列車の中に乗客は一人もおらず、ミカは先生を客席に寝かせてから別の席に座った。しばらくすると、列車は古びた金属が擦り合うような音を立てながらそこを出発した。窓の外でセイアが手を振っているのが見えて、ミカも小さく振り返した。
「全ては上手くいったようだ」
シマエナガは落ち着いてそう言った。
「これで終わり?」
「うむ」
車窓から見える景色は次第に暗くなって、気づいたときには星が遍く銀河の中を突き進んでいた。車内には少しずつ温い空気が流れ始めていて、ミカはつられるように眠くなった。いつの間にか意識は深い微睡の中に落ちていた。
そこからどうやって列車から降りたのか記憶になかったけれど、目が覚めたときには自室に戻っていた。手紙は書き終えた姿のまま机の上に置かれていて、少し開けた窓から涼しい風が流れてきていた。
隣には眠る彼と起きているシマエナガがいた。
「眠っているだけだ、じきに目を覚ますだろうよ」
「そっか」
彼を起こさないように慎重に抱え上げて、ベッドに降ろした。いつも自分が眠っているベッドに彼が身を置くことについて、倒錯的な感情のいくつかが芽生えたが、とりあえずは見ないふりをした。
水を飲む。時計は朝の六時半を回ったばかりだった。少し悩んだ後で、やはり彼女は手紙を畳むことにした。セイアに本の世界から脱した後の話を聞いたときから考えていたことだった。
彼女は丁寧に手紙を折りたたんだ。
「良かったのかい、せっかく結ばれたというのに」
シマエナガは畳んだ手紙を興味深そうに眺めながら言った。
「ずるして結ばれても、良い気はしないから」
「成程ね。どっちでもいいさ、君が決めることだ」
「セイアちゃんの所まで連れていってあげようか?」
「飛んで帰れるさ。窓をもう少し開けておくれ」
シマエナガは真っすぐに飛んでいった。空は薄白い雲が奥の方まで広がっていた。シマエナガの尾の黒がよく見えた。
頭の追いつかない内に物事が始まり、そして収束していったな、とミカは思った。何も失っていなければ、何かを得た訳でも(結局の所は)なくなってしまった。ずるみたいな方法で彼とのファーストキスを貰いたくなかったから、彼女としてはその選択をそれ程後悔していなかったが、後ろ髪を引かれる部分も多少はあった。
折りたたんだ手紙を引き出しの中に大事に仕舞っていると、彼が目を覚ました。眠りと覚醒の曖昧な境界線から意識がこちら側に向いてくるにつれて、頓狂な顔で彼はミカの顔を見た。
「ミカ……」
「おはよう、先生」
「うん、おはよう」