野望も抱けずにひたすら生き残ろうとしてる畠山政頼さんの転生物語 作:区星
鉄砲水で宙を舞う鬼宿丸を見て、流石の俺も絶句した。
……船って空飛べるんだなぁ……。
「鬼宿丸から兵の回収を援護しろ、多少砦の防護が薄くなっても構わん!」
気をそっちに回してる暇はない。三種の神器があの船の中にはある。アレを奪われたら洒落にならん。
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「お姉さま、三種の神器を用いて!『天岩戸開き』で砦を包囲する敵を蹴散らす以外にお姉さまが生き延びる手段はないわ」
櫓の上層で信奈と相良、それに氏郷が三種の神器と天岩戸開きの正体について議論を交わす中。
「まいったな。ここまで手痛い目に遭うと思わなかった」
櫓の下で家臣団と話し合いを取ることにした、幸いなことにわずかながら時間がある。腹を括るには十分だ。
「どうします?腹を切ります?それともわたしと一緒に……敵陣に切り込んで討ち死しますか?」
北畠具教にはわたしと一緒に死にますか?と言われるし。
「後者、と言いたいがそれだと俺の方が先に死にそうだ。信奈が決断できないなら俺も砦を枕にして死ぬ方がマシかもなぁ」
「君と一緒ならどこでもいいかな。心中でも。斬り死にでも」
土居清良に話を振ったら重すぎて困惑したし。
「政頼様の首印を誰かに奪われるのは嫌ですので斬り死にはやめてもらえると助かります」
遊佐信教は相変わらず忠実なのか自分本位なのかよくわからないし。
どうにもこうにもうちの家臣はまとまりがない。
「………時間切れだな」
爆音を響かせていた天王寺砦から種子島の音が止んだ。弾薬切れだ。
「デアルカ、政頼、相談せずに決めてごめん。手遅れになる前に発動させるわよ! それでしばしの間、敵の猛攻は止まるはず! その先のことはその時決めるわ!天岩戸開きをはじめるわよ。左近、そしてレオン!」
「申し訳ないが時間切れだ、お前がどんな決断をしようが俺は見守ることしかできん。せいぜい悔いのないようにな」
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“この世界”の織田信奈がどのような選択をするのか、少なくとも……天岩戸を開かない織田信奈じゃなくて助かった。
「一宮随波斎、随波斎は居るか?」
「は、はい。ここに」
「限界まで弓を構えて準備をしておけ。もし……天岩戸を上がろうとする者を撃ち落とそうとする者が居た時は……」
「誰であろうと許すな」
随波斎ほどの名人なら矢や種子島の音からの逆探知も可能だろう。たとえ……相手が天下一の弓や種子島の名人であろうとも。
正直なところ、相良は上がるだろうと確信していた。だから相良の行動には驚かなかった。
「良晴! あんた、なにもあきらめないって散々言っていたじゃない!それなのに━━こんな中途半端なところで━━よりによって、このわたしをあきらめるわけ?」
……ああ、やっぱりあなたはそれを選んでしまうのか。
「随波斎、一撃でいい。その代わり………、確実に当てろ。神経を引き絞ってどこから来るのかを感じ取れ」
これで相良は……救われる。一人の姫武将の恋路と引き換えに。
「こんなものは戦略でも戦術でもなんでもない。ただの憂さ晴らしだ。だがな、俺にも納得いかないことの一つや二つぐらいある」
「政頼……」
頭上で相良と信奈が接吻し、その直後。種子島の轟音が響き渡っていた。
「随波斎!」
………随波斎はそれでも沈黙し、銃声が繰り返され。
相良の背に2本の矢が同時に突き刺さる、その瞬間。
「そこ!」
叫んだ随波斎の限界まで引き絞った弓から一本の矢が放たれ、そして……。
…………
……
「ぐっ!」
「親父っ」
遠くから狙撃していた射手の六角承禎の親指を的確に持っていっていた。
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打ち落とされた相良はそのまま砦の背後の鉄砲水の中へ落ちていき、天岩戸は閉じられてしまった。
生きてるといいなぁ、生きてるか……まあ、一人だけ確認できる人間がいると言えばいるんだが。