野望も抱けずにひたすら生き残ろうとしてる畠山政頼さんの転生物語   作:区星

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32話 来客、二人。

 信奈を含めた織田家中が相良がいない中で空元気を発揮している中で。

 

「もしかして……先輩はもう戻ってこないのではないですか」

 

 光秀が短筒をせっせと磨きながら、そんな禁句をぼそりと口走った。

 

 一同がしーん、と静まりかえってしまった。

 

「じゅ、十兵衛。みんな良晴がいないからって落ち込んでいたら、良晴に悪いと思って、空元気を出してるんじゃない。ねねなんて、まだちっちゃいのにけなげなものでしょ? たまには空気読みなさいよ」

 

「でも。信奈さまたちは、先輩が見つからなかった場合、この先何十年も先輩が生きているという前提でお芝居を続けるですか?」

 

「フハハハハ、安心したまえ、相良良晴は生きているぞ? どこにいるかはわからんがな」

 

 末席にてコロコロとサイコロを振っていた池田勝正が、高らかに宣言した。

 

「本当なの? 勝正、嘘だったら三条河原にその首を晒すことになるけど」

 

「この魔眼が指し示す預言を辿れば、相良が生きていることは確実よ」

 

「そ、そう。よかったわ」

 

 場の雰囲気がまともになって安堵する一同。しかし。

 

「ただ━━本当に相良が何もなく、あの落下から生還しているのなら……、逆に今生きて魔眼に映るはずがないのだがな」

 

 勝正が小声でボソリとこぼした一言を、迂闊にも織田家の面々は聞き逃してしまっていた。

 

 〜〜〜〜〜

 

 大きな被害が出た根来衆の再建以外にこれと言ってやることがない、と言うよりは打てる手を打ち切ってこちらが動いてなんとかなることがない。

 

 鉄甲船や村上水軍への対策を考えたところであんまり意味はないし、四国への工作も終わってしまっている。毛利に関しては来島村上水軍という地雷が爆発するのを待つ状況だ。

 

 残念ながら地雷を起爆させるスイッチを握っているのは長宗我部元親なのでこちらとしては如何ともしがたい。

 

「……暇だ」

 

「わたしを構ってください。戦もないですし、しばらく体を動かすこともなさそうです。ここは一つ、あなたとわたしで手合わせを」

 

「政頼様、暇を持て余しているところ申し訳ありませんが。士官したい人が……」

 

「……全く思いつかないな、誰だよいったい。こんな暇なときに限って」

 

 ……迎え入れる、すると。

 

「恥を忍んで頼む、俺をアンタの家臣にしてくれ! このままじゃ家臣団を食わせられねぇ!」

 

 土下座する富田長繁の姿があった。

 

 曰く、越前で反乱を起こしたのはいいが、本猫寺勢に乗っ取られ、自身も背後から斬りかかられるなど、危うく殺されかけてほうほうのていで逃げてきた、とのこと。

 

「与える土地がないからなぁ、旗本衆として組み込むならいいが」

 

 実際問題、俺の自前の、特に旗本の家臣団、というものはまあ割とアレではある。弱い、俺が指揮を取ってないと崩れる、当てになる指揮官がいない。という三拍子そろった弱さなので優秀な指揮官は歓迎したい。

 

 具教は良くも悪くも暴の化身すぎて部隊の指揮を任せたくないし、清良は全体を見れる希少な人間だ。信教は論外、あいつは紙と交渉の場しか役に立たん。

 

「それでいいから、頼む!」

 

「それで、俸禄だが……」

 

「こ、こんなにもらえるのか……?今までの倍だ……」

 

 おおよそ月40貫、まあ高いが。越前の狂犬を雇えると思えばそんなに悪くないだろう。

 

 特にこの世界では人材を捕まえるのはなかなか難しい、うちはなにかと評判悪いし、相良の様に幼稚園やるわけにもいかないわけで。

 

「良い報告だよ、長宗我部元親が河野道宣を攻めて湯築城を落とした様だね」

 

 と、富田長繁を家臣団に加えると土居清良が話しかけて来た。

 

「村上通総は河野道宣の援軍要請を拒絶、長宗我部元親に臣従したね、君の目論見通り」

 

 これで毛利は背後を気にしながら戦わないといけなくなる。吉川元春の山陰勢はともかく、小早川隆景の山陽勢は大幅に戦力を削られるはずだ。であれば海戦の突破の選択肢しか残らない。

 

「……ところで、政頼。誰がこの報告をしてくれたと思う?」

 

 ん? まさかな。

 

「あたしだよ? 始めまして、あたしは村上通総と言います。以後よろしくね?」

 

 小柄な少女が飛び出して来た、歳は十二、三ぐらいだろうか。動きは小柄な中にバネがあり、戦えば強そうに見える。

 

「本当はお兄ちゃんが来るはずだったんだけど、あたし一人で守らせるのも不安だから、あたしが君に会いに来ることになったんだ」

 

「そうか、で。なんで俺にわざわざ?」

 

「そりゃあ……、君のおかげで独立できたんだからさ。あたし達の誇りを取り戻してくれた恩人には感謝しないとね?」

 

「誇り」

 

 心当たりはあるけど、そこまで感謝される理由もないというか……。

 

「そう、海賊衆にとって、それは命より大事なもの。海の上は自由、だからなんだって許される、でもそれがない人間はどんな裏切りも、どんな悪行もしでかせる」

 

 だから誇りは大事なんだよ?と通総は続ける。

 

「君は陸に縛られていたあたし達を解き放ってくれた、長宗我部元親もあたし達を縛ろうとはしなかった。君の差し金でしょ?」

 

「君のおかげで自由と誇りを手に入れたんだ、あたしに………あたし達に頼みたいことがあればいくらでも頼んでいいよ?命に換えても叶えてあげるから」

 

「わかった、通総。ありがとうな」

 

 通総の短く切り揃えた頭を撫でると、えへへ、と笑う。こういうところは年頃の少女らしいというか。

 

「それじゃあ、また何か頼み事があったらあたしによろしくね」

 

 そう言って村上通総は帰っていった。

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