野望も抱けずにひたすら生き残ろうとしてる畠山政頼さんの転生物語   作:区星

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30話 地獄

 

「政頼、私を抱きしめて欲しい。雑賀衆の入城を許した以上、天王寺砦は……おそらく正気のままでは守れない」

 

 そう言う算正は、いつもの忠実な同盟者ではなく、友人である津田算正そのものだった。

 

「しょーがないな、いつもありがとう、算正。これからもずっと俺の側に居てほしい」

 

「俺の側、か、政頼。そういうところだぞ?」

 

 どこか照れたように微笑んだ算正はこの世の何よりも、儚く、消えてしまいそうだった。

 

 ……自覚はないわけじゃないけど、多分これは変えられないと思う。

 

 さて、戦況に話を戻すと、本猫寺の門前にけんにょが走り寄ってきたところにブスりと矢が刺さったことで開戦と相なった。

 

 根来衆は天王寺砦から動かせないし、矢を打ち落とすにしろ飛んできた方角がわからないと厳しい。うちにも六角承禎に匹敵する弓の使い手は居るのだが、距離もどう足掻いてもきびしい距離。無理っす。

 

 天王寺砦に籠るのは根来衆3000畠山勢3000、に対するは毛利1万に雑賀衆2500?ちょっと待て、なんで雑賀衆は半分?……そうだ、原作だと渡河する明智光秀に対応するために割いているのか。

 

 戦力は倍だが毛利は弓中心、実質的な戦力として計算を立てられるのは雑賀衆がメインと見ていいだろう。

 

 織田信奈が基本案通りに動いてくれれば、天王寺砦と織田信奈の手勢で挟撃ができるはず。はずなんだけど。

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

「孫一さま、あれは紛れもなく根来衆です!あの練度で弾幕を張れる種子島部隊は日の本広しとはいえ雑賀衆を除けば根来衆しかいません」

 

「そないなこと今さら言われても困るわ!あかんあかん、根来衆相手にするんやったら孫六呼び戻さへんかったら話にならへんで」

 

 大種子島を投げ渡そうとすればその種子島を撃ち抜かれるほどの精度と弾幕に本猫寺を出た雑賀衆と毛利勢は足を止めざるをえなくなっていた。

 

「蛍、孫六を呼び戻さへんと話にならん、呼び戻してくれへんか?」

 

「了解です」

 

〜〜〜〜〜〜

 

「説一切法清浄句」

 

 算正の放った大型の種子島の弾丸が雑賀衆の攻め手の首を一撃で撃ち抜く、断末魔さえ彼女の弾丸の前では許されない。

 

「所謂『妙適』清浄句是菩薩位」

 

 それでも押し寄せる毛利と雑賀の連合軍、彼女は手を止めずに撃つ。

 

 一発の弾丸で毛利の大将格を正確に撃ち抜き、本来ここで孫一が行うはずだった凄惨な殲滅戦を、倍近い敵兵相手に行っていた。

 

「『欲』箭清浄句是菩薩位」

 

 (私は真に理解したのだろう、幼き頃から唱えたこの経の本質を)

 

 (私が彼のことを好きになってもいい、彼の側にいる人から奪いたくなってもいい。それはごくごく当たり前に人が抱く感情で……それは本来全てがとても清浄なものなのだから)

 

 目を瞑り溜まった疲労を回復させながら集中を高める。水面のように静まった感情をより鋭く、より強く決意を整える。

 

 (いまの私は一発の弾丸、あなたを守るために放たれた弾丸、今だけは何も考えず。あなたの道を遮る者を殺すだけ)

 

〜〜〜〜〜〜

 

「孫六様、撤退し、孫一様と合流を!」

 

 平野川の手前、天王寺砦の東側に陣を敷いていた、雑賀孫六に急報が伝わっていた。

 

「ええ〜でも、織田軍も来てないよ?」

 

「天王寺砦に籠るのは畠山政頼の手勢三千に加え、根来衆も加わっております。別働隊を割いて数で劣る孫一様では如何ともし難く……」

 

 仕方ないお姉ぇを助けると思って、と孫六は一人呟くと。

 

「全軍、天王寺砦へ転進、お姉ぇを助けるよ!」

 

〜〜〜〜〜〜

 

『天王寺砦に籠る畠山政頼が三方向から包囲され、根来衆と共に交戦中』

 

『根来衆と長の津田算正が悪鬼羅刹のような狙撃により時間を大きく稼いでおり、まだ持ち堪えそう』

 

「守口砦の光秀と合流は出来たけど、この状況ではどうしょうもないわね」

 

「しかし、政頼。あんた、虎の子の根来衆まで持ち出して。まるでこの戦いに負けたら滅亡するかのような……」

 

 ……そうね、あんたにとってはすでに負け戦よね、にゃんこう衆の一揆が起きればそれまで内政を行って来た土地は全てやり直し。この戦いに負けてわたしが倒れれば河内和泉どころではない。

 

 長引けば四国も離反するかもしれないし、積み上げたもの全てを失うことになる。

 

「馬を引きなさい、旗本衆以外の兵力もある程度揃えたわ!」

 

 止める旗本を無視して、信奈は続ける。

 

「勝算は5分だけどこれ以上時間を掛けても良くならない、乾坤一擲の勝負よ!」

 

〜〜〜〜〜〜

 

「虎の子の根来衆を投入してまで天王寺砦を守ろうとするとは、畠山政頼。負ければここで織田信奈と心中することになるのだぞ?正気なのか」

 

 まるでここが勝負所と戦力のことごとくを投入する畠山政頼に、小早川隆景は武者震いが止まらなくなっていた。

 

「ともかく目の前の九鬼水軍を打ち破り、制海権を取り戻すしかない」

 

「だがお嬢、九鬼水軍を撃滅したところで、陸で負けたら取り返しがつかないぞ」

 

 隆景はやむを得ないと、唇を噛み締め。

 

「本猫寺に送り込んだ兵を全て天王寺砦攻めに投入する。門徒のお守りをしている余裕はない」

 

〜〜〜〜〜〜

 

 この時、最悪だったのは、雑賀衆別働隊と雑賀衆本隊および毛利軍本猫寺勢の合流より、織田信奈の率いる6000の軍勢の衝突が若干信奈の方が遅かったことである。

 

「まずいな、このままだと信奈が数で押し潰される、かと言って天王寺砦を出たら雑賀衆の思う壺」

 

 凄惨な銃撃戦、しかも先程と同等の種子島の数、しかも野戦である。

 

「勝てないのは分かりきっているけど、このまま見過ごすわけにもいかないね」

 

 同調する清良を見ながら思案する。どうにかならんもんか。

 

 ……おい待て、信奈。この状況で一騎打ちとかおいバカ。

 

「「あ」」

 

 お互いに種子島を足に被弾したのか、馬上から転落した信奈を天王寺砦に収容することになってしまった。

 

 これで進退極まったことになる。普通に考えればこの状況でなんとかする手なんて天地がひっくり返ってもありはしない。

 

「政頼様、応急処置を行い、信奈様をお連れしました。

 

「不様というか、申し訳ないというか。変に希望を持たせたせいでわざわざ死地に来させてすまんな」

 

「あんたをほっといたら摂津戦線どころか畿内支配が崩れるからいいのよ、ところで弾薬は?足りてないでしょ」

 

 よくこの状態でそこまで気が回るな、本当に。

 

「……ま、持って半刻だ。相良がなんか変なことでもしない限りは腹を切る準備でもしておくんだな」

 

 本当に相良が間に合わんかったら死ぬしかない。ここまで相良になんとかしてくれ……!をお祈りするのはやってられんが。




 えー大変更新が遅くなり申し訳ない
 天王寺砦に兵力を突っ込んだ辻褄合わせに苦労したので遅くなりました
 なんとか生きている間には完結させるのが願いですが、ちょっとこのペースだとなかなか……
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