前世の記憶を使って夏油傑を絶対に幸せにしようと思います! 作:秋元琶耶
家入『当事者意識なさすぎて笑える』
云うまでもなく、私は三流術師である。自虐でも卑下でもない、これは紛れもない事実。わざわざ誰かに指摘されるまでもないことだ。
ちょっとカッコいい云い方をすれば私の術式は『未来視』になるけれど、視たい未来を視たい時に視られるわけではなく、役に立つことが稀にあってもそれはたまたまタイミングがよかっただけのこと。決して私が優秀だからとかそういうことでは断じてない。
だから、これは私を知っている人たちなら当然抱く疑問だった。
『何故、禪院家が私に目を付けたのか。』
禪院家に召喚状を送りつけられ、何の因果か五条と婚約し、禪院直哉との婚約をお断りしたのが一週間前のこと。
この一週間は急遽二日も仕事を休んでしまった後れを取り返すために必死に働き、漸くみんな集まる時間が取れたのが今日の夜になってからだった。
最近暑いのでさっぱりと食べやすい簡単に冷やし中華を作り、念のため夏油の呪霊に周囲を警戒してもらいながら、私たちはやっとこのことについて話し合うことになった。
「考えられるとしたら、この間のことだよね」
「悟の呪力で強力になった術式のこと?」
「そう」
寮の共有スペースで冷やし中華をすすりながら、あの時のことを思い出す。
消しカスを投げ続けてきた五条にアイアンクローを仕掛けたときに視えた、未来。
私の術式はいつも突発的に展開され、ほとんどが自分の目の前で数秒後に起きることがわかる程度だったのに、あの時は違っていた。
知らない場所、知らない呪詛師、その場にいたのは夜蛾先生。まるで映画ワンシーンのように爆発した廃墟ビルの中に夜蛾先生が消えていったのは最悪の悪夢だった。
しかも、それを視たのは私だけではなく、五条もだったというから驚きだ。術式の共有なんて、聞いたこともない。
もしもこの術式が完全にコントロールできるようになれば、それはもう『未来視』なんてものではない。
やりようによっては何でも出来るようになる万能のような力。
問題は、その使い手が私だってところだ。
シャクシャクと軽快な音を立てて細切りのきゅうりを飲み込んだ硝子が、難しい顔になる。
「でもあれ、口外してないはずじゃん?」
「基本的にはそう。私たちと夜蛾先生しか知らないはず」
「じゃあ、誰かがっていうか夜蛾先生が禪院家……というか、高専の外に情報を漏らしてるってこと?」
自分でもそう取れる云い方をしてしまったと思う。
でも、そうじゃない。違うのだ。
結局夜蛾先生は、この件を上に報告しなかった。
五条と私が夜蛾先生の代わりに任務に飛び出したのは、授業中に遊んでいた罰則だということになっている。もともと夜蛾先生についていくはずだった補助監督に不審がられたけど、まぁ納得してもらえたと思う。日頃の行いって大事だ。何がって、罰則で任務に行かされることに納得されるような行いですよ。お前のことだよ五条。
「あるいは、術式か式神か、もっと物理的に盗聴器とかが高専内部に仕掛けられてるか」
私の云いたいことを代弁してくれた夏油に頷く。パーフェクトな回答だったので、味玉あげちゃう。我が家では冷やし中華の卵は薄焼き卵じゃなくて味玉だったのです。
私たちの中にそういう人がいるとは思えない以上、有力なのは術式を使った情報収集をされている線だ。
呪術師というのは良くも悪くも旧時代的な人が多く、機械類には滅法弱いのが欠点の一つ。電話やテレビ、車のような現代ではないと困るような一般的な機械類ならばともかく、盗聴器みたいな特殊な機械にわざわざ手を出すだろうか。
おそらく、だったら式神だとか術式だとかを駆使したほうが早いと考えると思う。
少なめだったこともあり最初に食べ終わった硝子が、お皿を下げて代わりにスイカを持ってきた。今年のスイカは甘くておいしい。
サイコロ状にしたそれを一切れ口に放り込んで飲み込んでから、それでも不可解だというように眉間に皺を寄せた。
「だったら、あれが五条の呪力じゃないと意味ないってことも知ってるんじゃない? 私らの呪力じゃ駄目だったんだし、強力な呪力ならなんでもいいわけじゃないって結論出したじゃん」
それはもっともだ。
量は硝子よりももっと少なかったくせに食べるのが遅いおかげで今やっと自分の冷やし中華を食べ終えた私も、流しにお皿を持っていく。冷蔵庫から麦茶を取り出してもう一度席に着き、みんなのグラスに注ぎながら私の意見を云った。
「でも『御三家は別だ』って考えてるのかも」
「え?」
「硝子も夏油も夜蛾先生も駄目で、五条ならいい。それなら他の御三家にも可能性はある、って考えてたとしたら?」
特別なのは『五条』ではなく『御三家』だという考えだ。
確かに御三家が一般的には呪術界トップクラスの術師の家系であることは否定しないけれど、その特別さについての考え方は悪いけど私は理解できない。
『五条』が特別なら自分たちもって、なんかもう意味わからな過ぎて笑えてくる。理屈の通らない子供の我が儘みたいだ。
でも実際、そう考えたからこその婚約騒動だったのではないかと私は思うのだ。
その証拠に、当の御三家である五条もものすごく嫌そうな顔で頷いた。
「ありえる」
「本当に?」
懐疑的な夏油の問いに答えたのは五条だ。
「御三家って、お前らが思ってる以上にイカレてるからな。大抵のことは自分の思い通りになるのが当たり前って思ってるだろうし、今回のこともそうかもしんねーって思った」
大盛りの冷やし中華を食べ終え、スイカに手を伸ばした五条は特大のため息を吐き出した。
うん、そう考えると、五条ってまともなのかもしれない。他の御三家がイカレすぎてるから、多少性格がねじ曲がっている程度、可愛いものじゃないか。
「自分たちの呪力でこいつの術式が強化されればそれでよし、ついでに子供作って子供が術式を受け継げば尚オッケー。どうにかして『未来視』の術式をものしようって魂胆だろうな」
「術式持った子供生まれるまで子供作らされそう」
「だろうな。エッグいぜ」
胸糞悪い発想がすぐに出てきてしまう自分も嫌になる。こんな展開、前世で読んでた漫画でもなかなかないよ。
もし何も考えないで召喚に応じてたらとんでもないことになってたよなーと思いながらスイカに手を伸ばすと、最後の一切れを横から掻っ攫われた。五条かと思いきや、その犯人は夏油。たった今特盛冷やし中華を平らげたらしい。
私まだ一切れも食べてないのに、と思って夏油を睨むと、逆に厳しい顔で睨まれた。いやそれ私がすべき顔。どんだけスイカ食べたいの。
「……他人事みたいに云ってるけど、君の話だよ?」
「うん、ほんとやんなっちゃう」
スイカを諦め両手を上げて降参のポーズを取ると、夏油は更に厳しい顔になった。
真面目に、と咎められるけど、私は至って真面目だ。
「ひとりだったら発狂してたかもしんないけどさ、ほら、みんないてくれるし」
先輩もいるし、と続ける。
途端、情けない顔になってしまった夏油に、私は場の空気が重くならないようなトーンで云う。
「まぁ、本当は私が自分の力で解決出来たら誰にも迷惑かけずに済んだんだろうけど」
「べっつに、迷惑だと思ってたら婚約するなんて提案しねーし」
「わかってるって」
唇を尖らせる五条に、思わず苦笑が零れる。
大丈夫、わかってる。五条はそういう人だ。
きっと赤の他人が私と同じ目に遭ったとしても興味などないけれど、ありがたくも友人というカテゴリにいる私のためならば尽くせる手は尽くしてくれる、五条という男はそういう人。
今回の件は五条がいなければ泣き寝入りするしかなかったので本当に感謝している。
けれど同時に、申し訳ない気持ちでいっぱいになるのだ。
だって。
「でもおかげで五条はしばらくは本当に好きな人が出来ても隠さないといけないんだよね。それは本当に申し訳ない」
そう、私という嘘でも本物の婚約者を作ってしまったがために、五条は表向き彼女を作ることができなくなってしまった。
これまでだって別に派手な遊び方ではなかったかもしれないけれど、今は少なくとも私を大事にしているように見せかけないといけない時期だ。
婚約者を蔑ろにしているならば別に手を出しても構うまい、とどこかからちょっかいを掛けられたら、この婚約の意味がなくなってしまう。
だからしばらくはいろんな意味で五条には我慢を強いることになる。
貴重な青春時代を棒に振らせてしまうのは、いくら謝っても謝り足りない。
しかし、当の五条はつまらなさそうに頭の後ろで手を組んで、複雑そうな顔で呟いた。
「好きな人ねぇ」
「五条が誰かに夢中になってるところとか、全然想像できないな」
「俺も」
「自分でもかい」
「だってよ、俺の周りで恋愛結婚なんかみたことねーもん」
現代日本でマジかよ、と云いたいところだけれど、御三家ならあり得る、と思えるあたりやっぱり呪術界は旧時代的だ。一番まともそうな五条家ですらこれなのだから、他の家はもっとだろう。
それによって守られてきたもの確かにあるのかもしれないけど、犠牲になったものも多そうだから、一概に良い悪いとは云いにくい。
でも、私は思う。
「出来るよ、五条なら」
だって五条はこんなに優しい。
家柄や立場のことを乗り越えても五条を好きになってくれる人は、絶対にいつか現れる。
願わくばその人が、少しでも五条の心を癒してくれることを、私は誰よりも願っている。
「だからさ、好きな人が出来たらちゃんと教えてね。その人にも事情説明してさ、うまいこと付き合えるようにしようよ」
「……ま、出来たらな」
「うん」
私たちは多分お互いにお互いのことが好きで大切だけれど、それは恋ではない。
愛ではあっても、友愛だ。
だから、伴侶にはなれない。
それを私が望むのは先輩で、五条はまだ見ぬ誰かだろう。
私たちは友人で、云うなれば共犯者。
それでも、私は願う。
私を助けてくれた五条の傍に立ってくれる誰かを、願わずにはいられない。
「とりあえず今は私で我慢してもらって。お詫びとしていつでもお菓子作ってあげるから、何かあったらリクエストするよーに」
「やった! 俺アップルパイ食いたい!」
「任せなさい。丁度美味しそうなリンゴ買ったところだったの」
「私、甘さ控えめがいいなぁ」
「大丈夫、どうせ五条はワンホール食べるんだから、五条用とみんな用にちゃんと分けて作るよ」
「さっすが。愛してる」
「私も愛してる、硝子」
「浮気だ浮気。どうする悟?」
「もうまぢ無理。リスカしよ」
「まさかのメンヘラ」
すべての問題が解決したわけではないけれど、大丈夫。
私は、決して一人ではないのだから。
主人公
五条の婚約者(仮)
自分のせいで五条が自由に恋愛できなくなってしまったことをちょっとだけ気に病んでいる。いつか自分にとっての先輩のような人が現れてほしい。その時は全力で応援する
五条と婚約解消しても他の呪術師に狙われない手を考えなければならないので気が重い。なんでこんな面倒な術式になってしまったんだ……
五条悟
主人公の婚約者(仮)
好きな人とかできる気がしていないので、主人公が気にする必要ないのにな~むしろ厄介な立場にして悪目立ちさせて悪いことしたな~という割と軽い気持ち。先輩の理解力と包容力と精神力のヤバさにちょっと震えてる
でも遠慮なくお菓子作ってもらえるようになったのでラッキー☆
夏油傑
運命のいたずらで主人公と親友が婚約したなら、ワンチャンネコチャン今後自分にもそんなチャンスがあるのでは??????? と思ってもそれを口にしないだけの分別はある
家入硝子
同期の関係が死ぬほどややこしくなってて虚無。でも最終的には絶対主人公の味方になると決めている。男どもは自分の機嫌は自分で取りな
男前選手権世界一の女