前世の記憶を使って夏油傑を絶対に幸せにしようと思います!   作:秋元琶耶

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解決するとは誰も云ってないから詐欺じゃない


解決!家入相談室!

「相談があります」

「酒出る?」

「硝子はそう云うと思って用意しましたスーパードゥラァイ」

「よっしゃ、何? 夏油がどうした?」

 

私の相談内容が夏油ってことはもう決定なんですね。

いや実際そうなんだけど。

 

休日、寮の硝子の部屋。

今日硝子はどこにも出かけないと云っていたのを思い出し、そして夏油と五条はそれぞれ出かけていることを確認した。多分女のところだと思う。お盛んですね、よっ、モテ男! 出掛けにそう声をかけたら、心底傷付いた顔をされたのは気のせいだと思う。

一瞬私も買い物にでも行こうかと思ったけれど、最近温め続けていた相談事を吐き出す時なのだと思いなおして硝子の部屋を手土産片手にノックした。

短い返事の後にドアを開けると、ハーフパンツにキャミソールというなんともセクシーな部屋着で硝子は窓辺に佇んでいた。これ今から雑誌の撮影でも始まるの? そう勘違いした私は絶対に悪くない。

おもむろにケータイを出して写真を一枚撮ったら、煙草を一カートン請求された。やけにリアルな金額で妙にドキドキした。写真一枚約六千円かぁ。

 

まぁそんなことは置いといて、相談である。

硝子にはよく冷やしたビールを献上し、私は自分用に最近ハマっている軟水の炭酸水を持ってきた。夏は良く冷えた炭酸水が一番おいしい季節だ。

 

「あいつさ、……近くない?」

 

ぐい、と炭酸水で喉を潤して、云う。

言葉にしてみるとものすごく簡単なことだけれど、私は結構本気で悩んでいるのだ。おい何笑ってんだ硝子。

 

「……続けて」

「なんか距離感バグってるんだよね。共有スペースにいると他空いてるのに絶対隣座るし、歩いてるといつの間にか隣に来るしさりげなく肩抱こうとするし、話すとき妙に顔近付けてくるし。私、夏油の顔めちゃくちゃ好きなわけ。だから照れるし困るっていうか」

「迷惑ってこと?」

「いや、迷惑ではないの。でも困る」

 

困る、この一言に尽きる。

何度も云うが私は夏油の顔がものすごく好きである。

顔だけだったら世界一好きである。

下手な芸能人なんか目じゃないし、なんなら芸能人よりよっぽどかっこいいと思っている。

だから、そんな顔が近くにあるのは眼福な反面非常に困るわけだ。

誰だって好きなものが近くにありすぎると居心地悪いと思う。そう、例えば好きな芸能人がいるとして、その人をテレビで観たり写真を持ち歩いて時折顔を眺めるならともかく、いきなり同じ空間に放り出されて一緒に過ごすことになったら大抵の人は困るんじゃないだろうか。私今、まさにそんな感じ。

 

確かに、この世界でみんなを幸せにするために生きていくと決めてからの私は、にわか一匹狼を卒業した。

みんなが許してくれたのをいいことに、優しさにつけこんで思いっきり仲良くさせてもらっている。今まで我慢してたくだらない話だとか、どうでもいい話だとか、ちょっとした口喧嘩をしてすぐに仲直りしたりとか、当たり前の友人関係を満喫させてもらっている。

硝子はすぐに打ち解けて今では親友を自負しているし、五条だって好き嫌いは激しいはずだけどなんだかんだで仲良くしてくれていると思う。

このふたりは全然問題ない。

問題は夏油だ。

さっき硝子に話した通り、この男、本当に距離が近い。

お前自分の顔の良さ自覚した上でやってんのか? だとしたら相当性質悪いぞって思う。

照れるし困るし、純粋に心臓に悪い。

だってふと人の気配を察知して振り向いたら、世界で一番好きな顔がこちらを見てニコニコしているのだ。心臓口から飛び出すんじゃないかと思ったのは一度や二度の話ではない。

さすがにもうそこまで驚いたりはしないけれど、毎度毎度ぎょっとはする。うわ顔がいい。

 

そして夏油がこんなことをする理由がまったくわからないのだ。

もしこれが、夏油独特の友人との距離感だというのならばまだいいのに、少なくとも五条や硝子には一般的な距離を保っていることを知っている。

対私にだけ、異様に近い距離感なのだ。

なんでやねん。

私の中の関西人がひょっこり顔を出しても仕方ないと思う。まぁ私、純正培養東京人なんですけども。

それはともかく謎だ。

謎すぎる。

もはやこれは一種の嫌がらせなのではないかと心配になり、本日こうして硝子に相談させてもらった次第。

いや、実際嫌われてはいないのだろう。

五条よりは人当りはいいけれど、夏油は夏油で五条以上に好き嫌いが激しいタイプだ。そんな彼ならば、嫌がらせの為に嫌であってもわざわざ嫌いな人間に近付いたりはしないとは思う。

思うが、しかし。

 

うーんと腕を組んで悩んでいると、こつん、と硝子がテーブルを指で叩いた音にハッとして顔を上げる。

一応ちゃんと話を聞いてくれていたらしい硝子は、いつものように気だるげに、しかしどこか楽しそうな声で続けた。

 

「じゃあさ、付き合っちゃえば?」

「え?」

「だって夏油の顔は好きなんでしょ? まぁあいつも嫌いな相手にはそういうふうに近付いたりはしないだろうし、少なからずあんたに好意があるってことだと思うけど」

 

付き合っちゃえばその距離感も普通でしょ、と。

煙草をふかしながらの硝子の言葉を頭の中で反芻した。

 

付き合う。

誰と誰が。

ああ、夏油と私か。

ああ。

……ああ?

 

考えて、考えて、――最終的に、思いっきり噴き出した。

 

「ップハー!! ないない、ぜーったいない、ありえない!!」

 

硝子はいきなり笑い出した私を呪霊でも見るような目で見た。やめてそんな冷たい目しないで。いつもならそう泣きつくところだけれど、今はそれどころじゃない。

何を云い出すのか、この親友は。

笑いすぎてむせって涙がにじんできた目をこすりながら、私は息も絶え絶えに云う。

 

「だって夏油だよ? あんな爆裂顔がいい男が、私みたいな平凡女なんか好きなわけないじゃん! 例えば夏油はさ、渋谷のスクランブル交差点の真ん中で手ぇ上げて、『私と付き合いたい人この指止~まれ!』とかやったら、性格とそんなところでそんなことするヤバささえ置いとけば、その場にいる女全員群がるような顔なんだよ。美人からもブスからも同性異性関係なく言い寄られてるだろうし、わざわざ私みたいなのを選ぶ理由がないよね。それに私、夏油みたいな顔がいい男には超絶美人な恋人がいてほしいんだ。うわ~美形カップル~! みたいな感じのさ。だから、もしありえないけど仮に夏油が私みたいなのを好きだとか云ってたら、解釈違い!! 御免被ります!!」

 

ああだめ、もうほんと笑えてしょうがない。

あの顔面偏差値天元突破男と私が付き合う?

そんなの天地がひっくり返ったってありえないことだ。

 

「はー、硝子もこういう冗談云うんだねぇ。久々にこんなに笑ったわ」

「い、いや、別に冗談ってわけじゃ」

 

待って待ってもう笑いすぎてお腹痛い。

もともと夏油が近すぎてどうしようって相談をしに来ていたはずが、その夏油のネタでここまで笑うことになるとは思いもしなかった。あいつポテンシャルたっけぇな! 漫画でも割とノリのいいところもあったけど、思った以上に面白いやつなのかもしれない。

硝子も、あんまり冗談は云わないタイプだと思っていたけれど、やっぱり漫画に描かれてはいないところでは普通に面白い女の子だったんだなぁと思うと急に親近感が沸いた。うん、これまで以上に好きになりそう。

 

ひとしきり笑って息を吐き、炭酸水を飲みながら改めてどうしたものかと考えた。

結論から云えば、夏油が近いことが嫌なわけではない。

ただ照れて困るだけ。

それを正直に伝えて、なるべく近寄らないでくれと云うのは簡単だけれど、変なところで傷付きやすい夏油がどういう反応するのか未知数なのであまり得策ではない気がする。

ないと思うけど、これをきっかけに闇落ちでもされたらシャレにならないし。いやこの程度で闇落ちはしないと思うけど、何がきっかけになるかわからないから、不安要素は作らないに越したことはない。

うーむ。

 

「ま、もしかしたら今だけかもしれないし、私が気を付ければいいかなぁ」

 

ソファに座るときは隣にでっかいクッション置いたりするとか、なるべく大荷物を持って歩くとか、なんなら常にマスク着用するとか。いわゆるソーシャルディスタンスというやつである。あと私、普通にパーソナルスペースは大事にしたいタイプです。

すると硝子はものすごーく複雑な顔をして、何度か視線をあっちこっちさせてから最終的に頷いた。

なんか、笑うのを必死で我慢して小難しい顔をしているように見えるのはきっと気のせいだろう。

 

解決とはいかなかったけれど、まぁ一応の打開策は見つけた。

あんまり悩んでも仕方なさそうだし、この話はこれで終わりにして気分転換にお菓子でも作りに行こうかなぁと考えていると、なんだかすごく云いにくそうに口元を歪める硝子に名前を呼ばれた。なぁに。

 

「……あのさ」

「ん?」

「仮にだけど」

「うん」

「仮に、なんだけど」

「う、うん」

 

硝子がこんなに歯切れ悪く口を開くのは珍しい。いつも竹を割ったようにスパッとザクッとなんでも遠慮なく云うのに。

ということはつまり余程云いにくいことなのだろう。

別に無理して話さなくていいと思うけど、一生懸命何かを伝えようとしている以上私は待とう。

そうして、漸く意を決したらしい硝子が口を開いたのは、実に五分後のことだった。私、結構気は長い方なんです。

硝子はテーブルに肘をつき、組んだ指で口元は見えない。いわゆるゲンドウポーズである。思わず私は背筋を伸ばして、ちょっとだけ緊張しながら硝子の言葉を待った。

 

「もし今、夏油があんたに告白したら、どうする?」

「え、ごめんなさいだね」

「え」

 

スパッとお断りしちゃうね。

いつもは気だるげにしている目を大きく見開いて、あんぐりと口を開けて硝子は固まった。

何驚いてるんだろう。

当たり前じゃん、と思ったけど、そう云えば私、つい最近までにわか一匹狼やってたせいでみんなに云ってなかったことがあったわ。

まぁ、そうだよね、私この通りパッとしないし、自分でも長所なんかなかなか見つからないようなつまんない女だし、呪術師としても中途半端だし、ハイスペックが服を着て歩いてるような硝子からしたらそんな発想なかったのかもね。

でもね、確かに高専にいるとみんなすごすぎて私は砂粒以下の存在感だけど、普通の学校に通ってれば普通に普通の女子高生だったわけですよ。

そんなわけで、私が夏油に告白されたとしてもごめんなさいな理由はこれだ。

 

「だって私、彼氏いるもん」

 

 

 

 

 

夕方、何故か魂が抜けたようにふらふらして帰ってきた夏油が、げっそりとした顔でアイスをくれた。あ、ありがとう。

なんであの人死にそうなの、と一緒に帰ってきたらしい五条にこっそり訊いたら、ものすごく渋い顔でお前のせいだと云われてこの世の理不尽を突き付けられた気がした。喧嘩売ってんのかおんどれ。

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