没入型ロボアクションで最強の傭兵目指します   作:ノーシアン

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04:ショッピング

 

 

 

 マシンショップ。

 文字通りそのまま《MACHINE SHOP》という名で、如何にもパーツを売っていますと言わんばかりのシンプルな名前の店だ。外側からは黒いカーテンで塞がれていて中が見えない。

 

 物々しい雰囲気を醸し出してはいるものの、アンバーヘッドにおすすめだと紹介された店なら信じて入るしかないだろう。何せガレージやらアバターやらで世話になっているのだ。ここまで来て騙して悪いが…なんて事はないだろう。それならそもそもの話、親切にする必要は無いんだし。

 

 意を決し、店の中に足を踏み入れる。今更ながら、機械の義肢だっただけに生身の手足に感動を覚える。アンバーヘッドには後でもう一度お礼を言っておかないと。

 

 店の中は、外の雰囲気からも容易に想像できるような質素な内装だった。シンプルなソファにニスの剥がれかかった古いテーブル。その上には何枚かの紙が束ねられて粗末に置かれており、そのソファに座った()()はいた。

 

 溶接用ヘルメットの隙間から垂れるグレーの髪に、浅黒く焼けた肌。火傷の跡か、頬の皮膚が痛々しく爛れている。腕捲りをした長袖の作業着に薄汚れたエプロンを身に付けていれば、彼女がミドルレッグを扱う技師だとひと目でわかる。

 

「あんたがカトウ?」

 

 その名を呼ばれて身構えた。しかし、彼女は少しばかり笑って訂正する。

 

「ああ、悪い悪い。今はルイス・ヴィッカースだったわね。あたしはチョコ、よろしく」

 

「チョコ?」

 

「甘いものが好きなのさ。せっかくなら好きなお菓子の名前で遊びたくはないかい?」

 

 カトウは別に果糖とかそういうのじゃない、普通の苗字なんだが…。もちろんそれは言わないでおく。というかチョコはプレイヤーなのか。どうやらこのゲームはミドルレッグを操縦して戦うだけでは無いらしい。

 

 チョコは目の前の椅子に腰をかけるようこちらに促してくる。それに甘えて椅子に座ると、紙の束の中からひとつの薄いノートタブレットを取り出し、立ち上げる。

 

「うちの店は全商品オーダーメイドなんだよね。生産量が軍事工場に負ける。だからサウシアンの軍人は寄りつかない。顧客は腕の良い傭兵だけさ」

 

 オーダーメイドという言葉の響きが高級そうに聞こえるが、外観も内装もその言葉には似つかわしくないぐらいシンプルだ。だが、腕利きが好んで利用するあたり、客の要望にはしっかり答える信頼性があるらしい。

 

「で、何が入り用?」

 

「まず、腕を直したい。左腕が破損してる。あとはボディもだ。修復は請け負ってるのか?」

 

「うーん……修理はねぇ、やってないんだ。新規パーツに置き換えるんなら、一箇所8000円でやってあげるよ」

 

「8000円」

 

 貰った額が六万円。頭、ボディ、両腕、脚の五箇所を替えてもらっても、四万円。二万も残る。なら残った金額で武器なり買えそうだ。

 

「あ、言っとくけど8000円ってのは()()()()()()()()()ね。パーツそのものは別口だよ」

 

 …今頭の中で組んでいたプランが全部消し飛んだ。

 

 

 

 

 

 

「まいど〜」

 

 明細を渡されて店を出る。とりあえずガレージに帰ろうかな…。

 そう思って歩道を歩く。かなり高い買い物をしたが、おかげで機体はより良くなっているはずだ。

 

 

 

 ───RINNU-2089/E・C。

 89年式E型フレーム“霖雨”のチョコカスタム。

 一世代前のフレームではあるが、運用次第では軍用の現行機とも十全に渡り合える性能を有する。高いエネルギー補完性能を誇り、とりわけ駆動時間においては他の既存兵器すべての追随を許さない。

 チョコがカスタムした霖雨のマニピュレイトシステムは軍用最新機体と遜色も無く、運動制御と骨格装甲強度とのバランスが良い。

 

 ───R1-88 RAIKO・C。

 88年製1式ライフル“雷鼓”のチョコカスタム。

 性能の更新が激しい武装パーツにあって、旧型ではあるもののチョコの手が入ることで高精度を維持した、中距離射撃戦用マガジン式ライフル。装填はサブアームにより行われる。

 貫通力が高いためヒューマンダメージに優れる一方で速射性能は低く、正確な射撃が求められる。

 チョコからの“オマケ”。

 

 ───K-72BLD・C。

 “兼定”72年式ブレードのチョコカスタム。

 刀工の名を冠するロングブレード。腕部運動性能と腕部重量で威力を決定する、旧型の軍用装備。チョコによる改良では握りを重く、刀身を軽くする独自の構造を採用し、威力は低減するものの軽装甲機体相手への圧力と攻撃速度の向上に成功した。

 ブレードカテゴリはヒューマンダメージは低いが、マシンダメージに優れている。

 チョコからの“オマケ”。

 

 

 

 ……そう、俺はその機体一式を買わされた。というのも、一度今持っている機体のデータを見せたところ「こりゃ北側の第二世代じゃないか! 骨董品だよ!」とか「これなら全部取っ替えた方が安いね。安くして、しかもオマケもやるよ」とか言われたから、押し切られて買ってしまったのだ。

 

 これがなんとも良い意味で騙された。

 パーツの標準価格がどれくらいか知らないから信じて買ってみた。するとどうだ、店を出てから調べてみたら、フレーム一式の適正価格はだいたい100,000円らしいじゃないか。つまり俺が54,000円で買ったこのフレームはマジでめちゃくちゃ安くしてもらえてたということになる。

 

 多分、今後とも稼ぎまくってウチに金を落としてくれ……って事なんだろう。この機体はその前貸しのようなものらしい。

 

 チョコか……。

 可愛らしい名前の割に、相当に腕が良い技師なんだろう。オマケまでしてくれて、とても助かるというかなんというか。

 そう思い、頭の中でチョコを御神体のように崇めながら歩道を歩いていると、目の前からガラの悪そうな男が二人、歩いてくる。

 

 如何にも不良ですって見た目だ。ああいうのとは関わらない方がいい。すすす〜…と、さりげなく脇に逸れて避けようとするが───

 

「カトーだな?」

 

 悪手だった。さりげなくじゃなくてすれ違う直前で逸れればよかった。

 

「いや、俺はちが───」

 

「いいから来い!」

「いっててててっ!」

 

 トレンチコートの襟を引っ張られて路地に連れ込まれる。これはあれか。街中でも狙われかねないと言っていたアンバーヘッドの言葉が本当になったという事か。

 

「お前らっなんの用があって───いてぇって!!」

 

 襟を掴む腕を、力で無理やり振りほどく。そのまま振り返り際に、俺を引っ張っていた男の顔に拳をめり込ませる。これもヒューマンダメージってやつだろ!

 あまり手応えがないと思っていた拳の一撃は、しかし掴んできた男を大きく怯ませた。

 

「が…いってぇ……!! こいつ、強化義肢か!?」

 

「え?」

 

 普通の手にしか見えないけど。筋肉はついてるみたいだし、鍛えてるから強い体なんじゃないのか。そのまま振り切って逃げ出した。

 

 ───あっクソッ! 逃げたぞ!

 ───追え!!

 

 後ろから追っ手の声が聞こえてくるが、俺は構わず走った。ガレージまで辿り着ければミドルレッグがある。まだ機体は届いていないだろうから中古品で壊れかけのやつだが、あんなのでも生身に向かって撃てば死ぬだろ。

 

 突如、破裂音が響く。女性の叫び声が聞こえ、俺は背中に焼けるような痛みを感じた。

 やつら、銃なんか撃ったのか、この街中で!?

 逃げるのは無理かもしれないと思い、端末を開いてアンバーヘッドに連絡をする。

 1コール……2コール…出た!

 

「アンバーヘッド! 俺だ!!」

 

『誰だ? …ああ、カ……いや、ルイスか。火急の用事か?』

 

「急ぎなんてもんじゃない、追われてる!!」

 

『追われてるだと? 誰に? 何人だ!?』

 

 痛みを堪えて後ろを振り向く。銃を向けてきているのが一人、反対側の歩道に回り込んだのが一人。

 

「二人だ! 誰かは知らないが、俺の名前を知ってた!」

 

「お前の? カトウか?」

 

 俺はそうだと返しながらガレージに走る。アンバーヘッドが助けに来てくれるなら良し、そうでなくとも俺を襲ってくる存在がいることを知らせただけで良い。

 

『やっぱりそういうことか! いいかよく聞け……。ノースランド側の友人が───』

 

 友人が……それっきり言葉は途絶えてしまう。もう一度話せるか名前を呼んでみるが、応答は無い。ノースランド側の人間がなんだと言うんだ。走りながら思案する。

 

 今ガレージにいるはずのアンバーヘッドと連絡が途絶えた。それはつまり、彼女が何者かに襲撃されたこと、そしてガレージの位置を俺を知る奴が分かっていたということだ。なら、このままガレージに逃げるのは不味い。

 

 他に安全な場所は……。

 

 

 

 

『そこの男二人、止まれ! 止まらなければ、サウスランド陸軍駐屯師団の名を以て貴様らを射殺する!』

 

 逃げていた時、俺を守るように一機の小型兵器が追ってきていた奴の前に立ちはだかった。小型兵器とは言っても成人が縦に三人並んでようやくの高さで、背部に大型のブースターが4基、小型が6基も装備されているあたり、市街戦で優位に立ち回るための小型飛行兵器といったところか。

 そして、恐らくは暴徒鎮圧や重犯罪者の排除がその任務なのだろう。

 

 俺を撃ってきた男は拳銃を落として手を挙げ、地面に膝を着く。反対側の歩道に渡っていた男は逃げようとしたのだが、それをなんの躊躇も無くマシンガンで撃ち抜いた事に、多少なりの恐怖を感じた。

 

 マシンの中じゃなくて、生身で人が死ぬところを見た。それを知覚する程に、気分が悪くなっていく。

 

 ……没入型VRの、悪いところだ。何に対しても感受性が高まる。

 

『───聞こえるか? 今そっちにパトロールユニットを送ったが……』

 

 間一髪だった。どうやら状況から推察するに、音声が途切れた時に事態を察してパトロールを呼んでくれたのだろう。スマホでいうところの保留みたいな感じか。それで呼び終わって派遣を確認した今、戻ってきた感じだろうか。

 

「おかげで助かった。ありがとう」

 

 このゲームで死ぬとどうなるのだろうか。投降するあたりはデスペナルティの一つ二つはあるんだろう。それがどれほど重いのかはともかく、痛い事には違いない。出来れば死にたくないものだ。

 

 ……早く傭兵やりたいなぁ。

 

 それからガレージに戻るまで襲われる事がなかったので、相手の素性が知れることは無かった。

 

 

 

 

 

 

「災難だったな」

 

 パイプ椅子に座った少女は……アンバーヘッドは言う。全く本当に災難としか言い様がない。けど、名前を知られていたということは少なくとも無名では無いわけだ。

 そういえば、ノースランド側の友人とは一体誰のことなんだろうか。それに、その友人が何をしたのだろう。

 

「言ってた友達っていうのは?」

 

「あー……名前は言えないんだけどな、そいつが人探しをしてたんだ。名はカトー。お前の名だ」

 

「なんで俺の名前が?」

 

「知らん。ただ、あいつは“ミッションだ”とだけ言った。そいつは軍属でな」

 

 つまり、軍隊が俺の事を探している? ノースランドの軍隊が俺の敵という事か? そんなの無茶に決まってる。俺は一人だ。軍を相手に勝てるはずはない。

 これで俺は独立傭兵の道を断たれた事になる。サウスランドに身を寄せるしかないわけだ。

 

「取り敢えず今日はログアウトしとけ。明日、仕事を用意してきてやる」

 

「おお……ありがとう…」

 

 お言葉に甘えさせてもらって、俺は意識を遮断した。

 

 

 

 

 

 

 深い水の中から、誰かに身体を引っ張られるような感覚を覚える。VR内から現実世界に意識が戻る時の、いつもの感覚だ。

 

 目が覚める。椅子の背もたれにがっつり寄りかかった体勢だ。時間的には半日もVRにダイブしてなかったとは思うけど、体の節々が凝っている。

 最近は没入型VRでの体験で、体の動かなくなった患者のリハビリにも転用できないかの研究もしているそうだし、体が凝るのもそこら辺が原因なのかな。

 椅子から立ち上がって、壁掛け時計を見る。

 16時30分。これが届いたのが朝8時、諸々のセッティングが終わってダイブしたのがそこから30分だから、実に8時間も遊んでいたことになる。

 

 …腹減ったなぁ。

 ご飯あるか聞いてこよっと。

 

 






 Chocolate
 チョコ

 ミドルレッグ関連の分野で活動する職工。軍用機とも遜色の無い装備を製作可能で、サウスランド側で活動する一部の傭兵からは高い評価を得ている。彼女(アンバーヘッド)も懇意にしているらしい。
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