追放……? わたくしは一向に構いませんわ!   作:pantra

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完全に勢いだけで書いた息ヌキのためのお話なので、頭からっぽで読んで頂ければ幸いです。
前後編の二話構成です。


前編

 

 アナベル・ブラッドショーという女性について説明しよう。

 歳は18。金髪緑眼で平均より少し背が高い。

 ブラッドショー伯爵家の令嬢である彼女は、一年ほど前から理由あって旅の冒険者パーティーの一員として日々を過ごしている。

 

 ……いや、すまん。嘘をついた。

 大した理由などない。『退屈ですわ! 刺激が欲しいですわ!』と雄たけびこいて家をおん出た後、偶然出会った冒険者パーティーになかば強引に転がり込んでその一員となっただけだ。

 

 父親であるブラッドショー伯爵は驚いた。それはもうびっくり仰天した。

 土煙を上げながら遠ざかっていく娘の後ろ姿に追いすがろうとしてずっこけた伯爵は、割れた額からだくだくと血を流しながら狂ったように叫んだ。

 

「エドワード、頼むぅ! アナベルを、アナベルをぉぉぉん!」

 

 エドワードというのは俺のことである。

 ブラッドショー家のフットマン見習いであった俺は、何の因果かアナベルお嬢様脱走の現場に居合わせてしまったため、旦那様より達成困難な任務を仰せつかってしまった。

 とはいえそこは主命。

 それにさすがに地位も金もある紳士が地面に這い蹲って鳴いているのを黙って見過ごせるほど俺は肝が太くない。

 俺は馬を一頭借り受けると、もはや視界の彼方へ消えてしまったお嬢様を追跡すべく拍車をかけた。

 

「ブヒヒン」

 

「分かってるって、お前の脚が遅いわけじゃないってことは。とりあえず同じ方向へ進もう」

 

 馬よりも脚が速い人間がいるという事実に混乱する伯爵家の飼い馬フランクリンの首筋を叩いて慰めつつ、ともかく俺たちは前進を始めた。

 おっさn、いや紳士の汚くも切ない鳴き声を背に受けながら。

 

 『わたくしより強いお方はどこですのぉ!』とか何とか叫びながらゴロツキや兵士崩れをぼろ雑巾に仕立て上げているアナベルお嬢様を発見したのは、二日後の隣町での出来事だった。

 何をしているんだ、何を。

 ともあれお嬢様が衛兵にしょっ引かれる前に見つけられたのは我ながら上出来だったと思う。

 

 が、その後がよくなかった。

 俺に見つかったアナベルお嬢様は、自分を連れ戻したくば戦って勝利せよと要求。

 しかしながら当然お嬢様に手を上げることなど使用人に身でできるわけがない。

 要求を拒否されたアナベルお嬢様は地団太を踏んで足元の石畳を破壊すると、『こうなったら先手必勝!』とかトチ狂った台詞を口走りながら俺に襲い掛かってきた。

 

 ……襲い掛かってきたんだ。

 恐ろしく速い手刀だったよ。俺でなくても見逃しちゃうね。

 避ける間もなく痛烈な一撃を食らい、ものの見事に俺は昏倒させられた。

 

 そして、アナベルお嬢様は衛兵にしょっ引かれた。

 

 意識を取り戻した俺が事情を説明したり袖の下を渡したりと涙ぐましい努力を続けた結果、一週間後アナベルお嬢様は解放された。

 旦那様から預かった重たい財布の中身はほぼ使い切ってしまったが、結果良ければ何とやらだ。

 

 改めて家に戻ってもらうために説得しようとしたら、アナベルお嬢様は無言で俺の腹に当て身を食らわせ、悶絶する俺をフランクリンの背に乗せて自身も飛び乗り、成り行きに唖然とする衛兵たちが止める間もないまま町からトンズラこいた。

 

 馬に揺られるうちに気絶していた俺が意識を取り戻した時、アナベルお嬢様は故郷から遠い町で何だかうさんくさい連中と夕食を囲んでいた。

 

 何を言っているのか分からないと思うが安心してくれ。

 俺もよく分かってないから。

 

 後から聞いた話によると三日くらい俺は意識を失い続けていたらしい。

 当て身を食らって三日も気絶ってそんなことある?

 俺、死にかけてたんじゃない?

 疑問は尽きないがとにかく俺が気絶している間にお嬢様はいくつも町を移動し、アシュトンヒルとかいう寂れた宿場町でとある冒険者パーティーと意気投合したそうだ。

 どういう風に意気投合したのかは知らんが、とにかくそういうことになったのだという。

 結果、アナベルお嬢様は件の冒険者パーティーに加わることになった。

 フランクリンと俺というおまけ付きで。

 

 お嬢様が仲間になった冒険者たちは魔族の王を打倒して勇者になることを目指していると語った。

 控えめに言っても頭がおかしいと思う。

 

 確かに人族と魔族はあまり仲がいいとは言えないが、だからといって他国の王族をいきなりぶち殺したりするのは立派な犯罪行為だ。

 あいつらちょっと見た目気持ち悪いし、風習も何かよく理解できないからこの世から消そうぜ。

 そういう野蛮な思想を持つ人々がいることは知っていたが、本当に実行に移そうとしている人物に会ったのは初めてだった。

 

 俺はアナベルお嬢様に彼らの仲間にならないよう忠告しようとしたが、残念ながら手遅れだった。

 

「魔王は強い。それはもう信じられないくらい強い。とにかくべらぼうに強い」

 

 勇者志望の冒険者たちが語った魔法の言葉がアナベルお嬢様の心をがっちり鷲掴みしてしまったからだ。

 実際にはその後に『だけどどんなに魔王が強くても俺たちは負けない!』という言葉が続くのだが、もはやお嬢様には聞こえていなかったに違いない。

 

 わたくしより強いお方に会いに行くため、あなた方の仲間になりますわ。

 

 高らかに宣言するアナベルお嬢様のお人形さんのような綺麗な横顔を眺めながら、なぜこのお人はこれほどまでに闘争を求めるのかと俺は訝しんだ。

 

 しかしまあいい。

 とにかく俺の仕事はお嬢様を家に連れ帰ること。魔王をブチ転がしてお嬢様が満足するならそうするまでだ。……できれば合法的な形で。

 

 

 

 

 

 そして一年が過ぎ、スタントンバレーとかいう寂れた宿場町の酒場でアナベルお嬢様は仲間の冒険者たちから追放を言い渡されていた。

 

 追放。

 つまりパーティーから抜けてくれという意味だ。

 

 この一年、色々なことがあった。本当に色々なことが。

 意外だったのはこの冒険者たちが思ったよりもずっとまともでいい奴らだったってことだ。

 最初は何も考えずに魔族の国へ突撃をかますのかと思っていたがそんなことはなく、彼らの冒険者活動の大半は魔物討伐と人助けであった。

 ちなみに魔物と魔族は全くの別物だし、魔物が魔族の手先だとかいう事実は一切ない。

 

 ごくたまに悪いことをしている魔族と遭遇して戦いになることもあったが、別にそこから俺たちが魔王の陰謀へ係わっていくということもなく、普通に国家の騎士団が出てきて『後は俺たちがやっとくから。ごくろうさん』ってな感じで蚊帳の外に弾かれて終わりだ。

 

 冒険者の社会的地位と信用度なんてのはそんなものである。

 

 悪くて強い魔族との戦いをガツガツ楽しめると期待していたアナベルお嬢様からすれば肩透かしもいいところだし、冒険者たちの方でもそんなお嬢様の異常性に嫌でも気づかざるを得なかった。

 いくら強かろうと任務に貢献しようと、許容できないことはある。

 ま、俗に言う冒険者性の違いという奴だな。

 

 結果の追放宣告だ。

 

 追放宣告を受けたアナベルお嬢様は、ここ一年ですっかり飲み慣れてしまったエールのジョッキを優雅な仕草でテーブルに置くと、少しだけ小首を傾げて言われた言葉を繰り返した。

 

「追放……?」

 

 その意味するところを咀嚼し吟味するように目を閉じたお嬢様は、ややあってからおもむろに目ん玉をかっぴらくと、豊かな胸の下で腕を組んで雄たけびこいた。

 

「わたくしは一向に構いませんわッ!」

 

 ませんわッ、ませんわ、せんわ……。

 アナベルお嬢様のクソでかボイスの反響が収まってから、やっとのことで冒険者パーティーのメンバーたちは再起動した。

 

「そ、そうか。抜けてくれるのか」

 

 リーダーのティモシーが明らかに安堵したように言った。

 

「これまで大変お世話になりましたわ。お別れするのは寂しいですが、皆様の武運長久をお祈りしております」

 

「お、おう」

 

 お嬢様が思いのほか素直に追放を聞き入れたためか、ティモシーたちは逆に戸惑っていた。

 しかし正直なところ、彼らが言い出さなくても近いうちにお嬢様の方からパーティーを抜けていた気がする。

 

「俺たちもあんたの幸運を祈ってるよ。いやまあ、あんたはそんなもんなくたって平気そうだけど」

 

「あら、そんなことありませんわ。ありがたく頂戴いたします」

 

 アナベルお嬢様はにっこりと完璧な笑みを浮かべると、エールのジョッキを口に運んで一気に飲み干した。

 旦那様がご覧になったら嘆きの鳴き声を上げることだろう。

 くちびるの上に蓄えた白いエールひげをペロッと舐めてから手で拭う仕草がとてもはしたない。

 

「アナベルにこんな話をした後でアレなんだが。エドワード、お前にはできればパーティーに残って欲しいと思っている」

 

「俺に?」

 

 アナベルお嬢様が雑に手で拭った口元をハンカチで拭いてやっていた俺は、投げかけられた言葉に目を丸くした。

 ただのバトラー見習いだった俺もこの一年で大きく変わり、今ではいっぱしの戦士だ。

 自慢じゃないが、結構腕は立つ方だと思っている。

 そうでもなけりゃお嬢様の隣で生き残れるわけがないからな……。

 

 そういう意味ではティモシーたちも実力は確かなのだ。

 こいつらならこれからも何だかんだで上手くやっていけるだろう。

 

「そう言ってもらえるのは嬉しいが悪いな。俺はアナベルお嬢様のものだ」

 

 より正確に言うとブラッドショー伯爵家のものだ。

 俺に課せられた任務はいまだに続いている。帰還するまでの間、旦那様は俺の家族の面倒を見てくれることを約束してくれた。

 父ちゃんと母ちゃん、三人の弟と四人の妹たち。もしかするとまた兄弟が増えているかもしれないが。

 大事な家族を路頭に迷わせるようなことをするわけには行かない。

 今はまだフットマン見習いだが、いずれはフットマンからさらにバトラーに出世してやるのが俺の人生の目標だ。

 

「……そうか。残念だがお前ならそう言う気がしていたよ」

 

 ティモシーはちょっと格好つけてそう言うと、俺の隣で全力全開のドヤ顔を浮かべるアナベルお嬢様からそっと目を逸らした。

 俺は職務に忠実であろうとしているだけであって、別にティモシーたちよりアナベルお嬢様がいいと言ったわけではないのだが、まあ触れてやらないのが人情というものだろう。

 

 その後和やかな雰囲気で食事を楽しんだ俺たちは、最後に握手をして別れた。

 パーティーのリーダーであり魔法戦士のティモシー。

 最初は魔王を倒すとか言うから頭おかしい奴だと思っていたが、普通にまともな奴で安心したよ。

 今では本当の友情をお前に対して感じている。

 実力は魔王どころかアナベルお嬢様にも劣るが、俺が知る冒険者の中じゃかなりデキるほうだ。頑張ればいつかは本当に勇者と呼ばれることがあるかもな。

 勇者ティモシー。悪くない響きじゃないか。

 あと、新しい町に着く度に童貞の俺を娼館に誘ってくれて感謝してるよ。

 アナベルお嬢様の妨害で結局一度も一緒に行くことができなかったのは残念に思っている

 性病にだけは気を付けてな。

 童貞の俺からの忠告だ。

 

 攻撃魔法使いのトリスタン。

 正直、お前たちのパーティーに加わるまで本物の魔法というのを見たことがなかったんだ。

 見世物小屋でやっているような子供だましの魔法とはまったく違って、俺はその迫力に心底驚いたよ。

 ……まあ、お嬢様はお前の魔法を平手ではたき落としていたが、アレは例外だから気にする必要はない。

 そしてトリスタン、お前の尻好きは常軌を逸しているとは思っているがある意味尊敬していた。

 各町で選りすぐりの巨尻美女とよろしくヤッた体験談を聞く度、俺は羨望に震えていたよ。

 だけど人妻に手を出すのはほどほどにしておけ。いつか亭主に刺されるから。

 あとアナベルお嬢様の高貴な尻についてお前が何かを言いかけた時、問答無用でぶん殴ったけど悪いとは思ってないからな、俺は。

 結局お前が何を言おうとしていたのか分からないままだが、お互いのためにそこは触れないでいよう。

 

 回復術士のテレンス。

 お前のおかげで今も俺は生きていると思っている。

 本当に心から感謝するよ。

 だからいいんだ。

 お前が絵画に描かれた女性にしか興奮できない難儀な性癖の持ち主だとしても、俺は決して軽蔑したりしない。

 ……ここだけの話、お前の推し絵師フェルルッチョ・ブッチェッラーティ先生の描く女神像は至高の芸術だと俺も思う。

 あと少しのところで手に入れることができなかったのは返す返すも残念だったが、アナベルお嬢様がいなくなった後ならまたトライする機会もあるだろう。

 グッドラック、テレンス。

 

 そして最後に剣士のティファニー。

 パーティーの紅一点。

 ……アナベルお嬢様がいるのに紅一点はおかしいって?

 ハハハ。

 お前が俺たちの後からパーティに加わった時はどうなることかと思ったが、無事に馴染めたようで安心している。

 俺のすぐ下の妹より小さい体なのによくあんなにも剣を振り回せるものだ。

 といってもアナベルお嬢様には一生勝てないだろうが、別にそれを恥じる必要はない。

 俺が心配しているのは、戦いの場以外で時々ひどく隙が大きくなることだ。

 ティモシーたちも男には違いないので、これまでのように襟ぐりから乳を見せたり裾をまくり上げてふとももを露わにしたりすることのないように。

 というかティモシーたちはそんなラッキースケベに遭遇したことはないと話していたので、もしかするとアナベルお嬢様の前で気が緩んだところをたまたま俺が目撃していただけなのかもしれないが。

 なお目撃した後は決まってお嬢様の目潰しを食らっていたので、ラッキーと思ったことはない。正直お前がひらひらした服を着るたび、俺は恐怖に震えていた。

 ……改めてありがとうな、回復術士テレンス。

 

 

 

 

 

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