僕のサムライヒーローアカデミア   作:すしさむらい

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次回から、職場体験。


第一六話 緑谷出久と職場体験前夜

 

 

 太陽が、沈もうとしていた。

 1年A組の放課後自主練部は、職場体験を間近に控えていたため、強度を落とした乱取稽古を早々に切り上げ、各々シャワーを浴びにトレーニングセンターのシャワー室へと向かう。

 

 爆豪は、堂々と女子シャワー室へと入ろうとした峰田を焼きブドウにしてから、男子シャワー室へと入る。

 

 広々としたシャワールームは、かなりの数のシャワー個室に分かれている。これらが埋まることは通常ないため、普通は隣り合ってシャワーを浴びるということもない。

 

 だが、爆豪はあえて、飯田の隣のシャワー個室へと入る。

 

「む? 爆豪君か」

 

 飯田が爆豪に気付いたようだ。

 

「飯田、テメェに言いたいことがある」

 

 爆豪は直ちに本題に入る。

 回りくどい話をすればするほど、飯田のような真面目なやつは話がこじれかねないからだ。

 

「そ、そうか……すまない、爆豪君。たぶん、僕は異性愛者だから、同性からの想いは……」

「そうじゃねぇ」

 

 慎重に言葉を選ぶように先回りしてくる飯田に、爆豪は呆れる。

 

「というと?」

「職場体験の話だ。テメェ、先走るなよ」

 

 爆豪は危惧していた。

 1年A組は修羅の組である。

 それは、かつてUSJにてヴィランに死の淵まで追いつめられたが故の、自己改革の結果である。

 だが、爆豪は各人の心構えを様子見している中で、飯田だけが、覚悟に曇りがみえるのだ。

 

「気にしてんだろ? テメェ一人だけ、USJんとき、安全な場所にいたんじゃないかってな」

 

 A組一同の生命線を託すにふさわしい男だからこそ、飯田に託して教師たちの元へと伝令させた。

 だが、責任感と生真面目さゆえに、1年A組の死地に同伴できなかったことを一人、うじうじと後悔しているのを、爆豪は繊細に感じ取っていた。

 

 それが確信に変わったのは、インゲニウムが負傷した事件の見舞いの時だ。

 度々入院先の病院で顔を合わせていたからこそわかる。

 こいつは、勘違いしてやがる、と。

 

「……1年A組で、僕だけが『死線』をくぐっていない」

 

 爆豪がじっと睨んでいると、いよいよ飯田が白状する。

 やっぱりな、と爆豪は中指を立てて飯田に突きつける。

 

「なめんな、飯田。んなもん、早いか遅いかだけのことだろう。死線なんてのはどっかで必ず直面する。オレは……仕上がっていない時にそれが来た。だが、テメェはそうじゃなかったってだけだ」

 

 爆豪らと必死の自主練を日々繰り返している飯田を、1年A組の生徒たちは誰もが親しみを込めてクソ真面目と呼んでいた。

 それは決して嘲りや侮りではなく、1年A組の中で、彼ほどに誠実で、生真面目にクラスのことを考える奴はいないから、という信頼の表れでもある。

 爆豪ですら、出久以外でクラスメイトの中からバディを選べと言われたら、飯田を候補に思い浮かべるくらいなのだから、相当なものである。

 

 その飯田が、本当にくだらない、死線をまだくぐっていないなどという時節柄の問題風情でコンプレックスを肥大化させているなどというのが、爆豪には納得しがたかった。

 

「職場体験、マニュアルの事務所にしたのは、兄貴の事務所にしたら死線から遠ざけられるって思ったからだろ?」

 

 爆豪は、飯田があれほど尊敬しているインゲニウムの事務所からの職場体験を拒否して、生真面目系ヒーローであるマニュアルのところへと願書を出したときに、飯田の勘違いした思い込みと歪んだ覚悟を、形として思い知らされた。

 

 どうにかしねぇと、と出久に相談もしたが、あのバカは、将門師匠の影響でそういう人間らしいちっぽけな悩みを軽く考えてしまう悪癖があって、話にならなかった。

 飯田君ほどの男が、そんなちっちゃい悩みでダメなったりなんかしないから、信頼して当人に任せたらいいんじゃない? などという組織をまとめるリーダーには向かない考えを持っていて、爆豪をただただ疲れさせた。

 

(クソデクはリーダー向きじゃねぇからなぁ……)

 

 クラスメイトたちの司令塔は八百万、精神的支柱は切島、実務リーダーは飯田、というのが爆豪の見立てである。クソデクや爆豪、轟は、戦闘班長のようなもので、1年A組の暴力装置として性能がいい、という程度だ。

 

 A組三本柱の一人である飯田が歪んでしまうと、A組の統合戦力は大幅に下がる。

 それだけは、爆豪としては何とか避けたいことであった。

 

 雄英が、狙われているという問題は、いまだに何一つ解決していないのだから。

 

「……僕がどこを選ぼうと、爆豪君に関係な──」

「あるに、決まってんだろがっ!!」

 

 シャワー室に響く、爆豪の一喝。

 全員の視線が、爆豪に向く。

 

 爆豪は、周囲の視線など無視して、飯田の態度に問題があると断じる。

 

「先走ってヒーロー殺しか何かとやりあえば、自分も死線をくぐれるんじゃないかなんて考えてんだとしたら、テメェはヒーローでも何でもねぇし、今すぐ雄英ヤメロっ!!」

 

 熱くなったら止められない。

 爆豪の、悪い癖である。

 自覚はしているのだが、治らないのだからどうにもならない。 

 

「いいかクソメガネっ! テメェは1年A組の柱やってんだぞ? テメェの一挙手一投足が全員に影響するし、全員がそれを見てるってのに、何が関係ねぇ、だ? 久々にキレちまったぜ……テメェ、着替えて表に出やがれ」

 

 爆豪は声を荒げて、シャワーを中断し、荒く服を着て、髪も個性の爆発による爆風で乾かしながら、表へと飛び出した。

 

 

 

 A組との自主練を終えて、職員室にて相澤先生に日課報告をしていた心操は、爆豪と飯田がケンカしているから、お前、とめてこい、とイレイザーヘッドに特別課題を出された。

 

「あと、お前今から生徒会風紀委員な。俺が命じる」

 

 風紀委員の腕章と、捕縛布の使用許可を渡された心操。

 

 駆け足で問題の現場へと向かい、いよいよ死ぬかもしれんな、と震えながら、トレーニングハウス前の人だかりをかき分ける。

 

「はいはい、どいてどいて。風紀委員ですよ」

 

 風紀委員、の腕章と、イレイザーヘッド仕込みの捕縛布を装備した心操が、群集をかき分けていくと、そこには互いにボロボロになった飯田と爆豪の姿。

 

「おいおい、お前ら熱くなりすぎだろ」

 

 心操が二人に捕縛布を鞭のように飛ばすが、それをあっさりと回避する爆豪と飯田。

 まだまだ捕縛布操法は習熟の途上であるため、少々心操には分が悪い。

 だが、心操としてはそれでよかった。

 相手は武張った連中であるので、物理的攻撃に注視しがちな悪癖がある。

 

「爆豪よぉ、拳で語り合わねぇと飯田は説得できなかったのか?」

「心操は黙ってろっ! これはオレなりの指導だ、指導! あっ……」

 

 隙あり、である。

 頭に血が上っている上に、A組との自主練でやりあった仲だ。

 知らぬ仲ではない。

 ついつい無警戒になってしまうだろう。

 そこが、心操が爆豪につけ込むチャンスだった。

 

「はい、爆豪はそこで座禅を組みたくなる」

 

 爆豪がとろんとした顔で、その場で座禅を組み始める。

 心操が想像した以上に様になっていたので、こいつ、相当禅の修行積んでいるんじゃないか? と知らなくていい事実を知ったような気がした。

 

「ほら、飯田も大人しくしろ」

「……」

 

 飯田は警戒して何も答えない。

 だったら、簡単だ。

 飯田が答えてしまうよう、誘導するだけである。

 

「わかったわかった。何も言わねぇなら言い分の聞きようもない。俺としても不満だが、とりあえず、1年A組の自主練は今後禁止な。私闘するために学校は施設貸してるわけじゃねぇんだぜ?」

「なっ! 心操くんっ、罰するなら僕だけにしたまえっ! 仲間は関係ないはずだっ!」

 

 あっ、しまった、と顔に出ている飯田。

 仲間思いの真面目さは買うぜ、と心操は飯田の素直さを高評価しながら、座禅を組ませることにする。

 

 二人を無事、座禅させた心操は、捕縛布で簡単に縛り上げてしまう。

 

「障子、砂藤、二人を抱えて連れてきてくれ」

 

 爆豪にコーラ十本を賭けていた賭博現行犯である砂藤と障子に手伝わせる。

 飯田に賭けていたらしい峰田と上鳴に、地面を整備しとけ、と厳命しておく。

 

 さて、担ぎ上げられた衝撃で、二人の洗脳が解かれる。

 

「あっ! 心操、テメェっ!」

 

 頭髪からの汗をボンボン爆発させて暴れている爆豪。

 だが、捕縛布は簡単には解けない。

 飯田は、やられた、と唇を噛んでいる。

 

「ったく、熱くるしいんだよ、お前らは。ちょっと反省室で、お互いの思いの丈をちゃんと話し合え」

 

 心操は心理戦の探求者である。

 1年A組の自主練に参加するようになってから、いつか飯田と誰かがぶつかってしまうことは予想していた。

 飯田が何かわからぬコンプレックスを肥大化させていることを、心配していたのは爆豪一人ではない。

 心操の予想では、切島か耳郎が話を振るのかと思っていたのだが……まさか、意外にも爆豪であった。

 だが、口下手で、ハートをぶつける方向に振れがちな爆豪には向かぬ仕事でもある。

 それでも、抱え込んで自分で苦手なことをやってしまう、爆豪。

 

 飯田と似た者同士だよな、と心操は思う。

 こういうやつらのために、ケンカするほど仲がいい、なんて言葉があるんだろうな、と、心操はうごうごと暴れている二人の姿をみて、すこしだけうらやましく思った。

 

 

 

 

 義爛に指定された廃ビルの下層階。

 薄暗い作業用電灯だけが灯るところに、得体のしれない黒い霧。

 

 義爛がそこに立っていて、向こうでお客さんがお待ちだ、と告げる。

 

 ステインは転移か? と、飛び出した先でいつでも一仕事できるように、神経を張りつめる。

 

「義爛、これはただの面会か?」

「そうなるね。金をもらっての人材紹介ってとこさ」

「お前のビジネスで、お前は主導権を持っているんだな?」

「まぁな」

「そうか」

 

 ステインは、黒い霧をくぐる。

 義爛が脅されているか、人質でもとられているのかと警戒したが、その筋は弱い。

 むしろ、やつの言葉通り、紹介業なのだろう、と飛び出した先にバーを見て、思う。

 

 バーカウンターにはバーテンダー。おそらく、黒い霧を制御している奴だ。

 そして、客席のカウンター席には、切断され、防腐処理が施された手を身に着けた変質者が一人。

 

 猟奇的な、濃厚な悪の気配。

 もはや、言葉は無用である。

 だが、弾劾と誅殺は、証拠なしでは行えない。

 

「ようこそ、ヴィラン連合へ。先生がさぁ、なんかお前を手に入れろってうるさいんだよ。思想犯、だっけ? なんか社会をぶっ壊すときは、そーいうコマもいるんだとさ」

 

 自白。

 こちらから問答する間もなく、手を身に着けた変質者の露悪。

 さらされた悪意を目にして、退くことはできぬ。

 断罪、すべし。

 誅殺、すべし。

 

 長らく自らを誅殺装置として練磨してきたステインは、真っ先に敵の退路を断つべく黒い霧の男に投げナイフを投ずる。

 無挙動の不意打ちに対応しかねた黒い霧の男は、かすり傷を負う。

 

 素早く跳躍したステインは、黒い霧の男の鮮血を舐めて、そのまま凝血の効果で拘束する。

 

 そのままバーカウンターの背後にある酒の棚を踏み台にして、手を纏う男に切りかかる。

 

 後方で、ガシャンと酒が崩れ落ちている。

 前方では、こちらのナタの一太刀を、素手で受けている手を纏う男。

 手はわずかに斬れ、血が飛び散る。

 だが、同時に食い込んでいたナタの刃先も消滅した。

 

「崩壊の、個性、か」

 

 だか、ステインはためらわない。

 穿つべき悪があるなら、それを穿つまでのこと。

 

 奴の血を舐め、動きを拘束する。

 

「くっそ……俺は刀野郎にいつもやられる役か何かか?」

 

 体の自由が奪われた手を纏う男が崩れる。

 容赦なく、袈裟斬りをかけるステイン。

 ナタの刃が、手を纏う男の肩に沈む。

 

「弱、すぎる。ハァ……貴様が、本当に、ヴィラン連合、の長、か?」

 

 組織の長というのは強さで決まるものではない。

 組織を構成する連中が担ぎ上げていい、と納得できるものが選ばれるのがヴィラン社会の原則のようなものだ。

 納得のさせ方が暴力なのか、恐怖なのか、はたまた利益や実務能力なのかは様々だが、いずれにせよ、ヴィランをまとめるには、そういう『長』たる特性が必要だ。

 

 だが、この手を纏う男からはそれを感じなかった。

 せいぜい、チンピラどもを個性の力で脅して従わせる程度の男にしか見えない。

 なぜ、こんな程度の低い悪党を、義爛は紹介してきたのだろうか? 

 殺してほしいから、だろうか? 

 そうであれば、義爛に利用されていることになる。

 だが、義爛なら、単に金をステインに渡して、こいつを殺せ、というだけで済む話だ。

 さんざん儲けさせてやったし、義爛も必要な時に金をケチる男ではないことを、ステインは知っている。

 

「ステイン、オレは、テメェがキライだ」

 

 手を纏う男が、食い込んだ刃に触れてそれを消失させる。

 後方に素早く跳躍して新たな武器を手にするステイン。

 

「よく、覚えとけ。オレは死柄木弔。この社会ってやつをぶっ壊す、大型新人ってやつだ」

 

 ステインは、死柄木の言葉の続きを待つ。

 社会を壊す、という言葉は、その字面ほど単純ではない。

 ヒーローに治安維持を外注している国の体制そのものを破壊したいのか。

 それとも、ヴィランを生み出す社会構造を破壊したいのか。

 あるいは、ヒーローやヴィランなど、関係なく、すべてただ壊したいのか。

 

「貴様の、定義、する、社会を、言え」

「知るかよ。全部だ、全部。オレは、全部気に食わねぇ」

 

 子どもの、癇癪か? とステインは内心で呆れつつも、そこに純真さを見出す。

 方法論も、主義も主張もない。

 ただ一点、今生きている全部が不満だから、全部壊して作り直す、とのたまう死柄木の姿に、ある種のカリスマが宿っていることをステインは察する。

 

 正義は、常に悪より生ずる、というオールマイトの格言を身に刻み付けているステインは、死柄木の行動の果てに、悪が跋扈し、再びオールマイトに勝るとも劣らぬ正義と平和の象徴が生まれる未来を、幻視した。

 

 この男は、生かす、とステインは決心する。

 死柄木が社会のゴミどもを集め、本当にクーデターモドキをやろうというのなら、それはヒーローを名乗る連中とぶつかることを意味する。

 その動乱は、間違いなくヒーローを名乗る連中を、本物と偽物に仕分けるだろう。

 

 ステインは、己の欲望──ステインなりの社会正義の実装に、この死柄木が役に立つ、と判断した。

 

「ハァ……生きて、為せ」

 

 ステインは、武器をしまう。

 怒りにまかせた死柄木が飛びかからんとしたので、仕方なく、投げナイフで両足の甲を『縫い付け』てやる。

 

 うめき声とともに、その場にうずくまる死柄木。

 

「おいおい、やりたい放題かよ。こっちはヒーラーが居ねぇんだぞ、こら」

 

 油汗を浮かべた、余裕のない死柄木の表情。

 まだ、カリスマとして、幼すぎる。

 

「おい、黒い、霧。そいつを、しっかり、育てておけ」

「!!」

 

 黒い霧は話が通じるようだ。

 背後に、新しいゲートが生まれた。

 

「死柄木弔、契約は成立ですっ! 怒りを静めてくださいっ!」

「気に食わねぇ、頭でっかちのイカレ野郎なんざ要らねぇんだよ」

 

 ステインは、死柄木と黒い霧の男の揉め事に興味はない。

 速やかに、ゲートをくぐり、もとの廃ビルへと戻る。

 

 

 

 ステインが戻ると、退屈そうに煙草を吹かす義爛と、女子高生がいた。

 

「よぉ、旦那。その感じだと、時間の無駄だったか?」

「いや、有意義だった」

 

 ステインの言葉が意外だったのか、義爛が唖然としている。

 あまりにも大げさなので、タバコが無駄になるぞ、と教えてやる。

 

「トガ・ヒミコ。久しいな」

 

 ステインは女子高生に声をかけた。

 知らぬ仲ではない。

 かつて、幾度か、事件に巻き込まれそうになっていたトガをステインは助けていた。

 年端もいかぬ子どもが、ヴィラン共が跋扈する夜の都市部を徘徊しているのだから、問題が起きぬはずもない。

 

 悪党は、常に女子供を狙う。

 その悪党を、ステインが、狙う。

 

 そこに協力関係は、ない。

 トガに帰れと説教したところで、帰る場所はない、と言われるだけだ。

 この国には、帰る場所のない子どもが徘徊している。

 これを放置している社会は、間違いなく、腐っている。

 その腐臭の中で、悪あがきをしている悪党の一人が、ステインである。

 

「ステ様、今日はあんまりボロボロじゃないですね? あたし、ボロボロのステ様を見るのが好きなんです。血まみれの姿が……とっても、かぁいいのです」

 

 日本語は通じるが、話は通じないことが多いトガの言葉を、ステインは何とか理解しようとする。

 だが、理解できない。

 かぁいい、つまり、かわいいとは感想であるがゆえに、その気持ちは受け取った、としか言えないのだ。

 

「義爛、金、だ」

 

 ステインは、義爛の闇口座に、スマホ経由で送金する。

 しばらくは、トガが身ぎれいなままでいられる金を、躊躇なく渡す。

 少なくなった己の口座。

 だが、ステインは気にしない。

 また悪党を始末して稼げばいいだけのことだ。

 

「毎度あり」

 

 義爛が手配したマンションに、トガは隠れ住んでいる。

 隣室には飛田なる冴えないヒーローが住んでいて、トガに迫る危険は少ない、と義爛はステインに説明していた。

 

 ステインは、その飛田というヒーローが本物か、偽物かの判定をすでに済ませている。

 保須でひと暴れしてみれば、インゲニウムと共に真っ先に現着し、ステインに躊躇なく立ち向かってくる愚か者であった。

 実力は、ある。

 その場でチームアップをしたインゲニウムを助けようとする、侠気もある。

 少々小物感が強いものの、隣室のトガの身に何かあれば、躊躇いなく助けようとするヒーローであろう確信はあった。

 

「ステ様、どうしてトガに良くしてくれるんですか?」

 

 トガがステインに抱き着いてくるので、振り払う。

 しりもちをつく、トガ。

 

「ハァ……トガ・ヒミコ。お前の、普通を、受け入れない、社会を、いまだ正せぬ故の、贖罪だ」

 

 吸血の個性に振り回されて、その幼い精神性を暴走させているトガを、救う仕組みを社会は備えていない。

 その社会をのうのうとのさばらせてしまっているのは、ステインの努力が足りないからだ。

 ゆえに、罪を認め、いまは、金で免罪符を買う。

 

「どうしよう、私、ステ様のこと好き。チウチウして、ステ様になって、殺したいくらい好きです。どうしたらいいですか?」

 

 トガが立ち上がり、ステインの手を引っ張る。

 その手には熱が。こちらを見上げる目元はうるんで、頬は朱に。

 

「世を正し、俺が、裁かれるべき時に……殺しに、こい」

 

 ステインは、トガの手を払い、廃墟から足早に去る。

 

 いつか、トガの手によって殺されるのも、悪くない。

 その時は、世も変わり、トガも好きなように生きられるようになっているだろう。

 なぜなら、すべての悪は滅び、ヒーローは皆、オールマイトの如く無私であるはずだからだ。

 

 その世界なら、トガの居場所はあるだろう。

 救われるべき彼女に、ヒーローが手を差し伸べているはずだろうから。

 

 

 




やるときが来たか。ヨロイムシャわからせを(※需要なし)。
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