超絶美少女は夢を見る   作:秋元琶耶

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拙者いちゃつき大好き侍にて。


読書と刺繍、時々あなた。

お頭と一緒に過ごす時間が極端に増えた。

それはひとえに、気付いたら私の部屋の荷物がほとんどお頭の部屋に運び込まれていたからである。少しずつだけど、確実に。

先に云っておくと私が自分で運んだわけじゃない。

お頭と私がいわゆる恋人同士というやつになってから、妙に部屋に呼ばれるな、とは思っていた。だけど部屋に行ってもただ二人で飲みながらおしゃべりしたり、私は普段通り刺繍や読書をしたりして過ごしてた。そういうとき、お頭は私のことを見ながら静かにお酒を飲んでいる。

じゃあ別に一緒にいる必要なくない、っていうかお頭はみんなと飲んでたほうが楽しいんじゃない、って云ってみたんだけど、違うんだって。一緒にいるのが大事なんだって。ちょっとよくわかんないですごめんなさい。

でも、まぁ。私もお頭と二人でいるのが嫌だとかってわけではないので現状に甘んじていたのだけれど。

はじめはよく使う裁縫道具や愛用のコップ。それから徐々に着替えや本棚が移動してきたときは驚いた。あれ私の部屋ってどこだっけ。そんなことを考えているうちに、すっかり私の荷物はお頭の部屋に移動完了されていた。

仕事中、それとなくベックにそのことを零してみたら、とっても優しい笑顔で『諦めろ』と云われた。そうですか。いや、うん。お頭がいいならもういいよ。

 

そして今日もまた、仕事を終えてお風呂に入ってから、お頭の部屋で私は読書中。もはや私専用になりつつあるソファでする読書は一日の疲れを忘れさせてくれて、心が穏やかになって最高の気分だ。元の自分の部屋はあれはあれで好きだったけど、お頭の部屋も居心地いいんだよね。

いつもなら斜め前に座っているお頭はお酒とおつまみをちびちびやってるだけなのに、今日はちょっと違った。

お風呂から戻って来て、少し考えるようにしてから私の本棚の前に行き、一冊本を手に取った。それは私が仕事に使っている本で、何度も読んでいるせいでちょっとボロボロになっているもの。読んでいいか、と訊かれたので、特に機密事項でもないのでどうぞと許可すると、お頭はいそいそとソファに戻ってその本を読み始めた。

 

「お頭が読書なんて珍しいね」

「ん、まぁな。エンがどんなの読んでるか気になったんだ」

 

可愛いこと云うじゃないですか。

でもだったらせめて冒険譚とかの方が取っつきやすくていいんじゃないだろうか。私は割と雑食にいろんな本を読むから、専門書から絵本まで本棚には雑多に入っている。プラス、ベックやホンゴウと貸し借りもしているからジャンルはかなりごちゃごちゃだ。

その中でも敢えて専門書を選ぶなんて。

いや、別にね、お頭のことを馬鹿だとは思ってないんですよ。ときどきポンコツだけどそれって頭が悪いってわけじゃないし。ただ、専門書は専門書。私だっていろいろ勉強して漸く理解できる部分だってあるものを、ただの興味で読むのはハードルが高いんじゃないかと思うわけで。

 

「面白い?」

「難しい」

「専門書だからね」

「理解出来たら面白いんだろうけどなぁ」

 

わははと笑いながらもお頭はページをめくる。一応、読んではいるんだろう。そういうスピードだ。つまらなさそうだったら他の本を勧めようかと思ったけど、読むつもりなら無理に別の本をというのも余計なお世話だろう。

しばらくの間、本をめくる音だけが部屋に響いた。

お頭はわからないなりにもちゃんと読んでいるようで、ときおり『へぇ』とか『ほぉ』とか感心したように呟きながら読み進めている。まぁ純粋に読み物としても面白い本だから、理解できなくても十分楽しめるんだろう。

かくいう私は全然自分の読書が進まない。さっきからほとんど文字が頭に入ってこないで目を滑る。おかげで同じ場所を何度も往復していて、そのうち暗記しちゃいそう。

飽きたとか疲れたとかいうわけじゃない。むしろ元気。

というか、理由はわかっているのだ。ちょっと、認めたくないだけで。

私って結構我が儘なのかも、と思わずため息を吐くと、それに気付いたお頭が顔を上げて首を傾げた。

 

「どうした?」

「んん」

 

しまった、心配させちゃった。そういうつもりじゃなかったとはいえ、目敏い上に過保護なお頭が、私がため息をついて気にしないわけがなかったのだ。浅慮でした。反省。

仕方なし、私はもう進まないであろう本にしおりを挟んで閉じ、肩を竦めた。

 

「お頭ってさ、私が何かしてるときはあんまり話しかけないよね」

「前散々話しかけて邪魔って怒られたからな」

「そうだっけ」

「ひっでぇ、忘れてんのか?」

 

拗ねたように唇を尖らせたお頭に、ごめんごめんと笑いながら謝った。

そういえば昔、本当にこの船に乗った当初、そんなことがあったかもしれない。あの頃私はとにかくみんなの役に立ちたくて、可愛い笑顔と愛嬌以外で出来ることを探している真っ最中だった。だからベックに頼まれた仕事は夢中でやってたし、暇を見つけてはホンゴウの手伝いもしてた。

あんまり自覚はなかったけど、多分いっぱいいっぱいだった時期だったんだと思う。ごめんね当たって。でも作業中にしつこく話しかけてくるお頭も悪いと思うからどっちもどっちだよね。ってことでこれは相殺しておこうと思います。

 

「今お頭が本読んでて、思ったんだけど」

「何を?」

 

不思議そうなお頭に、私はなんだか妙に気恥ずかしくなりつつも口を開く。

 

「一緒にいるのに私のこと見てくれないのって、結構寂しいね」

 

そうです私寂しかったんです。

いつもは会話がなくたってお頭は私を見ていてくれた。お酒を飲みながら、何をするでもなく。ただ私のことを見ていてくれた。

でも今はその視線は本に釘づけ。全然私のことなんて視界に入らない様子で、楽しそうにページをめくる。

それが寂しい。

私のこと見てよって、思う。

ほら、我が儘だ。

 

「もしかして可愛さでおれのこと殺そうとしてるのか?」

「してない」

 

本で顔を隠してしまったお頭の表情は見えない。笑ってるんだろうか。まぁ笑うよねこんなの。どんだけ我が儘なんだって話だよね。自分は刺繍したり本読んだりして全然お頭のこと見ないくせに、逆は嫌だって云うんだから。

恥ずかしいより先に情けない。私、ちっちゃい。

自己嫌悪で転げまわりたくなっている私だったけれど、しかし大きく息を吸い込んでから本を置いたお頭の顔を見たらそんな気はなくなった。

なんかすっごいニヤニヤしてるんですけどこの人。腹立つ。

こっちはちょっと、ほんのちょーっと申し訳ないなって思って、今後は自分の態度も改めた方が良いかなって思ったのに。具体的には、お頭と二人でいるときに自分の趣味に没頭しすぎるのは控えようかなってことなんですけど。

ムッとしてお頭を見ると、お頭はニヤニヤ笑顔のまま云った。

 

「そういうふうに思ってくれるのは嬉しいけどな、だからってエンが自分の趣味の時間を減らす必要はねぇぞ」

「……なんで? お頭は別に私に構われなくてもなんとも思わないってこと?」

「じゃなくて」

 

違う、と首を横に振るお頭が何を云いたいのかわからない。

だって私は寂しいと思っちゃったんだもん。

だから自分がされたら寂しいと思うことをしない方がいいかと思ったのに、口にする前に先手を打たれてしまった。

それってつまり、お頭は寂しくないってことじゃないか。

私が何を考えているのか表情で察したらしいお頭は、困ったように笑って云う。

 

「前にも云っただろ。おれ、エンが何かしてるのを見てんの、好きなんだ」

 

ハッとして、思わず私は俯いた。

それを云われたのは、とある島の図書館でのこと。私が自分の気持ちを自覚して、こうしてお頭と恋人同士になるきっかけになった出来事。

デートの待ち合わせをうっかり忘れて本に没頭してしまった私を、お頭は怒らなかった。それどころか、今みたいに私が仕事をしている姿を見るのが好きだから、全然気にならなかった、と笑ったのだ。

確かに私は真面目に仕事してるときも満点に可愛いかもしれないけど、デートすっぽかしそうになったのは普通に怒っていい案件なのに、むしろ役得、と云って全然怒らずむしろ嬉しそうにしていたお頭。

あのときのことを思い出すと今も嬉しい。同時に恥ずかしい。

でも、そんなこと云われたら、読書も刺繍もやめられないじゃんね。

 

「お頭、私のこと好きすぎだと思う」

「今さら知ったのかぁ?」

「再確認しただけ」

 

そう、今更。

お頭は私のことが大好きだ。

そして私も、同じくらいお頭が好き。

そんなのはもう今更過ぎる話なのだ。

 

私は本を置いてサッと立ち上がり、お頭の右隣に移動して抱き着いた。

読書は本があればいつでもできる。でも、こうしてお頭にくっつくけるのは、この部屋でだけ。いや、その。別に付き合ってるんだしどこでくっついてもいいのでは、とか呆れたホンゴウに云われたことはあるんだけど、私だって人目は気にするんです。宴とかでお酒入ってるときならともかく、素面で人前でいちゃつけるほど強い心臓持ってないよ。

甘えるようにお頭の胸に頬を寄せて見上げれば、少し驚いたように目を見開いたお頭が、すぐに嬉しそうに目を細めた。

 

「……もういいのか、本」

「うん。今はお頭な気分」

「なんだそれ」

 

笑いながらもぎゅっと抱きしめ返してくれるお頭の温かさが嬉しくて、私は心が満たされるのを感じた。

読書も刺繍も私にとっては大事な息抜きだから、止められないと思う。

でもやっぱり、お頭と何をするでもなくくっついて、他愛のない話をするのも私は好きだよ。

 

「ね、お頭」

「ん?」

 

手を伸ばし、お頭の両頬を包んで。体を起こして伸ばし、キスをする。残念ながら身長差のせいで唇まで届かなかったので、顎だけど。

そうして、ぽかんと目も口も大きく開けて固まったお頭に、続けて云った。

 

「好きよ」

 

直後。

雨のように降ってきたキスに、しばらく私は息も出来なくなったのでした。

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