異世界から召喚した悪役令嬢?のお嬢様をメ○堕ちさせるだけの話 作:白樺の木
リハビリがてら。
定時になり、俺は身体を伸ばして立ち上がった。仕事もギリギリ終わったし、腹も減ったので帰ろうとタイムカードを押しに向かった。
「あっ先輩!ちょっと待った!」
知らんぷり、知らんぷり。
「いやいや無言で目を逸らして、タイムカードを押そうとしないでください。没収です」
後は入れるだけだった筈のタイムカードは、宙に浮かび俺の手から消える。
クソッ、目線を合わせない様に目瞑ってたのが裏目になった。何だよ、"疫病神"。
俺は怒りと恨みの感情を込めて、後輩を睨みつける。
「あ〜いや、あのですね。実は先輩にお願いが……」
お前のお願いは碌なモノじゃない、却下。
「出来る立場じゃないですよね、先輩。上司命令です。ついて来る様に」
はぁ……そうなってしまえば、俺は逆らう事は出来ない。俺はスタスタ歩いていく上司兼後輩の背中を追った。
にしても……腹減ったなぁ、昼飯食ってねえなそう言えば。朝はなんちゃってシャケ茶漬けだけだし。通りで腹が減るわけだ、腹も立つし腹も減る。ハハッ胃がもたれそうだ。
「いやぁ、本当にいつも申し訳無いです。怒ってますよね?」
申し訳無さそうに俺の顔色を伺いながら、そんな熱視線送られなくても分かりますよと言うが怒らない訳が無いだろう。怒り過ぎて今なら滅茶苦茶凝視すれば黒い紙に穴が開けられそうだ。
「終業十五分前に仕事の山を押し付けられてしまってどれも締め切りが今週までなんですよ」
それはそっちの理由だろと俺は返す。上に上がればそれ相応のリスクがある、その代わり割に合わないリターンが少し。だから俺は上に上がらない。
それに何回目だよ。俺にお願いするの……。
「しょうがないじゃないですか、先輩しか頼れる人いないんですから、今日は帰しませんよ?」
凄いな、場所とかのタイミングでさえ無ければ恋に落ちてたかもな。見た目だけは美女と言うか美少女だからな。良いから仕事をやるぞと話題を変える。良い加減餓死しそうだ。
「そうですね、先輩にはコレとコレと……それから」
多くね?お前もやれよ。殆どじゃねえか。
「いやコレ全部今週までなんですよ」
今週まで?……ちょっと待て。今日金曜日じゃ無かった?
「そうですよ。だから言ったじゃないですか、今日は帰さないって」
目から光が消えた表情でこっちを見ないで欲しい。ガチだったのかそれ。ため息をついて、俺は仕事に手を付ける事にした。ゴチャゴチャ言ってても仕方ない。シカタナイ……シカ肉。
カタカタとキーボードを叩く音だけが部屋に響く。二人とも会話が無く、死人に近い表情でただ無心でパソコンを睨みつける。
あー!もう限界だ。俺はそう叫んだ、本当にもう無理だ。
「どうしたんですか先輩……バグですか?充電が切れたのなら充電しながら……」
俺の充電切れだ。腹減りすぎたから何か買って来る。なんかいるか?
「あー……じゃあカフェラテを。まだ長くなりそうなので」
了解、俺は既に食べ物で頭一杯の脳味噌に入れた。うーん……牛丼?いや何も食べてないから重いか。じゃあお粥?朝からそれ系じゃねえか。うーん……なんかサクッと食べれて腹に溜まる様な食べ物。
……確か駅前にあそことあそこがあったよな?
目的地が決まった俺は、全速力で向かう。無我夢中で歩道を走るせいで夜中に歩いてる通行人の目線を独占する事になるが、どうでも良い。腹が減り過ぎてそんな事は気にならない。
お嬢様は大丈夫だろうか。確かお菓子が何個かあったから何とか食い繋いでると良いけどな。
ただいまーっと。凄い形相で手を動かしながらブツクサ言っている後輩の横にそっとカフェラテを置く。そして俺は袋から出来立てのアレを取り出す。はぁ〜良い匂い。
パックから開ける前から臭うその匂いは唯一無二。あー美味そう。俺が買ってきたのは有名なチェーン店のタコ焼きだ。そうだ、タコ焼きで思い出したんだが、本場のタコ焼きはこのタコ焼きとは全然違うって言うのは結構有名な話だと思う。その理由はチェーン店のタコ焼きは揚げてるらしい。
だからこそのサクッフワッが味わえるのだが、俺としては本場のタコ焼きもいつか食べてみたい。それでこの前会社の飲み会で居酒屋に行った時の話なんだけどな、そこで揚げタコ焼きってメニューに書いてあったんだ。まんまチェーン店の味だった。ソースとかは流石に違ったけどな。いやまんまじゃなかったな、こっちの方がやっぱり専門なだけ美味いけどさ……
タコ焼きって食う時困らない?一口でいきたいけど、いったら口内が大炎上するし、だからって一口目でタコいないのは悲しいし。ボサッとしてたら冷めるし。まあでも美味いけど一人で八個はやっぱり多いな……。半分までは余裕だったけどなぁ。久々に食ったけど美味かった。タコは柔らかいし、凄え熱かったけど。
一応聞くか、答えは分かってるけど。
タコ焼き買って来たけどいるか?
「ホイップもしくは生クリームがあるなら」
ですよね〜。俺がこの後輩と仲が良い理由の大半は飯だ。自己紹介の時に趣味は休みの日に美味しいご飯を食べる事ですと言っていたので、俺はウキウキしながら話しかけたのだ。
まあ、結果から簡単に言うと彼女は俺とは違うベクトルの美食家と言う事だけだ。俺の美味しいと彼女のオイシーはちょっ……かなり違う。
横にホイップクリームとタコ焼きを置いてやると手を止めて、素早い動きでホイップをかけて口に入れた。
彼女曰く、タコ焼きのソースのしょっぱさとホイップクリームの甘さがマッチしていてクレープに似たような味がして大変美味……らしい。俺は遠慮しておくが、試してみてはどうだろうか。責任は取らない。
「あー終わったぁ!何とか日を跨がずに済みましたね。ありがとうございます」
今度ご飯奢りますねとお誘いを受けたのだが、ありがたくお断りした。ご飯はお嬢様と食べたいし、それに俺は普通の味覚を持っているからお前とは合わないとは言えなかった。のでいつかな、と先延ばしにしといた。
家に帰るとお嬢様が半泣きだった。どうやら置いてかれたと思ったらしい。何度も泣いたせいで目を赤くしながら震えていたので、背中をさすった。
その後二パック目のタコ焼きを渡すと頬を緩ませながら、美味しそうに味わっていた。いつ見ても飽きない良い表情だなと思いながら見ていると怒られた。
恥ずかしいから見ないで欲しいとの事らしい。そんな殺生な。
ちなみに一個タコ焼きを貰って、持って帰ったホイップクリームをかけて食べてみた。
……多様性を感じる味だった。