前世の記憶を使って夏油傑を絶対に幸せにしようと思います!   作:秋元琶耶

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さしすと夢主の高専生活の一部の話、五条編

特別な力は何にもないほぼ一般人だけど、目を見張るほど美人じゃないけど、聖人君子のような人でもないけれど、だからこそ特別な枠にいるさしすの心の拠り所になってるような子だったらいいなぁと思ってます

なんつって!!!!!!


五条と私

五条がプリンが食べたいというので、共有キッチンで作ることにした。幸い材料は揃っているし、難しいものでもないし、暇だったし。

夏油と硝子は今任務に出ていて、もう少ししたら帰ってくるはずだ。夕飯の時間には冷やし固まっているだろうから、みんなの分も作っておこう。ふたりはあんまり甘くないように、少し苦めのカラメルを用意しよう。

 

材料一式を用意して卵を割り入れたところで、ふと五条がこちらを眺めていることに気付いた。いつもだったら、出来たら呼んでとか云ってケータイを弄ったりゲームをしているくせに、何故だかこのときは黙ってこちらを見つめていたのだ。

ぱちりと目が合ったので首を傾げると、五条は不思議そうな顔で云った。

 

「なぁ、お菓子作りって楽しいわけ?」

 

お言葉である。

そもそもお前がプリンを食べたいって云ったから作ろうとしているのにその言い草はないんじゃないか?

 

「いや、違う違う、だってお前普段から結構お菓子作るじゃん? 手間かかるし、つまんなかったら普通そういうのってやらないじゃん」

 

少し考えて、納得する。

つまり、買えば済むものをわざわざ作るのは面倒ではないのか、ということか。

なるほど、真理ではある。

確かに別に経済的に困っているわけではないし手軽に買えるのであれば、そうしたほうがずっと楽だ。特に私たちは普段授業やら任務やらに追われていて時間に余裕があるわけではない。

なのに、コンビニに行けば買えるプリンを作ることに意味はあるのか、五条は純粋な疑問を抱いたのだろう。

 

少し考えて、私は笑って五条にこっちに来るように手招きした。

すると五条は、思ったより素直にこちらにやって来た。

なので、卵を割り入れたボウルと泡だて器を渡してみると、これまたすんなり受け取ってくれる。

 

「これ、混ぜんの?」

 

そうそう、なるべく泡立てないように、卵の黄身と白身を切るイメージね。

折角なのでプレーンとチョコ味を作ろうと思い、もうひとセットボウルと泡だて器を用意してお手本のようにやって見せると、五条は見よう見まねに手を動かした。

 

「泡だて器なのに泡立てちゃダメって矛盾してね?」

 

いいんです、そういう細かいことは気にしない。

あ、いいねいいね上手だね。五条手先器用だもんね。

そしたら砂糖を入れて、全体を擦り混ぜるよ。そうそう、うまいうまい。

 

「はー、当然だし! だって俺だぜ?」

 

うん、そうだね。

じゃあこっちであっためといた牛乳あるからちょっとずついれるよ。これも泡立てないようにゆっくりね、そうそう、全体的にちゃんと混ざってるね。

ここでがちゃがちゃやっちゃうとあんまり滑らかにならないから丁寧にね。五条、滑らかなやつのほうが好きでしょ?

で、先にカラメル作って用意してある器があるから、これに濾し器を通して入れるよ。うん、ゆっくりね。

そうそう、そうしたらアルミホイルで蓋して、あとはオーブンで蒸し焼きにするだけ。

 

「こんだけ?」

 

そう、こんだけ。簡単でしょ? 手伝ってくれてありがとね。

なんだか拍子抜けしたような五条から空になったボウルと泡だて器を受け取り、私のほうのチョコ味もささっと容器に入れて一緒にオーブンに入れた。あとは二~三十分待って様子を見て、冷蔵庫で冷やせば完成だ。

思ったよりもずっと簡単だったのか、五条はオーブンと私と、それから流しに置いてある道具を見てますます首を傾げた。

 

「やっぱさ、買ったほうが早くね? 混ぜて焼くだけでも、結局洗い物でるわけじゃん?」

 

わはは、やっぱりそうなっちゃうか。

さっきまではやったことがなかったから純粋に疑問で、今は実際自分でもやってみたからこそ抱いた疑問。

五条という男は、良くも悪くもとても素直だ。

 

手早く洗い物を済ませて、五条には甘いココア、自分用にコーヒーを用意して私たちは一旦ソファのほうに移動した。

手作りが悪いと云っているわけではないのだ、五条は。

ただ、本当にわからないのだと思う。

別に私はご高説を垂れられるほど偉くもないし、多少前世の記憶というアドバンテージがあるから精神的に大人ではあっても一般人の域は出ないのだから、御三家の跡取りとして厳しい教育を受けてきたであろう五条に説教を出来るような立場でもない。

でも、ちょっとだけ、ほんの小さな事なら教えることはできる。

多分これは、私みたいな一般人しか教えられないことだと思うから、勉強や呪術に関して頭を悩ませたことなんてないであろう五条に、少しだけ慎重に私は口を開いた。

 

私は、選択肢が増えるのは良いことだと思う。

ほんの小さなことかもしれないけれど、選べるというのは決して悪いことではないはずだ。

プリンひとつにしたって、コンビニやスーパーで手軽に買えるし、味も種類も豊富にある。それを買うのが悪いと云っているわけじゃない。私自身コンビニスイーツの新作を見るのは好きだ。何も、手作りにこだわっているとかそういうのじゃないのだ。

でも例えば、どうしてもプリンを食べたくなった時、もしも自分が作れるとしたら、プリンを食べるための選択肢に、買う以外にも作るという選択肢が増える。

実際に作るかどうかは置いておいて、そういうちょっとした選択肢は、少なくとも心に余裕を与えたりするものだと私は思う。

 

「……そういうもん?」

 

そうだよ。

今はプリンで例えたけどさ、他のことで考えても良いよね。

うーん、じゃあ五条のことで考えてみようか。

五条は【赫】と【蒼】が使えるでしょう。

でもついこの間まで、【茈】は使えなかった。

使わなかったんじゃなくて、使えなかった。

知識としては知っていたけど、実際には使えなかった。

それは知っているだけじゃなくて、使えるだけの能力を持っていても、使えるだけの経験が追い付いていなかったから。

『使わない』のと『使えない』のは、全然違うよね。

でも今の五条には、【茈】を使えるけど『使わない』って選択肢がひとつ増えた。

これって、結構大きな違いだよ。

 

「……プリンから話が飛躍しすぎ」

 

ふふ、そうだね、そうかも。

あんまり気にしないで、余計なお世話だったら忘れていいから。

まぁ、小難しいこと考えないで簡単に云うとさ、私は私が作ったものをみんなが美味しいって云ってくれるのが嬉しいから、お菓子も料理も好きだし楽しいよ。作ってる間は結構ストレス発散にもなるし。

そりゃあ急にフレンチのフルコースが食べたいなんて云われたら殺意湧くけど、それこそ外に食べに行けばいいのに私に作ってほしいって云ってくれるってだけでも私は嬉しいよ。可能な限りなら、私がここにいるうちは作ってあげたいなって思うな。

無理なときは断ってるし、迷惑とかそういうのは気にしないでいいんだからね。結局、私が好きでやってることなんだから。

でもお菓子はともかく料理は自分で出来るに越したことないし、覚えても損はないから気が向いたら云ってね、いつでも教えてあげる。

 

温かいココアを飲みながら、五条はそれでも私を馬鹿にするようなことは云わなかった。

きっと私が云ったことは、完全に理解は出来ないだろう。

所詮は他人だし、そもそも根本的に考え方が違う。差別するつもりはないけれど、なんだかんだ云っても五条はお坊ちゃんだ。たいていのものは労せず手に入れてきたであろう五条が、自分が生産側に回るような発想にはなかなか至れないのは当然だ。

だからこそ術式の話にしてみたんだけど、こじつけみたいに思われても仕方ない。

 

この話を五条が今後参考にするかは別として、ほんの少しでも覚えていておいてほしいと思う。

今はこうして同じ高専生として傍に居るからちょっとした手助けならしてあげられるけれど、今後はわからない。何せ私はほぼ一般人な4級術師で、補助監督。簡単に死ぬつもりはなくとも、仕事の都合上危険なことも結構あるし、将来的に何があるかわからないから今後もみんなと一緒に居られるとは限らない。

そうなったとき、何か問題が発生したとき、あのとき私があんなこと云ってたなぁ、とかちょっとでも思い出して思考の手助けが出来たらいい。

 

「お前さぁ」

 

静かだった五条が、何やらもの言いたげに口を開いた。

熱いコーヒーに息を吹きかけながら先を促すと。

 

「時々、結構……薄情だよな」

 

は?

いきなりなんですか、喧嘩売ってるんですか。

確かにちょっと最終的には説教臭くなっちゃったかなって思ったけど、薄情だなんて云われる謂れはない。むしろお節介って云われるべきだろう。やっぱこいつの思考は理解出来ないわ!

 

「そうじゃねぇよ。マジで自覚なしなわけ?」

 

いやだから何が。

もっとはっきり云ってもらえないとわかんないんですけど。察してちゃんは嫌われるぞ。

明らかに急激に不機嫌になった五条にきっぱりとそう云うと、五条はしばらく私を睨み付けてから云った。

 

「お前、いつか自分はいなくなるみたいなこと平気で云うよな」

 

思わず、はぁ? と声を上げそうになって慌てて口を塞ぐ。

え、ちょっと待って。

確かに私、そもそも本来ここには存在しないはずの自分がある日突然いなくなったとしてもおかしな話ではないとは思っている。それは事実だ。

でも、あれ、それを口にした覚えはないけれど、五条は私がそう思ってるって思ってる?

 

「呪術師が危険な仕事なのはわかってる。実際知り合いが死んだこともあるし、絶対安全だとも思ってない。まぁ俺は最強だから死なないけど」

 

急な自信やめろ。

とてもじゃないが今はつっこむ気になれず、口を押さえたまま私は黙って五条の言葉を聴いた。

 

「でもお前の場合は、そうじゃなくて……なんつーか、自分の存在そのもの? が消えてもいいような……そういう、変な諦めみたいなのを感じる」

 

やばい。

変な汗出てきた。

完全に五条の云うとおり過ぎて何も反論できない。

 

「お前、勝手にいなくならないよな?」

 

咄嗟に頷けなかった時点で、私はきっと負けていた。勝ち負けの話じゃないけれど。

まっすぐに私を見てくる五条の視線は、まるで小さな子供みたいだった。

違うと、いなくなるはずはないと云ってほしいと、その美しいアクアブルーの瞳が明確に語っている。

 

でも私は、何も云えなかった。

 

後ろめたいことをしているつもりはない。

私は私の意思でここにいて、生きている。

死ぬつもりだったのは昏睡から目を覚ましたあの時までの話で、今はもう何があろうと生きて自分の望みの通りに生きようと思っている。

ただ、死ぬつもりはなくても、展開上死ななければならないのならそれは仕方ないと、思ってはいる。

夏油だけじゃなく、五条も硝子も先輩も後輩も先生も同僚のこともみんな大好きだ。

ここで生きている今に私は満足している。

だってもう私は幸せだ。

大切な友人がいて、大好きな彼氏がいて、本来ならあり得ない人生を送っている。

 

これ以上の幸せなんて、きっとない。

 

ずっとみんなと一緒に居たいなんて、そんなの、過ぎた望みじゃないか。

 

「なぁ、いい加減隠し事やめろよ」

 

ぎくりとした。

思わず、私は五条から視線を外してしまった。

六眼がそういうものではないとわかっていても、心の裏側まで全部読まれているような気分になった。

私がしている隠し事は一つや二つじゃない。

その中には、いつか話そうと思っていることもあれば、一生誰にも云わずに墓場まで持っていこうと決めている類のものもある。

 

例えば、私が夏油に対して抱いている感情だとか。

 

これだけは誰にも絶対に云えない。

本人にも、五条であっても、絶対に云えない。

多分、知られたら私は迷わず死を選ぶ。

冗談じゃなく、それくらい私にとっては重要な隠し事なのだ。

もしも五条の六眼がそれを視て識ってしまったら、その時は。

 

なおも私をまっすぐに見つめる五条に、やめて、と思わず悲鳴を上げそうになった、その時だった。

 

――ピーッピーッ

 

プリンが焼きあがったことを知らせる音に、反射的に私は立ち上がった。

早足でオーブンに確認に行き、焼き上がりを確認する。器を揺すってみてもちゃんと固まっているので、あとは粗熱を取ってから冷蔵庫で冷やせば完成だ。天板からおろしてクーラーの上にそれぞれ並べながら、やっと私はまともに息をした。ここまでほとんど何も考えず反射で動いていた。

今ほどお菓子作りが趣味でよかったと思ったことはない。おかげでちょっとだけ、ほんのちょっとだけだけど心が落ち着いた。気がする。

ただ、なるべく五条を視界に入れないよう俯きながら作業をしていたら、ぬあぁ~! と五条が奇声を上げたのでちょっとびっくりした。やめなよ、折角顔だけは国宝級に格好いいんだから奇声上げたら魅力激減だよ。

 

「悪ぃ。困らせるつもりはなかった」

 

顔を上げると、五条はソファに倒れこんでクッションに顔を埋めていた。

どうやらさっきの私とのやり取りが、図らずも糾弾するような形になってしまったことを気にしているらしい。

……意外と可愛らしいところもあるじゃないか。

 

「意外は余計だろ。俺は格好いい上に可愛い」

 

はいはい、そーですね。

じゃあ格好よくて可愛い五条くん、作った人しか味わえない出来立てプリン、食べてみる?

 

「……く、食う!!」

 

文字通り飛んできた五条が少し面白くて笑いながら、さっき焼きあがったまだ熱々のプリンをひとつ渡す。

すると、これまでよく冷えたプリンしか食べたことがなかったらしい五条は、珍しそうに一通り眺めてからひょいと一口スプーンですくって食べた。

 

「あっつ! いやでも、なんだこれ、うまい……」

 

そうでしょうそうでしょう、これが手作りの特権ってやつよ。

こういうの、悪くないでしょ?

 

恐らく生まれて初めて食べた出来立てプリンに目をキラキラさせる五条に、悪戯が成功した子供みたいに笑ってみせると、五条は驚いたように目を見開いて、それから小さく笑った。

もう一口プリンを食べてから、云う。

 

「――うん、悪くない」

 

以降、五条がこの話題を口にすることはなかった。

明け透けで遠慮がないと思われがちな五条は、しかし意外とよく周りを見ている。

この話題が私にとって地雷だと、多分察してくれたのだろう。察してちゃんは嫌われるって云った私が察してもらう立場になってしまうとは、いやはや恥ずかしい。

でも、ありがたい。

五条のこういうところ、私は結構好きだ。

それでも、すべてを話すことが出来ないのは少しだけ心苦しい。

だからせめて、一緒に居られるうちは、出来る限りのことをしたいと思う。

そりゃね、私は夏油を幸せにしようとは思ってるけど、だからって他はどうでもいいと思っているわけではないのだ。

むしろ五条も硝子も一緒にみんな幸せになってほしい。私は欲張りだ。

 

しばらくして帰ってきてプリンを食べた夏油と硝子のふたりに、得意げになってそれは自分が作ったのだと胸を張る五条と一緒に笑いながら、私はこの時間がいつまでも続けばいいと思った。

きっとずっと変わらないままではいられない。

私たちは人間で、生きているから、不変ではいられない。

 

わかっているから、今だけ。

永遠なんて望まないから、少しだけ。

 

「は? ほんとに五条が作ったの? すごいじゃん、ちゃんと美味しい」

「うん、本当に美味しいよ悟、初めてとは思えないよ」

「……俺、お前の気持ちちょっとわかったかも」

「でしょ。喜んでもらえたら嬉しいよね」

 

手が届く幸せを、私は願っている。

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