前世の記憶を使って夏油傑を絶対に幸せにしようと思います!   作:秋元琶耶

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幕間の話

私には前世の記憶がある。

それを思い出したのは高校一年生のあの夏の日の夜、夏油と出会ったときだった。

一瞬にして頭の中に前世であったことが甦り、自分の状況を理解した。

 

前の人生の自分は成人式の日に死んだこと。

ここが前世で好きだった漫画の世界であること。

私を助けてくれたのは夏油傑であること。

それから、少なくとも2018年のハロウィンまでの出来事は断片的にわかっていること。

 

さすがに漫画の世界云々のことは云えなかったけれど、私は五条にすべてを打ち明けることにした。

本当はもっとタイミングを見計らって、話せることと話せないことを精査して話すつもりだったのだけれど、もう五条には嘘も隠し事も通用しないだろう。

だって、私たちは術式を通して繋がってしまった。

単なる呪力の共有ではなく、未来視と六眼という『視る』ことに特化した術式は、魂の根っこの部分まで五条に晒すことになった。

 

「…………。」

「嘘だと思う?」

 

問えば、五条はゆっくりと息を吐き出しながら首を横に振った。

否定。

つまり、私の話を信じてくれるということだろう。

あまりに荒唐無稽な話なのに、五条は適応能力が高い。

 

「むしろ合点がいった。お前の魂がダブって見えたのは、前世の記憶があるせいだったのか」

「うん、多分そう」

「はー、なんかすげーな、お前」

 

心底感心したように云われても照れられない。

どうだ、すごいでしょう、と胸を張れたらきっと楽だったのに、私はそこまで楽観的ではいられなかった。そんな性分だと自分でも思う。

とにかく、これで私と五条は晴れて共犯関係と相成った。

とてもじゃないけどこれは軽々しく誰かに話していいことではないと五条も判断したのだ。例えそれが夏油や硝子でも。

むしろ、夏油には尚更話すべきではないということで意見は一致した。

 

きっと夏油は私の話を真剣に聞いて受け止めてくれるだろう。彼はそういう人だ。

でも、だからこそ話せない。

話せば夏油は私に負い目を感じることになるに違いないのだ。

私がやることなすことすべて夏油のためで、ただでさえ夏油は過保護なのに、話せば今以上に過激に過保護になってしまう。

それは駄目だ。

夏油が自由ではなくなってしまう。

私はあくまで夏油が自由のまま幸せになってほしい。

私のことなど気にせず、ただ笑っていてほしいのだ。

だから、話さない。

 

「なぁ、ひとつ訊いていいか」

 

改めたような云い方に、思わず背筋を伸ばした。

視線で先を促すと、五条は真剣な顔で続けた。

 

「お前、本当に傑のこと好きじゃないわけ?」

「好きだよ」

 

反射だった。

打てば響く鐘のように即座に飛び出した答えに、五条は驚いた反応をしていたし、私自身も驚いた。思ったより大きな声が出てしまったし、強い口調になってしまったから。

でも驚いてる場合じゃない。

徐々に訝しむように眉間に皺を寄せ始めた五条に、私は繰り返す。

 

「好きだよ。当たり前のこと云わないで。好きだから幸せになってもらいたいんじゃん」

 

これは紛れもない本心だ。

私は夏油が好きだ。

顔がタイプだから好きで、あんな終わり方が悲しすぎたから、もしも私の我が儘で夏油を生かすことが出来るならそうしたいと願ったのが始まりだった。

でも今はもう一人の友人として夏油には幸せになってもらいたい。

2017年のクリスマスも2018年のハロウィンも、何事もなく笑っていてほしい。

心からそう願っている。

 

「じゃあ、なんで先輩と付き合ってんだよ」

 

云われると思った。

だから予め用意しておいた答えを口にすることに戸惑いはなかった。

 

「夏油への好きと先輩への好きは違うから。私は先輩とずっと一緒にいたいし、大切にしたいの」

「傑とはずっと一緒にいたくなくて大切にしたくないってことかよ」

「そうじゃない。違うよ」

「何が、どう?」

「五条……」

 

まるで詰問のような五条の口調に、私は小さく息を吐く。

五条は私の友人ではあるけれど、それ以上に夏油の親友だ。

親友を軽んじるようなことを云われた気がして怒っているのだろう。クズでも最低野郎でも、五条は友人想いの優しい人だ。

でも、誤解しないでほしい。

何度も云うが、私が夏油が好きなのだ。

いくら先輩とは違う種類の『好き』とは云え、決して夏油を軽んじているわけではない。

 

「わかるでしょう? そういう好きじゃないんだってば」

「じゃあどういう好きなんだよ」

「五条や硝子に対する好きと同じだよ。友人として好きなの」

「お前それ、本気で云ってんのか?」

「当たり前でしょう?」

 

五条こそ何が云いたいのだろう。

男女間の友情は成立しないとでも云いたいのだろうか。そんなこと云ったら、私と五条だって成立しなくなってしまう。

たまに五条は、こうやってものすごく遠回しに物を云うから困る。

私もそんなに馬鹿じゃないつもりなので大体の話は理解できるけれど、今回のは難しい。

だってそんな変なこと云ってないよね、私。

当たり前のことを当たり前だと云っただけなのに、どうして五条はこんな厳しい顔をしているのだろうか。

 

「だったら、ちゃんと傑に諦めさせてやれよ」

 

息が詰まった。

何の話をしているのかわからなくて五条を見つめれば、五条もまっすぐに私を見ていた。

サングラス越しの瞳に見つめられて、ドキリとする。

否、この場合、ヒヤリとする、と表現した方が正しい。

 

「俺は何も云われてない。でも、わかる」

 

どうしてか、今すぐ耳を塞いで走り出して逃げたい気分だった。

だって。

 

「傑がお前を好きなのは、わかってる」

 

――耳鳴りがした。

 

キィンと金属音のような不快な音がして、目の前がチカチカと点滅した。

何か云わなければ、と思って大きく息を吸ったけれど、思考が停止した頭ではうまく言葉を吐きだせない。

ただ深呼吸をしただけの形になり、図らずもそれは私を少しだけ落ち着ける形にした。

口元に手をやっていたのは無意識で、震える声を押し出すとジワリと涙が浮かんだ。ギュッと固く目を閉じて涙を抑え込み、云う。

 

「……それは、私にどうにかできる問題じゃないでしょ」

「やっぱり自覚あったんだな」

「…………。」

「怒るなよ。俺も怒らない」

「何で五条が」

「わかるだろ」

 

これはついさっきのやりとりと同じだ。

顔を上げると、意地悪そうに笑った五条と目が合った。

多分、さっきの仕返しのつもりなのだろう。

それにしては底意地の悪いやり方に、思わず私は声を上げた。

 

「あのねぇ!」

「ふざけてねーよ。傑もお前も、硝子だって俺にとっては大事な仲間だし」

 

笑いながら立ち上がった五条が私を見下ろした。

ぽんと軽く頭を撫でられて、五条がこんなことをするのは珍しいから目を見張って。

 

でも、五条の目が、とても――悲しそうだったから。

 

私はまた、言葉を失った。

 

「だから頼むよ。お互い傷付けあうようなこと、すんなよ」

 

それだけ云って、五条はどこかへ行った。

きっと部屋に戻るのだろう。

あまり長く二人揃って不在だと怪しまれるし、時間をずらして戻るのは正しい判断だ。

だからもう少し、私はここで時間を潰して、それから帰ろう。

 

「…………。」

 

ゆっくりと息を吐き、両手で顔を覆う。

俯いて、仮に誰かがここにきても絶対に顔が見えないようにして、私は泣いた。

 

今の私に泣く資格がないのはわかっていたけれど、泣かずにはいられなかった。

五条は全部知っている。

知っていて今まで黙っていてくれた。もしかしたら、硝子もそうなのかもしれない。

その気遣いの温かさが優しくて嬉しくて、だけど身を切られるように痛かった。

 

だくだくと、決壊したダムのように零れる落ちる涙と裏腹に、頭は信じられないぐらい透き通っていた。

 

私は馬鹿だ。

 

守りたいもののために生きると決めたのに、そのほかを傷付けることへの覚悟が足りなかった。

 

――ああ、どうして、私は。

 

 

 

 




主人公

めでたく五条と共犯関係に。術式の共有のためには仕方ないとはいえ、思わぬところを刺されて心が死にそうになっている
術式の負担のすり合わせは出来ているので、五条さえいれば未来視はほぼ使いこなせるようになった。対象、タイミング、どれだけ長時間視られるかは主人公次第なので、いろいろ鍛えなければならない
そっちに必死すぎて他のことに頭が回っていない


五条悟

めでたく主人公と共犯関係に。術式を共有した際に魂のブレと今まであった妙な違和感の正体に気付き、この度すべての問題が解決した
主人公は、五条の親友は夏油だけだと思っているが、実際は主人公も硝子も同じくらい大切に思っている。なのでその二人がお互い傷付けあっているこの状況が苦しくてたまらない。でも正直どうするのが正解なのかわからない
主人公が術式を使えるようになればなるほど嫌な予感しかしていないけど、主人公の意志も尊重したいので割と複雑な気分。いざというときのために動けるようにはしている
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