前世の記憶を使って夏油傑を絶対に幸せにしようと思います!   作:秋元琶耶

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人間が水に浮くなんて都市伝説だ


夏だ! 海だ!溺れたので助けてください

良く晴れた夏の日、珍しく私たちは同期四人揃って任務に就いていた。

場所は神奈川のとある海沿いの街で、何でも昔はそれなりに流行った海の家で一度殺人事件が起きてしまい、以降名前を変えたり改装をしても、傷害事件やら自殺未遂やらとにかく事件事故を繰り返している曰くつきの建物が対象地。

取り壊そうにも祟りが恐ろしいとかで、今回の依頼はこの場所にいるであろう呪霊を祓うことだった。

 

なんで今回は全員揃っているのかと云うと、私はそもそもこの件の担当補助監督、硝子はそれなりに賑わっているビーチが近いので万が一一般人に負傷者が出た時の医療要員、五条と夏油で呪霊を間違いなく祓いましょう、という作戦だったからだ。

ちなみに私が担当だったけれど、補助監督が毎回呪術師を選出するわけではない。確かに呪術師たちの予定を把握している関係で担当者が直接呪術師に依頼することはあっても、基本的には補助監督をまとめている学長にお伺いを立てて、それから正式に依頼をする。組織というのは大きくなるほど手順や形式が多くなってクソだと思う。

まぁ、余程のことがない限り却下されないので、事後承諾になることはままあるけども。

 

そんなわけで念のためお伺いを立てたこの面子、やっぱりあっさり受理されました。

やったー。

最近バラバラの任務が多かったので、みんな一緒になるとちょっと嬉しい。ただでさえ私はスタートがみんなとずれていた上に黒歴史ツンツン期に加え、三か月の昏睡期間があったから、まともにみんなと過ごすようになってからはほんの数か月しか経っていないのだ。

寮では一緒だけど、それとこれとはちょっと話が別。

久々の勢ぞろいは、やっぱり嬉しい。

 

おかげで仕事はサクサク進み、午前中にはすべての呪霊を祓い終わった。一日がかりになる予定だったから、これは快挙じゃないだろうか。

依頼書にあった海の家周辺を根城にしていた呪霊と、それにつられて集まっていた呪霊、加えて近くのビーチの人間を餌にしようとしていたこの辺一帯の呪霊は合わせてそこそこの数になっていたが、夏油と五条の手にかかればちょちょいのちょいである。二級相当が数匹いたけど、あとは夏油が取り込むまでもない低級の雑魚が群がっていただけだった。

最後の一匹を五条がでこピンで祓ったのを確認し、念のため周囲を夏油の呪霊で見回ってもらって、完全に掃討したことを確認する。

 

そうして、報告書を提出で終わるのでその旨を高専に連絡すると、なんと夜蛾先生から思わぬお言葉を頂いた。

電話を切って、何故かちょっとそわそわと落ち着かない様子の三人を振り返る。なんか餌を前にした犬みたいで可愛いな、と思ったのは内緒。

 

「思ったより早く片付いたので、午後から我々はフリーです。さっさと帰るも良し、遊んでから帰るも良し、各々自由に行動してオッケー。ただし明日は朝から実習あるから、今日中には帰寮するように」

 

ってことで、以上、解散。

さー帰ろ帰ろ。

 

……とはいかなかった。

 

「え、何」

「まぁまぁ」

「何、なんなの」

「まぁまぁまぁまぁ」

「ちょ、ちょっと、ねぇ夏油、五条、何なんだってば。硝子も何か云ってよ」

「まぁまぁまぁまぁまぁ」

「まぁしか云えない呪いにでもかかった!? なんでみんな半笑いなの! っていうか夏油も五条もなんで私の腕掴むの!」

「五条、夏油、知ってるか? 二の腕と胸の柔らかさって同じなんだってさ」

「いや何云ってんの硝子……っておいこら夏油、なんで今二の腕揉むんだ、くすぐったいから! あと手つきがやらしいからマジでやめて」

「わぁマジトーンでの拒否……どんまい傑」

「お前もだよアホ五条」

 

絵面的にはヤバイと思う。

私は何故か両腕を180cmオーバーの男二人に掴まれているのだ。想像してほしいのは、捕まった宇宙人。検索するとすぐ出てくるから是非見てみてほしい。私はあそこまで小さくないけど、気分はまさにあんな感じなのだ。

硝子は余計な知識を与えて私の尊厳を傷つけるわ二人は遠慮なしに人の二の腕揉むわ、本当に何。

 

とりあえず逃げないから腕は解放しろと睨み付けたら五条は大人しく両手を上げた。冤罪防止みたいな顔してるけど、もう前科一般だよ。

そんで夏油は何名残惜しそうにしてるんだよ、このエッチマンめ。夏油なら二の腕じゃなくて本物を揉み放題だろうに、なんで私の二の腕にこだわるんだ。最近は彼女っぽい人いないみたいだし、欲求不満なのかな? だったらビーチに行けばナンパ待ちの女の子はわんさかいるだろうから、さっさと行けばいいのに。

一応私にも気遣いの心はあるので口にはしないけれど、そんな気持ちを込めて夏油を見ると、すごすごと手を放した。最初からそうして。

 

が、それで終わりではないらしい。

結局何が云いたかったのかと問うと、三人は口々に云った。

 

「夏だよ?」

「そうだね」

 

そのきょとん顔をやめろ夏油、格好いいけど。

 

「海だぜ?」

「そうだね」

 

無邪気に首を傾げるな五条、お前顔だけはいいんだから。

 

「降って湧いた午後休、海で遊ぶしかないだろ」

「そうかなぁ!?」

 

咥え煙草で硝子に無表情にウィンクされても今はときめけない。

 

そもそも硝子がそっち側に行くとは思っていなかったので、正直私は戸惑っている。だって硝子、海とか嫌いそうじゃん。燦々と煌めく太陽の下とか苦手そうじゃん。

五条と夏油はわかる。海好きそう。世間は夏休みのこの時期に海辺で任務、しかも予想より早く片付いたとなれば遊びたいと云うだろうとは思っていた。

むしろ遊ぶために超特急で仕事を片付けたんじゃないかとすら思っているし、この予想はあながち間違ってはいないだろう。

いいんですよ、こっちとしては。ちゃんときっちり仕事してくれてれば、文句はないんです。

 

「っていうか、別に止めてないんだから、いいよ三人で遊んできなよ。私は帰るけど」

「なんでだよ、ひとりぼっちは寂しいだろ」

「やめろ杏子好きなんだから! っていうか仲間はずれとかじゃなくてさ、私帰って片付けたい仕事あるからほんと気にしないでよ」

「折角なんだからみんなで遊びたいじゃないか」

「だから三人で遊んできなってば」

「あんた昨日、しばらくは急ぎの仕事はないって云ってたじゃん。少しくらい遊んでも平気でしょ。それとも、私たちと遊びたくない?」

 

無表情、しかし付き合いが長くなればわかる程度の微妙な表情の差分。そんな硝子の視線を真っ向から受け止めてしまい、私はウッと息を詰めた。

 

違う、そうじゃないのだ。

みんなと遊びたくないなんてとんなことではない。

いつだって私はみんなときゃっきゃと学生生活を楽しみたいし、暇さえあればのんびりしたい。

メタいことういうと、来年の今頃は夏油離脱回避のために忙しく動き回ってるだろうから、今のうちにはしゃいでおきたいって気持ちはある。

 

でも、だって、ここは、海じゃないですか。

となると、必然的に水遊びになるじゃないですか。

……それはちょっと、困るんですよね。

 

「あんたがカナヅチなのはもう知ってるけど」

「え!?」

「だって前云ってたじゃん、中学時代プールの授業サボるのだけはうまかったって。基本的にクソ真面目なあんたがプールだけはサボるって、そういうことでしょ」

「プロファイラー硝子……」

「プロゴルファー猿みたいに云うんじゃないよ」

 

ちらりと両脇の二人を見ても、したりと頷かれる。

なるほど、私のちっぽけな見栄は全く意味がなかったということか。

いやそもそもの話、術式がしょぼかったり体術もトウジさんにぼろくそにされてたりしている時点で恥は晒しているのだから、泳げないことくらい今さら些細な恥なのかもしれない。

 

「うぅ~~~……」

 

だからと云って積極的に恥を晒したいわけではないのだけど、バレているのならばこれ以上意固地になる必要もないか。

唸るように声を上げると、突き刺さる三人からの視線。

 

……仕方ない。

観念して少し遊んでいこう。

 

「じゃあ、せめて制服は着替えないとね」

 

多分三人とも、本気で私が嫌がれば無理強いはしないと思う。

でも同じくらい、顔面の良さでゴリ押せば私が折れるとも思っていただろう。

悔しいけど正解だ。

ため息交じりに笑うと、面白いくらい三人はパァッと嬉しそうに笑った。

そういうところは年相応で可愛いんだよなぁ、この子らは。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

幕間。

 

「嘘だろ」

「なんでよ」

「それはこっちのセリフ。Tシャツにハーフパンツって、水着着ないつもり?」

「着ないよ。どうせ泳げないんだから」

「そういう問題じゃないだろ。サービス精神の問題」

「誰に向けてのサービスよ!? っていうかサービスってんなら硝子の水着姿だけで十分じゃん、隣に私の貧相な水着姿があったら逆に邪魔でしょ」

「いいから水着買うよ。ほら、これなんかどう? ハイビスカス柄のビキニ」

「このまな板で三角ビキニを着ろと……?」

「云うほどまな板じゃないと思うけどね。じゃあこっちは? ドット柄のビスチェタイプ。これなら胸回りの露出は減るし」

「うーん、でもなぁ」

「オフショルダーでも大きめのフリルがついてるやつなら二の腕とかまでカバーできていいじゃん。ほら、この色とか良く似合う」

「いや、でも私さぁ、結構身体に傷跡あるじゃないですか」

「……それ気にしてたの?」

「違う違う、私は別に気にしてないの! でも周りはそういうの気になるんじゃないかなーって。一応パッと見で目立つのはお腹の傷くらいしかないけど、そもそも腹に穴開いた傷跡って何よって一般的にはなるだろうし、気持ち悪くないかなーって思っ」

「気持ち悪くない。あんたがたくさんの人を守った証拠なんだから、気持ち悪いなんて云う奴は切り刻んでやる」

「硝子さん顔怖いデス。でもまぁ、何も知らなきゃ異様に映るのはその通りだからねぇ」

「…………。」

「ま、お腹が隠れるタイプの水着にすればいいか。あ、これとかいいかも。青い花柄でパンツとTシャツ付きのタンキニ。これならフルセットで着ればパッと見洋服っぽいし、お腹も隠れるし可愛いな。どう思う?」

「……うん、可愛い。色も似合うよ」

「ほんと? 硝子が云うなら間違いないな、私これにしよ。ちょっと待っててね、買ってくるから」

「わかった」

「あのね、硝子」

「うん?」

「この傷は硝子が私を助けてくれた証拠だし、私にとっては勲章だから。そこだけは間違えないでね」

「……うん、わかってる。ほら、早く買って着替えてきな。五条も夏油もきっと待ちくたびれてるよ」

「わ、そうだね、小言云われそうだし急いで着替える。硝子も外で待ってていいからね!」

 

外。

 

「あ、硝子来た。って、一人?」

「おっせーよ、着替えだけでどんだけ待たすんだっつーの」

「…………。」

「硝子、どうかした?」

「まさかあいつこの期に及んで帰るとか云ってんのか?」

「違う」

「え、ちょっと、もしかして泣いてるのかい? あの子と喧嘩したとか……?」

「じゃなくて。ああもう、クソッ」

「まっ、硝子ちゃんたら口が悪いわよ! 女の子なんだからクソなんて云っちゃダメッ!」

「お前もクソだよ五条。いいか、お前ら。あの子が来たら水着姿褒め称えろよ。超絶可愛い水着で来るんだからな。絶対余計なこと云うなよ特に五条。夏油はお前の持ってる語彙総動員して全力で褒めろ」

「そ、そのつもりだけど……何かあった?」

「何もない。とにかく、今日は遊び倒すぞお前ら」

「お、おぅ……」

 

ちなみに硝子が来るまで五条と夏油は女の子に逆ナンされまくっていたが、硝子の気配を察知して速攻で群がる女の子を夏油が散らした。逆ナンされてるところを主人公に見られたくなかったらしい。多分見ても主人公はなんとも思わないどころか、『さすが夏油、顔がいいと逆ナンなんて日常茶飯事だよね!』と云われるんだけど、それを予想した上でも見られたくないんだからしょうがない。がんばれげとうくん。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

実を云うと、海は初めて来た。

いや、正確には来たことはあったけど、水着を着て遊んだのは今日が初めてなのだ。

考えてみれば私のカナヅチは前世からの筋金入りだった。だって前世の記憶なんてなかった中学時代でさえ徹底してプールの授業をサボってたくらいだし。

前世の時は大学時代に何度か海に来たことはあったような気がするけど、やっぱり水に入った記憶はない。

まぁ正直、泳げなくても直接的には死なないし、水辺に近付かなければ問題はないから泳げるようになろうと思ったことがなかったので、海に行こうという発想にすらならなかった。

あとは純粋に中学時代は部活が忙しかったのと、家族でも海に行くより川辺でバーベキューとか山にハイキングに行くタイプだったというのも大きいだろう。

そう云えば両親が海に行きたそうな雰囲気もなかったし、もしかするとカナヅチ一家なのかもしれない。今度帰ったとき訊いてみよう。

 

パラソルを借りに行った夏油と、最初はちょっとボーっとしていたいという硝子に荷物番を頼み、五条と私は近くの岩場に来ていた。

私は泳げないから水に入りたくないだけで、海とか砂浜そのものが嫌いなわけじゃない。

つまり何が云いたいかと云うと、青い空の下でこうしてのんびり散歩するのは、なかなかどうして気持ちが良い。

 

「ねぇ五条」

「あん?」

「みて、カニ。カニがいる」

「そりゃ……いるだろ。海だぜ?」

「捕まえよう」

「は?」

「私、あれ、捕まえたいです」

「……お前、知能幼児に低下してねぇ…?」

「ねぇ、あっちにもいる。スベスベマンジュウガニいないかな」

「いやさすがにこの辺にスベスベマンジュウガニはいねーだろ」

「でも確か生息域的にはいてもおかしくないはずだよスベスベマンジュウガニ」

「なんで詳しいんだよスベスベマンジュウガニに」

「スベスベマンジュウガニが語尾みたいになっちゃってるじゃん」

「嫌な呪いかけんな」

「あ、やばいここカニもヒトデもウミウシもいる。宝の山じゃん。硝子と夏油連れてこようよ」

 

あれ、海、楽しいぞ?

今までは海もプールも泳ぐ場所、泳げない私には縁もないし興味もない、というスタンスを貫いていたんだけれど、そうか、プールはさすがに泳ぐための場所でも、別に海は泳がなくてもいいんだ。

今みたいにカニを探したりただただ砂浜を散歩したり、道具があれば釣りだって出来る。砂浜で子供みたいに砂の城を作るのもありだし、ビーチフラッグやビーチバレーをしたっていい。あとはちょっとこの辺りでは難しくても、もう少し水がきれいな浅瀬であればシュノーケルを付けて水中の景色を楽しむのもありだ。

泳ぐ以外にも選択肢は山ほどある。

食わず嫌いはするもんじゃないなぁ、としみじみ思った。

 

こちらを威嚇してくるカニをどこかほっこりするような気持ちで眺めていると、ふと頭上に影がさした。そうして、ぽすん、と頭に何かが乗る感触。反射的に手を伸ばしてみれば、どうやら麦わら帽子を被せられたらしい。

 

「何、面白いものでもあった?」

 

振り返ると、五条と入れ替わって今まさに呼びに行こうと思っていた夏油と硝子がいた。すでにパラソルは設置して、貴重品は置きっぱなしだけど、夏油の呪霊が見張っているから盗まれる心配もないとのこと。べ、便利だ。

見れば硝子も色違いで同じ麦わら帽子を被っていたから、多分パラソルを借りるついでに夏油が買ってきてくれたんだろう。確かにちょっと日差しが痛いと思っていたからこれはありがたい。

こういうところが夏油がモテる理由なんだろうなぁ。

 

麦わら帽子のお礼を云い、何故かニコニコ笑顔な夏油にさっき見つけたカニを指さして見せた。

 

「うん。あのね、カニとヒトデとウミウシがいたんだよ」

「え、カニ? スベスベマンジュウガニ?」

「いやそれは私も探してるんだけど、これはイワガニだと思う」

「そっか。いるといいね、スベスベマンジュウガニ」

 

なんだろう、夏油の口からスベスベマンジュウガニって聞くと妙に面白い。そしてこの優しそうな穏やかな笑顔っていうのがまたちょっと笑いを誘う。

お互い顔を見合わせてへらりと笑うと、視界の端で五条と硝子が震えていた。あの二人たまにああやって二人で同じ反応してるときあるんだけど、なんなのかな。付き合ってんのかな。美男美女の組み合わせで最高って云いたいところだけど、あの二人がカップルって全然想像できない。見た目だけは百点満点だけど、やっぱりそれぞれ中身を知ってるとね。

あと純粋に硝子にはもっといい人がいるんじゃないかと思ってしまう。いや、しかし、人の好みにケチをつけるほど私はつまらない人間ではないはずだ。もしも本当に二人が付き合うんだとしても心から祝福をしなければ。

そんなことを考えていたら。

 

「はい、これ」

「え、何?」

 

震えが止まったらしい硝子に笑顔で押し付けられたのは大きな浮き輪だった。

……浮き輪。

何故、私に。

そして、いつの間にこんなものを。さっきまで震えてたくせに。

首を傾げてみると、ものすごく綺麗な笑顔で沖を指さし。

 

「行こっか!」

「……え!?」

 

硝子に手を取られ、背中を夏油に押され、五条はそんな私を指さして笑い。

 

――はい私、気付けば海の上です。

 

ソファに座るような形で浮き輪に浮かび、空を見上げる。

硝子はマット型の浮き輪の上に寝そべって、まるでモデルのようだった。今から撮影ですか?

ていうか、何あの手際。

私が抵抗する間もなく、あれよあれよといううちにひょいと持ち上げられて浮き輪に座らされて波に揺られているこの状況。

 

「どう? 泳がなくても気持ちいいんじゃない?」

 

云われて、改めて空と周囲を見回す。

時折浮き輪にぶつかった波の水飛沫が思いのほか気持ちよかった。

どこまでも続く青い空に、肌を撫でる優しい風。照りつける太陽の日差しは少し痛いけれど、帽子で頭は守れているし少し水をかければ涼しくなってむしろ心地良い。

たっぷり三十秒近くこの自然を感じてから、口を開く。

 

「これは……いいね」

「でしょ」

 

嬉しそうに笑う硝子に、私も嬉しくなって笑顔になった。

多分これは一人でやっても楽しくない。

こうして硝子が隣にいるから、たまにはこんな風に水の上でのんびりするのも悪くない、と思えるに違いない。

 

数か月前までツンツンしてたわ大怪我して昏睡するわ目覚めたと思ったら忙しく単独行動しまくるわまた倒れて三日間寝こけるわ、控えめに云っても最悪な対応しかとってこなかった私と仲良くしてくれる硝子には本当に頭が上がらない。

パッと見クール系美人だから、硝子のことをあまり知らない人は冷たそうだとか温かみがないだとか勝手なことを云うけれど、硝子は私みたいなやつとも仲良くしてくれる天使みたいないい子なんだぞと云ってやりたくなる。

まぁ云いませんけど。知らないやつは一生知らないままでいろって思ってますけど。

へへ、硝子のいいところ知ってるのは私たちだけなんだぞ!

前にちょっとそういう話をしたら、硝子は馬鹿じゃないのと吐き捨てた。

でも私知ってるんですよ。私から顔を背けた硝子の耳が、赤くなってたこと。

はー、硝子可愛い。

 

内心硝子の可愛さにのたうち回りつつも表情は取り繕い、ぽつぽつと会話を楽しみながら私たちはしばらく海を漂っていた。

そうして、ふと気付く。

 

「五条と夏油は?」

「海久しぶりだから遠泳チャレンジしてくるってさ」

 

なるほど、静かだと思ったら、そういうことか。

遠泳とか、泳げない私にはまったく理解できない行為だけど、きっと二人にとっては楽しいんだろう。何も私に付き合って泳がないでいることはないし、あとで合流出来れば別に二人が何をしていようと構わない。

ちなみに硝子は泳がなくていいのかと訊ねると、別にいいとのこと。本気で泳ぎたければそれなりの水着を用意するし、泳ぎ目的ならプールの方が泳ぎやすいらしい。海は波があるから、確かに純粋に泳ぐというよりもサバイバルな感じはする。

まぁ私としてはこうやって硝子とのんびり話しながらぷかぷか浮いているのが楽しいので、付き合ってくれるのは嬉しい。

 

カニを見つけたのは楽しかったし、ヒトデもウミウシもみられたし、砂浜の散歩は気持ちがよかったし、何よりみんなで来る海は思った以上に楽しいものだった。

うん、海、悪くない。

たまにだったら今後も来てもいいかもな、と考えていると、ふと何か気配を感じて顔を上げた。

 

「ん?」

「何、どうしたの」

「ああいや、なんか……」

 

しかし傍にいるのは硝子だけで、あとは周りには海水浴を楽しむ一般客がいるばかり。

けれど確かに今何かの気配を感じたのだ。

気のせいか、と思ったのは一瞬で、ハッとした。

 

「硝子」

「うん?」

「五条と夏油、呼んできてもらえる?」

「は?」

 

次の瞬間、視界が反転する。

 

大きな水音がして平衡感覚がなくなり、全身を打ち付けるような痛みと底冷えるような寒さ。

海に落ちたのだと気付くのにはそう時間はかからなかった。

それなりに波はあったけれど、浮き輪が転覆するほどのものではなかったはずだ。その証拠に周囲に大きな波が立った様子はなく、近くにいた硝子のボート型浮き輪は穏やかなものだった。

つまり、私の浮き輪だけがピンポイントで転覆した。

というか、海に浸かっていた私の足首が掴まれて勢いよく引っ張られたおかげで、浮き輪から引きずり落とされたのである。

硝子の驚きの表情を残し、私はたちまち海に引きずり込まれた。

 

もともと私は泳げないので、水に浮くという感覚はまったくわからない。

水の中でどうするのが正解なのかはわからないけれど、少なくとも力を抜くなんてことが出来るはずはなかった。

 

(クッソ、この……ッ!!)

 

単に自分でバランスを崩して海に落ちただけならまだ笑えるが――いや嘘だ、笑えない――、残念ながらこれは私の過失ではない。

明確に、何かの意志が私を海に落としたのだ。

 

それは今も私の足首を掴んで離さず、どれだけもがいても離れる様子はない。

いきなり水に落ちたことで私の心臓はギュッと締め付けられたように痛み、碌に息も吸えなかったのですでに酸素が足りなくて苦しい。急に体温を奪われると人間の筋肉は硬直するもので、全身が岩のように固まって痛かった。

それでも必死に自分の足首を掴むものを確認しようと目を開ければ、そこにいたのは異形の物だった。

おそらく海に存在する呪霊の類。

足首を掴んでいたのは海藻のような髪で、その横では口の裂けた女のようなものがぬたりと嫌な笑みを浮かべていた。

 

海には常に呪霊が沸く。

これはもうどうしようもないことで、例え優秀な術師がその場の呪霊をすべて祓ったとしても、少しすれば新しい呪霊が生まれてしまう。

海は美しく地球を包み込む神秘的なものだが、同じくらい未知で、生命の源であると同時に多くの命を飲み込む恐ろしい場所でもあるのだ。

おそらくこの呪霊は、その海が生んだものの中の一つ。

何故私を狙ったのかは知らないが、もしかしたら、私が泳げないせいで潜在的に海に恐怖を抱いていたから、その負の感情を拾ったのかもしれない。

ともかく、咄嗟に硝子の方を確認してもそちらは狙われてはいない様子だったのは少しだけ安心した。

どうやらこいつの狙いは私だけらしい。

硝子も判断力はあるから、私が呪霊に襲われているというのはすぐにわかっただろう。ならば五条と夏油を呼びにも行ってくれているはず。

 

今は水着で海の上というこの状況、呪具なんて持っていない私には呪霊に対応することなんてできない。

ならばせめて二人が来るまではなんとか足掻かねば、と思うのだけど、必死に手足を動かしたところで無駄に体力を消費するだけだった。

くそぅ、まさか泳げない弊害がこんなところで出てくるとは。

しかもこの呪霊、その気になれば一気に私を海の底まで連れていけるだろうに、そうはしなかった。

もしや殺すつもりはなくただ遊んでいるだけなのかと思い、頑張ってじたばたした結果どうにか一瞬水面から顔を出すことに成功した。

よっしゃ、ここで一つ大声でも上げよう、と思った次の瞬間にはまた足を引っ張られて私の身体は水の中。

顔が出たことで少し安心して大きく息をしようと試みていたので、開けた口から酸素と一緒に水まで飲みこんでしまって咳き込む羽目になった。

水の中で咳き込むとどうなるか知っているだろうか。

そう、死ぬほど苦しいのである。

しかも重ねて水を吸い込むことになり、入ってはいけない場所に海水を吸い込んでしまい意識が遠のいた。

が、また次の瞬間には身体が浮き上がり、顔だけ水面から出る。

まさかとは思うが。

 

(こいつ、遊んでる……!!)

 

ほとんど拷問の手口だ。

まるで人間のようなやり方に心底腹が立つ。もしかしたら元人間の思念体なのかもしれない。どっちにしろ最悪だった。

わかっていても顔が水面から出た瞬間に反射で息を吸ってしまい、また引っ張り込まれて咽る。これがお気に入りなようで、執拗なまでに繰り返される。

 

そもそも純粋に人間が息を止めていられるのなんて精々一分程度のことなのだ。ギネスには二十分以上息を止めるという記録があるらしいが、それはしっかり事前準備をしている場合の話。今の私のように、何の心構えもなく水中で息を止めるなんて、誰も想定していない。

一体どれほどの時間弄ばれていたのだろうか。

ただ、もう限界だった。

 

折角海も悪くないと思っていたのに、この仕打ち。

もはやもがく気力もなくなり、硬直を通り越して全身から力が抜けた私を、呪霊は今度こそ水底に引きずりこむつもりらしい。水圧に身体が悲鳴を上げ、頭痛と耳鳴りで意識が朦朧とした。

方向感覚はほどんどなかったけれど、引きずられる方向とは逆に顔を向けると、多分そちらが水面だった。

太陽の光がキラキラとひかっていて、神秘的で美しいと思った。

このままだと私は死ぬだろう。

死ぬ前に見えた景色がこれなら悪くないなぁ。

 

そんなことを思っていたら、何かがこちらに向かってくるのが見えた。

始めは黒い点だったそれはみるみるうちに近付いてきて、それが夏油だと認識できたのはほとんど奇跡に近かったのだと思う。

ただ、水中で輝く太陽の光を背にする夏油が、まるで後光が差しているように見えて綺麗だな、と思った。

走馬灯にしては知らない光景だったのが不思議だったけれど、まぁ、死の間際なんてのは案外そういうものなのかもしれない。

手を伸ばしたのは反射のようなもので、このとき私は自由に手足を動かせるほどの体力は残っていなかったが、何故か伸ばした手をしっかりと握られたような感覚だけはあった。

随分とリアルな走馬灯である。

すっかり水に体温を奪われて冷たくなっていた私の手に触れた夏油の手は信じられないくらいに温かくて安心して、ちょっとだけ涙が出そうになった。

 

「――……!!」

 

名前を呼ばれたような気がした。

当然水中で声など聞こえないので気のせいに違いない。

けれど、確かに夏油が私を呼んだのだ。

 

(ああ、来てくれた)

 

硝子が呼んでくれたのだろう。

今はたまたま私だけが狙われたのでよかったけれど、こいつが他の人を襲ったら悲劇だ。

ある程度痛みや苦しみの経験があって慣れている私ですら死ぬほど苦しくて辛かったのだから、非術師の一般人がこんな目に遭ったらパニックどころの話ではない。

 

夏油が掴んだ私の手を引っ張り、抱きしめられる。

触れた場所から伝わる夏油の体温の温かさは、やはりこれ以上ないほど安心できるものだった。

まだ足を引っ張られているような気がしたのは、すぐに解放された。

海の中でも動ける呪霊を使って、夏油が祓ってくれたのだろう。

何度も云うが海の呪霊は無限に湧くので、これは夏油が取り込める類のものではない。祓うしかないのである。

 

(よかった)

 

助かったことよりも呪霊が祓われたことに安堵して思わず私は息を吐く。

我ながら馬鹿である。

ただでさえギリギリだった酸素がこれでもうなくなった。

あ、死ぬ。

そう確信したのと同時に視界が狭窄し、電源が落ちるように意識が途切れた。

 

一瞬、唇に何かが押し当てられたような気がしたのは、多分、気のせいだった。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

目を開けたら、目の前に夏油の顔があった。

 

「…………………ぉわ」

 

びっくりした。

いや夏油の顔の近さにもびっくりしたんだけど、その前に、あれ、私生きてますね?

 

とりあえず海の中の呪霊に引っ張り込まれて死にかけたことは覚えてるんだけど、何がどうなったのかはわからない。呪霊の気配を察知したところで硝子には五条と夏油を呼びに行ってもらった記憶はあるから、助かったということはどちらかが来てくれたんだろう。

しこたま水を飲んだような気がするけど、それも多分私の意識がないうちに吐かせてくれたのだと思う。何せ硝子がいるのだから、余程のことがない限りは死なない。

掴まれた足を持っていかれた感覚もないし、私は五体満足だ。

 

いや、しかし、焦った。

甚爾さんと五条の間に割って入った時と同じくらい焦った。

本気で死ぬかと思った。

任務中に死ぬ可能性はもちろんあるし、ある程度の覚悟はしているけれど、遊んでた海で溺死というのはちょっと、いやかなり格好がつかないし各方面に申し訳ない。

意識が途切れる直前に夏油を見たような気がしたということは、幻覚でなければ夏油が助けに来てくれたということだろう。

そして私が目覚めるのを待っていてくれたに違いない。

義理堅く優しい男だ、夏油というやつは。本当に頭が上がらない。

 

でもですよ。

 

「あの、夏油?」

「…………。」

 

無言です。

じっと私を見つめた――いや、睨みつけている?――まま夏油は無言で、瞬きすらもしていない。

怖い。

怒鳴られるより、詰られるより、これは怖かった。

さすがに今は夏油の顔かっこいい~とか考えてる場合でないことくらいはわかる。

だけど沈黙があまりに痛すぎて、とにかく何か云わなければ、と思い私は慌てて口を開く。

 

「ええと、迷惑かけてごめんなさ」

「馬鹿」

 

遮られた言葉を飲み込んだ瞬間、私は夏油に抱き締められた。

ひぇ。

突然の出来事に声も上げることは出来ず、私は黙って夏油に抱き締められたまま固まるしかない。

何これ、何この状況、誰か説明してください。

 

起き抜けの頭と危うく死にかけた精神状態ではうまく頭が回らず混乱していると、扉の開く音がした。

辛うじて首だけ動かして音の方を確認すると、そこには硝子と五条がいた。

 

「目が覚めたんだね。よかった……」

「お前、変な呪霊に目ぇつけられすぎじゃね? 間一髪のところだったんだから、傑と硝子に感謝しろよ」

「硝子、五条……」

 

聞けば、ここは午前中私たちが仕事をした建物の中だそうだ。

あちらのビーチでは騒ぎになってしまうから、夏油が呪霊を使ってこちらに私を運んで硝子が処置をしてくれたらしい。五条は念のため帳を下ろしてくれたとか。普段の任務ではめんどくさがって帳なんて下ろさないくせに、ありがたいやらいつもそうしれくれと云いたいやら。

 

というか、その、この状況についてふたりからツッコミはないんでしょうか。

夏油を引っぺがしてもらえないでしょうか。

視線でそう訴えてみたところ、二人は顔を見合わせてから揃って肩を竦めた。

え、どういうことなの。

 

「私、しばらく外にいるから、ソレ、自分でなんとかしなよ」

 

新しい煙草に火をつけて出て行った硝子のいうソレとは、多分夏油のこと。

 

「俺、腹減ったから焼きそば買ってこよー」

 

お前らの分も買ってきてやるよ、と手を振って出て行ったのは、五条。

 

え。

 

まじで?

 

私が止める間もなく二人はさっさと建物から姿を消した。

残されたのは呆然としたままの私と、相変わらず私を抱き締めたまま動かず声も発しない夏油だけ。

 

「……げ、夏油?」

「…………。」

 

やっぱり返事はない。

いくら露出は少ないとはいえお互いに水着姿だ。

例え相手が夏油でなくても、年頃の女の子としてはドキドキせざるを得ない。

だがしかし、ドキドキしている場合ではないのだ。

だって夏油は明らかに様子がおかしいし、硝子も五条も普通ならこんな状況に触れずにいなくなるなんてことはしないはず。特に五条がからかったり冷やかしたりしないのは絶対におかしい。

つまり、五条が何も云えないほどに事態は深刻ということで。

 

どうしよう。

名前を呼んでも反応がないなんて、知り合ってからは初めてだ。

まぁ一年の頃の黒歴史ツンツン期のことは置いといて、少なくとも二年に上がって普通の友人付き合いをするようになってからいつも笑顔で振り返って、どうしたの、なぁに、と私の話に耳を傾けてくれるのが夏油だった。

その夏油が、何度呼んでも、うんともすんとも云ってくれない。

 

――嫌だ。

 

これはとても、嫌だ。

私は夏油の顔が世界一好きで、推しだと断言できる。

絶対に幸せになってほしいし、そのためなら何でもすると決めている。

あの時私が死なずに生き残ったのは、夏油のためなのだ。

 

でも、そういう前世の記憶だとか生き残った理由だとか面倒なことはこの際置いといても、私は夏油を友人として大好きなのだ。

云うまでもなく格好いいし、優しいし、話していて楽しいし、強いし、何より夏油の隣はとても心地いい。

硝子のことも五条のことも大好きだけれど、二人ともまた違った心地よさが夏油にはあって、それが私はくすぐったいと思いつつも手放せずにいた。

たまに意地悪だったりクズの片鱗が見えることがあっても、そんなことは些末なことだと思うくらいには私は夏油が好きだ。

友人として失いたくないと思っている。

 

そんな夏油が、全然、返事をしてくれない。

どうしよう。

やっぱり泳げないくせに海ではしゃいだから呆れられた?

それともことあるごとに呪霊の被害に遭いすぎてついに愛想尽かされた?

いやでも、だったら私を抱き締めることはしないだろう。

多分だけど、夏油は本気で呆れたり愛想を尽かしたりしたら、私の存在を丸ごと無視してないものとして扱いそうだ。

あ、やばい、想像しただけでちょっと泣きそう。

 

じわり、と目に水分を感じてギュッと目を瞑った時だった。

 

「無事でよかった」

「!」

「間に合って……よかった」

 

心底安心したような、普段の夏油からは信じられないほどか細い声の呟き。

ここでやっと私は、夏油が心から私を心配してくれた居たのだと気付く。

そうだ、夏油はそういうやつだった。

いつだって自分のことよりも周囲の人に気を配ってくれる、優しい男だったじゃないか。

それなのに呆れられたかもだとか愛想を尽かされただのと考えていた私は大馬鹿者だ。

 

改めて自分の馬鹿さ加減を恨みたいのは山々だけれど、今は自分のことよりも夏油だ。

浮かんだ涙はどうにか引っ込めて、一度大きく息を吸ってから、私は意を決して夏油の背中に手を触れた。

そうして、子供をあやすようにポンポンと撫でる。

 

「ごめん、夏油。心配かけた」

「本当に心配した。心配しすぎてハゲるかと思った」

「夏油ならハゲても格好いいよ」

「そういう問題じゃないだろう」

 

はぁ、と吐いた夏油の息が首元にかかってくすぐったい。

だけど今は、恥ずかしいだとか申し訳ないよりも、云わなければならないことがあった。

 

「ありがとう、夏油」

 

来てくれた。

助けてくれた。

こんなにも私を心配してくれている。

仲間想いの優しい人。

私は、夏油に心から感謝しなければならない。

 

宥めるように背中をさすると、夏油は一度ぎゅうと抱き締める力を強めてから、ゆっくりと身体を離してくれた。

少し離れたところで夏油の顔を確認すると、涙を流してはいなかったけれど、泣く寸前のような顔をしている。思わず夏油の顔に手を伸ばすと、猫のように頬を摺り寄せてきた。

 

「酷い顔」

「君のせいだぞ」

「あは、ごめんね」

 

その通りすぎて謝るしか出来ません。

素直に謝罪の言葉を口にすると、夏油は漸く困ったように笑ってくれた。

 

ああ、そう。

やっぱり夏油は笑ってくれる方がいい。

だから私も、精一杯の笑顔を浮かべた。

 

それからしばらくして、焼きそばやらかき氷やらいか焼きやらを器用にたくさん持って五条が戻って来て、硝子も合流してみんなで食べてから高専に戻った。

食べながら五条にもいろいろ云われたけど、こっそりと夏油が『悟もすごく心配して慌ててたんだよ。ビーチが人目に付くからこっちに移動しようって云い出したのも悟だし』と教えてくれたので、どんな悪態もなんだか可愛く見えてしまってへらへら笑ってしまった。案の定怒られた。

報告書は夏油が変わってくれるというのに甘えることにして、硝子にも今日は何もしないでゆっくり休むようにと云われたので、まだ寝るには早い時間だったけれど大人しく部屋でベッドに横になった。

 

あのクソ呪霊のおかげで楽しいだけの海にはならなかったけれど、あれさえなければ本当に楽しかった。

来年はどうなるかわからないので今は何とも云えなくても、もしタイミングさえ合えばまたみんなで遊びに行きたい。今度は灰原くんやナナミンを誘うのもいいだろう。灰原くんは海好きそうだし、ナナミンも何だかんだ付き合ってくれそうだし。

次はちゃんと自分で対処出来ないのがわかっているから対策を取れば、今回みたいなことにはならないだろう。

どうやら私は、妙に呪霊に襲われやすい体質らしい。全然嬉しくない。

今後はもうちょっと身の回りに注意して生活しよう。自分一人ならともかく、またみんなを巻き込むと嫌だし。

さて、明日は午前中は座学の予定でいつもよりのんびりできるし、いっちょ気合いを入れ直して生活せねば。

 

慣れない海で予想外の事態になったからか、着替えてベッドに倒れ込むとすぐに睡魔に襲われた。

うとうとしながら私は無意識に自分の唇に触れていた。

いや、他意はない。

眠かったし、疲れてたし、ぼんやりしてたし。

 

――ああ、だから!

 

海の中で意識を失う直前の、あの、唇に押し当てられた熱のことは、うん、不可抗力と人命救助ということで忘れてしまいましょう!

 

 

 

 

 




主人公

カナヅチ。温泉は好きだけど海もプールも嫌いだったが、海楽しいじゃん、となった。危うく死にかけたけど、死にかけるのは初めてじゃないので別に海はトラウマにはなっていない。みんなでまた海で遊びたい
海の中でのことは未来少年コナンのコナンとラナ的なあれなのでカウントしないです


夏油傑

遠泳なんかやってる場合じゃなかった
間に合ったけど、真っ青な顔で冷たい身体の主人公を見て、自分を庇って大怪我したときのことを思い出して死ぬかと思った。海の呪霊は跡形もなく消した
海の中でのことは純粋に酸素を渡さないと危ないと思ったからで他意はないです。でも一生あの感触は忘れません出来れば陸でしたかったですなんでもないです


五条悟(まともな姿)

今回一番冷静だったのはこの人。ビーチでは騒ぎになると判断し、一足先に元海の家の方で主人公を介抱する準備をしたししっかり帳も下ろした。やれば出来る子である
傍にいたのに、と落ち込む硝子を宥めて治療させ、遠泳なんてしなきゃよかったと落ち込む夏油を慰めた。このときばかりは常識人で頼れる特級術師


家入硝子

目の前で主人公が海に引きずり込まれて軽いトラウマになりかけたけど、主人公があんまり気にしていなさそうで少しだけホッとしている。いや死にそうになることに慣れるなよって云いたいけど、今回何もできなかったので何も云えない。でも主人公を治療したのはもちろん家入


スベスベマンジュウガニ

口にしたくなるスベスベマンジュウガニ。でも有毒ガニなので食べられない
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