没入型ロボアクションで最強の傭兵目指します 作:ノーシアン
ゲームにはそれぞれ世界観というものがあるだろう。例えばファンタジー世界なら、中世ヨーロッパのような街並みに剣や魔法のロールプレイング、SFなら宇宙を舞台とした近未来の新世紀、といった具合に。
MIDDLE-LEGSの世界観は、SFに片足を突っ込んだ近未来だ。現代社会の延長線に位置していながらも、ミドルレッグと呼ばれる戦闘メカや、世界戦争により滅んだ数々の大国。そしてそんな状態でも辛うじて生き延びた人類。
そして。文字通り
『…着いたぞ。オールドトウキョウだ』
「《ここが…》」
堅牢な防壁に囲まれ、出入り口を検問所で固めたその街は、旧東京。工業区や商業区、住宅区など複数の区画が並び、南北双方が互いに攻め入るには、まずこの街を奪う必要がある───そう言われるほどに重要な要衝となるらしい。
『始めたて、という話だったな。まずはガレージを借りに行くぞ』
「《ガレージ?》」
『ああ。傭兵は軍の施設を使えないからな。だから民間で貸し出されるガレージに機体を格納しなきゃいけない』
はー、そうなのか…。
いやまあ、確かに軍隊が独立傭兵に自分たちの設備を使わせる理由もない。自軍の擁する兵士の分でいっぱいだろうし、当然か。
で、そのガレージはどこにあるのだろうか。
『もう少し歩くぞ』
道路の上を徒歩で歩く。扱いとしては自動車のような感覚らしい。広い道路の二車線分をミドルレッグ一機で埋めると思えば、そのサイズが如何に大きいかがわかる。
重々しい金属音を鳴らしながら数々のミドルレッグが街を闊歩する様は絵になる。しかし考えてみれば、占領した街を傭兵が歩き回るのは軍としては許容してていいんだろうか…。
敵国の送り込む危険因子かもしれないだろうし、そういうのは排除しておくべきだとは思うんだが…あくまでもそこはゲームで、それが仕様なのだろう。
ふと、足元に視線を落とした。今街を歩いて見かける人達は、みんなプレイヤーなのか? 会話をしていたり買い物をしていたりと、動きが十人十色で、モーションの使い回しなんかしていなさそうだった。
『到着したぞ』
「《わかった》」
返事をして、立ち止まるアンバーヘッドを見る。彼は空のサブアームを使って巨大なガレージを指差していた。そこが目的地なんだろう。彼が先に入っていくのでそれに倣ってガレージに入る。
中は最大6機まで格納できるようになっているみたいだが、俺達の他には誰も止めていない。
「《誰もいないのか?》」
『ああ。俺が貸し出すプライベートスロットだからな。アクセスキーも転送してやるから自由に使え』
「《どうして俺にそこまで親切にする?》」
彼は一瞬ばかり黙り込む。しかしすぐに口を開いた。だがそれは俺の求める答えではなかった。
『お前が傭兵であるように俺もまた傭兵だ。互いの事情には不干渉でいるべきだな?』
「《わかったよ。深くは聞かないでおく》」
俺がそう言ってやると、アンバーヘッドがデータを転送してくる。それは商業区にあるフレームパーツショップへの転送リンクと、先程報酬をと言っていた50,000円が入ってきた。……正確にはそれにプラス一万円ほど加算されている。色をつけてくれたのか。
「《報酬額間違えてないか?》」
『間違えてない。危機から助けてくれた事へ対する正当な報酬だよ』
それならありがたく受け取っておこう。これは傭兵として活動するための準備金とする。早速ショップに赴こうとしたのだが、ミドルレッグから降りなければリンクにアクセスできないようだ。
コンピュータに降りたいと伝えると、コクピットが開く。
…鉄臭い。さすが没入型だ。鼻腔をくすぐるオイルの臭いは、昔に嗅いだことがあるかもしれない。
しかし、本当にどうやっておりるべきか。コクピットが開いたはいいものの、二足歩行の兵器である以上立っていて、一番地面に近い足場まで6メートルほどある。落下すればいいんだろうが、マシンガンに“ヒューマンダメージ”なる項目があったのを思い出した。
もしかすると落下ダメージとか、それによるプレイヤーの戦闘不能も有り得るかもしれない。なら、安全な方法で降りたいが……。
「……降りないのか?」
少し低めの女の子の声が聞こえてくる。
あれ? アンバーヘッドのやつ、ここにいるのは俺達だけだみたいな事を言っていた癖に、こっそり女の子を連れ込んで──って言う程の仲でもないけど。
「《降りる》」
まあ多分落下ダメージを受けたとして、そこまで致命的なものじゃないだろう。そもそもロボット同士の戦闘がメインのゲームだし。
意を決して飛び降りる。
ガシン! リベット打ちされた鉄板の足場に、金属がぶつかったような音が……金属?
「《……な、なんだこれ!?》」
自分の足……いや、
なんなら両手も義手だった。一応不自由なく動かせてはいるけど……そんな事ってあるか?
「どうした!? ……おぉ、驚いたな。喋れないのかと思ってはいたが、まさかあの話が本当だったとは」
目の前にやってきた女の子は、俺を心配そうに見ていたが、直ぐに気を取り直して聞いたことのある口調で話し始めた。
「《ああ、なんでもないよ。悪いんだけどアンバーヘッドはいるか?》」
「俺だ」
ん? 聞き間違いか? 今「俺だ」って言った?
目の前にいる、身長150cmぐらいで腰まで濃い茶色の髪を伸ばしたこの女の子が?
「《いや、アンバーヘッドを探しているんだよ。君じゃなくてな?》」
「だから、そのアンバーヘッドが俺だ」
えっイメージと全然違った。重量機に乗って重い武器ぶん回して低い声で喋ってたんだもん。
少女はそのまま無遠慮に俺の脚をペタペタと触り始める。いや、少女じゃなくてアンバーヘッドか? もうあたまがこんがらがってわからん。
「ふむ…アバターでは無い…ヒューマンパーツだな」
「《ヒューマンパーツ?》」
「防具の事だ」
ぶっきらぼうに少女は言い放つ。なんかその声でアンバーヘッドの話し方をされると調子が狂うなぁ。
「ちょっと街中でも狙われかねんな。俺の仮アバターやるからそれで活動しろ」
えぇ…街って非戦闘エリアとかじゃないのか。
アバターを貸すと言ったアンバーヘッドは、ベルトポーチから携帯端末を取り出して俺に何かを送ってくる。その言っていたアバターというやつだろう。
こっちも同じく端末を開こうと、音声入力をする。
「《メニュー》」
その言葉通りにメニュー画面が開かれ、インベントリが映し出される。一覧の中に赤いマークで強調された項目が写っており、そこはプレゼントデータ……いわゆる受信ボックスだ。
開くと、ふたつのアバターが写った。
片方はタイトルに《Southian Pilot》と銘打たれた、大振りの無線機を装着したバイザー付きヘルメットを被る、焦げ茶と緑の混ざった迷彩服とアーマーを着るアバター。
もう片方は《Louis Greg Vickers》という名の、冴えない感じの中年のオジサンだ。防具…ゲームに準ずる言い方をすれば、ヒューマンパーツが多めに装備されている。
「その《ルイス》の方はさっき俺が使ってたアバターだ、そのアバター使う時はルイスを名乗れよ」
「《わかった。つけてみていいか?》」
「構わん」
言葉に甘えてアバターを設定する。身体が一瞬霧散したかと思うと、粒子が集まっていってルイスのアバターが生成される。
「あー。 ……あ!? 喋れる!」
「なるほどなぁ…喉頭切除もされてたか。カトウ、お前たぶん素のアバターだと話せないぞ」
「はぁっ!? なんだよそれ…」
なぜ声帯をぶっちぎられたのかには、多分だが心当たりがある。キャラメイクの時に勝手に設定された《素性》のせいだろう。
アバターが勝手に改変されたのは残念だが、ようやくテキストチャットじゃなくてボイスチャットで会話できるようになったのだ、良しとしよう。
「とにかく…アバターはありがたく貰うよ」
「ああ。ルイスについてるヒューマンパーツもやるよ。売るもよし、使うもよし。好きにしろ」
それは素直にありがたい。ヒューマンダメージ……ミドルレッグの扱う銃火器に生身がどれくらい耐えられるのかは分からないが、あるに越したことはないはずだ。
アンバーヘッドが姿鏡を出してくれたので、 ルイスとなった俺の姿を見る。髭がジョリジョリ、中肉中背…いや、それなりに筋肉はついているな。まあそれを抜くとガチでアメリカとかにいそうな冴えないおじさんの顔だ。
「ルイス・グレッグ・ヴィッカース。それが当面のお前の名義になる。カトウは名乗るんじゃないぞ」
不便だなぁ。
Amber Head
アンバーヘッド
サウシアンに雇われる傭兵。確かな戦果を挙げる事から評判も良いが、パイロットの姿が安定しない。ある時は少女の声だと言われ、または青年の声、老人の声とも評され、掴みどころが無い。