前世の記憶を使って夏油傑を絶対に幸せにしようと思います! 作:秋元琶耶
私は五条くんをオチにしがちなところがある。反省はして・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ナイッ
私は傷が治しにくい体質なのだと硝子に聞いたのは、冥さんと一緒の任務で脇腹に怪我をしたのを治してもらいに行った時のことだった。
硝子の反転術式はほとんど完璧で、極端な話死んでいなければ助けられるという反則技みたいなものだ。
このとき負っていた私の傷も、硝子のおかげですぐに血は止まったし傷も塞がった。
だけど、傷跡が完璧には消えなかった。
まぁ、普段は別に見えないところだし気にならないから個人的には何とも思っていないのだけれど、いかんせん硝子が気にしてしまっている。
他の人の怪我は傷跡まできっちり消せるのに、どうして私だけ、と。
いやいや硝子さん、傷跡なんて本当些細なことなのよ。大怪我を治すことが出来るんだから、私ごときの傷跡が消せないくらいでそんな顔しないでよ。
実際どうしようもない現実なので硝子がそれ以上この件について話すことはないけれど、私はなるべく怪我するのやめようと思った。
ていうかそもそも怪我したくて怪我してるわけじゃないんですけどね? いくらなんぼ鍛えてるとはいえ、呪霊相手に無傷を貫けるほどではないので任務のたびにどこかしら怪我しちゃって、自分で処置できる場所とか大きさならともかく、そうじゃないときに硝子のお世話になって申し訳ないなって話なんですけどね。
一応毎度気を付けてはいるので、今後はもっと気を付けます、ということで。
ところで話は変わるが、寮の個室にはそれぞれ浴室がついている。
決して大きいものではないけれど、一人で入るには十分なサイズの浴室だ。
上記した通り私はそこそこ怪我をするので身体中に傷跡があって、温まると消えかけの傷跡まで浮かび上がってくるので結構グロイ感じになってしまう。なので、自衛というよりも周囲に配慮する意味でも寮の大浴場はほとんど使わず自室の浴室で済ませていた。
が、さっき任務から帰ってきてシャワーを浴びようと思ったら、お湯が出ないじゃないですか。ちょっとお湯になるのに時間がかかるのかな、と思ったけれど、待てど暮らせど水のまま。
慌てて服を着て寮母さんに連絡して業者を呼んでもらい点検した結果、どうも私の部屋だけ配管に亀裂が入ってしまい、業者の手持ちの道具ではどうにもならないので直るのは早くとも明日になるとのこと。
おっけーそれはわかった。
でも私はシャワーを浴びたい。任務で疲れているし埃まみれだし。
硝子に借りようと思ったのに、手帳を確認したら昨日から硝子は出張で任務中。
どうしたものかと悩んでいたら、寮母さんが大浴場を使えばいいと云ってくれた。
ちょっと悩んで、一人だしまぁ大浴場でもいいか、と思い了承。早速普段は足を運ばない大浴場に向かった。
久しぶりの大きなお風呂はたいそう気持ちよかった。
足伸ばし放題だし泳げるし。自室の湯船は足曲げないと入れないからね。別に私の足が長いって話をしてるわけじゃないんでその辺は勘違いしないでほしい。あと例えばで云っただけで泳いでないです、子供じゃないんで。
ああ、温泉行きたい。
私はあんまり泊りがけの出張任務は当たらないけど、他のみんなみたいに遠出してみたいなぁとは実は常々思っていた。遊びじゃないのはわかってるけどさ。
まぁ、私の場合は単独ではほぼ使い物にならない上に、術師として以上に補助監督として動いていることの方が多いから、そうそう高専を空けられないから仕方ないことなんだけど。
それにしても温泉に行きたい。ご飯の準備も寝る準備も全部上げ膳に据え膳で、好きな時間に温泉に入って周辺を散歩したりしたい。
大変の種類は違えど私もなかなか頑張って働いている身だし、たまには贅沢したって許されるんじゃないだろうか。
秋頃になればスケジュールにも余裕があるはず。どこかで地方の温泉地に一人旅でもしようかな。
そんなことを考えながらお湯から上がり、身体を拭いている途中タイミングでふと気が付いた。
そう云えば、寮の大浴場は一つだから男女交代制だって寮母さん云ってたっけ。
基本的には週ごとに男女の時間が振り分けられていて、今は男子の時間だけどこの場合はどうしようもないトラブルなので例外的に女子の時間にするとかなんとか。融通の利く人で助かるなぁと思った記憶。
で、だ。
本来なら、今は男子の時間。
だから入り口の札は『男子』になっているから、ちゃんと『女子』に直してから入ってね、とかなんとか云っていたような。
疲れていたのとちょっと水を浴びちゃって寒かったので一刻も早くお風呂に入りたかった私は、ちゃんと話をきいているようできいていなかったらしく、少なくとも札を『女子』に直した記憶はない。うん、そんなことした記憶ないし、なんなら札がどこにあったのかも覚えてない。
やっちまったなー。
でもみんなまだ任務に出てて帰ってきてないはずだし、帰ってきてもこんな時間にお風呂に入りに来ることもないだろうし、もう上がって着替えたら終わるし大丈夫っしょ。
なんて考えながら下着だけ身に着けて呑気に髪を拭いていた。
そのときだった。
――ガラッ
「………。」
「……………。」
「…………。」
「…………………。」
――ピャリ
ザ・ワールド。
時間が止まった。
うそでしょ。
なんで、どうして。
混乱する頭で考えるけれど、そう、本当はおかしいことなんて一つもないのだ。
だって本来今この大浴場は男子の時間で、入り口の札だって『男子』のままで。
たまたまトラブルがあって寮母さんの許可を得て私が入っているけれど、そんなこと他の人が知るはずはなくて、しかも私はちゃんと寮母さんが云ってくれたのに入り口の札を『女子』に直すのを忘れていて。
だから。
――夏油が大浴場の入り口を開けたのは、当然と云えば当然のことだった。
「ご、ごめん!!!」
夏油にとんでもないトラウマを植え付けてしまったような気がした私は、反射的にそう叫んでいた。
トラウマってほど酷い身体はしてないと思うけど、お風呂に入ろうと思ったらほとんど裸の女が待ち構えているって状況は十分ホラーだと思う。呪霊や呪いとはまた違ったタイプのホラーだ。
特に夏油は自他ともに認める超モテ男なわけで、おそらく彼の性格からしてミーハーなファンなんかよりもガチ恋勢が多いだろうし、なんとなく拗らせ勘違い思い込み系も多そうだ。偏見だけど。ともかく、そういう人たちに好かれてきた夏油がこれまで一方的に思いを寄せられて、身体を武器にして迫った人がいなかったとも云えない。むしろちょっと年上のお姉さんに無理矢理胸揉まされたり身体触らされたり裸の写真送られたりとか普通にしてそう。か、可哀想。想像上の夏油がとても可哀想。
何だかんだ云って結局人間が一番怖いよねって、そういう話。
いや違うこれは現実逃避です。
ちゃんと謝ります、ごめんなさい。
超特急で服を着て入り口を開けると、夏油は真顔で固まっていた。心なしか顔色も悪い気がする。
しまった、手遅れだった。
これはもう夏油に深刻なトラウマを与えてしまったに違いない。
うう、どうかこんなしょうもないトラブルが将来夏油に非術師を猿と呼ばせるような事態に転じませんように。
正直下着姿を見られたことより、そっちのほうが私には問題だった。
固まる夏油に事の顛末を説明すると、ややあって夏油は信じられないくらい長い溜息を吐き出した。一分くらい吐いてた気がする。すごいね、肺活量。
「そういうわけで、ほんとごめん。私の不注意でした」
大浴場前のベンチに並んで座り、申し訳程度のお詫びとして飲み物を奢りながら、私は猛反省していた。
いくら早くお風呂に入りたかったとはいえ、見てしまう可能性のある人のことにもっと配慮できていればこんなことにはならなかった。ちゃんと寮母さんも教えてくれていたのに、後で謝りに行かなくては。
渡した缶ジュースを握りしめたまま肘と膝をくっつける格好で俯いて一ミリも動かなかった夏油は、少しだけこちらに顔を向けて云った。相変わらず顔色が悪い。
「部屋のことは災難だったけど……君はもう少し注意深くなった方がいい。いくら寮には私たちしかいないとはいえ、何があるかはわからないんだから」
はい、その通りです。
「もし入ってきたのが灰原や七海だったらもっと大変なことになっていたかもしれないよ」
はい、ごめんなさい。可愛い後輩にもトラウマを植え付ける可能性を失念しておりました。
「いやトラウマって……そういうことじゃないんだけど」
つくづく思う。
夏油ってばめちゃくちゃ優しい。
不快極まりないグロを見せつけられたのに全然怒ってないし、その上後輩の心配までしているなんて。
「あんたはホントにいいやつだよ……」
「ど、どこからそういう判断に……?」
所々でクズ野郎だとは思うけど、根本的に夏油はいいやつなのだ。
根っからの善人。例えば、転んだ子供やお年寄りが目に入ったら、迷わず手を差し伸べてしてしまうような。そこに思考なんて存在せず、強者が弱者を助けるのは当たり前だという反射的な行動。
それは本来とてもいいことなのに、夏油はあまりに善い人すぎたから、すべてを自分の中に抱え込んでしまっていつの間にか行く道を五条と違えてしまう。
その結果が今からおよそ一年後の、あの村の虐殺に繋がる。
まぁそんなこと私が絶対させませんけどね!!
お前は絶対幸せになるように私が頑張るからね!!
ついさっきトラウマを植え付けてしまったことは一先ず置いといてそう決意も新たにすると、小さな声で名前を呼ばれた。
はい、なんですか夏油くん。
「……訊いてもいいかな」
「ん?」
「その、さっき見てしまったんだけど」
「目測でもスリーサイズ云ったら目つぶしするけどそれでもいいなら」
「い、云わないよそんなことは!!」
めっちゃ顔赤いじゃん、女の裸なんて見慣れてるくせに。
とはいえ今は私が悪いことをした立場なので、冗談もそこそこにして続きを促す。胡乱な目で見られたことについてはこの場に限り不問にしよう。
気を取り直して息を吸った夏油は、けれど云いにくそうに一度口を閉じた。
それからじっと私の目を見て、一体どうしたのかと首を傾げた私に、おずおずと口を開く。
「君の、身体の傷跡」
「あー、これ」
何をそんなに云い淀むのかと思えば。
基本的に高専生は、というか呪術師というのは素肌を晒すことが少ない。
高専の制服は多少の呪力で傷付かない特別製の布で作られており、巷の女子高生のようにミニスカートなんかでいるのは百害あって一利なし。伸縮性に優れているタイツも同じ生地作られているおかげで、今まで私はこの身体に残る傷跡を誰にも見られずに済んでいたわけだ。
さっき夏油が大浴場に入ってきたとき、私は下着姿を晒していた。
しかも、直前までゆっくり湯船に浸かって身体を温めていたおかげで、この身体に刻まれた傷跡は古いものまでしっかりと浮き上がっていた。
夏油は、それを見てしまったのだ。
「なんかね、硝子の反転術式でも消せないらしいんだよね」
「そう、なのか」
「うん。あ、でもね、硝子もめちゃくちゃ気にしてたんだけど、私は別に気にしてないんだよねぇ」
そう、これは嘘でも強がりでもなく、私は本当に気にしていない。
目立つ場所に大きく酷い傷跡が、とかだったら多少は気になっていたかもしれないけれど、少なくとも今は服に隠れるものばかりだし、雨の日になると引き攣って痛むだとかそういうこともない、ただちょっと跡が残っているだけ。
まぁ、この前脇腹に受けた傷はちょっと大きくてまだ目立つかもしれない。
シャツを捲って確認してみると、やっぱり赤く浮き上がっている。
痛いわけではないけれど、何も知らずにこんなものを見てしまったらギョッとはするだろう。その証拠に、隣の夏油が今まさにギョッとしていた。
「それに海もプールも泳げないから行かなくて水着なんて着ないし、普段は自分の部屋でお風呂入るから問題ないし」
今日は本当にたまたまの例外中の例外だった。
しかもよりにもよって夏油に見られてしまうなんて、本当についてない。五条あたりだったら、笑って終わらせられたかもしれないのに。
「ごめんね夏油、変なもの見せちゃって」
夏油に変なストレスは与えたくないのに、どうしてこうも私はうまくできないのだろうか。
なるべく楽しく、幸せに過ごしてほしいと願っているだけなのに。
やっぱり中途半端な呪術師で一般人な私なんかでは、夏油を幸せにするなんて烏滸がましい願いなのかもしれない。
いやしかし、どんなにしょっぱい術式でも一度は夏油を助けることが出来たのだし、なんてったって私には前世から持ち越したこの世界では唯一無二の記憶があるじゃないか。
出来ないかどうかじゃない、やるのだ。
はい頑張れ私、今日もかわい……いや可愛くないごめんまだ見ぬ西宮ちゃん。
ちょっと凹んで、髪も乾かしたいしそろそろ部屋に戻ろうかと立ち上がった私の腕が、何者かに掴まれた。
この場にいるのは夏油と私だけなので、その犯人は必然的に夏油と云うことになるのだけれど、私に彼氏がいることを知って以来の夏油がこんなふうに私に触れることはなかったから、ちょっとびっくりした。
思わず振り返って見ると、案の定俯いていた夏油が私の腕を掴んでいて。
「変じゃない」
えっ、と夏油の声に驚いて、ゆっくりと夏油が顔を上げ、目が、合う。
私は心底後悔した。
「とても綺麗な身体だった」
だって、まっすぐに私を見ている夏油の瞳に、捕まってしまったから。
「――……」
息が出来ない。
世界が止まったみたいな、錯覚。
心臓が脈打つ感覚が徐々に短くなり、心臓の中で誰かが太鼓を叩いてるんじゃないかと思うほどに激しく音がする。この音、もしかしたら夏油にまで聴こえてるんじゃないだろうか。
うまく呼吸が出来ている気がしないけれど、酸欠にも過呼吸にもなっていないから一応それなりに正常に息は出来ているはずだ。
じわり、と。
夏油に掴まれている腕がじわじわと熱を持ち、そこを起点にして熱が広がっていく。熱は、全身に広がった。
腕と、顔が重点的に熱い。
お風呂に入ったあとだから、なんて理由じゃ説明しきれないほどの熱さに、私は混乱した。
だって、どうして。
冗談だったのかもしれない。
それか、私に気を遣ってくれた言葉だったのかもしれない。
笑って、ありがとう、と云えばそれで終了だったかもしれない。
だけど私は、夏油の視線に捕まって言葉が出なくて、金縛りにでもあったみたいになっていた。
茶化すでもなく、馬鹿にするでもなく、かといって下心を含むわけでもない夏油のまっすぐな視線は、あまりにも私には刺激が強すぎた。
動け、私。
これ以上は、駄目だ。
これ以上夏油に見つめられたら、もう、きっと駄目なのだ。
動け、動け。
無理矢理に息を吸い込み、持てる精神力を総動員して私は夏油から視線どころか顔を背けることに成功した。
まだ後頭部には夏油の視線が突き刺さっている気がするけれど、それも振り切って固まった蝋みたいにがちがちになっている口を動かす。
「帰、る」
すると思いのほかあっさりと夏油は手を離してくれた。
その隙に私は早足でその場から立ち去る。
夏油は何も云わないし、動く気配もない。
それだけでホッとして、ちょっと泣きそうになってしまった。
足元を見つめながら早足で歩き、一刻も早く部屋に戻らなければ。
だめだ。
これ以上ここにいてはいけない。
ここ、というよりも。
夏油の傍に、いてはいけない。
だって、だってこんなの。
こんな顔、とてもじゃないけど夏油には見せられない。
幸い追いかけては来ていないようだし、このままいけば問題なく部屋に戻れるはず、と思っていたら曲がり角で私はぬりかべにぶつかった。
「あれ、何やってんのお前」
最悪だ。
私がぶつかったのは五条だった。ぬりかべじゃなかった。
よかった~妖怪じゃなかった~と思ったのも束の間、全然よくないことに気付く。
良くも悪くも直球素直に育ってしまった五条悟の辞書に、デリカシーなんて言葉はない。
よって、不思議そうに首を傾げた五条は。
「顔、真っ赤だけど」
――馬鹿五条、云うなッ!!
咄嗟に私は五条の脛を蹴り上げて――まだフルオートじゃないのでクリーンヒットした――、そこからはダッシュで部屋に逃げ込んだ。
あのアホマジでいい加減にしろよ。
主人公
裸を見られたことよりも、夏油にとんでもねぇトラウマを植え付けてしまったんじゃないかと云う恐怖で悲鳴も出なかった。羞恥心<∞<怯
顔が赤くなったのは夏油の顔がかっこよかったからでそれに見つめられたからで仕方ないことだと思います、バグです。別にときめいていません私には先輩がいますから!!!
夏油
うわっちゃーラッキースケベだ堪能しろ!!
扉を開けて閉めて素数を数えて冷静さを取り戻そうと試みてたら、全然恥ずかしそうな素振りもない主人公に謝り倒されて逆に冷静になった。目に焼き付いて離れない裸体(笑)の傷の理由を知って、裸を見られたのに申し訳なさそうにしている主人公にちょっとムカついた。は? 傷程度で君の綺麗さは損なわれないが?
彼氏がいるのは知ってるし彼氏のことも嫌いじゃないけど公認ライバルなので主人公を諦めてはいない
出番がない先輩
自分がいないところで夏油と少女漫画展開になってそうだなーとは思っている。気にはなるけど心配はしていない。自分が好かれている自信があるので
夏油のことは普通にいい子だと思っているから好き。まぁ主人公を渡す気はないけども。でも顔が主人公のど真ん中なのは知っているため、そこだけジェラシー
五条くん
脛のダメージが深刻