野望も抱けずにひたすら生き残ろうとしてる畠山政頼さんの転生物語   作:区星

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27話 交渉、そして。

 捕まえた久武親信と面会するために、一宮城の地下牢にやってきた。あんまり良い出来とは言いがたいが、毎食ちゃんとした物は持って来させているのでそれで許して欲しいところだ。

 

「私に一体なんの用事があるのです?言っておきますが、あなたに仕えるつもりはありませんよ?」

 

「そらそう、と言うか別にお前の引き抜きに来たわけじゃない。……率直に聞くが、お前から見て長宗我部と畠山に同盟を結べる余地はあると思うか?」

 

 親信は少しの思案すると、不敵な笑みを溢した。

 

「そもそも元親様は信奈様にわざわざ逆らう意図などありませんし、そのためにわざわざ斎藤利三の妹を義妹にしているぐらいです」

 

「俺としてはそれでは困るわけだ、臣従するか敵対するかの二つに一つ、蝙蝠のようにあっち行きこっち行きされては困る」

 

 少し呼吸を整えて,さらに続ける。

 

「と言っても阿波戦線に長期間張り付いて居られるかと言われるとそう言うわけでもない、播磨の蹴りが着く前に相良の支援に動きたい」

 

「少々の譲歩はしてくれる、と言うことですか」

 

「まあ、その辺りの交渉は土居清良と詰めてくれ」

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

「と思っていたんだが、時間切れだ。妥結出来る最大限の条件で和睦を貰いにいくぞ」

 

「畿内で何か変事でも起きたのかい?君にしては珍しい焦り様だけど」

 

 その通り、松永久秀が謀反を起こし。興福寺に攻めかかっているらしい。それ自体は信奈自身が何とかしてくれるだろうけれど、それはそれとして事実上播磨が時間切れである、これ以上阿波に長居していられない。

 

 と言った事情を軽く説明し。

 

「毛利もそろそろ播磨に着く、これ以上阿波戦線に兵力と時間は割けない」

 

「……結構まずいね、毛利が播磨を抜くと次は摂津、摂津は元々有力国人であった池田勝正が失脚して以降、これと言った支配者がいない。京まで一直線だ」

 

 河内和泉、根来衆の兵力を根こそぎ連れてきた以上播磨を抜かれるともはや止めようがない。

 

〜〜〜〜〜〜

 

 阿波、牛岐城。

 

「…………南阿波の割譲、久武親信の身柄返還。停戦八ヶ月。ね、あまりに緩すぎるわね、親泰ちゃん、これが何を意味するか。お分かり?」

 

「ここで和睦交渉をせざるを得ない事情が畠山家にもある、と言うことでしょうか」

 

「そうね、会ってみないとわからないけど。この条件なら和睦を受け入れても支障はない……どころか大分わたくし達有利な条件でしてよ」

 

 どのみち家臣団でも高位の家老である久武親信を返還してもらえ、かつ奪った城は返さなくていい。どころか停戦まで貰えるのだ、元親としても受けて損なし、どころか受けない理由がない。

 

「ここまで緩い条件になる理由は気になりますが、伊予軍代であった親信様の身柄が帰って来るなら、今後の伊予攻略にも繋がりますし、承諾しましょう」

 

〜〜〜〜〜〜

 

 ところ変わって、大和、多聞山城。

 

 松永久秀は織田信奈への忠告と近衛前久の策略の報告を終え、ふと思い出したかの様に畠山政頼の話題を出していた。

 

「信奈さま、畠山政頼にはお気をつけを。あの者は相良良晴とも違う視座で現実を見ております、あの者自身は飛び抜けた才覚を持ちませんが、その視座だけは異質で異常です。恩義に篤いので信奈さまが不義理かつ政を軽んじなければ裏切りはしないでしょうが……」

 

「デアルカ、つまりはわたしが道を踏み外した時の戒め、というわけね」

 

 ある意味では、織田政権におけるダモクレスの剣であると言えるだろう。

 

「今頃は、河内和泉に加えて阿波讃岐、淡路を領国に加えているでしょう。信奈さまとの関係を、なるべく対等に保つために」

 

「…………あいつを同盟に加えたのは失敗だったかしら、竹千代ほど扱いやすくはないし」

 

「もし畠山政頼を同盟に組み込んでいなければ、姉川で朝倉義景に信奈さまの首を奪われていたかもしれませんわね」

 

 …………気まずい沈黙が流れ、久秀は話題を変えた。

 

「それより、先程長慶さまがお隠れになったといいましたね。実は……あれは嘘ですわ」

 

「へっ?でも長寿の法の完成は出来なかったんでしょ?」

 

「長慶さまの病の原因は天下人として振る舞うことで集中する暗殺や呪詛。天下人として長慶さまがあり続ける限り、呪いや呪詛は絶えませんでした。ですが、天下人であることにこだわるのをやめてしまえば」

 

「そうね、弾正の傀儡を使えば死体も偽装が効くし、確かに合理的ね」

 

「これを主導したのはわたくしではなく、畠山政頼です。将軍襲撃や信奈様の上洛によって、世間は長慶さまのことを既に忘れ去っていますが、長慶さまは姫武将として一級品です。彼女を畠山政頼に渡してしまったのはわたくしの最大の失敗かもしれませんね」

 

 …………

 

 ……

 

「信奈さま。今宵のように、天にほうき星があらわれた時はご注意を」

 

〜〜〜〜〜〜

 

 牛岐城で長宗我部元親と対面することになってしまった。交渉過程で長宗我部元親本人が俺と話したいと言い出したので、流石に断りにくい。

 

「わたくしが長宗我部元親よ、あなたが畠山政頼……意外にも噂で聞くよりは美男子ですわね」

 

 ちょっと顔が赤くなってるのは気のせいだろう、多分。

 

「下剋上の天下人、三好長慶に通じ、姉から畠山家の家督を奪い取った悪逆の輩。その三好家が長慶の死後衰退すると織田信奈に積極的に乗り換えた蝙蝠。世間ではこんな評判か?」

 

「その通りですわね。わたくし、もっと悪辣な人相を想像していたのですけれど」

 

「期待に添えなくてすまんな」

 

 さて、雑談は終わりだ。本題の方に移ろう。

 

「和睦、でしたわね。停戦八ヶ月、南阿波の割譲、および久武親信の身柄の返還が条件」

 

「そのことなんだが……追加で提案がある」

 

 これは呑まなくても別にいい、関ヶ原における長宗我部元親の動向自体は重要ではあるものの、致命点にはなり得ないから。

 

「俺と同盟を結ばないか?期限は長宗我部家が伊予を攻略し終えるまで、もし元親、お前が伊予を攻略し終えた後、俺との同盟に価値がないと思うなら勝瑞なり一宮に攻め込んでもらって結構」

 

「それはわたくしに蝙蝠として動くことは許さない、味方に着くつもりがあるなら今のうちに、と言うことかしら?」

 

「そうだな、こちらも伊予の事情はある程度握っている。長宗我部家の伊予攻略は俺にとっても対毛利という点で利点がある。伊予には幾つか策を伏せてある、同盟を結ぶならそれを開示してもかまない。長期的に見ても長宗我部元親が伊予を抑えることは畠山家の不利益にはならない、だから俺としても後押しをしたい」

 

「まあこれに乗らないなら乗らないで相応の対応は取るが……」

 

 あくまで一例を挙げるなら河野家や来島村上水軍、毛利家へ長宗我部軍の情報を横流しする。他にも停戦中に淡路水軍を用いて交易の阻害であったりとやれることは色々とある。

 

「つまりわたくしに、毛利の後背を付ける立場になって欲しい。とそういうことなのね?」

 

 元親はこう語ると、しばしの間考え込んだ。

 

 …………

 

 ……

 

「決めましたわ、あなたのその提案。乗ってあげますわよ」

 

 よしよし。これで第一段階はクリアだ。

 

「その代わり……わたくしの夢、四国統一を挫折させた責任は取ってもらいますの。お分かり?」

 

「まてまてまて、聞いてないが?」

 

 おかしい、こんなはずでは。

 

「わたくしの夢を打ち砕き、あまつさえ自分の利益に取って都合の良い方向に動いてもらう、そんな甘い考え、戦国では通用しませんことよ」

 

 ちゅっ。唇を急に近づいて来た元親に無理矢理奪われる。想定を全くしていなかった為に反応がおくれた。

 

 …………こういうことかよ!?

 

「ぷはぁ……わたくしといずれ祝言を挙げるか、もしくは親泰ちゃんでも親信でもいいですけれど嫁に取ってもらいませんと収まりませんわ。お分かり?」

 

「いや、俺には既に恋人関係な姫武将が居るんだが……三人も」

 

「それでもいいですわよ?わたくしを一番にしろ、ともいいませんわ、わたくしに対して責任を取って下さるのなら。お分かり?」

 

 まいったな、これはもう説得出来ないぞ。

 

 …………

 

 ……

 

「政頼、君さぁ……面倒ごとを増やさないでくれるかな?」

 

「政頼様は本当に女たらしですね。思わず嫉妬の炎が吹き出しそうです」

 

「わたしが正室なのは譲りませんよ、政頼はわたしを籠から解き放ってくれた、大切な人です」

 

 ……うぉ、清良は完全に呆れてるし、信教は嫉妬してるし、具教は対抗しようとしてる。

 

 いやまあ、なぜか元親に気に入られて『わたくしと結婚しろ』されたのは申し訳ないと思うけどさ。

 

「これ俺が悪いか?」

 

「政頼様、ご自分の評判をちゃんと理解しておられないようで。政頼様は三管領家の一つ、畠山家の当主であり、足利幕府の管領です。当然畿内の姫武将は政頼様と結ばれれば玉の輿になるので政頼様のことを虎視眈々と狙っています」

 

「長宗我部元親も父である国親の代では一介の国人に過ぎませんでした、そういう意味では政頼様を射止めてしまえば家格を大きく上げつつ上手くやれば畠山家を取り込めるわけです」

 

 どうです?ご理解いただけましたか?と微笑む信教をみて、ちょっとだけかわいいな、と思ってしまったのは内緒だ。

 

「これ以上恋人候補を増やされると色々と困る、君に近づく姫武将の中にはよからぬことを企む人もいるだろうし、私たちで精査するにも限界はあるからね」

 

 おおよそその通りであった。不服はなかった。

 

 

 

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