野望も抱けずにひたすら生き残ろうとしてる畠山政頼さんの転生物語 作:区星
京、本能寺。
「何があっても信奈様には会わせないと、ふむ、そうですか。であれば──」
「おーほほほほ! わらわを邪魔だてしてこの部屋に入れようとしないとは、無礼な小姓どもですわね!」
「副将軍様のお力をお借りするしかないようですね」
朝倉義景が織田信奈の小姓によって連絡を遮断されていることに気がついたのは、上京の火災があってしばらくしてのことだった。
上京の再建案を提出しようとすると信奈様は病で起き上がれない、これが二、三日続いた。埒があかないので自身で向かうとこうなった。
「天下の副将軍、今川義元。ここに参上!ですわ!」
「二条城城代、朝倉義景です」
義元が小姓たちを薙ぎ払い、その合間を堂々と朝倉義景が歩いて進んでいる。
「ななななにしに来たのよ? 呼んでないわよ?」
「本来なら上京の再建、いえ大改造の提案を行うつもりでしたが、松永久秀謀反となるとそれどころではなさそうですね」
義景がいつもと変わらない表情で、淡々と説明を行う姿を見ていた信奈は、立ち上がって叫んでいた。
「……義景、もうなにもかも終わったのよ! ほんものの将軍が戻ってきちゃったし、上京をわたしが焼いたってみんな決めつけてるし、サルはわたしを裏切って浮気したし、そもそもわたしはサルに命じて播磨の妹を斬らせちゃったのよ! わたしはほんとうに第六天魔王になっちゃったのよ! もう独りぼっちだわ!」
「まあまあ。本能寺からぜんぜん出てこないでひきこもっているので来てみたら。信奈さん、本気で天下布武の事業を投げ出すつもりですの?」
「だって、わたしは仲間を裏切って見放されたんだもの! 独りぼっちで覇王の道を進むなんて耐えられないわ!」
ぱちいいん。義元が信奈の頬を強く張り飛ばしていた。
「信奈さん? あなたはいつから、そんなに弱くなりましたの? 桶狭間で戦っていた時の凜々しかったあなたはどこへ消えましたの?」
「あの頃のあなたはみなからうつけ者とバカにされようが、誤解されようが、そのようなことなどいっさい気にせず、自らが信じる道を突き進む真の英傑だったはずですわ! それが少しばかり偉くなったからって、お寺にこもってくよくよと泣いて愚痴ばかり! あなたはほんとうにあの織田信奈ですの?」
「……義元」
「あろうことか……この、わらわを倒しておきながら! あなたは今川義元にかわって天下を統一する宿命を、自らの手で、自らの勇気でたぐりよせたのですわよ! 寡兵でもって、大軍勢を率いていたこのわらわを倒したのですわよ! それなのに」
「戦いもせずにあきらめてしまうだなんて、わらわは断じて認めませんわ!」
…………
……
「…………言いたいことは山ほどありますが、松永久秀を討伐してからにしましょう」
「義景、あなたにも迷惑かけちゃったわね。この借りは必ず返すわ」
「私より義元様に感謝された方がよろしいかと、私ではあれほど的確に叱咤はできなかったでしょうから、人には適任という物があります」
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時間は二日ほど前に遡り、勝瑞城から更に西に進んだ矢上城。
「さーて、長宗我部軍も動いたぞ。ここで雌雄を決することになるだろうな」
「君の言った通りに焦れて出て来たね、こうなるとある程度地力勝負になる。晴れならば根来衆も機能するし、ここでなんとか決着を付けたいところだ」
清良の言う通り、ここは勝負所だ。長宗我部勢は挟撃策が基本、本来ならあえて軍を割るのは愚策だが……そもそも指揮系統が複雑化しているため、ここは三好勢を挟撃対策に当てた方がいいだろう。
「三好勢には城の西側に陣取ってもらう、畠山勢の本隊、および根来衆は城の南、中富川の岸に陣取って迎え撃つ」
ともかくこれで長宗我部を引かせないことには今後が厳しくなる、毛利もいるんだぞ。
…………
……
「ふむ、わしらで長宗我部の別動隊を抑え込めと、畠山殿も無茶を言いおる。だが兵力は互角、ここで負けては将として言い訳が立たんのう」
赤沢宗伝が髭を触りながらこう呟くと、隣で馬に乗っていた十河存保が爽やかな笑みで宗伝に語りかけた。
「私が先陣を切る、宗伝。指揮は任せた」
「姫様、任された、わしが生きてるうちはこの陣、崩させはしませんぞ」
…………
……
迂回した香宗我部親泰の目の前に、三好勢が現れた。
「…………姉上の挟撃策が、読まれていた?!これはまずい」
「私が十河存保、この首取って功名とするがいい!取れる物ならな!」
思わぬ待ち伏せに浮き足立ったところに十河存保の突撃が突き刺さる、元から三千と数に劣る別動隊は大きく崩れた。
いかに香宗我部親泰が優秀だとしても、兵力に劣り、崩れた軍を立て直すのは難しい。
「皆の衆、敵は浮き足立っておるぞ!わしに続くのだ!」
「私の部隊も前進します、この機会を逃してはなりません!」
赤沢宗伝や篠原長房の軍勢も進み、香宗我部親泰に襲いかかる。
「これは持ちませんね、姉上、申し訳ございません……」
香宗我部親泰の率いる別動隊は散々に追い散らされて壊走した。
…………
……
一方その頃、畠山勢はというと。
「根来衆、流石に強すぎる件」
「流石は姉上、普段は忍び仕事で小金を稼いでいますが本領を発揮すればこの程度容易いでしょう」
津田算正が根来衆を率いるため、彼女の妹、杉ノ坊照算が俺の護衛にあたってくれている。重火力部隊である根来衆が、渡河中の長宗我部勢先鋒を完全に釣瓶打ち状態にしているため、状況は兵力の不利をものともしないぐらい有利に進んでいる。
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「これは………まずいですわね」
思ったより数が少ない畠山勢をみて、小手調べに本隊ではなく先鋒を渡河させようとした長宗我部元親であったが、根来衆の思わぬ火力を目の当たりにし、当惑していた。
「根来衆というと畠山政頼の秘蔵部隊、噂では雑賀衆に匹敵する種子島の量を誇り、大量の種子島で敵を粉砕するとは聞きましたがこれほどとは思いませんでしたわ……」
「お姉ちゃん、ここは一旦引いた方がいいかも!根来衆も種子島は多いけど畠山家も種子島は多そうだし、このままだと押し切られるよ」
それでも、と元親は言い張った。
「親泰ちゃんの別動隊が挟撃に成功すれば、まだひっくり返せるわよ、お分かり?」
「それが、三好勢に待ち伏せされており、兵力差もあって壊走したそうです」
重臣の一人である、久武親信がこう発言すると。元親の顔色が一瞬で変わった。
「……それはわたくし達が挟撃される側になった、ということですわよ?!お分かり?!」
「私が突撃し、時間を稼いで参ります。元親様はその隙に撤退を」
久武親信が殿を打診する。
「…………わかったわよ、わたくしを逃した後は必ず生きて帰りなさい、親信」
「元親様のご命令ですが、それは難しいでしょう」
親信は馬に乗ると、思い出したかのように元親に言い残した。
「そうそう、私の妹の親直ですが、優秀ではありますが主家に殉ずる志がありません、重用なさらないでください」
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香宗我部親泰の別動隊が壊走したので、おおよそこれで王手だろう。
まだ長宗我部元親の一万六千の本隊が残っているが、三好勢が西側から戻ってくるまで持ち堪えれば勝ち。
少なくとも種子島の量が量なのでまあ流石に………。
「私が久武親信、長宗我部元親第一の功臣。狙うは畠山政頼のただ首一つ!突撃!」
久武親信の手勢、おおよそ千八百が中富川を渡り、突出して来た。
は?無謀か!?…………いや違うな、長宗我部元親本隊と信親の手勢は撤退を開始してる。
「政頼、とりあえず鉄砲隊で迎え撃とうか?これぐらいの兵力であればなんとでもなりそうだけど」
清良がこう言って来るが、土居清良と久武親信の縁を考えるとここで指揮を任せると撃ち殺しかねない。なるべく長宗我部元親と遺恨は残したくない、これ以上四国に囚われるのは御免だ。
「両翼の三好義継と松浦光に伝令を走らせろ、挟撃してすり潰す」
両翼の兵たちが戦線に加わり、久武親信の兵をじりじりと削りとっていく。ある程度削ったところで隣に居た具教に指示を出す。
「具教、捕まえてこい。実力差があるからなんとでもなると思うが、なるべく殺すなよ」
「わかりました、わたしに任せてください」
具教が旗本の先頭に立って飛び込んでいく、恐ろしいことに矢が当たる気配すらない。手の動きからしなやかに避けて交わして斬って進んでいく。
それなりに剣術をかじっているためその恐ろしさが身に染みて理解できる。
「にしても、これを敵に回さなくて良かったと言うべきか」
峰打ちとはいえ、馬上からあっさりと久武親信が叩き落とされ、背中を地面にしたたか打ち付けたようで動けないところを旗本に縛り上げられる。
長宗我部元親や香宗我部親泰はすでに撤退したようで戦場に姿がない。
勝ったな、引き上げるか。
…………
……
城に戻ると、長宗我部元親は一宮城の抑えの兵も吸収し、牛岐城まで撤退したらしい。