僕のサムライヒーローアカデミア   作:すしさむらい

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第一四話 緑谷出久と雄英体育祭 下

 

 

 太陽がひどく気だるいな、と心操人使は闘技場のゲートの向こうの日差に目を向ける。

 陽炎の向こうには、隻腕の剛体が、型稽古のようなことを繰り返し、殺意をみなぎらせている。

 

「自主練にこい、か」

 

 心操は誘われた件について、逡巡していた。

 ヒーロー科への編入をなさねば、そもそもヒーロー免許への道自体が通じないのである。

 にもかかわらず、自主練──。

 

 そもそも、2年次ヒーロー科への編入試験は二系統ある。

 試験編入は、入試と同様、学科と実技である。もし実技試験で、前回の入試の時のようにポイントを貯める仕組みだった場合、またしても詰んでしまう。

 

 もう一つは、学内推薦編入だ。教員による推薦を受けるというハードルの高さがある。

 

 心操は、賭博に出ることになる通常編入ではなく、教員推薦を狙っていた。

 だからこそ、この体育祭、是が非でも教員の誰かの目に留まる必要があった。

 

「──クソっ! 焦りが目を曇らせるってのは、マジなんだな」

 

 心操は洗脳の個性を持っているがゆえに、度々ヴィラン向きなどと嘲笑を受けることがあった。

 だが、そんなものは捨て置けばいい。

 自らの内心だけがすべてであり、他人がヴィランだと言えども、俺はヒーローだ、と心を強く持てば、それで何とかなる……そう思っていた。

 

 違う。

 違うのだ。

 

 心を強く持つのは前提でしかなかった。

 もっと、一歩前に出なければ、と。

 

 相手に問いかけ、その問いに答えてもらわねば洗脳は効かない。

 効かなかった場合、ヒーローたる心操はそこでどんな手が打てるのか? 

 

 何もないのである。

 

 体は限界まで鍛えたか? 

 格闘術の一つや二つを修めたか? 

 武器について何か習熟しているか? 

 

「俺は、何をしていたんだ」

 

 心を強く持っているつもりだった。

 計画的に物事を進めているつもりだった。

 自分が入試でヒーロー科に落ちたのも、やるだけやって運がなかった、と思い込んでいた。

 

 違う。

 足りていなかったのだ。

 

 1年A組の、あの無個性野郎はどうだ? 

 いま、型稽古を終えて、体の表面にうっすらと汗を浮かべ、ステージに向かっているあの巨躯をみて、そこに無限の努力と鍛錬の痕を見出せない心操ではない。

 

「俺も、最初からやり直しだな」

 

 誘われた自主練に出よう、と決心した。

 そのためには、まず、一発叩き直してもらう必要がある。

 

 俺は、毎日、尽くせる努力をすべてやったか? 

 出し尽くしたか? 

 

 否、である。

 

 だからこそ、足が震える。

 おそらく、自分はあのステージに立ち、あの剛腕に粉砕されるだろう。

 自分の頭蓋の砕ける音を、容易に想像できてしまう。

 

「OK、心操人使。今日で俺は生まれ変わる。本物の、ヒーローってやつにな」

 

 心操は、前に進む。

 ゲートを出る。

 日差しが、まぶしい。

 観客からの大歓声の中、ステージへとゆっくりとのぼる。

 

 最初の一発が勝負だ。

 相手に問いかけて、答えさせて、場外へと出す。

 そして、それにしくじったなら──頭蓋を砕かれに、前に出るだけだ。

 

 ルール上、降伏や自主退場もある。

 

 だが、ヒーローが逃げたら、誰がみんなを守るんだ? 

 ヒーローが折れたら、残された人々はどうするんだ? 

 

 ゆえに、退けぬし、降れぬのである。

 

「よぉ、緑谷出久──俺は、お前らの自主練に参加させてもらうぞ」

 

 この戦いで生きてたらな、と心操は、中学の授業でならった柔道の構えをとる。

 一方で、緑谷出久は、その残された右腕をまるで居合の姿勢の如く、正面に掌をむけ、待ち構えている。

 

 収めている武芸の格が、違いすぎる。

 

 こちとら中学柔道。

 あちらは、明らかにこちらを殺せる、古武道か何かだ。

 

「それ、剣道とかじゃないよな?」

 

 答えてくれ……! と強く、祈る。

 そう、祈ることしかできぬのが、今の己の限界である。

 心操は、くやしかった。

 努力の積み重ね方を誤った己を、いまここに恥じる。

 

 古木の如く、静かに、ただそこに構えてたつ出久の姿。

 あの構え一つを習得するのに何年かけたのだろうか? 

 こちらが、心さえ強くあればと言い訳して流してきた時間を、彼は、血と汗を流して進んできたのだろう。

 

 純粋戦士と、それに立ち向かうイキリ学生、といったところか……と心操は自嘲する。

 

 だが、恥の上塗りも上等。

 退くもならず、降るも許されぬ、ヒーローとして……前へ、でるのだ。

 

「いくぞっ!」

 

 覚悟だけは、出来ていた。

 だが、技術も、体もできていない、心操。

 その体から繰り出されるパンチは、緑谷出久を打ち倒すには、あまりにも非力。

 

 刹那。

 

 緑谷出久の手が動き、烈風が巻き起こる。

 風に巻き上げられて逆立つ心操の頭髪。

 

 心操は、己の異常に気付く。

 腹が、焼けるように熱いのだ。

 腹の表面から、背中に至るまで、火傷したかのような、ヒリヒリとした痛み。

 

「う、あぁ」

 

 心操が、しりもちをついてしまう。

 

 斬られた? 

 間違いなく、今、自分は腹を破られ、背骨を切断され、下半身と分離された、と感じた。

 

 抜刀の残身そのものの出久の姿。

 彼は、しりもちをついた心操に、さらに追撃。

 

 無論、刀身はない。

 また、緑谷の拳が心操に触れていることもない。

 

 だが、心操の顔面には、まっすぐ、一本の筋。

 痛々しいほどのミミズ腫れが、浮かんでいた。

 

 唐竹割──いま、心操は頭から両断されたのだ、と悟る。

 現実ではないのに、体が恐怖のあまりそう感じ、感じたままを身体の反応として返してしまったのだろう。

 

 だから、顔と、腹に、赤々とした腫れが浮かんでいるのだ。

 

「クソッ……クソッ、死んでも俺は、退かねぇし、くたばらねぇぞっ!」

 

 心操は、立ち上がる。

 体がおびえて、情けないことに失禁までしている。

 恥ずかしいか? 

 もちろん、恥じている。

 

 だが、心操にとって、それよりも、ここで降伏することや、退くことのほうがずっと恥ずかしいことに思えるのだ。

 

 ヒーローならば、と。

 

 心操が思い描く、ヒーローとしての自分は、敵が圧倒的に強くとも、守るために何度でも立ち上がり、命果てるまで戦い続けるはずなのだ。

 

「がんばれっ!! がんばれ心操っ!!」

 

 会場の歓声の中から、背中を押す声が聞こえる。

 誰だ? 

 誰が、このクソダサい俺なんかを応援しているんだ? 

 

 一人で生意気やってた俺を、誰が……。

 

「いけぇっ! 普通科の意地を見せてやれっ!!」

 

 ああ、そうか。

 皆だって、夢みてたよな、ヒーローに。

 普通科に入って、編入狙ったり、進学してヒーロー目指すシナリオだって想定してる連中ばっかりだ。

 

 心操は、拳に力を入れて、思いっきり緑谷に叩き込む。

 

 音のないすり足で間合いを調整され、その大きすぎる右手に受け止められてしまう。

 そして、心操の拳は出久によって包まれてしまう。

 じゃんけんで、グーはパーに負ける。

 それが、いま、物理的に行われるのだ、と察する。

 

「うぐぅぅっ!!?」

 

 心操の握りこぶしが、出久によってリンゴのように砕かれた。

 いままで経験したことのない痛みが、背中まで駆け抜けていく。

 そして、そのまま、逆手に返されてしまい、腕から肩にかけての関節が、なってはいけない音を立てて外れていく。

 

 そのまま、転倒する心操。

 痛みのあまり、もはや意識を手放しそうだ。

 当然、右腕は死んだ。

 いまごろテレビ放送をみている両親は卒倒しているだろうか。

 

「──へっ、全然効いちゃ……」

 

 ウソ、であるが、わずかな勝機をつかむべく、声をかけようとした。

 だが、緑谷出久は、容赦がなかった。

 

 心操は、出久の手刀が自分の左鎖骨にめり込んでいくのを感じた。

 圧倒的な力に押しつぶされた心操は、そのまま顔面から地面に倒れ込む。

 

 会場が、静寂に包まれる。

 やりすぎだろ、という声が漏れ聞こえてくる。

 

 だが、心操はオーディエンスの言葉になど耳を貸さない。

 

 もし、これがヴィラン相手だったらどうなのだ、と。

 ヴィランなら、こうやって容赦なく、こちらを責め立ててくるはずだ。

 洗脳の個性しかなくて、肉体を鍛えていませんでした、となれば、間違いなくその弱点を容赦なく付け狙ってくるだろう。

 

 敵は、常に狡猾。

 だから、ヒーローは常に万端に準備せねばならぬのだ。

 過去の自分がそれを怠ったからこそ、今の、自分の、どうしようもない姿に繋がっている。

 

「ふぐぅっ……」

 

 声にならない声を出しながら、心操は、這う。

 這うようにして、使い物にならぬ腕を杖に、何とか、立ち上がろうとする。

 

「止めろっ! 心操ッ! そのまま寝てろっ! 降伏だ、降伏っ!」

 

 普通科の連中が、必死になって審判にもう心操はダメだから、タオルだ、タオルっ! と説得しようとしている。

 だが、審判たるセメントス先生とミッドナイト先生は、何も言わない。

 

 そうだろう。

 ここで倒れて、ハイ終わり、なんてのはヒーローでも、何でもない。

 普通科の連中だって分かってるはずだ。

 だけど、つい心配してしまって、あんなことを言ってるんだろう。

 良いやつらだよ、本当に、と心操は、感動する。

 

「おい馬鹿っ!? 立つなっていってんのがきこえねぇのかっ!」

 

 聞こえてるさ、お前らの声は、と心操は膝をがくがくさせながら、立ち上がる。

 さぞヒデェ面をいているんだろう、と心操は自分自身の姿を想像する。

 たぶん、さっき鎖骨もろとも潰されたときに、片肺も潰れてるかもしれないな、と、ゼー、ゼーと血泡交じりの呼吸を繰り返しながら、緑谷出久を、にらみつける。

 

 手も、足も出やしない。

 だが、ヒーローは、それでも立ち上がるはずだ。

 

「緑谷出久、俺は、なるぞ、ヒーローに」

 

 この言葉なら、奴は乗るだろう。

 なにせ、策謀でも、ウソでも、欺罔でもない。

 心操人使の、一世一代の誓いの言葉だからだ。

 

「お美事にございまする」

 

 緑谷出久の頬に、一筋の涙。

 何泣いてんだバカ野郎、素直に答えやがって……テメェは場外に出やが……

 

『そこまでっ! 担架っ!』

 

 心操人使は、立ったまま意識を失った。

 準備していた医療班が直ちにステージに駆け込み、心操を担架に乗せて、運んでいく。

 

 心操人使、一回戦敗退。

 会場は、あふれんばかりの拍手で心操を見送る。

 

『HEYHEY,こいつぁ、マジだったな。おい、イレイザーヘッド、何泣いてんだお前?』

『泣いてねぇ。目が汗をかいただけだ』

『な、なるほどぉ~……さぁて、どんどん行くぜっ! PlusUltra!』

 

 その後、心操と緑谷の戦いに中てられた若者たちは、魂の熱さをぶつけ合った。

 雄英史上、もっとも血なまぐさい一年生ではないかという世評を受けることになるのだが……1年A組は、そのような世評などどうでもよかった。

 

 クラスの仲間三人が、同時に、重大な電話を受けたからだ。

 飯田は兄の入院を。

 爆豪と緑谷は、年嵩の友の入院を、知らされた。

 

 明らかに動揺している三人の隙を突いて、容赦なく敗北させたクラスメイト達。

 最大限の気遣い、である。

 

「いけよ」と切島にうながされた三人は、すまん、と頭を下げて、雄英体育祭を早退した。

 

 翌朝のニュース記事には、雄英体育祭1年の記録が載っていた。

 一位は、轟。

 二位は、常闇。

 三、四位が塩崎イバラ、切島であった。

 

 ベスト4のうちに、3人をA組が独占したことは学校でもメディアでも話題となった。

 しかし、1年A組の心を占めるのは、三人の痛ましい思いのことばかり。

 仲間の痛みは、我らの痛みだ、と固い絆で結ばれている1年A組にとって、それはもうどうしようもないことなのだ。

 

 ゆえに、少し、後味の悪さを残しながら、1年A組の最初の体育祭は、幕を閉じたのである。

 

 

 

 

 んだよっ! 心配させんなよオッサンっ! と病棟に大声が響く。

 直ちに看護師が駆け込んできて「静かにっ!」と注意。

 爆豪は、あ、という顔をして、頭を下げる。

 

 保須市中央病院に入院した仮免ローカルヒーロー『ジェントルメン』は、相場愛美にリンゴをむいてもらっているところ、突如二名の来客に見舞われた。

 

 二人とも青い顔をしていたので、体育祭の成績が芳しくなかったのか、と思い、体育祭は楽しかったかね? などと気を配って尋ねたら、なぜか爆豪君がブチ切れてしまい、先ほどの騒ぎとなったのである。

 

「はぁ……よかった。重傷ではないんですね?」

 

 緑谷が、やれやれと、隣の空きベッドのところに置いてあった椅子に腰かける。

 四人部屋に入院している飛田だが、たまたま空きのある病室に配置されたため、個室のようなものとして振舞う、緑谷。

 

「抗生物質投与と、検査入院ですな」

「あれ、お二人に連絡しましたよね? 無事って」

 

 言ってねぇよ、と爆豪が相場から受け取ったメッセージを読み上げる。

 わたしのジェントルメンがヒーロー殺しにやられて、いま病院。なんとか生きてるけど……、とだけ書かれたメッセージに、爆豪が切れちらかす。

 

「何とか生きてるって、紛らわしいんだよ、相場さん」

 

 肩の力が抜けたのか、爆豪が出久の椅子を強引に奪って、そこに座り込む。

 椅子を奪われた出久は、仕方なく、爆豪の隣で空気イスに座る。

 

「そうかしら? 実際、何とかって評価もおかしくないわ」

 

 ジェントルメンが身に着けていたボディカムの映像をみせられる爆豪と緑谷。

 やはりというべきか、飛田は良く動けている。ターボヒーローインゲニウムとの連携もしっかりとできているので、実力に問題は見られない。

 

 にもかかわらず──対峙するヒーロー殺し、ステインの実力は並外れていた。

 緑谷を上回るのではないかと思われる太刀筋の見事さに、爆豪も出久も舌を巻く。

 

「これがヒーロー殺しか。このオレならワンパン、なんて言ってられる相手じゃねぇな」

 

 真剣に映像を繰り返し分析する爆豪。

 涼しい顔で空気イスに座っている緑谷も、ジェントルメンに傷を与えた一太刀の動きに見入っている。

 

「すごいね。いまの見た? ジェントルの弾性膜を逆利用して、一気に加速して突きに変えてる。ジェントルの弾性膜って目に見えるもんじゃないから、ここに置かれる、ってあらかじめ想定したんだろうね」

 

 状況を想定して、それを精確に実行する戦い方、ということで出久が思いだすのは、一昔前のクライムファイターヒーロー、オクロックのことだ。

 個性はオーバークロック。思考速度を加速させるヒーローで、数多の犯罪者をぶちのめしてきた、出久の尊敬するヒーローである。

 

 オールマイトの無敵の強さと違い、ただ思考が加速するだけなので、出久は彼の戦歴からたくさんのことを学んできた。

 

「オクロックの流派ってことか。ポップログに残ってねぇの? 相場さん」

「ちょっと待ってね」

 

 相場がリンゴを飛田の口に突っ込み、ラップトップPCを叩く。

 飛田がもぐもぐとリンゴを食べる音と、キータイプの音だけが、病室に響く。

 

「んー、近いのは、ヴィジランテ(※非ライセンスヒーロー)のスタンダールの記録かしら」

 

 ポップログとは、かつてどこかの街で大活躍して引退したというローカルアイドルが記録していた、非ライセンスヒーローたちの交戦記録である。非合法な立場でヴィランと立ち向かうヴィジランテたちは、ヴィラン扱いされて捕まったときに備えて映像記録を残した。その記録はダークネットの海に沈んでいたのだが、飛田の教育用に相場がサルベージしてきたのである。

 

「うーん、確かに近いけど、別物だよね」

 

 出久は、かつてのスタンダールの太刀筋と、現在のステインの太刀筋には大きな違いを感じていた。殺意のラインが直線的なのがスタンダールであり、縦横無尽なのがステインである、と解説する。

 

「テメェなら斬り結べるか?」と爆豪。

「数合なら。合わせ太刀をするべき相手じゃないよ。矢合戦で仕留めるなり、袋小路に追い込んで一撃で決めるか、そんな感じで、とにかく短期決戦しかないと思う」

 

 泥仕合となり、相手に血を舐められるようなことは避けないとダメだ、と出久はベッドに沈んでいる飛田をみながら断言する。

 

「やはり、ダメかね?」

「無茶ですよ。飛田さん単体だったら普通に死んでますね。インゲニウムとの2対1だったから、ステインの集中力も分散して、いい感じに戦えてただけですよ」

 

 だから、ステインと戦うなら必ずチームアップしろ、と口を酸っぱくする緑谷と爆豪。

 うむ、と頷く飛田に、ほんとにわかってんのか? と爆豪がつっかかる。

 

「相場さん、マジでおっさんのサポートしたほうがいいぜ。正直、これがなくておっさん、焦ってんだよ」

 

 指でゼニのサインを作る爆豪。

 なるほど、と相場が納得する。

 ケッコンするにも式を挙げるにも、お金はいるものね、と。

 いや、その前に活動資金てもんが……と爆豪が相場と話し込んでいるところに、唐突な来訪者がやってきた。

 

「この度はっ、兄を救ってくれて、本当にありがとうございましたっ!!」

 

 バシっ、と90度に腰を折る少年の姿。

 当然、声がでかすぎて、再度看護師がやってきて『次やったら全員退去ですからねっ!』と叱られる。

 

「……おい、飯田。テメェのせいで叱られたじゃねぇか」

 

 愛想笑いと浮かべながら、すみません、すみませんと看護師さんに謝罪を終えた爆豪と出久が、病室に殴りこんできた飯田を注意する。

 

「す、すまない。ただ、どうしても御礼をしたくて、焦ってしまった……」

 

 しょんぼりとする飯田を、出久が、ここにすわりなよ? と自らの空気イスの隣に、爆豪が座っていた椅子を置く。

 緑谷君は何か僕に見えない椅子にすわっているのかい? と飯田が訊ねると、こいつはどこにでも座れるんだよ、と爆豪が首を振った。

 

 ベッドにてリンゴをもしゃる飛田に、改めて深々と頭を下げる飯田。

 

「いやいや、仕事ですからな。頭を上げていただきたく……」

 

 他人から礼を言われることに慣れていない飛田が、慌てている。

 

「おかげさまで、兄はしばらく入院したら、無事自宅療養に移れます。あと、兄から名刺を預かってきています」

 

 飯田から差し出された名刺を受け取った飛田は、その裏に書かれていたメッセージを読む。

 必要なときは呼べ、とだけ書かれていたそれを、飛田はじっとみていた。

 

「兄が、何か?」

「ああ、お兄さんに伝えてほしい。必ず、呼ぶ、と」

 

 必要な時=再びヒーロー殺しと相まみえるときであろう、と飛田はその名刺の連絡先をスマホに登録し、畳んであったヒーローコスチュームの内ポケットにしまいこむ。

 

「はい、必ずお伝えいたします」

 

 飯田が、会釈して、席をたつ。

 

 相場と出久、爆豪が飯田を見送り、再び飛田のベッドを囲む。

 ここからは、研究会である。

 ヒーロー殺しステインを、次こそ確実にとらえるために、仮免ローカルヒーロージェントルメンを、強化せねばならぬからである。

 

 ヒーローに、停滞は許されない。

 

 常に明日の己は、今日の己を上回っていなければならぬのである。

 




体育祭、おわり。
数多のヒロアカ二次創作のエタりポイントを乗り越えたぞ……。

あと、感想と評価、ありがとうございます! 超えられたのは、そのおかげですぞ。
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