたが想像してるより信澄に遥かに甘い。小谷攻めまで姉川で浅井長政の進撃を防いだ以上に特筆した戦績のない信澄にわざわざ七万石を予約して与えるほどには」

 

「そして、その弟に甘い織田信奈がわざわざ弟の恋人を黄金の髑髏にしたならば何か理由がある、そうは考えられないのか?」

 

「理由……」

 

「浅井長政という大名が死んだことを天下に知らしめる理由がある、と」

 

「まあ、ここまで言えばもうわかるよな」

 

「…………吉には申し訳ないないことをしましたね」

 

 堂々と説得しているが、信澄と員昌が生きて帰ってきてることから推測してるだけなのでこれで本当に黄金の髑髏が浅井長政だったりしたら本当にこまる。特に俺の面子が色々とまずい。

 

「それはそれとして、今は怒ってるふりをしておいた方がいいんじゃないかな、信奈としてもそうしてもらった方が助かるだろうし。居心地が悪くなったりしたらいつでも高屋城へ来ていいからさ」

 

「管領様、お気遣いありがとうございます」

 

 …………

 

 ……

 

 さて、土田御前を説得し終え、戻るとあの暴挙に呆れたのか畠山家臣団はほとんどが帰ってしまい、残っているのは土居清良、北畠具教、遊佐信教のいつメンになっていた。

 

「政頼、君の用件は終わったのかい?」

 

「ん、まあ終わったと言えるか」

 

 実際、あとやることはほとんど残ってない。お市の様子を見るぐらいである。それも必須とは言い難いし。

 

「であれば政頼様、そろそろ帰りませんか。信奈様もご用事があるようですし」

 

 まあお市の名シーンを見逃すのは惜しいが帰った方がいいだろう、俺らはあくまで同盟者、織田の身内では無いのだから。

 

「ちょっと政頼、今から帰るつもり?」

 

「実際、今からお披露目されるやつに俺ら畠山家の面々なんて居なくてもいいだろ、別にバラしたり言いふらすような家臣は残ってないけど」

 

「そうね、じゃああんただけ残りなさい。他は先に帰ってていいわよ」

 

 ……全く、信奈公には敵わないな。

 

 今残っているのは信澄、勝家、長秀、一益、光秀、久秀、良晴、義景そして半兵衛にねね。

 

 「浅井家は、小谷城炎上とともに滅亡した。浅井長政は勘十郎によって首を打たれ、こうして黄金の髑髏になった。けれども浅井長政は小谷城が落城する寸前に、愛する妻を……わたしの妹を、織田家へと返還してくれたのよ。そろそろ入ってきなさい、お市!」

  

 襖が開くと、よーくよく見たことのある、とはいえ相良ほど顔馴染みではない、すこし大柄な美女がそこに正座していた。

 

「市に、ございます」

 

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