野望も抱けずにひたすら生き残ろうとしてる畠山政頼さんの転生物語   作:区星

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36話 安土城へ

「おいおいおい、義景。そっちは地雷だぞ……味噌たこ焼きはやめとけよ……」

 

「政頼、味噌たこ焼きとはどのようなものなのですか……?」

 

 横で義景を一緒に監視兼護衛をしている具教に声を掛けられる。

 

「ああ、最高級のたこ焼きに最高級の八丁味噌を乗っけて台無しにする芸術的なダメそうなやつだ、ほらみろ、義景が渋い顔になってる。──義景のやつ、なにか考え……」

 

 唐突に閃いた表情になった義景は津田宗及にごそごそと耳元で伝えると、ニコニコと相良の元へ帰って行った。隣の今井宗久から買った揚げたこ焼きとネギ塩たこやきを両手に抱えながら。

 

 ということは、食べるところを探すはずなので茶屋とかに移動するはずだ。

 

 蒲生氏郷が扮するあずっちーが子供の集中攻撃を喰らっているのを尻目に、裏通りに入った良晴と義景を追跡する。

 

「いやあ、すげえな。至る所、芸人や屋台だらけだ。まるで東京ディズニーランドに来た気分だ。高校時代は彼女いなかったから、行ったことないけどな」

 

「信奈様が作り出した安土城に匹敵するとは、その東京なんとか蘭土とかいうところはさぞ素晴らしいところなのでしょうね」

 

「相変わらず、義景さんは信奈のことになると目の色が変わるなぁ、一体いつからそうなんだ?」

 

「宗滴おじいさまがいつもおっしゃってたのです、尾張の織田家の吉法師はお前などでは遠く及ばぬ天才だと、この目で目にして対話して、私は心の底から思ったのです。ああその通りだと」

 

 世界に関する見方そのものの幅が、広さが違う。私がせいぜい越前一国を安穏と統治している間に、信奈様は海の外を見ていらっしゃいます。と饒舌に語る義景。

 

「はっきり言えば、俺や義景はせいぜい上手くやれたとしても、将の将、地方軍の長や内地の国主がせいぜいだ。その上で光秀や信奈はそれ以上、国の統治者が出来る。そういう意味では武田信玄は大方近いが外に出さない方がいいな、アレは王はやれても交渉者は出来ない」

 

 ようやく追いつけたので口を挟む。交渉も出来ると交渉が出来るは別だ、多分甲相越一和は今回も北条氏康が死ぬほど苦労してまとめたのだろう。

 

「光秀さんも朝倉家で一時期、と言っても半月ほどですが、過ごされたことがありましたが、正しく信奈様に比肩する才覚と器量をお持ちの方です、というか管領様と具教さま。先ほどまでは影での護衛でしたが、ここからの護衛は私達の側でお願い致しますね」

 

「管領使いが荒いなぁ……まあ、どうせ信奈から呼ばれてるからいいが……」

 

「控えめに見積もっても剣豪に匹敵する剣の腕を持つ方を護衛に充てられるならそれに越したことはありませんので。私はさておき、良晴様の命は国一つに比肩しますから」

 

 ええっ!と声を上げる良晴に、信奈様の愛するお方ですので、当然ですとサラッと返す義景。いつもながら食えない女だ。

 

 しかし、それにしても安土城の混雑は凄まじい。人がゴミのようだ。

 

「西から毛利、北陸から上杉謙信、東からは武田信玄が上洛の兵をあげようとしているという時に、信奈は安土城に居残ってこんなお祭りをしている場合なんだろうか?」

 

「毛利は山陽軍が来島村上水軍と長宗我部と畠山の同盟で身動きが取れず、自ずと山陰軍に動きは絞られます。上杉と武田も同等の将器を持つ蘆名盛氏と伊達政宗の連合を背中に持ちます。小田原城を標的としたなら北条氏康は半年は持ちこたえるでしょうが、もし蘆名盛氏の支配する上野から信濃へ抜けたならまともに止められません。上杉謙信も武田信玄も後背のことを考えるなら速戦しか方法はないでしょう」

 

「毛利は長宗我部と畠山を叩きつければ事実上なんとでもなるとして、伊達政宗が動き出すという事実上の期限が存在する以上、武田信玄も上杉謙信も時間切れが存在する。どちらにせよなんとか足並みを乱して理想を言えば各個撃破、少なくとも時間を稼いでしまえばいい。ここまでが前提条件だ」

 

 議論に釣られたのか、竹中半兵衛がぴょこりと顔を出してきた。

 

「皆さんさすがです、信奈さまが本日このような宴を催されたことは、もちろん、ただのお遊びではありません。全国から人を集め、小田原城に匹敵する巨城を安土に完成させたことを喧伝することで、織田家包囲網の諸将──上杉謙信さま・武田信玄さま・毛利さまの戦略を、信奈さまが望む方向に誘導しようとなされているのです」

 

 

 

「甲斐の武田信玄さまは、腰が重いお方です。今日は、甲斐の乱破さんが大勢観光客の姿となって安土に入り込んでいるでしょう。彼らから琵琶湖畔の山頂にそびえる石垣の城・安土城の壮大さを聞いた信玄さまは、無理押しによる兵の損失を避ける性格ゆえに、慎重にならざるを得ません。信玄さまは、小田原城攻めを経験しておられます。無理に遠征しても巨城はそう容易くは落とせないと知っておられます。巨城の包囲に必要な兵数を揃えても、兵糧の補給が続きませんから。ゆえに遠回りになろうとも遠江・三河の松平元康さまをこんどこそ滅ぼして足下から固めていこうとなされるはずです。信玄さまは戦における『実』にこだわるお方ですので。元康さまにはまたしてもお気の毒なことですが、多少、時間が稼げます」

 

「そうか。今日の観光客の中には、各国の乱破も大勢紛れ込んでいるのか。暗殺を注意しなきゃな」

 

「一方、越後の上杉謙信さまは、自分が宣戦布告したというのに信奈さまがしれっと今日のようなお祭り騒ぎに耽られていることに立腹される人です。また、過去に関東遠征の途中で小田原城攻めを断念した経緯から、巨城への籠城という持久戦を武士らしくないと嫌うようになった謙信さまは『次こそは落とす』と過去の雪辱を果たそうとするでしょう。あのお方は、いちどなにかにひっかかると執拗に繰り返す癖があります。過去を引きずる性格と言いますか。つまり、謙信さまは安土城に挑発された形となり、上洛をさらに急ぐでしょう。こうして信奈さまは、武田・上杉の進軍速度を調整して、時間差を生みだして一つずつ全力で防衛しようと考えておられるのです」

 

「はい。難しいのは毛利です。毛利家の指令系統は二つあります。山陽道は妹の小早川隆景さまが指揮し、山陰道は姉の吉川元春さまが指揮しています。小早川さまは慎重派ですが、吉川さまは突撃上等です。お二人は双子ですが、性格は正反対です。おそらく安土城完成というこの事態に対しても、お二人の考え方はまるで逆でしょう」

 

「小早川さまはより慎重になり、吉川さまはますます突撃上等を唱えると思います。それで山陽軍と山陰軍の足並みが乱れてくれればいいのですが」

 

 両川姉妹の連携はそう容易く乱れるものではない、これは木津川口の戦いの戦いで織田家は思い知っているはずだ。

 

「とはいえ状況的に毛利が全力で動かせるのは山陰軍しかいない、ということはまあ山陰軍が主軸になるだろうな……」

 

 実際、山陽軍は空き巣の危険を考慮すれば1万が動かせてせいぜいだろう、来島村上水軍がこちらについたため、長宗我部軍による安芸への強襲も考えられる。

 

「となると、山陰への入り口となる丹波を早く平定しないとまずいな。十兵衛ちゃんが丹波方面軍を指揮しているが、播磨攻防戦や本猫寺戦に加勢し続けてきたために、途中で丹波攻めが止まっちまってほとんど手つかずだからな」

 

「はい。十兵衛さんは少しばかり人が好すぎるところがあり、ご自分の功績を放りだしてでも良晴さんや信奈さまを助けようとします。その美点が、こんどばかりは不利な状況を作り出しています」

 

「戦略談義だと目を瞑って言わせておけば言いたい放題言いやがってですぅ! 誰がお人好しですか! そうではありません! 目を離すとすぐに死にそうになる弱っちい先輩や、十兵衛が補佐してあげないとへたれて泣き出す信奈様が悪いんですぅ!」

 

「十兵衛ちゃん? どうしてここへ? 信奈を放置していていいのか?」

 

「その信奈さまから新たなるご命令をいただいたです。いつまで義景と遊んでるのよあのサルは、相良良晴をさっさと安土城に連れてきなさい、義元の風流話に付き合うのも大概飽きてきたから。と。先輩が拒否したら、撃ち殺していいそうです」

 

「お、俺は以前、建築途中だったけれど天主に登ってるしさ!?」

 

「信奈さまは、完成した安土城を先輩に見せてまわってやる、と息巻いているです。天主だけではなく、本丸の御殿すべてが完成したですよ。天主だって以前は内装ができていませんでしたし。いいから来るです!」

 

「た、丹波戦線に戻らなくていいのか?」

 

「心配せずとも、信奈さまと一緒に先輩を案内し終えたら明朝、戻りますう」

 

「あ、そうだ光秀。これ荒木氏綱から恭順の書状が届いてるから、所領安堵で通してくれないか」

 

「は? 十兵衛に無断で勝手なことを……しょうがないからありがたく受け取っておきますです。しかしあの女狐、管領様経由で恭順すれば十兵衛が悪く扱えないと思ってよくもやりやがったですね」

 

 ともかく、信奈が待っているらしいので安土城に登らなくてはならない。

 

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