没入型ロボアクションで最強の傭兵目指します   作:ノーシアン

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02:チュートリアル

 

 

 

 ……眩しい。視界を光が覆っている。ゆっくりと瞼を開くと、目は少しずつ光に順応していき、やがて目の前の光景が見えてくる。

 

 暗い空間の中にあるのはレバーのようなものからいくつものスイッチ。それに、わかりやすい操縦桿とペダル。俺はそれらの動かし方を自然と身に付けていたような感覚を覚える。

 それらは全て没入型VRに特有の、ゲーム情報のインプットだ。運動が苦手な人がVRでは動き回れるように、水泳が得意じゃない人が泳げるように、これも同じ原理なのだろう。

 

 操縦桿に触れてみると僅かに空間が揺れ動く。それでここがミドルレッグの中であることがわかった。

 

 前進…後退……旋回……。

 

 動作の一つ一つを確かめるように、機体の操縦桿を握り締め動かす。身体が振動を感じている。歩き出しているのだ。しかしそれだとエンジンは既に始動していることになる。だというのに、暗闇の空間には映像など何も映らない。

 

「どうなってるんだ……?」

 

 目、つまりカメラを内蔵する頭が壊されているんだろうか。もしそうなら俺は最初から不良品を掴まされた事になる。

 困った、と思った。ストーリートレーラー映像ぐらいしか公開されなかったせいで、どんなゲームなのかを明確に把握できていなかった。

 大まかにロボットアクションとはわかるが……例えば、始めてすぐのプレイヤーはどのような状況にあるのか、環境はどうなのか、などだ。

 

 その点では俺は完全にハズレと言っていいだろう。自分がどんな状態にあるのかさえ、この暗闇のせいで把握出来ていないのだから。

 

 ……動いてはいる。駆動音や、金属が落ちるような重たい足音も聞こえてきているからだ。

 しかし映像がないせいで自分が今どこにいるか、何をしているか、何をするべきなのか、それらが全てわからない。

 操縦は利くのに……。

 

「……待てよ……動きはするってことは……」

 

 キャラクリ中の事を思い出す。あの時は言葉を発したら音声入力のせいで勝手に選択肢が選ばれた。あの設定がまだ生きているのだとすると……。

 ひらめきに近い考えだが、思いついた以上はひとつでも試してみるのがゲーマーというものだろう。

 

「……カメラ、オン」

 

 瞬間、俺の視界は白に染められ、思わず目を細めた。また慣れるには時間がかかりそうだ。少しずつ細めた目を開いていく。

 

 白、つまりそれらは全て雪。放棄された市街の道路を、綺麗な銀白色が覆っていた。

 カメラレンズに純白の礫が触れては、熱で溶けていく。雪がしんしんと降り積もり、景観から肌寒さをさえ感じさせる廃墟が、俺の今立っている場所だった。

 俺は───

 

『チュートリアルミッションを開始します』

 

「ぅおわっ!? ……ビックリした」

 

 さっきまで無言だったのに急に喋り始めるなんてズルいだろ。頭の中で文句を垂れながら、ようやく訪れた転機に向き直る。これは多分、この機体のコンピュータだろう。

 

『あなたの機体は機能が40パーセント停止しています。再起動のため、システムユニットへ接続してください』

 

「システムユニット…って言ったってどこにそんなの…」

 

 と独り言を漏らした瞬間に、視界に矢印だの文字だのが浮かんでくる。なるほどどうやら、これが再起動シーケンスの一環らしい。コクピットの上にあるレバーを引いたりその隣のスイッチを押したりと、どんどん手順を進めていく。

 最後にひとつのボタンが赤く光る。それを押す。

 

『システムユニット接続………承認。被害状況……確認完了。行動に支障なし。作戦行動を再開』

 

 最後の一手を終えると同時に大きな衝撃に襲われ、コクピットの視線が高くなる。どうやら今までは片膝立ちだったらしい。

 

 立ち上がったミドルレッグの状態がコクピット内モニターに表示された。頭、ボディ、両腕、両足といった具合だ。そのうち左腕だけ欠損、ボディの損傷が中程度……初っ端からダメージを負っているのか。

 

 この状態で戦うことになるのは色々とキツい。出来れば人が集まる場所にでも行って───あ。

 

 そういえば独立傭兵の道を選んだのを思い出した。選んだというか選んでしまったというか。

 とにかく、ノースランドとサウスランドという二大勢力のどちらにも属さないのが今の俺。

 つまり、どちらからも攻撃を受けてしまうかもしれない。

 

 兎にも角にも、街に行かなければ話にならない。軍用のものでなくとも、ミドルレッグは探査用として普及したらしいから、それの発展系でも互換性さえあれば腕に取り付けられるはず。

 

 そもそも独立傭兵なら依頼を受けなければ収入さえ無い。サウスランドの方にでも行ってみようか。オールドトウキョウとやらは今、サウスランド軍の方が占領しているという話だし、コンタクトを取れればどんな形であれ話し合いは出来るだろう。

 

 オールドトウキョウを目指していざ歩こうとした俺に、更にチュートリアルミッションの続きがやってくる。

 

『ノースランド陸軍の追撃です。逃走するか、あるいは敵を殲滅し、安全を確保してください』

 

「殲滅かあ……敵認定されたら居場所がひとつ消えるな…」

 

 そう言いながらも、残っている右腕を動かす。手持ちの武器の情報がモニターに映り、詳細情報が読めるようになる。

 

 ───Corridor-Type92MG。

 コリドール92年式マシンガンはMGとしては最新型にあたり、わずか7年前にロールアウトされた新鋭。20mmAPC弾を低初速で41連射可能な本銃は、貫徹力を重視しヒューマンダメージに優れ、殆どの任務に対応可能。

 

 ……ということらしい。モニターに何か映らないかと周囲を見渡すが、放棄されたビルがあるだけで、敵影のようなものは見えない。これは敵の追撃まで時間があるということだろうか。

 

『敵の無線が傍受できます』

 

「あぁ、そういうのって勝手にやってくれるのか…」

 

 ノイズ混じりの音声が聞こえてきた。

 

『────か?』

 

『─や、まだ見つかっ───い。このエリアに───』

 

『──ダーに反応! リコンユニットを飛ば───』

 

『───見つけたぞ。ミッションターゲット、アンバーヘッドだ! ガリアス、全員連れてこい!』

 

 その傍受していた言葉が終わると同時に6機もの編成部隊が現れる。しかしそのうちの1機が吹き飛び、その部隊から離れた場所から黒と琥珀色の綯い交ぜになったようなカラーリングのミドルレッグが近くに着地してくる。

 

 俺は驚いてコリドールMGをそいつに向かって構えた。装甲の重厚な脚部を備え、その両手には重々しい重火器を握っている。そして何より、そのバケツを逆さまにしたような琥珀色のヘッドパーツが、そいつの最たる特徴だった。

 多分この機体こそが、アンバーヘッドと彼らに呼ばれているのだろう。また、互いに敵対している様子でもあった。

 

『!? 敵か! いや、傭兵…か? ……まあちょうどいい、追っ手を払うのに手を貸してくれ。報酬は……そうだな、50,000円出そう。引き受けてくれるか?』

 

 日本語でそいつは話しかけてくる。ということは日本人だろうか?

 それに、円がゲーム内で使われてる事も驚いた。世界のほとんどが滅んだと冒頭で聞かされたが、通貨の概念はかろうじて生きているんだろう。

 

 現実日本円とかと比べて大体どのくらいの為替レートなのか、そもそもこういうゲームの金が現実でも取引されるのか、それさえ知らないが、このアンバーヘッドとやらが鉢合わせたばかりの独立傭兵に極端に安い金でふっかけるような真似をするようには……特にこんな、咄嗟に猫の手でも借りたいような状況でそんな事をするとも思わなかった。

 

 互いが至近距離の為に繋がった通信越しに、その依頼を了承した。

 

「わかった、乗ろう」

 

『………? 了承してくれたということでいいな? よし、やるぞ』

 

 ちょっと変な部分もあったが、概ね大丈夫だろう。アンバーヘッドはデカい砲を、俺はマシンガンを、それぞれ敵の検知された方向へと向けた。

 

『接敵します』

 

『追い詰めたぞ、アンバーヘッド! ……と、誰だ貴様は』

 

 現れた敵の数は6だったが1機破壊されたので、先程爆発で大破した奴を除いて5機。俺たちは合わせて2機だから、めちゃくちゃ不利だ。敵はアンバーヘッドと比べると装備の質は多少落ちているみたいだが、それでも数が数だ。俺の機体もボロボロだし、正直勝ち目は薄い。

 そのリーダーらしい機体から誰だなんだと言われる。俺はまだ独立傭兵としての仕事を一切していない状態。そりゃ知名度も低いよな。

 

『情報照会……データ無し? 未知のエネミーか?』

 

『オイ、貴様。そこを退けば殺さないでやろう。ただしその機体を置いていけ。あるいは死ぬか、選ばせてやる』

 

 馬鹿げた要求だ。高慢ちきな喋り方も拍車をかけてムカつかせる。どうせ戦わないとやられるんなら、ここで倒してやる。

 マシンガンの引き金を引いた。銃口から乱射される弾丸は、隊長機の後ろにいた支援機らしいライフルを持った機の装甲を削り取る。

 

『撃ってきやがった!』

 

『チィッ、よほど死にたいらしいな! 殺せ!』

 

「ふざけんな、殺されてたまるかって!」

 

『ぐぅ……なんだこの耳障りなノイズは……』

 

 さっきのアンバーヘッドの時もそうだった。話が通じない。マイクがおかしかったりするのだろうか?

 反撃で飛んでくる弾速の遅いグレネード弾を回避しつつ、お返しのようにマシンガンを撃ち返した。さすがにさっきの不意打ちのように当たるはずもなく、横へのブースター高速移動で回避されてしまう。

 

『このッ……大人しく死ね!』

 

『人の嫌がることは進んでやれと言われていてな!』

 

 敵弾を回避したアンバーヘッドが、バズーカを撃ち込んで2機目を爆散させる。これで4対2!

 

 いけるか、そう考えながら逃げ続ける敵にマシンガンを撃ち続ける。敵からの反撃で飛んできたライフル弾の弾道から逸れ、更に撃ち返す。

 その中のマグレ弾が命中したのを皮切りに、怯んだ敵機へとMG射撃弾道を集約させ、1機破壊する。

 

 よし、やった!! 3対2…!

 と喜ぶのも束の間、報復攻撃によるグレネードの至近弾から来る爆風を浴び、ボディにダメージを受けてコクピット内にエラー音が響く。

 

 アンバーヘッドからの援護射撃のおかげで、こちらに肉薄しようとしていた敵機が退く。その隙にコリドールMGをばら撒きながら同じく後退した。

 

 そのうちの数発が掠り、また一発が腕へと命中して敵機のグレネードランチャーを取り落とさせた。

 

『クソ…てめえ!』

 

 そのまま突っ込んで機体ごと体当たりをすれば、怯んだところに向かってマシンガンを乱射して敵を破壊する。

 

『し、正気じゃない…機体そのものを武器に…!』

 

 うるせー生き残るのに必死なんだよこっちは。悪態を隠すことも無く破壊した機体からグレネードランチャーを拾い上げる。

 

 ───CUTLASS。

 70年式のハンドグレネードランチャー。29年前の旧型でありながら今なお現役であり続ける老兵。75mm榴弾を装填可能で単機が携行可能なグレネードとしては最軽量となり、遠距離での迫撃よりも中距離における制圧に適性がある。

 

 ……なるほど、つまりは敵の落とした武器を取り上げ、自分のものにできるらしい。

 

『右腕マシンガンを右肩ジョイントに接続』

 

 コンピュータがそう告げると、マシンガンが肩から生えているサブアーム──機体状態には損傷軽微と写っている──に持ち上げられ、ジョイントに接続…つまり格納された。

 

 武器は多分、片方につき二つまでストックしておけるのだろう。試しに取り出そう、と頭の中で考えてみれば、右ジョイントからマシンガンが取り出され、今持っているグレネードはサブアームに取り上げられる。

 

 …なるほど、これは早い話ハンガーシフトというやつだ。

 昔流行ったロボゲーはハンガーに武器を格納しておくことが出来て、汎用性の高いメカを作るも全部同じ武装にして特化するのも自由だった。

 これはその系譜…というか、かなりリスペクトしているシステムだろう。しかし馴染み深くもある。

 

 

 と、そこまで考えていた頭をリセットし、味方の元へと向かう。そうこうしている間にも、アンバーヘッドは交戦中なのだ。

 

 アンバーヘッドは重量級のミドルレッグだ。装備は大口径の…恐らくバズーカ砲が一つと大型のライフルが一つ。対する敵は軽量級が1と中量の支援型が1。

 彼と撃ち合っているのは軽量機体の方なのだが、それが理由で撹乱されてしまっているようだった。

 

『ちょこまかと! ……ぐうっ!?』

 

 中量支援型からの大型ライフル射撃を受け、大きく仰け反ってしまう。その隙を見逃さず、軽量機がショットガンのサブに持っていた……なんか先端に物騒な鉄の塊がついた棒を振りかざす。

 

 さすがにそれをする前には援護できる位置に俺はいた。マシンガンを構わず乱射しまくりながら突撃すれば、敵も動揺して後ろに退こうとする。

 しかし、そのチャンスを逃すことのないアンバーヘッドは、ライフルを脚部に向け二連射し、右脚を破壊して無力化すると、残るバズーカをボディに撃ち込み、完全に破壊する。

 

 中量支援型のミドルレッグが踵を返して逃げようとし、それをグレネードで追撃しようとするが、アンバーヘッドにライフルの銃身でグレネードを構える腕を下ろさせられた。

 

「何を…」

 

『追撃は俺の仕事だ。余計な恨みは負うな』

 

 そう言うと、バズーカをぽいっと放り捨てたアンバーヘッドは両手でライフルを構え、必死に走る敵機へと狙いを定める。

 

 トリガーが引かれると同時に放たれた弾頭は、逃げていくミドルレッグを穿ち、敵は呆気なく倒れ伏す。

 

 …生き延びた……。

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘が終わり、俺たちは何をするでもなく集まっていた。話半ばに襲撃されたからというのもあるだろう。

 

『……そういえば、ノイズが酷くて話を聞けなかったな。名前は言えるか?』

 

「あぁ……俺は、そうだな…カトウだ」

 

『ん…だめだ、聞こえないな。悪いがテキストチャットは送れないか? そっちでも試してみてくれ』

 

 テキストチャットも出来るらしい。声を挙げて呼び出してみると、サブモニタにチャット欄が表示された。音声入力もできるようだ。

 

「《俺はカトウ。気軽にカトウって呼んでくれ》」

 

『…ふむ、カトウか。分かった、今回は助かったよ。傭兵…で、いいんだよな?』

 

「《そうだ。独立傭兵をやっているから、依頼の斡旋なら歓迎だ》」

 

 そういえば、依頼というのはどう飛んでくるものなんだろうか。

 もしメールが開通している人間からしか送られないのだとしたら、依頼が来る可能性全然無くないか?

 

「《それと、あんたはなんて呼べばいい?》」

 

『俺か? 見ての通りアンバーヘッドさ。オシャレなあだ名だろ?』

 

 ……まあ、通りすがっただけの傭兵に名前を教えてやる理由もないか。アドレス帳にアンバーヘッドの名をつけてメールを登録した。これで一応、何時でも会話出来るわけだ。

 

『…カトウ、だったか。俺はそろそろ行かなきゃならないんだ。じゃあ、またな』

 

「《あっ、ま、待ってくれ!》」

 

 あっこれそのままテキストに反映されるのか。なんだか焦りを文字に起こすくらいには余裕ありそうに思われそうだな。そのチャットを見てくれたのか、切ろうとしていたらしい回線を繋ぎ直してくれた。

 

『どうした?』

 

「《実はこのゲーム始めたてなんだよ。街への行き方も知らなくて。教えてくれると嬉しいんだが》」

 

『……始めたて? 知らないで、あの動きか?』

 

「《え? …そう、だけど》」

 

 雲行きが怪しくなってきたぞ。

 

『……事情が変わった。案内してやる。ついてこい』

 

 なんかすげえ怪しく見えてきたぞ。大丈夫かな。

 

 

 

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