野望も抱けずにひたすら生き残ろうとしてる畠山政頼さんの転生物語 作:区星
「ところで、政頼。根来衆をそろそろ紀伊へ戻しても良いのでは?なぜ天王寺砦に置いたままにしている?」
首を傾げる清良に俺から説明しようと思ったが、より適任な人物がいることを思い出し、彼女に話題をふる。
「……算正、お前から説明しろ」
「これは雑賀衆の一部から漏れた情報なのですが、上京の火災、及び反信奈派がばら撒いた悪評の影響によって、本猫寺内で反織田信奈の気運が高まっています」
根来衆の長である津田算正から説明をさせる。畠山家も旧三好家も本猫寺に対する抑えとしての力をもたない。特に旧三好家は不倶戴天、とまではいかないものの関係はすこぶる悪い。長慶にしろ、義継にしろ動いていい方向には働かないだろう。となれば蜂起は避け難い。
元々三好長慶は父親を本猫寺の一揆に殺されている、彼女や三好家の一族では和平のやりとりは難しい。幕府を頼るにも足利義栄自体俺や三好家に近い認定されているし、今川義元は計算が立たないのでなるべくなら頼らない方がいい、失敗した時が面倒だ。強いて言えば朝倉義景だが……俺からはあんまり話せる相手じゃないんだよな、信奈の方がいい。
とっとと捕まえたい影の軍師(武田信虎)の足取りや動向をはっきり掴めてない以上、こうなることはやむを得ない。
「なるほどねぇ、根来衆は備え、というわけか。とはいえ本猫寺は今はまだ停戦中。不要な緊張を招きかねないような気もするが………」
なおも不思議がる清良を抑えるためにさらに言葉を紡ぐ。
「正直言えば暴発して天王寺砦を抜かれたら八割負けという感じではあるんだよな、念のため淡路水軍にも増援を要請しておくか、毛利が動くなら海だろ」
正直なところ、本猫寺が蜂起したとなると河内和泉の兵力はかなり制限を食らうことになる。その際に長宗我部元親が背けば讃岐阿波は手放さざるを得ない。だから先手を打って旧三好勢力を吸収し長宗我部元親にふたをしたわけで……。
〜〜〜〜〜
大阪湾、海上。
「ひーふーみーよー………毎度!」
大安宅船の上で大量の銭を数えながら媚を売る姫武将がそこにいた。
「貴様が俺の味方をするとはさすがにお嬢も想定外だろうな、菅達長」
「へっへっへ、大阪湾の道案内だけでこれだけもらえるんは、さすが大毛利家!」
「道案内ご苦労様だった、菅達長」
小早川隆景がそう告げると、菅達長はへこへこと頭を下げ、
「小早川のお嬢様にそう言ってもらえるとは嬉しい限りですわ、ほなワタシは帰らせてもらいますわ」
こう言ってその場を去った。
…………
……
「お嬢、あの女。どう思う?」
「銭で動く人間ではないのにあたかも自分を銭で動く人間かのように偽っていて、信用ならない、おそらく淡路水軍の中で自分は毛利に付くという主張をすることで毛利と織田、どちらが勝っても生き残れるようにするためだろう」
小早川隆景は不信感を露わにしていた。
一方その頃、菅達長は自身の関船に戻っていた。
「ワタシは毛利が勝つとは思いませんよ。ですけど、淡路水軍が生き残るなら外れくじを引く人間も必要です」
さて、畠山政頼。あなたはこの窮地、どう生き残りますか? ワタシはすでに賭けました。あなたが賭ける番ですよ?
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前日。淡路、庄田城。
船越景直は菅達長から送られてきた書状をみて表情を引き攣らせていた
「達長……淡路水軍を割るつもりか?とはいえ、この情報は好都合」
家臣を呼び出し、手紙を持たせる。
「うちで一番速い船を用意しろ、一刻を争う情報だ」
指示を出したあと、この情報の重みを再度実感する。
「はー……」
村上水軍と戦いになることを想定し、景直はぶるりと武者震いをしていた。
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村上水軍が動いた、という急報を船越景直が知らせて来たのは淡路水軍に増援を依頼した翌日のことだった。
「チッ、入れ違いか」
村上水軍を相手取るには淡路水軍では完全に不足している、地の利はあれど、練度も船の量も足りてない。
正直なんともならんと思うが、村上水軍を素通りさせるわけにもいかない。
「安宅信康、森村春、船越景直に伝えろ。石山本猫寺に蟻一匹通すな」
「ただ……通した場合は仕方ないから深追いせずに淡路に撤退しろ」
まあ、全力の村上水軍に勝てるほどの練度を淡路水軍に期待するのは流石にどう足掻いても酷だ。
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「うそやん、織田方の水軍は堺に釘付けのはずやろ、淡路水軍も村上水軍の道案内しとるって聞いたねんけど」
毛利の輸送船の上に乗った村上元吉と雑賀孫一が頭を抱えていた。
「残念ながら淡路水軍は村上水軍ほど統制が取れては居ねぇ、毛利家に味方する者も居れば畠山家に味方する者も居る」
「しゃーないな、海戦になるか」
…………
……
「ちっ、速い。速力に差がありすぎる」
焼け落ちる大型船を見ながら船越景直は吐き捨てた。毛利の兵を積み込んでいるとはいえそれ以外の小早船や関船の速度で負けている。加えて地味に船上でも雑賀衆の銃撃に乱れがないのが厄介だ。
とはいえ海上の潮の動きは村上水軍以上に彼女達は知悉している。故に……。
「潮の流れはそろそろ変わるな、ここらで引いとかないと困るぞ」
そう呟く景直に飛び移ってきた安宅信康が声をかけた。
「こちらの船は全軍撤退です、これ以上は戦いにならないでしょう」
「森村はどうした?!」
「既に撤退を開始してます、引き時ですよ」
「わかった、全軍撤退!」
完全に村上水軍有利になる前に撤退の判断を下せたのである。
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「………結構手痛い被害を被ったな、親父にどう言い訳すりゃいいのか……」
「しゃーないやろ、元吉。ウチらのような足手纏い連れてきてるんや、しかも相手は淡路水軍、ここの海は庭やで、壊滅せんだけマシやろ」
「とはいえ兵糧の半分近くを焼かれたのは手痛いな、正面の大型船は囮とは……」
「今回の経験を糧にするんやで、次の村上水軍の大将はあんたなんやからな」
自分たちの練度では村上水軍に敵わないと判断した淡路水軍の面々は、大型船を囮にし、関船小早船を用いて潮の流れを生かして兵糧を運ぶ船を焼き払ったのである。
…………
……
淡路、洲本城。全力で撤退した淡路水軍は淡路で最も大きな港を持つこの城に集結していた。
「敵方の兵糧の損失は目算で三割、潮の流れが変わる前に引き上げたなら上々か。信康、その後の雑賀衆の動きは?」
問う景直に答えたのはこの城の主である安宅信康。彼女の船団も被害はそれなりに大きい。
「石山本猫寺に入城しました、おそらくは籠城戦になるでしょうか」
「となると、天王寺砦が要衝となるか……政頼殿が根来衆をあそこに入れた以上激戦になりそうだ………」