前世の記憶を使って夏油傑を絶対に幸せにしようと思います!   作:秋元琶耶

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君の話。


好きな人の話

好きな人がいる。

優しい人だ。

笑顔が素敵で、話しているとこっちまで笑顔になってしまうような人。

多分一目惚れだったのだと思う。

気付いたらもう好きで、気付いたら話しかけに行っていて、気付いたら告白していた。

地元の駅前にある時計の下で気持ちを伝えたとき、あの子は真っ赤になって嬉しそうに僕の手を取ってくれた。

 

好きだな、と思った。

ずっと一緒にいたいと思った。

学生の恋なんて長続きしないと思われても、この子と一生一緒にいたいと思った。

 

映画みたいなトラブルも、漫画みたいなハプニングも起きることなく穏やかに過ごしていた日常が壊れたのは、ある夏の日のことだった。

いきなり彼女が転校したのだ。

前日に会っていたときはそんなことを云っていなかったのに、急遽決まってそのまま新しい学校に行ってしまったらしい。

そんな馬鹿な、と思っていたらその日の夜に電話があった。

事前に伝えられなくてごめんなさい、次の休みに一度帰るから会いましょう、と。

最悪このまま自然消滅、なんて嫌なことを考えていたので、これには安心して即承諾した。

彼女も突然のことで混乱しているようだから落ち着くようしっかり話を聞いて、自分の混乱や不安感は絶対に悟られないよう細心の注意を払った。

その日は隙間の時間を狙って連絡してくれたらしく、少し話したら用事があるとかで彼女との電話は終わってしまった。

 

宣言通り、次の休みに駅前で待ち合わせると、時間通りに姿を現した彼女は僕の顔を見るなり泣き出してしまった。

慌ててハンカチを差し出して、公園通りのベンチに腰を下ろす。この時間、ここならばあまり人が通らないことを知っていたのだ。

可愛い顔を涙でぼろぼろにしながら彼女は一生懸命話してくれた。

寮に入ったので都内にはいるけれど研修やら何やらで忙しくなり、定期的に会うことは難しいこと。

研修内容如何では、しばらくまともな連絡も出来なくなること。

メールにすぐ返信も難しいし、電話も場合によっては繋がらないこともあること。

涙を拭きながら彼女は本当に申し訳なさそうに云って、ちらりと僕の様子を伺った。

多分、振られるかも、とか思っているのだろう。

確かに僕たちは付き合い始めたばかりで、本当だったら毎日学校で会えて、部活も一緒で、いつだって一緒にいられるはずだった。

それが急にこんなことになってしまったのだから、彼女がそう考えるのも無理はない。

 

でも、舐めないでほしい。

僕は彼女のことが世界で一番好きなのだ。

ちょっとくらい会えないからって、じゃあもういい、なんてなるはずがない。

むしろ、これから一生付き合っていくことを考えたら、多少離れている期間があってもありかな、くらいに思っている。

つまり、僕が彼女を振ることはあり得ない。

心変わりも絶対にしないと約束できる。なんだったら誓約書でもなんでも書いてもいい。

でもそんなことを云っても彼女を困らせるだけだから、待てるよ、いくらでも待つから、自分たちなりのいい付き合い方を探していこう、と云えば、彼女は本当に本当に嬉しそうに頷いてくれた。

あんまりにも可愛かったのでキスしてしまったら、もっと赤くなって挙動不審になっていたのが可愛くて面白かった。

ああ、僕の彼女は本当に可愛い。

 

気を取り直してカフェでランチを食べながら、僕たちは今後のことを話し合った。

自分の気は長い方だと自負しているので、彼女の負担にならない程度に連絡が取り合えればいいと思う。あたかじめ連絡が取れなくなる可能性がわかっていればある程度は我慢できるし、連絡を負担に思われても困るから。

まぁまさか、年明けからまるっと三か月も音信不通になるとは思わなかったけど。

それでも僕たちはうまく付き合えていたと思う。

会えなくて連絡も出来ない日は寂しかったけれど、その分話せるときにたくさん話して、言葉ではない心の奥で繋がることも出来ていた。

僕が彼女を好きなように、彼女も僕を好きでいてくれた。

 

春に出会った日、君は笑っていた。

夏に過ごした日、君は笑っていた。

秋も冬も、君はずっと笑ってくれていた。

 

彼女が転校してからいろんなことがあったし、いろんな出会いもあった。

夏油くんたちとの出会いも、僕にとっては大切なものだ。

彼が彼女に好意を抱いていることにはすぐに気付いた。

だけど不思議と不快感はなくて、むしろ彼女を好きになるなんて見る目がある、と誰にともなく誇らしい気持ちになった。

彼は気持ちのいい子で、少しだけ捻じ曲がった性格をしている様子だったけれど、面白くて優しい子だ。

僕はすぐに彼のことも好きになった。多分、彼も僕を好きになってくれたと思う。彼女が可愛いヤキモチを焼いてくれる程度には。

彼女が夏油くんの顔が世界一好きだと知ったときはちょっとだけ面白くない気分になったけれど、よくよく見てみると納得出来た。夏油くんは格好いい。もちろん五条くんも格好良かった。

でも、いいのだ。

それでも彼女は僕の彼女で、僕のことを一番好きだと云ってくれている。

それがすべてなのだ。

 

いろいろあって彼女が五条くんと婚約することになったことも、驚きはしたけれど受け入れられた。

僕にはわからない世界で、大変なことに巻き込まれてしまった彼女が助かる方法がそれしかないというのなら、平気だった。

まぁそりゃあ、嘘でも彼女が僕以外の誰かのものになってしまうのは苦しいけれど、二人とも本当に結婚する気はないのだし、最終的には僕と彼女が結ばれる未来のために動くと約束してくれた。

僕も苦しいけれど、彼女も苦しい。それに、夏油くんも。

僕を迎えに来てくれた夏油くんは冷静に見えた。

しっかり順序立てて話をしてくれて、自分たちもなんとかするから大丈夫だと僕を安心させようとしてくれて。

きっと彼も、彼女が自分以外の誰かと結ばれるのは辛いはずなのに。

ねぇ夏油くん。僕たち、一緒だね。

高専からの帰り、そう云った僕に、夏油くんは泣き笑いのような顔をした。

それは初夏、蝉の声が耳に残る夕暮れのことだった。

 

好きだ。

君が好きだ。

出会えてよかった。

君に出会えたことが僕の人生の最大幸福だった。

 

好きだよ、ねぇ。

笑っていてほしい。

幸せでいてほしい。

そのためならば僕はきっとなんでも出来て、なんにでもなれた。

 

ああ、だからどうか――泣かないで。

 

君の声が聞こえた。

大好きな君の声が、泣いていた。

 

「先輩」

 

僕を呼ぶ君。

現れた君の姿。

嬉しい。

だけど、悲しい。

 

だってこれでお別れだ。

 

「どうして」

 

目は閉じない。

最期の最後まで、君の姿をこの目に映していたいから。

 

――痛みは、なかった。

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