スタンドオフ大海戦   作:統合幕僚長パンダ

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第三話〜JTF"実政"〜

中央暦1643年 8月12日

日本国 首都東京

霞ヶ関 首相官邸 閣僚会議室

 

 夏本番に入った東京では、気温が30度を越え始める。日差しが照りつけ暑くなる日中を避けるべく、クールビズと称して早めの出勤が推奨されていた。

 日本の政治的中心地である首相官邸でも、日本国首相の武田 実成を始めとした内閣メンバーが早めに出向いていた。

 早めの出向をした理由は、防衛省の幹部からの緊急報告であった。

 

「昨日未明、グラ・バルカス帝国が勢力圏にある各基地への艦艇の配置を改めました」

 

 出向して来た防衛省の幹部は、首相の向かい側に設置された液晶パネルに衛星写真を映しながら、概要の説明を行う。

 

「監視衛星によれば、このうちグラ・バルカス海軍の東部管区、レイフォル管区から艦艇の多くが消失しています」

 

 幹部は液晶パネルを操作し、衛星写真を次々と変える。数日前の軍港の画像と、昨日の画像。確かに新しい方の写真には、軍港から艦艇がほぼ消えている。

 

「そして西部管区、南部管区、北部管区からも動員がなされているようでして、現在グラ・バルカスの主力艦隊のほぼ全てが行方が掴めなくなっており、海上を移動したものと思われます」

「どこへ向かっている……?」

 

 閣僚達がざわめく中、幹部は冷静な口調でその状況を説明した。

 

「おそらくですが、東です。しかし詳しい艦隊の現在位置は不明で、位置を更新するには監視衛星が再び回航してくるのを待たなければなりません」

「まさか、来るのか……?」

「はい、来ます。我々は彼らの目標が第三文明圏、ひいては日本そのものであると予測しています」

「なんということだ……!」

 

 幹部がその可能性を断定したことにより、閣僚達は冷や汗を掻く。

 これは日本が異世界に転移してから初めてとなる、軍事的な侵攻だ。幹部達が騒ぐのも無理はない。

 

「相手の戦力は?」

「想定される限りでも、グラ・バルカス本国やレイフォルなどで居残りする艦隊を除けば、予想総数は戦闘艦艇だけで900以上です」

「きゅうひゃく……!?」

 

 幹部から出されたその数字に、会議場は逆に静まり返った。

 その数字は頭数だけの比較だが、海上自衛隊が保有する護衛艦定数の約18倍だ。圧倒的すぎる。

 

「内訳ですが、軽空母も含めて空母は各型100以上、戦艦は20隻以上、巡洋艦は80以上、残りは全て駆逐艦です」

「そ、相当だな……」

「その他、補給艦が多数、揚陸艦らしき艦艇も物資を搭載した状態で出港しています。工作艦や輸送艦なども随伴しており、長距離遠征作戦が可能な戦力です。病院船や宿泊艦まで存在してますよ」

「…………」

「そして最後に航空機に関してですが、正確な数は不明でも、艦隊全体で1500機以上は有するでしょう。はっきり言います、大艦隊です」

 

 流れるように説明されたその数字に、閣僚達は頭を抱えて言葉を失った。

 

「単刀直入に聞こう」

 

 日本を牽引するリーダーの武田首相が、重苦しく口を開いた。

 転移当初から首相の座に就き、前世界ではその類稀なる外交手腕を見せ、防衛費の増額と整備を推進した日の本の敏腕宰相。

 彼はまどろっこしい話を抜きにし、防衛省の幹部に一言だけ言い放つ。

 

「防げるのか?」

「この時のために我々は存在していると言っても過言ではありません。護り通します」

「意気込みを聞いているんじゃない、現実問題だ」

 

 武田首相は、防衛省の幹部に意気込みではなく実際に守り切れるのかどうかを聞く。

 すると幹部は、決定的な自信があったわけではないのか、少し目を伏せてから口を開いた。

 

「……陸海空、全ての自衛隊の戦力を動員しなければ防げません。正直に言えば、我々にはかなりの増強が入っているとは言え、頭数が違いすぎます。荷が重いです」

「なるほど」

 

 総理はそこまで聞くと、一呼吸だけ息を吐き、間を置いてから言葉を放つ。

 

「とにかく衛るしかなかろう。これは転移後最大の軍事的危機と言っても過言ではない」

「総理……」

 

 武田首相の早期の決断を受け、他の閣僚達は目を見開いた。

 首相就任以来、彼が下した改革や外交、決断は数多い。

 その中でも特に、転移前の世界情勢が悪化する中、それに適応し国際的地位を上げてきた彼の外交手腕は評価が高い。

 それは転移後もそうだった。

 就任前の悪評からは想像できないほどの異例の速さで、彼は決断をし続けている。

 

「陸海空、全ての自衛隊が必要だと言うなら出動を命じる。無論、武器の使用に制限などない。国民には指一本触れさせるな、護り抜くんだ!」

 

 声を高らかに、武田首相はそう言った。

 その言葉に胸を打たれ、閣僚達も覚悟が決まったのか、武田首相の目を真剣な眼差しで見ていた。

 

「幕僚長、統合作戦を展開しろ。即座にJTF*1を編成し、防衛作戦を練り、部隊を移動させてくれ」

「了解しました」

「外務省、第三文明圏全体が戦場になる。関係各国に基地の使用、および部隊配置のための根回しを頼む」

「かしこまりました、今すぐ」

 

 武田首相の命令を受け、各省庁が連携して問題への対処に動き出す。そうしてすぐに会議室が騒がしくなり、人の出入りが始まった。

 さらにはこの軍事侵攻への対処のため、対策センターへの人員の移動が決定された。人員が各々、移動の準備を開始する。

 

「総理、それと気掛かりなのがあります」

 

 と、対策センターへの移動が決まって会議が終了した直後、武田首相に一人の防衛省幹部が話しかけた。

 彼は陸上自衛隊のトップの陸幕長であり、現在はムー大陸へ派遣した統合任務部隊の指揮を行っていたはずである。

 

「陸幕長か、なんだね?」

「今回の軍事侵攻により、日本の周辺海域は戦場になるでしょう。となると、ムー大陸戦線にて現在も戦闘中の派遣部隊が、グラ・バルカスのこの行動により孤立してしまうのです」

 

 彼が言うのは、グラ・バルカス帝国によるムー国への本格陸上侵攻への救援のため、空自と合同で組織されたJTF"旧友"*2に関する現状報告だ。

 ムー大陸戦線には、統合任務部隊として北部方面隊を中心に派遣部隊が組織され、陸上自衛隊からは第2師団、第5旅団、そして唯一の機甲師団級である第7師団などが現地に派遣されている。

 その3個師団・旅団の補給を支えているのは、海上自衛隊が運用する輸送隊である。マイカル港やオタハイト港には常に輸送隊によるピストン輸送が行われており、現在の戦線を支えるだけの力があった。

 だがしかし、今回のグラ・バルカスによる海上侵攻によってそのシーレーンは実質的に封鎖されたことになる。

 そのため、今後の派遣部隊は補給問題を抱える可能性があった。

 

「……なるほど、確かにこれでは輸送隊もムー大陸にたどり着けなくなる。補給のローテーションが滞るな」

「物資自体は暫く保つでしょう。しかし、バルクルスを開放し、ヒノマワリでの対ゲリラ戦闘に移行しております。補給が途絶えるならば、派遣部隊は戦闘に制限がかけられます」

「電撃戦による早期解決は難しくなったか……これでムー大陸戦線は泥沼化決定、なんてこった」

 

 一応現地には大量の装備弾薬を予め運び込んでいる他、ムーやミリシアルの師団も多数存在するため、戦線の崩壊は今すぐの話ではない。

 残った補給ルートに関しても、フィルアデス大陸経由で空自の輸送機を使えば食い繋ぐことはできる。

 だがそれでは、本格的な戦闘や進軍を行うことは困難になる。電撃戦によるムー大陸戦線の早期解決を狙っていた日本は、これでグラ・バルカス帝国に戦力の立て直しの機会を与えてしまったことになる。

 

「とにかく今は、後のことなど考えていられん。派遣部隊には戦闘を制限してもらい、こちらは早期に敵艦隊を壊滅させる」

「分かっております」

「とにかく相手の現在地を監視したい。監視衛星が間に合わないなら、グローバルホークを出せないのかね。あれなら二十四時間体制で監視することができるだろ?」

 

 武田首相は声のトーンを下げ、陸幕長の後ろに控えていた空幕長に聞き出す。だが空幕長は、浮かない顔をしながら現状の説明をする。

 

「それが……我々のグローバルホークはライセンス生産を続けていますが、現時点でもまだ5機しか保有しておりません。不足しています」

「ああ……そうか、空自はF-35に関する技術解析を優先したんだったな。航空機関連はどこも手一杯か」

 

 空幕長の説明の通り、現在の航空自衛隊の装備品は転移前の海外製品が多く、転移により生産が困難になってしまったものが多い。

 特に最新鋭ステルス戦闘機であったF-35に関しては、国内には部品生産工場と組み立て工場しかなかった為、状態は危機的であった。

 転移当初は部品が輸入できず、飛行停止命令が出るほど部品が逼迫していた程だ。そこで政府はアメリカの大使館との密約を経て、早期に技術解析に乗り出した。

 そのおかげで現在では各種技術の取得に成功し、国内に新設された工場でのライセンス生産が開始されている。その苦労は計り知れなかった。

 そのような苦労があったために、グローバルホークの方の技術取得は難航していた。こちらに関しては国内に工場がほとんど無く、既存品を輸入していた事も関係している。

 

「しかもですが、その5機のうち3機はムー大陸での監視任務に送り出したので、残りは2機です。通常3機体制で整備と補給のローテーションを組むので、これでは監視体制にも支障が出ます」

「空自でなんとかならないなら……海保のシーガーディアンでも使うか? 性能は足りないかもしれないが、無いよりマシだ」

「確かにグローバルホークの穴を埋めることはできるでしょうが……海保が首を縦に振るかどうか……」

 

 空自は海保との連携があまり大きい方ではない。

 同じ海の守り手として関係が深い海自ならば関わりは大きいが、空軍組織と海上保安組織の接点は薄い。

 このように「貸してください」と頼むのはあまり前例がなく、また海保の無人機もかなり貴重だ。首を縦に降るかどうかは空幕長の懸念だった。

 

「……これは自衛隊のみの戦いではない、すべての関係各所が綿密に連携する必要がある。海保とて例外では無いさ、やってくれ」

「わかりました、今すぐ海保に声をかけます」

 

 だがそれでも、今回ばかりは日本の危機だ。

 武田首相は連携を重んじるように吹き込むと、空幕長は即座に行動を行う。関係各所との連携が始まり、その日のうちに日本防衛のための統合任務部隊が編成された。

 

 統合任務部隊の名は"実政"とされた。

 この名前は、かつて1000年以上前に起きた元寇、文永の役の危機を乗り切った日本軍の総大将「北条 実政」にあやかったものである。

 

*1
統合任務部隊、他国で言う統合軍。陸海空のうち二つ以上の部隊を統合し、円滑な作戦を可能にするための部隊編成。

*2
日本とムーが一万年以上前の地球における同盟国であったことに準えた名前。

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