スタンドオフ大海戦   作:統合幕僚長パンダ

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第五話〜先制の解釈〜

攻撃開始から数分後

リーム王国 王都ヒルキガ 王城

 

 王都ヒルキガの王城では、国王バンクスと王下直轄大将軍のリバルがバルコニーから王都を見渡していた。

 王城は小高い丘の上に立っているため、王都の市街地の外れにあるグラ・バルカス帝国の飛行場もよく見えた。

 

「なんだ、騒がしくなってきたな」

 

 先ほどから見渡していたが、飛行場の方が騒がしくなっていた。多くの軍人達が行き交い、飛行場を慌ただしく移動している。

 

「どうやら爆撃連隊が到着したのでしょう。これから受け入れの準備に入るのなら、騒がしくもなります」

「そうか……だと良いのだが」

 

 リバル将軍は自信満々にそう言うが、国王バンクスの方は一抹の不安を隠しきれなかった。

 国王バンクスは、日本と敵対することに一抹の不安があったが、それをリバル将軍が説得していたのである。

 事前に日本の技術力の一端を知っていたが、リバル将軍の説得やグラ・バルカス帝国の圧力に屈し、日本を裏切る結果となったのである。

 そんな事を思い出しつつ、国王バンクスは飛行場を見下ろしていた。だが、その時──

 

「ンッ──!?」

 

 王都ヒルキガの全域に、警報が鳴り響いた。これはグラ・バルカス帝国の軍人が説明していた、サイレンという空襲警報である。

 その音を聞いた王都の人々は、何事かと思い周囲を見渡した。国王バンクスも、リバル将軍へと問いただす。

 

「リバル、これはッ!?」

「わ、分かりません! ですがこれは空襲警報です!」

「そんなことはわかっておる! なぜ今鳴っておるのだ!」

 

 その時だった。

 突如として目線の先の飛行場にて、爆発が起こった。破壊されたのは管制塔のレーダー、そして巨大なアンテナを携えた通信設備だった。

 

「き、基地がっ!?」

 

 さらにバルコニーに居たバンクスらの後ろで、さらなる爆発が起こった。

 

「うわっ!?」

 

 爆発したのは王城のレーダーだった。

 この王城は小高い丘に聳え立っているため、レーダー設備の設置に適していた。

 設置されていたのは王都内で一番大きいレーダーであった為、その爆発によって大量の破片がバルコニーに降り注いでしまう。

 

「へ、陛下……!」

「に……逃げるんだ! 今すぐ、安全な地下へ……!」

 

 国王バンクスが額の傷を抑える中、将軍リバルはすぐに行動した。

 そのおかげで、彼らは日本の巡航ミサイルが降り注ぐ前に地下通路へと人員を退避させることに成功した。

 その後、すぐにラピッドドラゴンの巡航ミサイルが、基地と見做されていた王城へと命中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに数分後

リーム王国 王都ヒルキガ

グラ・バルカス帝国陸軍 ヒルキガ飛行場

 

 爆発音が収まった後、ヒルキガ飛行場は大打撃を被っていた。基地の設備はほとんど破壊され、格納庫からは巨大な火の手が上がり、滑走路からも煙が出ている。

 その様子を、半地下防空壕の窓の隙間からムルノウ空将が見据え、壊滅した状況を確認した。

 

「くそっ……何も残ってないじゃないか」

 

 窓の外から見える地上の景色は、ほとんどが煙に包まれ壊滅している。見たところ、基地の設備の大半が攻撃を受けたようだった。

 

「まさか帝国がここまでの反撃を受けるとはな……ニホン国、恐るべしとの懸念は現実だったか」

 

 ムルノウ空将は、既に情報として出回っていた日本軍の精密誘導兵器について考えを巡らせる。

 どこから誘導したのかは不明だが、それらの攻撃は基地の探知範囲外から突如として現れ、超高速で飛翔し基地へと突入。

 防空戦闘虚しくほとんどが命中し、破壊と蹂躙を撒き散らした。基地の設備は、その認識範囲外からの攻撃によって壊滅している。

 

「各員、損害状況をまとめろ!」

 

 後ろを振り向き、防空壕で慌ただしく動く部下たちに詳しい状況を聞き出す。まず航空管制の士官の生き残りが、黒い煤を払いながら口を開いた。

 

「ムルノウ空将、まずリーム王国内にて展開していたレーダー設備はほぼ壊滅状態です。ニホンは電磁波に向かって突入していく誘導弾を用いたようで、他にも長距離通信機まで破壊されております」

「港の設備も完全に破壊されました。多くの倉庫やクレーンが倒壊し、甚大な被害が出ています」

「そしてこの飛行場の状況ですが……まず格納庫は全て破壊され、格納していた機体は全滅しています。航空戦力は壊滅です」

「他の設備に関しても、管制塔が破壊されて、滑走路には小型爆弾がばら撒かれております。不発もあるかもしれないので撤去作業が必要です」

 

 他の士官達も続々と状況を説明し、被害の全容が明らかになってきた。

 飛行場の設備は、完全に無力化されていた。

 そしてどうやらこの飛行場だけでなく、リーム王国内にある他の基地や港にも被害が出ているらしい。

 つまりリームへ派遣されたグラ・バルカス帝国の部隊は、これにより機能不全に陥っていることになる。

 

「まさか、こんなに早期に反撃を受けるとはな……これでは超重爆撃連隊を受け入れることができん」

「どうしますか? 今ならまだ通告が間に合うかと思いますが」

「そうだな……この基地は既にニホンの反撃能力の射程圏内だ。爆撃連隊が来ても地上撃破されるのがオチだ。貴重な爆撃機を失うわけにはいかん、引き返させる」

「はっ、了解しました」

 

 その言葉を聞いた通信士官は、即座に空将の命令を通信所へと送り届ける。幸いにも温存していた長距離通信機があるため、第二波攻撃が来る前に状況を伝えられそうだ。

 

「ところで……我々は?」

「こちらの司令機能は既に失われた、これ以上ここにいても無意味だ。ニホンの反撃が終わったなら、事前のルートでこの国を脱出するぞ」

「はっ」

 

 部下達にそう言うと、彼らは資料や書類などをせっせとかき集めて、撤収準備に入った。そして陸軍の部隊にも連絡を入れ、すぐに部隊を脱出させるよう要請する。

 

「帝国に、この情報を持ち帰らなければ……」

 

 慌ただしく動き出す中、ムルノウ空将は自分や部下の命を失わせずにリームを脱出する方法を、詳しく模索するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

攻撃から数十分後

フィルアデス大陸上空

グラ・バルカス帝国特務軍 超重爆撃連隊

 

 フィルアデス大陸、名も知られていない国の上空。澄んだ青い空に彩られ、分厚い雲がまばらに浮かぶ上空9000mに、その"鯨"は飛翔していた。

 鯨は六発エンジンの大型の機体だ。グラ・バルカス帝国が誇る最大の戦略爆撃機、グティ・マウン型爆撃機の5機編隊だ。

 この5機編隊は、前衛の200機編隊から距離を離して飛行を続けている。

 中心にいる機体は、アーリ・トリガー空将が搭乗する司令偵察機型だ。

 爆弾倉は撤去され、機体の前後に機上レーダーを搭載し、指揮設備などを増設。たった一機で長距離を警戒し、この大編隊を指揮することが可能である。

 

「まさか本当なのか……?」

 

 その司令偵察機にて、アーリ空将は半信半疑で通信担当の部下に問い返す。リームから届いた緊急通信の内容は、彼の懸念を現実のものとする重大な報告であった。

 

「間違いありません。ニホン軍の先制攻撃です、リームの基地はほとんどが壊滅しているとのこと」

「リームへの攻撃は爆撃機からの直接打撃ではないとのことです。もしやですが、誘導弾が使用されたのでしょうか……?」

 

 薄暗い機内で、部下達が不安そうにアーリ空将に聞く。だがアーリ空将は、冷静にその可能性を示唆した。

 

「何度も言っているだろう、誘導弾は存在する。ニホンは現地の探知圏内よりもはるかに遠くから誘導弾を投射し、攻撃したんだ」

「そんな馬鹿な……」

「あり得るさ。ニホンの技術力ならばな」

 

 そう言ってアーリ空将は、日本の軍事的な強さを認める。そしてこの作戦を続けるか否か、しばらく考えてから結論を出す。

 

「航空機関士、各機の燃料は戻るには十分か?」

「かなりギリギリですが……今ならまだ最寄りの基地に引き返せます」

 

 アーリ空将は機内を移動し、機体の燃料を計算していた機関士に声をかける。各機体の残燃料の数字を管理していたその機関士は、冷静に答えた。

 

「ならば即刻作戦中止だ。リームの基地は使えない、引き返すぞ」

「了解しました」

 

 アーリ空将の決断により、グティ・マウンの大編隊は進路をUターン。そのまま最寄りの海外基地に帰投し、作戦の立て直しを図った。

 

 

 

 

 

 

 

 

攻撃から数時間後

パーパルディア皇国 工業都市デュロ

日本国外務省 臨時窓口

 

 リーム王国から撤退した日本国であるが、最後の外交窓口は残されていた。

 リーム王国南の隣国となるパーパルディア皇国の飛地、工業都市デュロに日本国外務省の対リームの窓口が設立され、大使館が退避した後でも外交を可能としていた。

 

「これはどういう事か説明してもらうぞ!!」

 

 その外交窓口に、怒りを露わにして来たのはリーム王国外国家対策部のフェルダスだ。彼は鬼のような形相で、日本側の城川大使に食い掛かる。

 

「我が国の飛行場に対する当然の攻撃! これは中立国への一方的で卑劣な先制攻撃だ! 攻撃の意志が無い中立国を攻撃するとは、どういう了見だ!?」

「事前の脅威を払っただけだ。貴国に攻撃の意志があるかどうかは関係ない」

 

 だが城川大使はその剣幕に臆する事なく、ニヤリと笑いながらそう答えた。その飄々とした態度に、自国の官民が巻き込まれたフェルダスは怒号をあげて反論する。

 

「き、詭弁だ! 我が国は脅威ではない! そもそも我が国には中立になる権利があるとあれほど言ったはずで──」

「それがどうした?」

 

 だがフェルダスのその反論を、城川大使は一刀両断する。冷たい刃のようなその冷徹な言葉に、フェルダスは固まった。

 そして、城川大使は続ける。

 

「その権利とやらが、我が国に対する脅威である。その主権のせいで、我が国は危険にさらされた。今回の件は、それを事前に排除しなければならなかっただけだ」

「なっ……ふ、ふざけるな! 我が国の主権や権利を"脅威"と見なすなんて傲慢だぞ! 何様のつもりだ!?」

「脅威は脅威だ。我が国は貴国が裏切る権利など認めていない」

 

 完全に裏切り者扱いされ、フェルダスは絶望した。そして先ほどまでの剣幕は嘘のように消え、裏返ったような情けない声でなんとか反論する。

 

「そんな……そ、そもそも貴様らの国の法律では他国への先制攻撃は違法だったはずじゃないのか!? これは政府の暴走だ、国民は納得しないぞ!」

「問題ない。我が国の政府としては、隣国が脅威となり得るならば、それが間接的な脅威であっても先制攻撃で撃破して構わないという解釈だ。これに関しては我が国の国内法に明確な記載はないが、それはさしたる問題ではない」

「な、なにっ……!?」

「しかも世論に関しても、世論調査にて既に69%の賛成支持を受けている。国民が良しというのならば、先制攻撃に対する障害は無いに等しい」

 

 フェルダスは城川大使が言った理論が、あまりにも日本国ファーストな理論のように思えた。それから日本国の傲慢さと身勝手さを感じ、怒りを露わにした。

 

「そんな詭弁で......お、お前達は自国の法律をなんだと思っているんだ!? 国民さえ承知すれば、法律を破ってもいいと言うのか!? それでも近代国家か、蛮族め!!」

「好きなように言え。裏切り者の言葉など我々には届かない」

 

 だが城川大使の意見は変わらない。

 それもそのはず、この件で先制攻撃を行った事を責める国際社会はどこにもないだろう。かのミリシアルですら、数日後にリームへ最後通告を行う予定だったほどだ。

 実際のところ、日本国の意見は傲慢ではない。転移前から隣国と築き上げた、自国を守るための共通認識だ。裏切ったくせして被害者面するリームの方が傲慢であろう。

 

「しかしこれで、我が国への脅威は払われた。貴国は国内を不当に占拠するグラ・バルカス帝国の魔の手から完全に解放された。おまけに民間人への被害は無いに等しく、国王も五体満足……これ以上の幸運、()()()無いと心得ろ」

「ぐっ……ぬぅ……!」

 

 最後に五寸釘のような重たい言葉を刺され、フェルダスは黙ってしまった。その様子を見て、城川大使は「忙しいので」と言って会議を去っていった。

 

「くそっぉ!!」

 

 会議室には、フェルダスだけが残された。甚大な被害を受けながら、国王が怪我をしながら、何も言えない現状。

 悔しさを滲ませ、フェルダスは机を思いっきり拳で叩いた。

 

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