異世界から召喚した悪役令嬢?のお嬢様をメ○堕ちさせるだけの話 作:白樺の木
はぁ……何ヶ月ぶりだ?定時なんて。
そう独り言を誰に言うまでも無く思う。帰宅ラッシュよりは少し早めだったお陰か、電車内はそれほど混んで無くて快適だった。最近は割と混んでいたので、何だか得をした気分になる。
暫く揺られて最寄駅に着き。さぁ、家へ帰ろうと意気揚々に改札を出た俺はすぐ、違和感に気づいた。
街の喧騒の中、少し違う音が聞こえた。どこか懐かしいノスタルジックを感じる様な。最近は残業ばかりで、家と会社をシャトルランするだけの生活だったので凄い気になる。そのまま音が鳴った方向へ向かってみる事にした。
『いしやーきイモオイモ〜』
駅前。屋台の車が止まっていた。近づいて聞こえてくる声で懐かしさの正体が分かった。焼き芋か……。今は二月。と言っても今日は特に寒かった。そんな日に温かい焼き芋を頬張って、温まるのも悪くはないだろと思い、車に近づく。するとおじさんがイモを出しているのが見えた。
想像したまんまのあのメガホンが付いた販売車両で、まるでそこの空間だけタイムスリップしたかの様な感じだ。キッチンカーとかじゃなくて、昭和のあの感じをイメージしてくれれば伝わるだろう。令和の世の中で、最近あまり石焼き芋の声を聞かなくなった気がする。だからこそ、ついつい見つけたら買いたくなってしまう。
幸いまだ来たばかりなのか、それとも皆焼き芋を買わないのか。出ていたイモは三個だけだった。大きいのと小さいの、そして中くらい。迷わず俺は大きい焼き芋を買った。
千二百円と言われて少し考えてしまった。確かバイトの時給と同じ筈だ。この焼き芋が時給。そう考えると実物以上に重く感じられる。まあ、文化遺産を守る為の投資と考えよう。冷たくなった懐を忘れさせて、代わりに暖かい焼き芋が入ったビニールを持って今度こそ家へ向かった。
「ただいまー」
『おかえりなさい!』
『おお、おかえり』
いつも通り返された返事を聞いてから、俺は自分の部屋で着替える。その最中もホカホカでホクホクの焼き芋で頭が一杯だった。実は運んでる時、新聞紙越しに触ってみた所フワッとした感触で強く握ると折れてしまいそうな柔らかさだった。
『コレは何ですか?何か、袋の中に紙が入ってますけど』
待ちきれないと言う様子で袋の中を覗いているので、出して良いよと伝えた。すると、笑顔で袋から新聞紙を撮り、焼き芋を取り出した。
うわっ蜜が垂れてる美味そう。俺も涎が垂れそうだ。そんな事を思いながら見ていると質問が飛んできた。
『お芋ですか?』
「あぁ、嫌だったか?」
『いえ、ジャガイモとも違うので』
「それはサツマイモだな、……ハロウィンの時には無かったか。スイートポテトだったり、大学芋だったり。秋は芋が主役って言っても過言じゃない。まあ、今は二月だけど」
シーズンじゃないから食べちゃいけないなんてルールは無い筈だ。好きなときに好きな物を。
『三分割で良いんですよね』
「そうだな」
『私はそんな大きく無くて良い』
お嬢は頷いて、手で割ろうとしてその柔らかさに驚いていた。本当に柔らかいよな、スポンジケーキみたい。フワッフワな黄金色の……。
一本を三人で分けると少なく感じられるが、まあ良いだろう。後で夕飯は適当に頼むとしよう。あぁ、そんなことは後だ。今は……!
焼き芋って独特だよなぁ、運ぶ物もその物も。味も。唯一無二の存在って言っても良いと思う。俺は焼き芋を見ながらそんな事を思う。ジンワリと手が暖かい。
「いただきます」
そう言ってすぐ、焼き芋を頬張る。家に帰って来てから時間が経っていたせいかそれほど熱くはないが、熱すぎても食べれないからコレぐらいが良い。
最初の感想は柔らかいだった。優しく包み込む様に待たないと崩れてしまいそうなほど柔らかい。そして濃厚な芋の香り、久々だったからか忘れていた焼き芋の記憶が掘り起こされていく。あぁ、そうだ。こんな味だ、こんなに美味かったっけ。柔らかくて皮も一緒に食べてしまった。それすら些細な事に感じるぐらい柔らかくて芋が詰まっていて、美味しい。と言うか噛む必要が無い。皮さえ取れば飲めてしまうかもしれない。
それが一口目の感想だった。
二口目へ行くと口の中に甘さが広がった。まるでスイーツの様な甘さ。いや、焼き芋はオヤツだからスイーツか。と脳が困惑して考えるのを辞める。決してくどい甘さでは無く、とても上品な甘さだった。一本ペロリと食べてしまえそうなぐらい。コレは買って良かった。スーパーの焼き芋とかとはやっぱり違った。そりゃあそうなのかなぁ。そう思いながら最後も美味しく味わった。
二人を見ると、幸せそうな顔をしていた。特にお嬢はお気に召した様だ。今日も堕ちたな、ヨシッ!
待ってる人なんかいないですよね。もしいたら、次も気長に待って頂けると幸いです。