前世の記憶を使って夏油傑を絶対に幸せにしようと思います!   作:秋元琶耶

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嵐の前の静けさ


君が僕を甘やかすから、僕はもっと君を好きになる

私は人間なので、体力には限界というものがある。

いくら特級術師といえど、肉体的には普通の人間と何も変わらない。多少鍛えているので丈夫かもしれないが、それにも限度があるわけだ。

そんなわけで立て続けに入った任務をこなし、高専に任務完了の連絡をした私はその場で電池が切れてしまった。

いつも通りの連絡先に電話して、帰還のための迎えを要請。そのあと電話の向こうでなにやら云っていた気がしたけれど、あまりの疲れと眠気で半分以上聞いていなかった。

人の話はちゃんと聞きなさい、というのは片想いの相手の言葉だけれど、そうやってわざわざ私に注意してくれるのが嬉しくて、ついつい注意されるようなことをしてしまう私は子供だろうか。いや、成人していないのだから十分子供だと自負している。子供です。特に彼女の前では。

 

「――はい、はい。了解です、それでお願いします。私の方はなんとか。はは、大丈夫ですよ。はい、それじゃまた」

 

彼女のことを考えていたからだろうか。

ぼんやりと、遠いところで彼女の声が聞こえた気がする。

柔らかくて暖かくい春風のような、それでいて涼やかで穏やかな秋風のような彼女の声。

もっとちゃんと聞きたい、と思ったときに意識が浮上して、どうやら自分が眠っていたことを自覚した。

 

「あ、起きたね。でももうちょっと休んでて大丈夫だよ」

 

ぽん、と優しく肩を叩かれる。

優しい手だった。労わるように何度か肩を叩かれ、また眠気に襲われる。確かにここ数日はあまり寝ていないけれど、寝てない具合だったら彼女の方がすごいはずなのに。

よく若者で寝てないアピールしている阿呆がいるが、そういう奴らは結局のところしっかりと睡眠をとっていることが多い。五時間しか寝ていないだと? 私なんか今日は貫徹状態で任務に特攻しているし、彼女は三日前から寮に戻って来ていない。余談だが校舎の方の宿直室に一応寝具とシャワーがあるので、そこで数時間だけ休んでいると報告は受けている。真実かどうかは知らないけれど。

話が逸れた。

とにかく、確かに今私は半分落ちかけているくらい眠いけれど、彼女はそれ以上に眠いはずなのだ。少なくとも、こうしている間にも仕事には追われている。現に、電話口のやり取りは仕事だろう。

 

「いいよ、夏油。ここは私が帳下ろしてるから、誰も来られないから」

 

私の心配は、けれど言葉になることはなく、逆に彼女に気遣われる始末。

ああ、情けない、と思いつつも今は眠気に勝てそうもない。

彼女の帳は信用できるから、このまま眠ってしまっても外敵に襲われる心配はないだろう。

 

「ま、ちょっと寝心地は悪いだろうけどさ、今だけだから文句はなしね」

 

うつらうつらと眠りの海に沈んでいく意識の中、考える。

ここは外だ。

さっきまで私が任務に当たっていたのは、東京郊外のとあるレジャー施設に近い山道。

ここで風もないのに鎌鼬のような現象が起きているとの報告を受け、原因の究明及び排除が今日の任務だった。結果的に云うと、確かにそのような呪霊が生まれていたので祓って終了した。なんとも簡単な任務だった。

むしろ、だからこそ一気に気が抜けてしまったのだけれど。

で、だ。

ここは外だから、当然寝具なんてない。持ち歩いていない。

だけど私の頭部は、何か柔らかいものに乗っていると思う。眠すぎて自信がないけれど、こう、落ち着く温度で、高さ。時折少し動く様子もある。

しかも彼女の声は真上から聞こえてきたように思える。そしてぽんぽんと肩を叩く彼女の手の方向。

 

おや、と。

これは、と。

 

「ひざ……?」

「そうでーす、お疲れさまな夏油くんに、今だけ出血大サービスでーす」

 

当たった。

膝枕。

膝枕をされているらしい。

すごい。

以前寮の共有スペースでやってもらったことはあるけれど、まぁあの時も疲れとか苛立ちとかいろいろ限界だったから、堪能したはずなのに堪能できなかった悔しい思い出。

しかし今は彼女が自発的に膝枕。

これはすごい。

はしゃぎたい。

気分はパラダイスで小躍りしたい。

が、もう眠すぎてそれどころではなかった。

この頭と頬に感じる熱をもう少し、と思うのに、膝枕を自覚した瞬間これまで以上の眠気に襲われた。

もう意識を保つのは無理だ。

 

「さすがにずっとは無理だから、三十分経ったら起こすよ。その頃に迎えも到着するはずだから、それまで休みな」

 

ありがとう、という言葉は辛うじて云えただろうか。

まぁもし云えていなかったとしても、起きたら改めて云うからもういいか、と漸く私は意識を手放した。

 

久しぶりに、ぐっすりと眠れた気がする。

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