野望も抱けずにひたすら生き残ろうとしてる畠山政頼さんの転生物語 作:区星
高屋城、本丸御殿。その一室に俺と具教は入って、茶会をしていた。織田家では茶の湯御政道と称して信奈が茶会を開ける武将を制限しているが、畠山家ではそんなことはない。三好義継なんかは堺商人の懐柔のためにせっせと茶会をしている。
「政頼、話って一体なんのことです?信教や清良には言えず、わたしだけに伝えたいようですが………」
「二つほど隠し事と言うか、小田原で言ったように俺には誰にも言ってない秘密がある」
信教や千、久秀辺りには悟られててもおかしくはないけど、まああの三人なら気がついても喋らないだろう。
「その秘密というのは……俺は正確に言えばこの世界の人間じゃない。未来、いや違うな、この世界が物語として語られる世界の未来から、魂だけでここにきて。畠山政頼として生まれ育った」
「だから、相良と同じように未来を知ってるし。それを役立てている」
…………具教が完全に固まってしまったので頬をむにむにして再起動させる。
これで起動しないようならキスするのも手だが……。
「ええっと、政頼はわたしや清良、信教の運命も知ってる、ということですか」
再起動したな、よしよし。それに関してなんだが……。
「それを説明するのはちょっと長くなるぞ、聞いてくれるか?」
…………
……
「まずは相良が知る未来の戦国時代の歴史と俺の知る未来の戦国時代の歴史、これはおおよそ同一だ。おそらく細部の知識量は異なるだろうが。そしてもう一つ、この世界の未来の知識も俺は有している。前者と後者の違いは姫武将の有無、そして相良良晴が存在するかどうかの違いだ。そして今俺達が生きているこの世界、後者ともまた違うんだよな……」
「つまり、相良よりあなたの方が精度の高い未来知識を有している、が……その知識にも穴がある。ということですか?」
精度自体はそんなに変わらん。どちらかと言えば、そうだな──。
「相良は物語の主人公であるが故に、この時代の武将の知識は持ち得るが自身の未来を知り得ない。逆に俺はかつてその物語の読者であった。だから相良とは異なる位置から見ることが出来る」
「相良の物語に乗じて俺が理想的な勝ち、まあ俺の場合は生き残りか。を得るためには、いくつかの転換点を残して、その上で薄氷を分厚い氷に置き換える必要がある」
「その上で一番怖いのは相良でも毛利でも武田でも上杉でも、ましてや織田信奈でもない、池田勝正だ。あの女は未来視が出来る。宿曜道やタロットとは全く違う域の未来視だ」
相良の未来を、原作知識も無しに読めるというのは異常だ。
「ま、こんなややこしい話、覚える必要はそんなにない。最初の話に戻るなら,北畠具教や土居清良、遊佐信教の運命ももちろん知ってる。よくないことに俺のこの場合の『知ってる』は、相良良晴の物語ではなく、相良と俺が共通して知ってるであろう、姫武将ではないお前らの歩んだ軌跡を知っているだけだからな」
「意外ですね、あなたなら知って介入しててもおかしくないと思ったのですが……」
「そうか?俺は言うほど他人の運命を変えることに相良ほどは意欲的にはなれんぞ?それに……この世界に生きるお前らの未来なんてわからない、俺の未来が俺にわからないように」
「…………ところで、政頼。ねずみがいるようですが、いかがなさいますか?」
ガタッ
ドンガラガラガッシャン。態勢を崩したのかして大きな音がした。どうやら聞き耳を立てていた人が複数人いるようだ。
すかさず引き戸を開けて確認すると、信教と清良が団子になって転がっていた。
「お前らさぁ…………」
「政頼様が具教さんと二人っきりになられるということで、てっきりそういうことをするのかと………」
「私はそういうことに興味があって聞き耳を立ててただけで、君の秘密を聞くつもりなどなかったんだ、信じてくれ」
俺にとってのこの三人は、相良にとっての官兵衛半兵衛蜂須賀五右衛門に相当する、少なくとも家臣団の中では信頼出来る面子である。
清良も信教も俺と変わらないか少し年下だ、だからまあそういうことに興味があるのは仕方ないと思う。でも聞き耳立てられるとこっちとしては色々と困るんだよな。
「まあ上がれ上がれ、知られたものは仕方ない」
聞かれたのがこの二人でよかったとも思える、正直口の軽そうな余人が聞いていたら暗殺せざるを得なくなっていた。ともかく信教と清良を席に上げると話題にもどる。
「じゃあ上がったところで、もう一つの秘密について話すか。まあこの件についてはもしかしたら信教は気がついてるかもしれないが……」
「政頼様が匿っている方ですよね?結構な貴人であるはずです」
「政頼、この間君は切り札として持っているものがあると言っていたね?と言うともしかして」
あ、やっぱり?
「というわけで……」
手を叩き、忍びを呼び寄せて指示を出す。
「わたしが前三好家当主、三好長慶です」
「あなたが、三好長慶……かつて天下人として君臨した姫武将ですか、はじめまして、わたしは北畠具教といいます」
「へぇ、君が三好長慶か、私は土居清良。政頼の家臣だよ」
「長慶様、久しぶりですね。あの頃よりだいぶお元気そうで何よりです」
「まあ、政頼に死んでください、と言われた時には何事かと思ったのですけれど。久秀と共にわたしを死んだことにするとは思わなかったです、葬儀も久秀が操る傀儡にすり替えて執り行うとは……」
そう、俺は三好長慶に返しようのないほどの恩がある。だからあの日、病に倒れた三好長慶に、現世にこだわりがないか?を問いただし、ないと答えた長慶に三好長慶として一度死んでもらったのだ。
「政頼様、これが二個目の秘密ですか。思ったより大した秘密ではありませんでしたね」
せやろか。信教は俺の挙動に慣れすぎて麻痺してないか?
「そうでしょうか、わたしはとてもびっくりしていますが……」
「政頼、君はだいぶ私を騙していたな?こんな大物を抱えているとは予想外だよ」
まあこの反応が妥当なところだろう。
「というわけで、今後は長慶にも協力してもらう」
〜〜〜〜〜〜
それは、一年ほど前に遡る、三好長慶が本拠地としていた飯盛山城での話であった。
「政頼ですか、また畠山家臣団でも騒ぎを起こしましたか」
「違うな、大恩人が病気だと聞いて居ても立ってもいられなくなってな」
「ここからは俺の独り言だ、返事は期待してない」
そう、俺は前置きをして、問い出した。
「なあ長慶、父の仇もうち、将軍に地位を認められ、俺から見たら三好長慶として全てやるべきことをやったように思う」
「それなのになぜ、三好長慶という名前にしがみつき、周りの人間を苦しめる?お前が天下人になってまで求めたのはこれか?」
長慶、俺にとって長慶は大恩人だ。だからこそ言わねばならない時もある。
「それは……」
「それでもまだやるべきことがあると言うなら、俺は止めない。三好長慶として生きて三好長慶として死にたいなら」
「わたしは……正直なところこれ以上、やれることは無いのかもしれない。それでも、久秀はわたしを守るために蠍と化している、それを止めなければ……」
なるほど、久秀さえ止めればいいと、ちょうどいいな。
「と言うことらしい、久秀」
部屋の外に控えていた久秀を呼びつける。
「そうでしたか、わたくしが……長慶様の重荷になっていたとは……」
「……まあ、久秀の気持ちもわかる。わかるが、それでも、これ以上長慶を君臨させ続けるには理由が必要だ」
「「俺にとって長慶は大恩人だよ、だから生きて欲しい」
何も恩を返せていない、長慶が死んでも長慶は困らないが、俺は困る。生きる理由なんてそれでもいいだろう。
「そうですか……」
「だから……三好長慶はここで死んでくれ、千熊丸、いや………千」
〜〜〜〜〜〜
あのぐだぐだな告白の後、長慶は自分の部屋にもどった。茶室にはいつもの三人と俺が残って席を少し外していた清良が清酒を持ち込み、酒宴の場になっていた。
「政頼、私は君のことが好きだ。夫にするなら君以外はいない、君と一緒に過ごしているうちにそう思えて来たんだ」
「政頼様なら、私のことも好きにしていいですよ?私は政頼様以外には絶対に仕えませんし裏切りません、一生共にします」
「わたしは政頼のことを愛してます。あの時からわたしはあなたの剣で……あなたのものです」
しばらくすると完全に酒が入った三人によるアピール合戦になった、どうして。
きっかけは酒が入った具教がキスをせがんできたところから、頭を撫でながらキスしてやると、「政頼は具教ばっかり甘やかしてるね、私にはなんにもしてくれないし」「いくら正室候補だからって甘えすぎですよ、私なんて政頼様に接吻すらしてもらってないです」と、酒で完全にブレーキがぶっ壊れた二人が暴走。
「わたしと政頼は両思いなので、当然です」
と、具教が火にガソリンをぶちまける暴挙をかました結果こうなった。
俺としては年上お姉さんの具教のことももちろん好きだが、清良のフランクな同世代感も好きだし、信教とも幼馴染だからこその距離感もある。相良のように信奈一本槍、といえるほど惚れ込んだ人はいない。まあ、武田信繁のことについてどう捉えるかは……。
まあ、武田信繁については正直結ばれる想像が一番つかないし、俺が畠山家当主である限り関ヶ原か、もしくは長篠で決着が着くことだろう。
その前にこいつらをなんとかしなければならない。
「本当に俺でいいのか、後悔しないか?」
「「「しないよ(しません)」」」
おおう、じゃあ真剣に考える必要があるな。
「じゃあ、今後の話に移るか、祝言を挙げるなら天下布武が終わった後になる。俺の正室はおそらく具教、お前がやることになる。一番年長者で家格があるから回りを説得しやすい」
「わたしが正室、ですか」
「実際のところ私や信教よりは具教の方が説得しやすいよ。君もわかってるみたいだけど」
北畠具教という姫武将のネームバリューは意外と大きなものがある。名門大名家であり、伊勢国司たる北畠家の前当主。個人としても剣術に長けて、新当流の免許皆伝。新陰流も上泉信綱から学んだという。
織田信奈は身分を無くしたいだろうが、俺自身が古き権威の一部である以上、相応の振る舞いを求められる。比較的制限の緩い男大名とはいえ、正室に取れる姫、もしくは姫大名は限られてくる。そういう意味で何も問題がないのが北畠具教だ。
だから北畠具教を嫁に取るのは既定路線だったわけだが……。予想外なところから恋愛爆弾が爆発した気分だ。幼馴染であり、いつでも一緒だった信教はともかく、清良までこうなっているというのはあまり想定してなかった。
「私は伊予の田舎武将だけど、君に部将として受け入れる。と言われたとき、ようやく自分の才能を十全に活かしてくれるであろう主君と出会えた。と初めて思えた。君じゃなかったら嫌なんだ、そんな君だからこそ、私を女としても見てほしい」
…………そっか、俺も姉にあんまりいい顔されて来なかったから気持ちはわかる。
清良の背中に手を回し、抱きしめる。
「政頼……」
そのまま柔らかな唇を啄み、舌を絡めてキスをする。
…………
……
その夜は、ずっと三人といちゃいちゃして過ごした。