前世の記憶を使って夏油傑を絶対に幸せにしようと思います!   作:秋元琶耶

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思ったより夏油をクズに書いてしまって反省して・・・・・・・・・・・・・ナイッ
今回イマジナリー五条くんの出番は少なめで控えめです。頼りすぎてはいけない


夏油傑の元カノ(?)とエンカウントしたらとんでもないことになったしやっぱり夏油はクズだった件

夏油とふたりで任務だったこの日、思ったよりも早く片付いたので、どうせ今から高専に戻っても授業には間に合わないし折角だから買い物してから帰ろう、という話になった。丁度今度先輩とデートするときのために新しい服も買いたかったし、夏油も買いたいものがあったらしい。

行きたい場所が少し離れていたから、余裕をもって一時間後にカフェに集合することにして一旦解散する。

別に買い物終わったら各々そのまま帰ってもいいんじゃないかと云う私の意見は見事にスルーされました。悲しかったです。まぁどうせ同じところに帰るんだからいいんだけどさ。

 

そんなわけで可愛いスカートとカットソーをゲット出来てご機嫌になった私は、待ち合わせの時間まであと少しあるので、滅多に出来ない街中散策を楽しむことにした。

本屋に行ったり雑貨屋を見てみたりとぶらぶらし、そういえばこの辺りに最近流行りのドーナツ屋が出来たことを思い出す。確かアメリカに本社があって、去年末辺りにものすごい勢いでブームになっていたと思う。

オープンしてすぐに近くを通った時は、あまりの行列に買う気が失せて嫌煙してしてしまったけれど、そんなに流行ってるなら一回くらい食べてみようかという気になった。

せっかくだしお土産に買って行ってやったら五条も喜ぶかな、と思ったのも束の間、ちょっと近付いただけで信じられないくらい甘い匂いがしたので私は並ぶのを断念した。私にはあの甘い匂いの中に突撃する勇気が出ない。……領域展延が出来たらあの匂いから隔絶出来るかな? ちょっと今度実験してみよう。

 

お土産のドーナツは夏油と合流してからもう一回考えるとして、気を取り直して別なカフェでコーヒーを買って一服する。

私の買い物は終わっているし、先に待ち合わせのカフェに入っていようかとも思ったけれど、なんとなく今はこうして街の雑踏にまぎれていたい気分だった。

荷物を足元に置いて、通行の邪魔にならない壁際に寄りかかりながらのんびりとコーヒーをすする。ヘーゼルナッツフレーバーのコーヒーってどうなんだろうと興味本位で買ってみたけど、結構おいしい。

ああ、うん、やっぱりたまにはこういう時間がないと、やってらんないよね。

まだまだ冷たい風が吹く季節、温かいコーヒーが身に染みてほっこりした。

 

「ねぇ」

 

だいたい、本当なら高校生の年齢の私たちに対して呪術界は仕事を押し付けすぎなのだ。

わかるよ、この業界が万年人手不足だから、大人の呪術師だけじゃ手が回らなくて学生も使っちゃおうっていう気持ちはよくわかる。

でも、私たちはまだ学生さんであることを忘れないでほしいわけだ。

つまり、高専を卒業して当たり前に呪術師になる人ばかりじゃないってことを改めて考えてみてほしい。ほら、原作ではナナミンが一回サラリーマンやってるみたいに、無事に高専を卒業しても呪術師にならない選択だってとれちゃうんだぞこっちは。

 

「ねぇ、ちょっと。そこのあんた」

 

そういえばこの世界線でナナミンはサラリーマンの道を選ぶのだろうか。

多分、原作でナナミンが呪術師を止めた原因は灰原くんが死んだことと、五条さえいれば自分なんかいなくてもどうとでもなるんじゃないかという無力感に打ちのめされたからだろう。

でも私は灰原くんを死なせる気はさらさらないので、少なくとも一つの原因は取り除けるはずだ。

なら、ナナミンは大人しくストレートで呪術師になる?

うーん、まっすぐなようで意外とちょっと捻てる子だから、もしかしたら何もなくても一度は呪術界から離れたいと考えるタイプかもしれない。

 

「ねぇったら! 聞こえてるんでしょう!?」

 

まぁ、それはそれでありだと思う。

術式を持ってるから絶対に呪術師にならなきゃいけないなんておかしな話だし、外の世界でしか学べないことだってあるだろう。なんつって私も前世含めても就業経験ないので何とも云えないんですけどね。何せ享年二十歳、現役大学生だったもので。

もしナナミンが呪術師にならなくても、原作通り脱サラ呪術師として舞い戻ってくることがあれば、その時は快く迎え入れてあげればいいだけの話だ。

 

「ちょっと、いい加減にしなさいよねっ!!」

 

で、この人何なんですかね。私完全に初対面なはずなんですけど、さっきから無視しても執拗にめげずに声をかけ続ける不屈の精神、尊敬しま……せん。こんな街中で大声出されても迷惑なので、今すぐやめてほしい。

仕方なし、飲み終わったコーヒーの紙コップを小さく折りたたみながら首を傾げる。さすが世界で唯一バイオテロ経験の都内、外に設置してあるごみ箱が少ないです。

 

「なんでしょう? 待ち合わせしてるので、手短にお願いしたいんですけど」

 

視線が合ったら即バトル、なポケモントレーナーもびっくりなバトル狂だったら嫌なのでなるべく視界に入れないようにしていた目の前の人に、私はこの時ようやく目を向けた。

細いピンヒールに短いスカートと艶めかしいストッキングの組み合わせはとてもグッド。大きな胸を強調するような服を身に着けた上半身はかなり目立ち、通りすがりの人たちがちらちらとこちらを見ているのは気のせいではないだろう。こんな状況じゃなけりゃ私だって見ちゃう。

ふわふわの真っ白いファーコートには腕を通さず、肩に羽織っているだけなのに何故か落ちることはなく非常にハイセンスおしゃれ。内側にマジックテープでも仕込んでんのかな?

そして私を憎々し気に見下ろすそのお顔は、非常に綺麗なものだった。表情はひどいけど。派手だけど決してけばけばしくはない、彼女の気の強さを前面に押し出してそれを魅力的に見せるすごい化粧のテクニックだ。余談だが、私は生垣のコンクリート部分に座っているので見下ろされているだけであって、決してチビだから見下ろされているわけではないことをお伝えしておく。チビではないです。

 

で、だ。

そんな美人さんがいったい私に何の用だというのだろう。

生憎私はこの人を知らない。派手な美人は割と好きな方なので、どこかで会っていれば絶対に覚えていると思うのだけど、少なくとも最近の記憶の中に彼女はいない。

別に私も友好関係激広というわけでもないし、完全に今が初めましてなはずだ。

だというのに、いきなりものすごい嫌われている様子である。

見下ろすというか見下している感じバリバリだし、そもそものっけから喧嘩腰だったし、今も苛立たし気に舌打ちを繰り返している。美人にそういう顔されるとへこむな~。

などとのんきに考えていると、彼女は短い息を吐き出してからとんでもない爆弾を落としてくれた。

 

「あなた、傑の彼女の一人でしょう」

 

くそっ、なんで私はコーヒーを飲み終えてしまったんだ。

もしまだコーヒーが残っていれば、その白いファーコートに向けて思いっきりコーヒーをぶちまけて綺麗な茶色に染め上げてやったのに。

口にするのもおぞましい、という表情を隠そうともしない彼女は、フンッとテンプレートに高圧的に腕を組みながら続けた。

 

「さっき二人で仲良さそうに歩いていたし、どうせ待ち合わせっていうのも傑となんでしょう? まったく、ブスのくせによくやるわ」

 

今日の任務は都内の廃ビルを根城にしていた低級呪霊のお掃除だった。

本来この程度なら特級の夏油が出てくるものじゃないのだけど、今回は数が多いということと、もしかしたら有用な低級もいるかもしれない、という夏油たっての希望で私と二人で任務に当たることになった。呪霊操術の強みは手数の多さだから、少しでも役に立つと思った呪霊は積極的に取り込んでおきたいらしい。

それって取り込む数だけ夏油の負担になるってことでは、と思ったけれどあえて何も云わないことにする。だって実際に呪霊を取り込んでいるのは夏油自身で、彼がそうするというのだから私に反対する理由はないし、口を出す権利もない。

それは少し寂しいことだけれど、仕方のないことだ。だって所詮は他人だし。

でもまぁ勝手に心配はしますけどね。口出しはしないし邪魔もしないけど、心配だけはいつだったしてますけどね。だって夏油、変なところで豆腐メンタルだから、目が離せないんだよ。気分はお姉ちゃんです。

 

と、まぁ、予想外の方向から予想外の殴られ方をしたおかげで宇宙の彼方に飛んで行っていた意識を無理矢理引き戻し、考える。

確かに任務が終わってから現場からここまで二人で一緒に歩いてました。都会のど真ん中にある廃ビルだったから補助監督に送ってもらわなくとも電車で簡単に移動出来たし、何故か夏油も電車がいいとか云っていたから。電車好きなのかな。

正式な報告書は帰ってから提出するとして、まず簡単に任務の終了報告のメールを夏油に打ってもらっていたので、今さら必要ないだろうにその文章の確認のために夏油のケータイを覗き込んだりもしました。

つまり彼女は、その様子を見て夏油と私を仲睦まじいカップルだと勘違いしたのだろう。

 

「云っておくけど、最近は会ってなかったけどあたしは傑と別れたつもりなんてないんだからね。つまりあんたは浮気相手、あたしが本命。理解できた?」

 

無理ですぅ。

 

やばい、どうしよう。

思わず頭を抱えてしまった私は絶対に悪くないと思う。

聞いてるの、なんて耳を劈くような声で云った美人さん、聞いているからこうなってるんですよ私は。

 

完全に、全く、心の底から誤解である。

私は夏油の彼女なんかではない。

これから先も夏油の彼女にだけはなるつもりはない。

私は夏油の顔は死ぬほど好きだし毎日眺めていたいし実はこっそり冥さんから買った写真も持ち歩いているし、五条ほどではなくともそれなりに夏油と仲が良いことも自負しているけれど、付き合いたいなんて思ったことは一度もない。何せ私には超絶素敵な彼氏がいるので。

ついでに、例え私がフリーで彼氏募集中の身であっても、夏油だけは選ばない自信がある。

自信と云うか、確信にも近い。

だって私は、夏油の恋人にはなれないから。

 

日々死と隣り合わせの任務をこなし、たった四人の同級生と寮生活している弊害か、云われてみれば私たちの距離感はバグっている気はする。最初は戸惑いもあったけど、最近慣れすぎてて忘れてた。

とにかく、これは誤解なのだ。

ケータイを覗き込んで顔が近かったのは認めるけれど、これくらいなら五条とも硝子ともやるし、なんなら灰原くんやナナミンとだって同じくらいの距離感だ。決して夏油が特別なわけではない。これは私たちがおかしい自覚はある。

どう説明したらいいかわからないが、何にせよ誤解なのだとわかってもらわなければ。いい加減呆けている場合じゃない。

今なおきゃんきゃん喚く彼女に、私は意を決して口を開いた。

 

「あのですね、私は別に」

「見苦しいのよ、気色悪いから傑に近寄らないでよね!!」

「ですから」

「あんたみたいなブスを傍に置くなんて、たまには悪食してみるのも悪くないなんて思っちゃったのかしら。それとも、云い寄られて仕方なく? どっちにしろ、傑の優しさに甘えるんじゃないわよ」

「いや、だから」

「うるさい、いいから黙って消えろっつってんのがわかんないの!?」

 

だめだ。この人全然話聞いてくんないよ。

大声で怒鳴られてちょっと耳痛いし、別に怖くはないけど、人通りのある街中でこんなふうに誤解で謂れのない糾弾をされるのは純粋に気分が悪い。

しかし私が思った通りの反応をしないことに腹を立てた様子の彼女はますますヒートアップして叫んでいるし、どうしたもんか。ほら、道行く人たちに見られてますよ、悪目立ちしてますよお姉さん。この周囲からの注目は、もはやお姉さんの目を引く容姿に対してではなく、街中で勃発した修羅場に対する好奇の視線だ。

この人ある意味呪いみたいなもんだし、帳下ろしたらダメかなぁ。今更かなぁ。

放っておいたら日が暮れるまで叫び続けていそうなお姉さんの喉を申し訳程度に心配しつつ、私はちらりと時計を確認した。頃合いである。

 

「えーと、以上ですか?」

「は!?」

「もう待ち合わせ時間なんで、私はこれで」

「ちょ、ちょっと、あんたねぇッ!!」

 

まともに相手をしようとするから良くないのだ。

そう判断した私は、夏油と合流する前にこの人を撒くことに決めた。

待ち合わせの時間が迫っているのは本当だけど、このまままっすぐ指定のカフェに向かうわけじゃない。そんなことしたらこのお姉さん着いてきて夏油にまで迷惑かけそうだし、適当な路地に入って適当に自分を対象にして帳を下ろして彼女から身を隠して撒いて、それからカフェに向かうつもりだ。

 

自分の女の躾けはちゃんとしとけよとちょっとだけ夏油に文句は云いたいが、多分この手のタイプの女は躾けるなんて無理なのだろう。我があんまりにも強すぎる。それは個性であり長所でもあるかもしれないけれど、行き過ぎれば欠点で短所になってしまう。まぁその辺は私も人のこと云えないので悪く云うつもりはない。

とにかく、この状態の彼女と夏油をバッティングさせるのはまずいことは明白なので、私は安全なルートを選びますよ。

すると、何を云われても怖がりもせず反論もしないでただただ迷惑そうな顔をしている私のことがおもしろくないのだろう。まるで鬱陶しい羽虫をから身を躱すような逃げ方をした私に、彼女は顔を真っ赤にしてひときわ大きな怒鳴り声を上げた。

 

「っざけんな、ブス!!!」

 

ブスブス云いすぎだと思います。

そりゃ、私はあなたに比べたらブスだし、顔面国宝な五条と比べてもブスだけど、ブスなりにプライド持って生きているのだ。ブスにだって人権はあるんだぞ。小学校の時道徳の授業で習いませんでしたか? あれ、そもそもこの年代って道徳の授業がない世代? 嘘、ジェネレーションギャップに凍えて死にそう。

なんて考えていたら、お姉さんが手を振り被ったことに気付いた。

あ、これは引っ叩かれるやつだ。

とはいえこんなまともな喧嘩もしたことなさそうなお姉さんの平手なんて、日々甚爾さんの信じられない速さの攻撃から逃げ回っている私にはスローモーションのようなものだ。目を瞑っていたって避けられる。

 

でもなぁ。

これ、避けたらもっと大変なことになりそうじゃない?

どうしようかなぁ。

お姉さん爪長いし鋭いから、力は大したことなくても引っ叩かれたらそれなりに痛そうなんだよなぁ。

かといってわざと当たるのもなぁ。

この後夏油と合流することを考えたら得策じゃなさそうなんだよなぁ。

 

この思考、0.01秒。

顔を殴られるのはマズイから、ちょっと位置変えて頭を引っ叩かせてあげよう、と謎の仏心を出した私が動こうとしたとき、ソレは視界に入ってきた。

振り被り、勢いをつけて動き出そうとしていたお姉さんの手は、しかし固定されて動かすことは出来ない。

なぜなら。

 

「何してるの」

「あー」

「す、傑!!!」

 

そう、夏油傑ご本人が登場したからである。

これだけの大騒ぎになっていたら来ちゃうだろうなぁとは思っていたけれど、案の定だ。結局買い物はしなかったのか、その手には何も持っていない。

騒動の中心に私がいたことに呆れたように息を吐いた夏油に、両手を上げて肩を竦める。私のせいじゃないもん。

それから、お姉さんの手を離してちらりと一瞥。するとお姉さんは、パァッと顔を輝かせて夏油の腕に抱き着いた。むぎゅ、と音がしそうなほど豊満な胸を押し当てられているのに、夏油は涼しい顔だ。こんなん慣れっこだってか? なんかもう、すごいという言葉しか出てこないよ夏油くん。よっ、平成の在原業平!

 

「ねぇ傑、どうして最近連絡くれないの? あたし寂しかったのよ?」

 

さっきまで私に金切り声を上げていたとは思えないほど甘ったるい声で夏油に話しかけるお姉さんは、もはや二重人格か演技派女優なんじゃないかと思う。あまりの豹変ぶりにびっくりしたわ。

しかし夏油はそんな彼女をあっさり無視し、私を気遣わし気に見た。ついでに手品のように彼女の腕からすり抜けて、軽く私を抱き寄せる。

うわ、こいつ。

 

「大丈夫? 何か云われたりした? 何もされてない?」

「ああいや、私は大丈夫だけど……」

 

なんとなく夏油の魂胆が見えて、嫌になる。

べたべたとそこかしこ触られて安否を確認され、私は乾いた笑いが止まらない。セクハラを止めろと云う気力もない。今はだた、横から突き刺さる嫉妬の視線が恐ろしい。こういうところからも呪いは生まれるんだから、ちょっとは加減してほしいと真剣に思う。

が、私のそんなささやかな願いを聞き届けてくれる神様はこの世にいないらしい。

 

一向に自分に声の一つもかけてくれないどころか、さっきまで自分がブスだなんだと罵っていた女にばかりかまける夏油の姿に、彼女は徐々に顔色を青褪めさせた。

おかしい、こんなはずでは。

青くなった顔にそう書いてある。

そうして、やがて震える声を絞り出して云った。

 

「なんで? なんであたしじゃなくて、そのブスの心配するの? あたしは傑の彼女だよ?」

 

ぴたり、と。

夏油は動きを止めた。

表情も固まっている。

それはきっとほんの一瞬のことだったけれど、運悪く夏油の目の前にいた私は見てしまった。

 

……嫌悪感に染まりきった、冷たい瞳を。

 

彼女と夏油が知り合いなのは嘘ではないだろう。さすがに一方的に顔を知っていただけでこんなバカげたことをする人がいるとはあんまり思いたくない。

実際ふたりがどういう関係でどこまでの仲なのかは知らないけれど、仮にも知り合いに向けていい種類の視線でないことだけは確かだ。知り合いに、しかも少なからず好意を持った相手にこんな目を向けられたらと思うと、ゾッとしない。

一度の瞬きでその冷たさは消えたけれど、相変わらず夏油の表情は冷たいままだ。

そして、ふーっと深く息を吐いた夏油は、にこやかな笑顔を――にこやかな! 笑顔を!――浮かべて、彼女に向かって云った。

夏油の笑顔に、ホッとしたように顔を綻ばせたお姉さんは、しかし次の瞬間には地獄に叩き落されることとなる。

 

「あなたを彼女だと思ったことはないけど」

「……え」

「顔は美人だし他に男もいるみたいだからあと腐れなくサラッと遊ぶつもりだっただけで、あなたのことは別に好きじゃないよ」

「……あたし、彼とは別れた。傑のために、別れたの。あなたが一番好きだから、だからっ」

「そうなの? じゃあ無駄になっちゃったね、私はあなたの彼氏にはならないし。より戻したら?」

 

うわ。

クズだ。

クソ最低なクズ野郎だ。

何笑ってんだお前、何にこやかにクズ発言して尚爽やかなんだ、ド底辺野郎。

人としてクズ過ぎて、気持ち的には完全にお姉さんの味方になりそうだった。だってあんまりにも可哀想。

 

夏油の女関係が派手なことは、高専に入った時から知っていた。

一年の頃は今ほど任務に追われていなくて休みもそこそこあったから、休みのたびに街に出かけて、夜遅くに帰ってくるといつも違う女物の香水の香りがしていた。

当時は寮でもあんまり誰とも会わないようずらして生活してたんだけど、同じ建物に住んでいれば香水の匂いってのはどうしたってすぐに気付く。休みの日に誰とどこで何をしようが私には関係のないことだったから特に言及はしたことはないけれど。臭いわけじゃなかったし。

やむを得ず任務に同行しているときも周囲から嫉妬と羨望の目で見られていたし、そもそもがこの顔だ。五条とは別ジャンルで世界一かっこいい認定を受けているご尊顔。認定者、私。モテないわけがないと思っていたから、夏油に恋人がいるのも当然納得できる。複数いる、あるいはいたことに関する倫理観はこの際置いておくとして。

 

だけど、二年に上がってからはそういうことが徐々に少なくなっていって、最近では休みがあっても寮にいることが多かったから、てっきり忙しい中女遊びするのに飽きて関係を断ったのだと思っていた。

まぁね、会ってお茶して話してはいさよなら、なんて清いお付き合いなんかではないだろうから、毎度毎度やることやってたら疲れもするよね。折角の休みに疲れることをせずちゃんと休んでくれて、補助監督の立場としてはありがたいことなのでちょっと安心していたりする。

それにしても、てっきり夏油のことだから、相手に付け入らせる暇もなく綺麗に関係を終わらせていたのだとばかり思っていたのに。

もしかしてこいつ、別れ話だけして捨ててきたのか?

いや、どっちにしろ、さっきの発言はフォローの余地なくクソだ。

庇ってもらってる立場だけど、ここはガツンと――と、ここでハッとする。

 

「それから、この子のことをブスって云うけどさ」

 

あ。

今やっと気付いた。

 

「私にとっては世界一可愛い人なんだよ。ブスはそっちだろう、性格ブス」

 

――夏油、めちゃくちゃキレてるじゃん。

 

さっきまで浮かべていた仮面の笑顔をスッと引っ込めた夏油から発せられる、絶対零度の鋭い視線。

可哀そうに、ただでさえ夏油の言葉で打ちのめされていた彼女は、まさか今までは優しくて最高の彼氏(仮)だった夏油からこんなふうに見下ろされるとは思っていなかったのか、ぽっきりと心を折られた様子でその場にへたり込んでしまった。

あーあ、泣いちゃったよ。

まぁそりゃ、ブチギレ夏油に真正面から睨まれたらそうなるよね。多分私でも泣く。

 

そうして夏油は私の手を引いて、一度も振り返ることなくこの場を立ち去った。

この修羅場が終わったとわかるや、それまで面白そうにこちらを見ていた周囲は、途端に興味を失くしたようにいつも通りの人の流れに戻る。人間ってこういうきっぱり他人に無関心なところが怖いよね。

お姉さんはあっという間に人ごみに紛れてしまい、振り返ってみてももう姿は見えない。

先を歩く夏油の表情をこの体勢では見ることが出来ないけれど、まだ夏油が怒っているのだけはわかる。だって歩調が大股だ。いつもは絶対に私に合わせて歩いてくれているのに、今は私が結構駆け足にならないと間に合わないくらいなのだ。

止まってくれと云いたいような、今はそっとしておきたいような。

 

でもこのままだとそのうち転びそう、と思っていたら、ピタリと夏油が足を止めた。私は考え事をしていたし急だったので、まんまと夏油の背中にダイブした。おかげで鼻が甚大な被害を受けました。ただでさえ低いのに、もっとペッちゃんこになってしまう。

痛む鼻をさすりながら、そういえば買った服が入った袋を置いてきてしまったことをこのタイミングで思い出した。せ、折角買ったのに。

ちょっとショックを受けていると、くるりと私を振り返った夏油は、ひどく申し訳なさそうな顔で云った。

 

「ごめん」

「え、私こそごめん。思いっきりぶつかっちゃった」

「いや、そうじゃなくてあの女のこと」

 

ついさっきのことだというのに、デート用の服を忘れてきたことのほうがショックで一瞬どの女のことか考えてしまった。

あー、うん、あのド派手なお姉さんね。

 

別に実害はなかったことだし気にするな、と云うのは簡単だけれど、これはちょっと話しておいた方がいいかもしれない。

夏油に引っ張られていつの間にか任務場所だった廃ビルの近くまで戻ってきていたので、丁度良く放置された鉄骨に並んで腰かけながら、妙にへこんだ様子の夏油に問う。なんでお前がへこんでんだ。

 

「夏油さぁ、関係切るときちゃんと相手と話したの?」

 

あからさまに視線を逸らす。はい戦犯。

 

「もう、なんで夏油って、たまにめちゃくちゃアホなのかなぁ」

「あ、アホって」

「アホでしょ。あんたは人よりモテるんだから、そういう立ち回りもうまくないと恨まれるだけだよ?」

 

夏油自身がどうにかされることがなくても、今後本命彼女が出来た時に彼女がちょっかいをかけられるかもしれない。今日の私のように。

私はたまたま若干耳に被害があった程度でほとんど実害はなかったけれど、もしかしたらもっと過激なことをしてくる元カノが出てこないとも限らないのだ。

そうなったら最終的に割を食うのは結局夏油になるんだから、遊んだなら遊んだなりにちゃんと手は打つべきだと思う。それがモテ男のけじめなのだ。

 

「本命がいるから夏油には本気にならないなんて思ってたら大間違いだからね。さっきのお姉さんだって、最初はそうだったんだろうけど、結果として彼氏と別れて夏油の本カノの座狙ってたでしょ。どうせ本気にならない、遊びだからって言葉を真に受けて何回か関係してたんでしょ。馬鹿だなぁ、あんた自分がどんだけいい男だと思ってんの? 彼氏がいても他のキープがいても、会うたび夏油に比重傾くに決まってるじゃん」

「え……」

「で、もうめんどくさいから単刀直入に訊くけど、ああいう人あと何人いるの?」

「い、いや、その」

「別に三桁行ってなきゃ引かないから正直に云いな。次は絡まれたら怒るからね」

「……ふ、ふたり?」

「疑問形にするな。まさか把握出来てないほどいるわけ? さすがにそれは庇いきれないわー」

「うっ……」

「ほら、正直に吐いた方が楽になるよ。カツ丼食べる?」

「いらないよ! ……執着されてたのは、あの女含めて五人くらい。他は、もう会わないって云ったらわかってくれたと思う」

「なるほど。じゃああの人はもう心配ないだろうし、残り四人ね。次の休みに会ってちゃんと話してきなよ」

「え!」

「会いたくないはナシだからね。もとはと云えば、あんたがちゃんと関係切れてなかったのが悪いんだから。まぁ、やっぱキープしようってなら別に切らなくてもいいけど、本命出来たとき大変だからいつかはちゃんとしないといけないことだとは思うよ」

「……女の連絡先、全部消しちゃったんだけど」

「馬鹿が」

「シンプルな罵倒って結構クるね」

「じゃあ登録してないアドレスから来たメール片っ端から確認して特定しな。どうせ迷惑メール扱いして読まないで削除してるんだろうけど、今後は全部に目を通して四人全員と話しすること。執着してるっていうなら、今もメール送り続けてるでしょ、その人たち」

 

夏油は無言でケータイの迷惑メールフォルダを見せてきた。

うわぁ。

う、わぁ……。

確かにこれは読む気が失せるのもわかる。

小文字と絵文字多用の頭悪そうなラブメールと、夏油が返事をしないことに対しての恨みつらみにリスカしました写メつき病みメール、ひたすら愛の言葉だけを書き連ねている狂気メール。個人的には、一見普通の内容に見えるメールを毎日送ってきているやつが一番怖かった。だって少なく見積もって半年近くは会ってないはずなのに、今日のデートは楽しかったとか、明日のお弁当はハンバーグだとか、おはようからおやすみまで行動を追っているのだ。え、会ってないんだよね? 妄想? 怖すぎない?

 

「なんでこんなヤバそうな人ばっかり……」

「顔は……そこそこよくて……」

「まじでクズだね夏油。どうしよう、五条がまともに思えてきた……」

 

少なくとも五条のクズさのベクトルはこういう方面には向いていない。さすが御三家お坊ちゃんらしく、女性関係は徹底しているのだ。

普通に人を見下したり自分が強者であることを前面に押し出し、傲慢すぎる態度で周囲を掻きまわすのが五条だ。実際実力は申し分ないから文句も付けられず、お家柄もやんごとないので下手な手出しも出来ずヘイトを買いまくっているわけだ。

まぁ、本人はそれを楽しんでいる節があるのでこれっぽっちも気にしてないんだろうけど、そういうとことも含めてクズと呼ばれるのだ、五条は。

 

五条のほうがまとも、という言葉にショックを受けたらしい夏油は、頭の上にガーンというわかりやすいオノマトペを出して青い顔で固まっている。

いや、これはどう考えてもクズ案件でしょうよ、自覚しなよ。

 

「ま、とにかくちょっと頑張りなよ、夏油」

 

あのメールを送ってくる人と会うのかと思うと気の毒だけど、本当に気の毒なのは彼女たちのほうだ。

夏油傑というとんでもない男に出会ってしまったばっかりに、恋に狂ってしまった可哀そうな人たち。最初はみんな、ちょっと顔のいい男を引っかけて遊んでやろう、くらいの軽い気持ちだったのかもしれない。けれど夏油は顔がいいだけではなく中身も身体もよくて(私は知らないけど、多分そうなんだろう)、気付いたら底なし沼のようにハマって抜け出せなくなってしまったのだろう。

まぁ確かに、こんだけ顔が良くて上辺だけでも優しくしてくれる男とちょっとでも関係を持てたら、やっぱり本命にしてもらいたい、と思ってしまう彼女たちの気持ちもわかる。が、そうなってしまったら文字通り終わりなのだ。だって夏油はあくまで遊びのつもりで、愛だの恋だのを求めていたわけではなかっただろうから。

 

「いくら夏油が一方的に切ってもさ、これまでその人たちに少しでも優しくされたり癒されたり、あったかい気持ちをもらった事実はなくならないでしょ」

 

女遊びを悪いとは云わない。推奨もしないけど。

夏油には夏油にしかわからないストレスがあって、どうやってそのストレスを発散するかは夏油の自由だ。そして彼女たちがそのストレスのはけ口になっていたのは事実だろう。

 

「ちょっとでも感謝してるなら、ちゃんと終わらせてあげなよ。そうしないと彼女たちも進めないし、何より夏油の為にならないよ」

 

まぁ、それにしてもヤバイ女五人、あっさり切ってくれた人たちを含めたらもっといたみたいだから、ちょっとは節操持ちなさいよとは云いたくなるけども。

 

ちゃんとしておかないと、いざ本当の本命が出来た時に痛い目を見るのは夏油だ。

自業自得と云えばその通りかもしれないけれど、一応私は友達なので、友達が良くないことをしていたら諭すのも友情だと思っている。もちろん無理強いのない程度での話。

それに個人的に夏油には超絶美人で超絶性格も良い最高な女の人とくっついて欲しいと思っているから、妙なところでケチがついてほしくないのである。そうです完全に個人的な事情です。

だって夏油の隣に美人がいたらテンションブチ上がらない? この際男でもいいよ。だから実は夏油と五条が並んでいるのを遠くから眺めるのが大好きです。ヘヘッ! 気持ち悪がられそうなので云いませんけどね。

内心私がそんなことを考えているとは露にも思わない夏油は、彼を心から心配する友人がいることにきっと感銘を受けてくれたのだろう。

まじまじと私を見、やがて観念したように頷いた。

 

「……わかったよ」

 

夏油の言葉に満足し、私は立ち上がってうんと伸びをした。

もうそろそろ帰らないと、ご飯の時間に間に合わない。今日は珍しく硝子がカレーを作ってくれるそうなのだ。硝子の手料理なんて滅多にありつけないので、今日は絶対夕飯までには帰ると決めていた。

 

「じゃ、帰ろっか」

 

夏油もゆっくりと立ち上がり、歩き出す。今度はいつも通り、私に歩幅を合わせてくれている。

うん、大丈夫。

いつもの夏油だ。

さっきはなんであんなに怒っていたのか未だに謎だけど、それを尋ねるのは今さらなような気がしたので、もう気にしないことにする。

 

えーっと、駅はどっちだったかな。

ひとまず大通りに出ればなんとかなるか、と思いそちらに足を向けると、ねぇ、と呼び止められる。

早く帰りたいんだけどなぁ。

と思いつつ一応足を止めると、夏油は続けた。

 

「さっき、本命がいても私と何度も会っていたら比重が傾くって云ったよね」

「ん? ああ、うん、云ったね」

「君も?」

「はん?」

 

何が、とここで夏油を振り返る。

夏油と、目が合った。

失敗したと、思った。

 

「君も、私を好きになる?」

 

息を飲む。

まっすぐに見つめられて、反射的に今すぐ駆け出して逃げてしまいたくなった。

だけど、グッと拳を握り締めて、私は答える。

 

「ならない」

 

迷いはない。

迷わない。

 

「私は先輩が好きだから」

 

この質問の意図も、考えないことにする。

ただ純粋な疑問として発せられたものだと、そう判断してあっさりと答えた。

さっき云ってることがと矛盾してるじゃないか、なんて反論は認めません。

私の先輩への愛は永遠なんです、純愛なんです。

 

「――そうか」

 

はっきりとした私の答えに、夏油は一度大きく目を見開いて、それから困ったように眉を下げて、それでも、笑った。

納得するように、噛み締めるように頷いて、思い出したようにポケットに手を突っ込んだ。

それから私に手を出すように云うので、私は大人しく云われたように手を出した。なんですか。

 

「これ、もらってくれないか」

 

夏油はポケットから取り出したものを、そっと私の掌の上に乗せた。

 

「……髪留め?」

「今日はそれを買いに行っていたんだ。ずっとお礼が出来ていなかったから」

「お礼?」

「そう。仰々しすぎても引かれるかと思って、包装してもらわなかったんだけど」

 

一体何の?

私、任務とか授業で足引っ張りまくりの迷惑かけ通しではあっても、夏油にお礼をされなきゃならないようなことはした覚えはない。あ、夏油の人生幸福計画は本人に云うつもりとか一切ないので。

心当たりが全くなくて首を傾げると、夏油は小さく笑った。

 

「私は、君に命を助けてもらっただろう」

「……いつ?」

「年明け。君が死にかけたとき」

「あっ」

「まさか忘れていたのか? 死にかけたのに」

「い、いや、忘れてたっていうか」

 

そりゃ忘れてはいないけども、まさかそんなことでお礼を云われるなんて思ってなかった。

だって私にしてみればあれは当然の行動だったし、むしろ中途半端に三ヶ月も昏睡状態になるという醜態まで晒していたのだ。記憶から消したいとまではいかなくとも、積極的に思い出したい出来事ではない。

しかも、お礼まで。

 

もしかしないでも、今日夏油が買い物があると云っていたのはこれのことだろう。

いや、なんか、照れる。

照れるし申し訳ない。

しかも使いやすそうで可愛い、私好みの髪留めだ。

普通に嬉しいぞ、これ。

 

「ありがとう。あのとき私を助けてくれて」

 

ここはビルとビルの間の通路で、時間も相まって薄暗い。だから。よく夏油の表情を見ることは出来なかった。

それでもわかる。

夏油は、笑ってる。

 

「――ねぇ夏油、一つ質問してもいい?」

「なんだい?」

 

優しい笑みを浮かべる夏油に、なんだか少しだけ泣きそうになってしまった。

だけど今は泣くところじゃない。

一度小さく深呼吸をして息を整えてから、私は云う。

 

「夏油は、幸せ?」

 

何が、とは訊けない。

ただ単純に、幸せか、と。

この問いはちょっと意地悪だったかもしれないと思いつつ、私は問いかけずにはいられなかった。

私が夏油にしてあげられる、ほんの些細なこと。

それが、少しでも彼が幸せだと思える役に立っていただろうか。

最終的に十年後のハロウィンを無事に過ごして大団円を迎えられたらそれでいいと思っていたけれど、途中経過もずっと幸せであってほしいというのが本音だ。

だからこれは、中間結果の確認。

あまりに脈絡のない問いに夏油は驚いていたけれど、私が冗談を云っているわけでもからかっているわけでもないとわかったらしい。

少し考えるように視線を彷徨わせて、最後にまたパチリと目が合って。

そうして。

 

「幸せだよ」

 

その言葉を聴けただけで、私は報われた。

この言葉が、嘘ではないと私は思いたかった。

 

夏油の笑顔が、本物だと信じたかった。

 

私は高専に入った時からずっとお気に入りの髪留めを使っていたのだけれど、実はあれは年明けのあの件があった際に失くしてしまっていたので、目を覚ましてからは適当に買ったものを使っていた。確か任務の途中で寄ったコンビニで髪を纏められれば何でもいいと思って買った何の変哲もないヘアゴム。気に入っているわけでもなく、ただ切れないから使い続けている程度のもの。

夏油が選んでくれたのは、ピンクのガーベラがモチーフにしてある髪留めだ。バレッタ型なので、使い勝手がいいだろう。何より可愛い。悔しい、なんで夏油は私のタイプ知ってるんだろう。偶然かもしれないけど、一目で気に入ってしまった。

折角だから、ポニーテールにしていた髪を一度解き、ハーフアップにまとめてバレッタで留めてみた。

きょとんとこちらを眺めていた夏油に、バレッタを指さして笑う。

 

「どう、似合う?」

 

鏡がないのでどこかほつれてるかもしれない、と思っていたら、夏油がこぼれていた髪を掬ってもう一度髪留めを付け直してくれた。さすがモテ男、器用である。

そうして、満足げに私を見て笑った。

 

「ああ、よく似合っている」

「ありがと。大事にするね!」

 

にこにこと笑いあっていると、硝子からのさっさと帰ってこいメールを受信した。

私たちはメールを覗き込んでから顔を見合わせ、思わず噴き出した。なんでもカレールーを買い忘れたので帰りに買ってきてほしいらしい。カレールーなしのカレーは可哀想なので、早急に帰ってあげた。

ちなみにスーパーでどのルーを買うかで若干戦争が起こりかけたけど、五条が辛口は食べられないことを思い出したので、仕方なく中辛と甘口を一箱ずつ買うことで折衷案とした。

 

あ、そういえば余談だけど、私が忘れてきた買い物袋はこっそり夏油が呪霊を使って回収してくれていたらしい。マジ感謝。

これで次のデートに着て行ける、とはしゃいだら、なんかちょっと顔を引きつらせてた気がするけどきっと気のせいでしょう。

 

更に余談。

次の休み、私の言葉通り残り四人の女と決着をつけに出かけた夏油は、夕方になって精も根もつき果てた様子で帰ってきた。

わぁ。

夏油を見た瞬間硝子は近寄らないよう部屋に逃げてしまい、五条は爆笑するだけでフォローなし。とてもじゃないがこのまま放置して後輩に情けない姿を見せるわけにもいかず、仕方なくお疲れ、と労りの声をかけた。可哀想なので暖かいココアを淹れてあげた。鼻啜ってる。もしかして泣いてんのか。

どうやら頑張って説得して今度こそ諦めてもらえたらしいが、予想以上に疲れたらしい。具体的に何故かは訊かないでおこう、うん、友達の性事情とか正直あんまり聞きたくないよ。

焚きつけた手前放置することも出来ず、頑張ったねと頭を撫でてやると、しょんぼりした様子で抱きしめてくれ、と上目遣いをしてきたので、クッションを顔面にブン投げておいた。

 

調子乗んなよスケコマシ。

もとはと云えばお前が蒔いた種だろうが。

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